リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

EULAR recommendations for LN 2019 ① (ループス腎炎の推奨)

SLEの推奨が発表されましたが、この度はループス腎炎(LN)のrecommendations 2019を勉強します。2012年にACR、EULARが各recommendationsを発表して7年ぶりの改訂です。この度は具体的なステロイド減量の目標、パルスの詳細な推奨が記載されていて、良かったです。

 

2019 Update of the Joint European League Against Rheumatism and European Renal Association-European Dialysis and Transplant Association (EULAR/ERA-EDTA) recommendations for the management of lupus nephritis.

 

Fanouriakis A, et al.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32220834

https://ard.bmj.com/content/79/6/713.long 

 

Table 2. Overarching principles and recommendations for the management of patients with LN

 

Overarching principles

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SLEにおける腎障害は病的状態と死亡に関連する主要な原因であり、高額な医療的、社会的コストをもたらす。腎障害の管理は患者と医師に共有された決定のもと多面的なケアでもってなされるのがベストだ。

 

腎障害を疑う症状・所見への警戒、腎臓病理医による組織学的評価、および専門化されたセンターからの介入によって理想的なアウトカムを追求することができる。治療のゴールは患者の生存、長期の腎保護、再発の抑制、臓器障害の予防、合併症の予防、疾患に関連するQOLの改善である。

 

ループス腎炎の活動期の管理は初期の強力な免疫抑制療法によって疾患活動性をコントロールすることでなされ、次いでより長期に改善を維持し再発を防ぐために通常より弱い治療によって治療される。

 

Recommendation/statement                        LoE/GoR LoA, mean (SD)

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  1. Investigation of the patient with suspected LN

1.1 腎生検は腎障害の証拠、とくに持続的な蛋白尿≥0.5 g/24 hours (or 早朝尿のUPCR ≥500 mg/g) (2b/B)、あるいはGFR低下があるとき(2b/C)に考慮されるべき。

9.84 (0.54)

 

1.2 腎生検は必須であり、その診断的のための、予後予測のための価値はその他の臨床的、検査的データでもって置き換えることができない(2b/B)。

9.96 (0.20)

 

  1. Pathological assessment of kidney biopsy

2.1 the International Society of Nephrology/Renal Pathology Society ISN/RPS 2003 classification system を用いることが推奨される(2a/B)。activity and chronicity indicesの評価 (1b/A)、抗リン脂質抗体・症候群に関連した血栓性病変、血管病変の評価を加えて(2b/C).

9.56 (0.94)

 

  1. Indications for immunosuppressive treatment

3.1 ステロイド免疫抑制剤との併用療法がclass IIIA or IIIA/C (±V) and IVA or IVA/C (±V) nephritisに推奨される(1a/A)

9.96 (0.20)

 

3.2 純粋なclass V nephritisでステロイド免疫抑制剤が推奨されるのはrenin–angiotensin–aldosterone system blockersを適切に用いてもnephrotic-rangeの尿蛋白(2b/B)やUPCR>1000 mg/g (5/D)が存在する場合である。

9.04 (1.80)

 

  1. Treatment of adult LN

Goals of treatment

4.1 治療の目的は腎機能の最適化(保護または改善)であり、3ヶ月で少なくとも尿蛋白25%の低下(2b/D)、6ヶ月で50%の低下(2a/B)、および12ヶ月までに目標のUPCR<500–700 mg/g (complete clinical response)を達成することである(2a/B).

9.60 (0.63)

 

4.2 ベースラインでnephrotic-rangeの尿蛋白がある患者はcomplete clinical responseを達成するためにさらに6-12ヶ月の治療を要するかもしれない; そのようなケースでは尿蛋白が改善しているのであれば早急な治療変更は必要ない(2a/C)。9.68 (0.68)

 

Initial treatment

4.3 class III or IV (±V) LNの患者にはステロイド剤に加えMMF(target dose: 2 to 3 g/day, or MPA at equivalent dose)またはlow-dose intravenous CY (500 mg every 2 weeks for a total of 6 doses)が勧められる(いずれも1a/A)。有効性と毒性のバランスが最善であるからだ。

9.84 (0.37)

 

4.4 MMF (target dose: 1 to 2 g/day, or MPA at equivalent dose)とCNI (especially TAC)の併用は代替の選択肢であり、特にnephrotic-rangeの尿蛋白のケースには考えてよい。(1a/B)

9.32 (0.93)

 

 

