リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

EULAR recommendations for LN 2019 ③ (ループス腎炎にはステロイドパルス!!)

EULAR recommendations for SLE/LN 2019を勉強しました。

 

EULAR recommendations for SLE 2019 ①

https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/2020/05/29/000000

 

EULAR recommendations for SLE 2019 ②(Treatment of SLE)

https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/2020/06/01/000000

 

EULAR recommendations for LN 2019 ①

https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/2020/06/03/000000

 

EULAR recommendations for LN 2019 ② (ループス腎炎にはステロイドパルス??)

https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/2020/06/05/001550

 

 

LNに対するステロイドパルスの推奨に懐疑的であったリウマトロジストでしたが、以下の引用文献を読んで、石頭をハンマーでたたかれたような衝撃を受けたのでした。

 

 

(LN-41) Ruiz-Irastorza 2014

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1568997213002061?via%3Dihub

 

‘Cruces-protocol cohort’ (CPC;↓)で治療した15例と1:2でマッチさせたHistorical control30例を比較しています。Historical controlとの比較で推奨を記載できるのか!?とも思いましたが、踏みとどまり読み始めます。

 

Crucesプロトコールは、ClassIII-IVにはパルス後PSN20-30㎎で開始するという減量プロトコールです。原則、Euro-lupus※、IVCY500mg/2wを用い、その都度mPSL125mg/2wを併用されます。IIはPSL15㎎+AZP、IVはPSL15mg+MMFとかなり少な目です。

 

Table 1. The Lupus-Cruces protocol for the treatment of lupus nephritis

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※俗にいうEuro-lupusとは、Euro-lupus nephritis trialのことでして、↓にまとめております。

https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/13340189

 

Historical controlはNIHプロトコールのIVCY(1g/m2/mo)を用い、高用量ステロイド(1mg/kg)で加療されました。それ以外はほぼ同様。改善の基準として、Complete remission (CR)の定義は、GFR60以上(元々<60ならベースラインの15%以内に戻る事) and 尿蛋白≦0.5g/日 and inactive sediment (WBCRBCとも5以下+円柱なし) and Alb>3.0 g/dL、Partial remission (PR)の定義は最初nephroticなら尿蛋白<3.5g/日(最初<3.5g/日なら>50%の改善) and GFRがベースラインの25%以内。

 

結果は以下のとおり。

 

・Table 2の患者背景を見ますと、尿蛋白はCruces群で平均2.4(SD2.0) vs HC 3.7 (3.1)と小さくないことに気づかれます。

 

Table 2. Baseline data and characteristic of lupus nephritis in the cohorts.

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・6ヶ月後)Cruces vs HCの順に、CR 40% (6/15) vs 10% (3/30) (p=0.08)、PR+CR 80% (12/15) vs 47% (14/30) (p=0.015)

 

・12ヶ月後)CR 47% (7/15) vs 9/30 (30%) (p=0.38)、PR+CR 87% (13/15) vs 63% (19/30) (p=0.055)

 

・長期の改善)CR 100% (15/15) vs 67% (20/30) (p=0.013)

 

・全般的ステロイド毒性は7% (1/15) vs 67% (20/30) (p<0.0001)

 骨粗鬆症性骨折は0% (0/15) vs 3/30 (10%) (p=0.5)

 骨壊死は0% (0/15) vs 23% (7/30) (p=0.07)

 糖尿病は7% (1/15) vs 53% (16/30) (p=0.007)

 白内障は0% (0/15) vs 7% (2/30)

 

・全般的ステロイド毒性の独立した危険因子は6ヶ月の時点でのPSN総投与量と糖尿病。骨折はPSN>5mgの週数、骨壊死は最初のPSN量と抗リン脂質抗体症候群であった。

 

・mPSLパルスは総投与量は全般的ステロイド毒性、糖尿病と負の相関を示した(OR 0.35 [p=0.022] vs OR 0.33 [p=0.034])。

 

#効果は優れているとのことですが、Baselineに重大な差がありました(尿蛋白がCruces群で少ない)。でも、ステロイド毒性の点で優れていたCrucesプロトコールは有効性においてHistorical controlと同等であっても十分なわけで、少なくとも悪くはないことが分かって安心しました。

 

toxicityでは個人的にpulseを頻回に用いることで骨粗鬆症、骨壊死のリスクを懸念していました。結果は、むしろ高用量の方が数的に多かったということでした(骨壊死はp=0.07と傾向あり)。

 

 

(SLE-46) Ruiz-Arruza 2018, (SLE-47) Ruiz-Irastorza 2017も読んでみましたが、いずれも(LN-41) Ruiz-Irastorza 2014と同じグループからの報告でした。

 

(SLE-46) Ruiz-Arruza 2018

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/acr.23322

 

LNに限らないSLEにおいて専門医群と内科群でSLE関連ダメージ、ステロイド関連ダメージなどのHRを見た報告。専門医群が良かったと。これはSLE全般を対象としており(LNで検討してほしい)、交絡因子(専門医 vs 内科)が計り知れないと思われ、読む気になれないのでAbstractで済ませます(↓もう一度、お示しします)。

