全身性エリテマトーデス(SLE)のEULAR推奨2019が発表されました。ベリムマブ(ベンリスタ)の記載が登場しましたね。
2019 Update of the EULAR Recommendations for the Management of Systemic Lupus Erythematosus
Fanouriakis A, et al.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30926722/
#ご参考までに
→→EULAR recommendations for LN(ループス腎炎の推奨)
https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/2020/06/03/000000
Table 1 Recommendations for the management of patients with systemic lupus erythematosus
Overarching Principles
Overarching principles包括的指針
► SLEは多系統疾患である(ときに1ヶ所または2-3ヶ所の臓器病変を呈するだけのこともある)。特徴的な血清学的な異常の存在のもと臨床的な背景に基づいて診断される。
► SLEのケアは患者と医師の共通した意思決定に基づいて多面的に行われる。個人的、医療的、社会的なコストを考慮しなければならない。
►臓器や生命が脅かされるSLEの治療には疾患活動性を抑えるため最初に強力な免疫抑制療法を行い、それに次いで初期の改善を維持し再発を防止するための、より強力でない長期間の治療を行う。
►治療のゴールは長期的な患者の生存、臓器ダメージの予防と健康関連QOLの最適化が含まれる。
Recommendations/Statement Level of agreement,mean (SD)
# 太字はエビデンスレベルと推奨度を示しております。詳しくは↓↓のSupplementary Table 4. をご参照くださいませ。Level of agreement, mean (SD)とは、委員会メンバーの各ステートメントに対する合意レベルの平均値(SD)を表します。ほとんど9.5前後なので満場一致という感じだったものと思われます。
- Goals of treatment
1.1 SLEの治療のゴールは全ての臓器における寛解または低疾患活動性であり(2b/B)、全ての臓器の再発の予防である(2b/B )。できるだけ最小限のステロイド量において維持されたうえで。
10.0 (0)
1.2 SLEの再発は現在ある治療(ステロイド、免疫調整薬)からより高用量への増量、新規治療薬への変更または追加によって臓器の重症度に応じて治療される(2b/C)。
9.95 (0.22)
- Treatment of SLE
2.1 HCQ
2.1.1 HCQは禁忌がないかぎりSLE全例に推奨される(1b/A)。5mg/kg/real BWを超えない投与量で(3b/C)。
9.65 (1.11)
2.1.2網膜毒性の危険因子がない場合、眼科的なスクリーニング(視野検査and/orスペクトル領域光コヒーレンス・トモグラフィー)をベースライン、5年後、5年後以降は毎年行うべき(2b/B).
9.75 (0.70)
2.2 GC
2.2.1 ステロイドは臓器障害のタイプと重症度に応じた投与量と投与方法で使用される(2b/C)。
9.95 (0.22)
2.2.2 静注メチルプレドニゾロンpulse療法(通常250–1000 mg per day, for 1–3日)は急速な治療効果を提供し、経口ステロイドのより少ない量での開始を可能にする(3b/C)。
9.85 (0.36)
2.2.3 慢性的な維持療法においてステロイドはプレドニゾン相当量7.5mg未満まで最小化すべきであり(1b/B)、可能であれば中止すべき。
9.65 (0.65)
2.2.4 免疫調整薬の速やかな開始はステロイドを減量・中止を促進しうる(2b/B).
9.90 (0.30)
2.3 Immunosuppressive therapies
2.3.1 HCQ(単独でもステロイドとの併用においても)に反応しない患者やステロイドを慢性期に容認される投与量よりも少ない量まで下げることができない患者では、methotrexate, (1b/B) azathioprine (2b/C) or mycophenolate (2a/B)のような免疫調整薬・免疫抑制薬の追加を考慮すべき。
9.85 (0.48)
2.3.2免疫調整薬・免疫抑制薬は臓器が脅かされるケースでは最初から用いることができる(2b/C).