4.5 腎不全のリスクが高い患者(GFR低下や半月体形成やフィブリノイド壊死の組織所見や重症の間質性腎炎)(2 b/B)は4.3–4.4で治療されうるが、より高用量のivCY(0.5–0.75 g/m2 monthly for 6 months)も考慮してもよい (1a/B)

8.88 (1.56)

 

4.6 ステロイドの総投与量を減らすために静注パルスmPSL(重症度に応じて総投与量500–2500 mg)を行い、次いで経口プレドニゾンを0.3–0.5 mg/kg/dayで開始し(長くても4週間まで)、3-6ヶ月までに≤7.5 mg/日に減量することが推奨される。2b/C

9.48 (0.90)

 

4.7 純粋なclass Vでは、MMF (target dose 2 to 3 g/day; or MPA at equivalent dose)(2a/B)をパルス静注mPSL(重症度に応じて500–2500 mg)と併用し(2b/C)、次いで経口プレドニゾン(20 mg/日)で継続し、3ヶ月までに≤5 mg/日に減量することが初期治療として推奨される。有効性と毒性のバランスが最善であるため。

9.28 (0.96)

 

 

4.8 class Vにおける代替の選択肢は静注CY(2b/B)、CNIs(とくにTAC)単剤(2b/B)またはCNIs(とくにTAC)とMMF/MPAの併用(1b/B)がある。とくにnephrotic-rangeの尿蛋白の患者において。

9.28 (0.92)

 

4.9 HCQ(2a/B)は5 mg/kg/日を超えないGFRで補正された投与量(3b/C)で併用されるべき  

9.28 (1.40)

 

Subsequent treatment

4.10初期治療で改善が得られた後は免疫抑制剤の併用が推奨される;MMF/MPA (dose: 1 to 2 g/day)(1a/A)、またはAZA (2 mg/kg/day)(1a/A )。疾患活動性をコントロールする必要がある時は低用量のプレドニゾン(2.5–5 mg/日)に加えて。MMF/MPAはとくに初期治療がMMF/MPAである場合、AZAはとくに妊娠が考慮される場合に好まれる。

9.80 (0.49)

 

4.11 complete clinical response後少なくとも3-5年たてば、治療の漸減(最初にステロイド、つぎに免疫抑制剤)を試みることができる。HCQは長期に継続すべき。2b/C

9.40 (0.75)

 

4.12 CNIs(とくにTAC)の継続、スイッチあるいは追加は純粋なclass Vには考慮されうる。有効で最小の投与量で、腎毒性のリスクも加味した上で。2b/B

9.28 (1.15)

 

 

Recommendation/statement                            LoE/GoR LoA, mean (SD)

 

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Non-responding/ refractory disease

4.13

治療目標を達成できない場合、可能性のある原因を徹底して調査することが推奨される。治療のアドヒアランス、治療域に達しているか否かもこれに含まれる。5/D

9.84 (0.46)

 

4.14

活動性の非反応性・再発性の疾患には治療を上述の初期の代替治療法に変更してもよい(2b/B–C)。あるいはRTX (1000 mg on days 0 and 14)を投与してもよい(2b/C)。

9.64 (0.62)

 

  1. Adjunct treatment

5.1 ACE阻害薬やアンギオテンシン受容体阻害薬はUPCR>500 mg/gや高血圧のある全ての患者に推奨される。5/D

9.84 (0.37)

 

5.2スタチンは脂質の値と10年間の推定心血管系リスクに基づいて推奨される。リスクの評価にはSystematic Coronary Risk Evaluationやその他のツールを用いること。5/D

9.52 (0.75)

 

5.3 骨の保護(CaとVitD補充や骨吸収阻害の薬剤)と不活化ワクチンによる免疫が治療関連・疾患関連の合併症を減らすかもしれないため推奨される。5/D

9.68 (0.61)

 

5.4 aPL(抗リン脂質抗体症候群の確定分類基準のための国際コンセンサス声明で定義される)が陽性であれば、aPLのプロフィールに基づいてアセチルサリチル酸(80–100 mg/day)を治療の利益と出血リスクを天秤にかけて用いても良い。2a/C

9.28 (1.25)

 

5.5抗凝固療法は血清Albuminが<20 g/Lのネフローゼ症候群のケースには考慮されるべき。 5/D

9.76 (0.43)

 

5.6ベリムマブはステロイド減量を促進するため、腎外のSLEの活動性をコントロールするため、あるいは腎外の再燃リスクを減らす目的でadd-onの治療薬として考慮してもよい。2a/C

8.48 (1.92)

 

  1. Monitoring and prognosis of LN

6.1診断や再燃の後、最初の2-4ヶ月は2-4週間毎に受診を計画すべき。その後は反応を見ながら間隔を開けていってよい。腎炎、腎外症状、および合併症のモニタリングは生涯続く。5/D