 

Objective: SLEにおいて2つの異なる治療戦略が全般的ダメージ、特異的ダメージの発生に与える影響を調査すること

Methods: 2つのコホートが主治医によって同定された。autoimmune diseases unit (ADU)で治療された患者とその他の内科メンバーで治療された患者。ADUのメンバーの治療プロトコールは、mPSLパルス療法と免疫抑制剤(IS)を用いることでHCQを全般的に処方し、最大投与量を30㎎/dayまでに抑え、5mg以下で維持療法を行った。私たちはこれら2つの治療法によるダメージ、すなわち全般ダメージとドメイン特異的ダメージ(ステロイド、心血管系疾患、SLE、分類不能に帰属する)の発生への影響を調査した。診断から5年以上の期間において。

Results: 74例がADU群に、213例がIM群に登録された。かれらはほとんどの臨床背景とSLE関連の変数において差はなかった。ADUの患者はプレドニゾンをより低い量で、より遅れて投与され、より多くのmPSLパルスと早期のISを受け、高頻度にHCQを投与された(P < 0.05 for all comparisons)。2つのコホートでSLEDAIに差はなかった(P = 0.4)。ADU群はいかなるダメージも少ないようであった(P = 0.007)。ADU群ではステロイド関連ダメージ(adjusted HR 0.23 [95% CI 0.07-0.80])、心血管疾患 (adjusted HR 0.28 [95% CI 0.08-0.95])、分類不能ダメージ(unclassified damage (adjusted HR 0.58 [95% CI 0.3-1.1])が少なかった。両群ともSLE関連のダメージは同等(adjusted HR 0.84 [95% CI 0.40-1.75])。

Conclusion:減量した経口ステロイドの使用はステロイド関連ダメージを減らし、心血管疾患の予後を改善させた。SLE関連のダメージを増やすことなく。

 

(SLE-47) Ruiz-Irastorza 2017

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1568997217301416?via%3Dihub

 

LN (class III-IV)を対象として、Cruces大学とBordeaux大学のコホート間の比較。CrucesでCRが多く(69% vs 30%@6mos, 86% vs 42%@12mos)、副作用のHRが0.19と低かったと。41) Ruiz-Irastorza 2014とよく似たデザインだなあ、と思いながらも、著者が同じなので当然かと思いつつ読み始めます。

 

Treatment protocolですが、Crucesのプロトコールは上述のとおりなので省きます。Bordeuxのプロトコールガイドラインに沿っており、ほとんどの患者がEuro lupus※で500mg/2wを6回で、ステロイドはmPSLパルス1-3回についで、高用量(0.7-1.0 mg/kg)で開始され、維持療法はAZP or MMFで行われました。

 

CRとPRの定義は41) Ruiz-Irastorza 2014と同じでした。Table 1をみる限り、Bordeaux vs Cruces のバランスは問題ないと思いました。IV型は各48% vs 69%と差がありましたが、これでも結果Crucesが勝っていたわけですので。尿蛋白は3.0 (SD 2.4) vs 3.44 (3.9)と有意差はないものの、Crucesで多め。逆にAlbuminは2.8 (0.74) vs 3.14 (0.6) (p=0.09)とCrucesで良い傾向がうかがえました。

 

Table 1.  Baseline clinical characteristics and therapy for lupus nepritis.

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(一部省略しています)

 

 

結果はTable 2の通りです。

Table 2. Clinical response at 6 months, 12 months and end of follow-up.

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6ヶ月後、12ヶ月後のCR、フォロー終了時のCR、12ヶ月後のUPCR<0.7の4つのアウトカムでCrucesが優れていました。6ヶ月後、12ヶ月後のΔ尿蛋白もCrucesで良い傾向がありました。

 

副作用ですが、全般ステロイド毒性はBordeaux 34% vs Cruces 7% (p=0.007)、糖尿病 34% vs 7% (p=0.007)、高脂血症 18% vs 0% (p=0.015)、moon-face 11% vs 0% (p=0.06)。皮膚線条、感染症、椎体骨折、骨壊死、白内障は有意差つかず。

 

ステロイド毒性に関連した治療変数はPSN最大量(補正HR 1.03; 95%CI 1.01-1.05)、逆にmPSLパルス回数は負の相関を示した(補正HR 082; 95%CI 0.68-1.01)。

 

 

#とっさに人種差(スペイン vs フランス)などの交絡因子として考えましたが、Google mapを見る限り、CrucesとBordeauxは国境を挟んで、お近くのようですね。Ruiz-Irastorzaのお仕事はご立派ですが、この研究を許可したBordeauxの医師たちも立派と思いました。

 

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長文、おつかれさまでした。

 

 

いかがでしたでしょうか!?少なくともRuiz-Irastorzaの2つの論文は、リウマトロジストの診療に影響を与えるデータでありました....

 

 

ps

↓SLEの緊急病態

 

 

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