9.85 (0.48)
2.3.3 Cyclophosphamideは重症の臓器や生命が脅かされるSLEに使用することができる;その他の免疫抑制剤に反応しない患者における「レスキュー」としても使用することができる(2b/C).
9.90 (0.30)
2.4 Biologics
2.4.1ステロイドが減量できない疾患活動性の残存や頻回の再発で定義される、HCQとステロイドの標準療法(免疫抑制剤の有無によらず)耐性の患者ではbelimumabの追加を考慮すべき(1a/A).
9.20 (0.81)
2.4.2標準的な免疫抑制療法に反応しないか、耐用できないか、禁忌である臓器を脅かす疾患に対してはrituximabを考慮してもよい(2b/C)
9.85 (0.48)
3 Specific manifestations
3.1 Skin disease
3.1.1 SLEの皮膚疾患の治療の第一選択薬は局所の薬剤(ステロイド、カルシニュリン阻害薬) (2b/B)や抗マラリア薬(HCQ, quinacrine) (1a/A)、全身性ステロイド薬である(4/C)。
10.0 (0)
3.1.2改善がないケースや高用量ステロイドを要するケースではmethotrexate (3a/B), retinoids (4/C), dapsone (4/C) or mycophenolate (4/C)を追加しうる。
9.85 (0.48)
3.2 Neuropsychiatric disease
3.2.1神経精神症状がSLE以外の要因ではなくSLEに関連すると決定することが基本的であり、画像検査、髄液検査、危険因子(SLE発症の病型とタイミング、年齢、神経精神症状以外のSLEの活動性、抗リン脂質抗体の存在)、交絡因子の除外を考慮することで容易になるかもしれない(2b/C).
9.65 (0.85)
3.2.2 SLEに関連した神経精神症状の治療は、炎症プロセスを反映していると判断される症状に対してはステロイド、免疫抑制剤を使用し (1b/A)、アテローム血栓性や抗リン脂質抗体に関連した症状に対しては抗血小板薬や抗凝固剤が使用される(2b/C).
9.85 (0.48)
3.3 Haematological disease
3.3.1 SLEによる血小板減少の急性期の治療には高用量のステロイド療法(パルス療法を含む)(4/C)や静注の免疫グロブリン療法がある(4/C).
9.95 (0.22)
3.3.2維持療法として、mycophenolate (2b/C), azathioprine (2b/C) or cyclosporine (4/C)のような免疫抑制剤・ステロイド減量物質が使用しうる。
9.75 (0.62)
3.3.3難治例はrituximab (3a/C) or cyclophosphamide (4/C)で治療しうる。
9.65 (0.73)
3.4 Renal disease
3.4.1腎病変の所見を早期に認識し、あれば腎生検を行うことは理想的なアウトカムを追求するために必要である(2b/B)。
9.95 (0.22)
3.4.2 Mycophenolate (1a/A) or low-dose intravenous cyclophosphamide (2a/B)が初期の寛解導入療法として推奨される。理由は効果と毒性のバランスが最も良いため。
9.85 (0.36)
3.4.3腎不全のハイリスクの患者(GFR低下、線維性半月やフィブリノイド壊死、または尿細管萎縮、間質の線維化の存在)では、同様のレジメンを考慮してもよいが、high-dose intravenous cyclophosphamide も使用できる
9.45 (0.80)
3.4.4維持療法としてmycophenolate (1a/A) or azathioprine (1a/A)を使用すべき。
9.75 (0.62)
3.4.5腎機能が安定するか改善しているが、完全な反応が得られていない患者(少なくとも1年の治療で24時間尿蛋白>0.8-10gの持続)では、腎生検の再検は腎病変の急性変化から慢性変化を区別しうる(4/C).