9.40 (0.69)

 

6.2腎炎が安定していない間は受診の度に体重、血圧(勤務時間外を含む)、推定GFR、血清Albumin、尿蛋白(UPCRまたは24h畜尿による)、尿RBCまたは沈査、CBCを測定する。安定すれば感覚を開けてよい。(2b/B)

血清C3/C4と抗dsDNA抗体価は定期的にモニタリングする。(2b/C)

9.64 (0.69)

 

6.3腎生検の再検は腎のマーカーが悪化する場合、免疫抑制剤や生物学的製剤に抵抗性の症例(上述)、あるいは再発例のような選択されたケースで考慮すべき。再検の目的は組織型移行の可能性、chronicity and activity indices の変化を調べるため、予後の情報を提供するため、およびその他の原因を決めるため。2b/B

9.84 (0.37)

 

  1. Management of ESKD in LN

7.1全ての腎代替療法がSLEの患者に使用されうる。2b/B

9.96 (0.20)

 

7.2透析中の免疫抑制療法は腎外症状に基づいてガイドされるべき。2b/C

9.76 (0.59)

 

7.3 移植はその他の腎代替療法の選択肢よりも好まれるかもしれない。腎外症状が少なくとも6か月間、臨床的に(できれば血清学的にも)安定しているときに考慮されるべき;生体間移植kで早めの移植がよい。2b/C

9.84 (0.37)

 

7.4 aPLs should be measured during transplant preparation, because they are associated with an increased risk of vascular events in the transplanted kidney.aPLは移植の準備の間に測定すべき。移植腎の血管性イベントのリスク上昇に関連するため。2b/C

9.48 (1.10)

 

  1. Antiphospholipid syndrome and LN

8.1抗リン脂質抗体症候群に関連する腎症の患者ではHCQに加え抗血小板療法・抗凝固療法を考慮してもよい。2b/C

9.68 (0.55)

 

  1. LN and pregnancy

9.1 妊娠は非活動性のLNを有する安定した患者では計画されてよい(1b/A )

理想的には計画前の6か月間UPCR<500 mg/gでGFR>50 mL/分であること。2b/C

9.56 (0.80)

 

9.2 HCQ、プレドニゾン、AZAやCNIs(とくにTAC)のような妊娠中使用できる治療は妊娠・授乳中を通して、安全な投与量で継続して使用されるべき。(1b/B for HCQ, その他全て3b/C)

9.76 (0.51)

 

9.3 MMF/MPAは妊娠計画の少なくとも3-6ヶ月は中止されるべき。代替の免疫抑制剤で再発に至らないことを確認するために。5/D

9.29 (0.93)

 

9.4

妊娠中アセチルサリチル酸は妊娠高血圧腎症のリスクを減らすために推奨される。2b/C

9.64 (0.62)

 

9.5患者は少なくとも4週間毎に評価されるべき。できればこの疾患の経験のある産婦人科医を含む多面的なチームによって。5/D

9.56 (0.80)

 

9.6妊娠中のLNの再燃は上述の容認される薬剤で治療されうる。再燃の重症度によってはMPAの静注でも治療されうる。3b/C

9.56 (1.39)

 

10.Management of paediatric patients

10.1小児のLNは発症時はよりコモンで、ダメージの増加の発生に応じてより重症になる;診断、管理、モニタリングは成人と同様。3b/C

9.68 (0.68)

 

10.2成人スペシャリストへの調整された移行プログラムが治療へのアドヒアランス、長期的なアウトカムの最適化を継続するため不可欠である。5/D

9.84 (0.37)

 

The LoE, GoR and final LoA are shown in bold for each recommendation.

 

略語

aPL, antiphospholipid antibodies;

AZA, azathioprine;

CNI, calcineurin inhibitor;

CY, cyclophosphamide;

ESKD, end-stage kidney disease;

GFR, glomerular filtration rate;

GoR, grading of recommendation;

HCQ, hydroxychloroquine;

ISN/RPS, International Society of Nephrology/Renal Pathology Society;

LN, lupus nephritis;

LoA, level of agreement;

LoE, level of evidence;

MMF, mycophenolate mofetil;

MPA, mycophenolic acid;

RTX, rituximab;

SLE, systemic lupus erythematosus;

TAC, tacrolimus;

UPCR, urine protein–creatine ratio.

 

#ご参考までに

→→EULAR recommendations for SLE(腎炎でなく全般)

https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/2020/05/29/000000

 

 

ps

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