9.85 (0.48)
3.4.6 重症のネフローゼ症候群(2b/C)や不完全な腎の改善(4/C)の場合はMycophenolateを低用量カルシニュリン阻害薬と併用してもよい。ただしコントロール不良の高血圧、腎生検における高いchronicity index、低いGFRがなければ。
9.50 (0.81)
4 Comorbidities
4.1 Antiphospholipid syndrome
4.1.1 SLEの患者は全例抗リン脂質抗体のスクリーニングをうけるべき(1a/A)。
10.0 (0)
4.1.2抗リン脂質抗体のハイリスクプロフィールの患者(持続的な中等度・高抗体価の陽性や2つ以上の陽性)抗血小板剤の一次予防を受けても良いかもしれない(2a/C)。とくにその他の動脈性・血栓性の要素が存在する場合において、出血のリスクとバランスがとれた状態で。
9.45 (0.80)
4.1.3血栓症や妊娠合併症・流産において二次予防として、原発性抗リン脂質抗体症候群と同様に治療的プローチを行うべきである。(1b/B).
10.0 (0)
4.2 Infectious diseases
4.2.1 SLE患者は感染症の一般的な危険因子と疾患に特異的な危険因子について評価を受けるべき;高齢・fragility (–/D), 糖尿病 (–/D), 腎障害(2b/B), 免疫抑制療法・生物製剤療法 (1b-2b/B-C)、およびステロイドの使用(1a/A)に関連して。
9.85 (0.65)
4.2.2全般的な予防的な方法(ワクチンによる免疫を含め)と感染症・敗血症の早期診断と治療が推奨される(–/D).
9.90 (0.44)
4.3 Cardiovascular disease
4.3.1 SLEの患者は古典的 (1b/B-C) および疾患に関連する以下の心血管系の危険因子について定期的な評価を受けるべき;持続的な活動性疾患 (1b/B), 罹患期間の長期化(1b/A), 中等度~高抗体価の抗リン脂質抗体(1b/A), 腎炎(1b/B) (とくに持続性の尿蛋白やGFR<60 mL/min), ステロイドの使用(1b/B)。
9.85 (0.65)
4.3.2SLE患者は、彼らの各の心血管系リスクのプロフィールに基づいて、一般人口と同様に予防的な戦略の候補となってよい;低用量アスピリン (2b/D)と脂質を下げる薬剤 (2b/D)。
9.85 (0.48)
注釈
aPL, antiphospholipid antibodies; GC, glucocorticoids; GFR, glomerular filtration rate; HCQ, hydroxychloroquine; SLE, systemic lupus erythematosus.
#エビデンスレベル(LoE)、推奨度(GRADE)については以下をご参照くださいませね
Supplementary Table 4. Level of evidence and grading of recommendations
Oxford Centre for Evidence-Based Medicine 2011 Levels of Evidence (LoE) |
||
Therapy/Prevention/Etiology/Harm |
Risk factors/Prognosis |
|
1a |
Systematic reviews of RCT |
Systematic review of inception cohort studies |
1b |
Individual, high-quality RCT
|
Individual inception cohort study (high quality) |
2a |
Systematic reviews of cohort studies |
Systematic review of retrospective cohort studies or data from RCT |
2b |
Cohort study or low quality RCT |
Retrospective cohort study or data from RCT |
2c |
"Outcomes" research studies |
"Outcomes" research studies |
3a |
Systematic review of case-control studies |
|
3b |
Case-control studies |
|
4 |
Case-series (and poor-quality cohort and case-control studies) |
Case-series (and poor-quality prognostic cohort) studies) |
5 |
Expert opinion |
Expert opinion |
Grading of recommendations, assessment, development and evaluations (GRADE) |
||
A |
Consistent level 1 studies |
|
B |
Consistent level 2 or 3 studies; or extrapolations from level 1 studies |
|
C |
Level 4 studies; or extrapolations from level 2 or 3 studies |
|
D |
Level 5 evidence; or very inconsistent or inconclusive studies of any level |
RCT: Randomized controlled trials
#おつかれさまでした。つぎに説明文、Treatment of SLEを見てみましょうhttps://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/2020/06/01/000000
ps
日本の診療ガイドラインも発表されましたね