リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

EULAR recommendations for LN 2019 ② (ループス腎炎にはステロイドパルス??)

EULAR recommendations for SLE/LN 2019 (全身性エリテマトーデス、ループス腎炎の推奨)について勉強しました。

EULAR recommendations for SLE 2019 ①

https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/2020/05/29/000000

EULAR recommendations for SLE 2019 ②(Treatment of SLE)

https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/2020/06/01/000000

EULAR recommendations for LN 2019 ①

https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/2020/06/03/000000

 

2019年のSLE、LNのrecommendationsで気になった点は何と言ってもステロイドパルス療法を推奨されたことです(2012年にも推奨されていたようですが、この度勉強して初めて知りました)

 

SLEの推奨では、2.2.2に

「 静注メチルプレドニゾロンpulse療法(通常250–1000 mg per day, for 1–3日)は急速な治療効果を提供し、経口ステロイドのより少ない量での開始を可能にする(3b/C)。9.85 (0.36)」

 

LNの推奨では、4.6に

 「ステロイドの総投与量を減らすために静注パルスmPSL(重症度に応じて500–2500 mg)を行い、次いで経口プレドニゾンを0.3–0.5 mg/kg/dayで開始し(長くても4週間まで)、3-6ヶ月までに≤7.5 mg/日に減量することが推奨される(2b/C)。9.48 (0.90)」

 

とあります。

 

これまでのリウマトロジストの認識ではパルス療法の適応とはlife- or organ-threateningでした(※)。これらのExpert opinionに基づく、パルス療法の適応はDubois’ lupus erythematosus and related syndromes(↓最下のps)に記載がありました。たとえば、肺胞出血、急速進行性糸球体腎炎(RPGN)、重症の神経学的徴候などがそれに当たります。

 

※病態に応じたステロイド量の決め方は過去にまとめました。

https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/14293802

 

ループス腎炎は(RPGNにならない限り)、比較的緩徐に進行するSLEらしい臓器病変です。それなのに、

 

『なぜ、(高用量ステロイドではなく)ステロイドパルス療法なのでしょうか??』

 

ループス腎炎にたいして(Patients)、

ステロイドパルス療法→中等量から漸減し始める方法」は(Intervention)、

「高用量ステロイド剤で開始して漸減していくことと比べ(Comparison)、

効果、安全性の面で優れている、と言えるのでしょうか?(Outcomes)

 

そんな疑問に対峙すべく、この度はこのrecommendationの根拠となった論文を読んでいきたいと思います。

 

 

まず、「SLEの推奨」から

②Treatment of SLE - Glucocorticoids

ステロイド剤は急速な症状の改善を提供しうるが、中長期的な目標はプレドニゾン7.5mg/日以下まで減量すること、あるいは中止することとすべき。、、、この目的において2つのアプローチが考えられる:(1)重症度と体重に応じ様々な量の静注メチルプレドニゾロンパルス療法の使用。ステロイドのnon-genomic effectsの有益性があり、内服ステロイド剤をより少ない量で開始し早く減量できることができるかもしれない (ref 46, 47)、(2)早期の、、、」

とあります。

 

この解説文の根拠とされる、ref46, 47のAbstractを示します↓

 

(SLE-46) Ruiz-Arruza I, Lozano J, Cabezas-Rodriguez I, et al. Restrictive use of oral glucocorticoids in systemic lupus erythematosus and prevention of damage without worsening long-term disease control: an observational study. Arthritis Care Res 2018;70:582–91.

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/acr.23322

 

Objective: SLEにおいて2つの異なる治療戦略が全般的ダメージ、特異的ダメージの発生に与える影響を調査すること

Methods: 2つのコホートが主治医によって同定された。autoimmune diseases unit (ADU)で治療された患者とその他の内科メンバーで治療された患者。ADUのメンバーの治療プロトコールは、mPSLパルス療法と免疫抑制剤(IS)を用いることでHCQを全般的に処方し、最大投与量を30㎎/dayまでに抑え、5mg以下で維持療法を行った。私たちはこれら2つの治療法によるダメージ、すなわち全般ダメージとドメイン特異的ダメージ(ステロイド、心血管系疾患、SLE、分類不能に帰属する)の発生への影響を調査した。診断から5年以上の期間において。

Results: 74例がADU群に、213例がIM群に登録された。かれらはほとんどの臨床背景とSLE関連の変数において差はなかった。ADUの患者はプレドニゾンをより低い量で、より遅れて投与され、より多くのmPSLパルスと早期のISを受け、高頻度にHCQを投与された(P < 0.05 for all comparisons)。2つのコホートでSLEDAIに差はなかった(P = 0.4)。ADU群はいかなるダメージも少ないようであった(P = 0.007)。ADU群ではステロイド関連ダメージ(adjusted HR 0.23 [95% CI 0.07-0.80])、心血管疾患 (adjusted HR 0.28 [95% CI 0.08-0.95])、分類不能ダメージ(unclassified damage (adjusted HR 0.58 [95% CI 0.3-1.1])が少なかった。両群ともSLE関連のダメージは同等(adjusted HR 0.84 [95% CI 0.40-1.75])。

Conclusion:減量した経口ステロイドの使用はステロイド関連ダメージを減らし、心血管疾患の予後を改善させた。SLE関連のダメージを増やすことなく。

 

#専門医が診ることで(一般内科と比べ)、mPSLパルスを繰り返し、より早期のISを受け、PSN量が少なかったそうです。結果として、ステロイド関連ダメージ、心血管疾患が有意に減った一方、SLE関連のダメージは増えなかったということ。

 

 

(SLE-47) Ruiz-Irastorza G, Ugarte A, Saint-Pastou Terrier C, et al. Repeated pulses of methylprednisolone with reduced doses of prednisone improve the outcome of class III, IV and V lupus nephritis: an observational comparative study of the Lupus-Cruces and lupus-Bordeaux cohorts. Autoimmun Rev 2017;16:826–32.

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1568997217301416?via%3Dihub

 

Objective: Hospital Universitario Cruces (CC) およびBordeaux University Hospital(BC)で治療された class III, IV and Vのループス腎炎の臨床経過を比較すること。

Methods: CCのLNのプロトコールはmPSL125㎎を2週間毎のシクロフォスファミドパルスと一緒に開始し、プレドニゾン≤30mg/日を12-14週間までに2.5-5.mg/dayまで減量するというもの。BCは国際的なループス腎炎のガイドラインに沿って、高用量ステロイドMMF or cyclophosphamideで治療し、低用量プレドニゾン免疫抑制剤で維持療法を行った。主なアウトカムは完全なrenal remission (CR)とステロイドの副作用。

Results: BC44例、CC29例が登録され、最大PSNの平均はBCで42.5㎎、CCで21㎎(p<0.001)。6ヶ月間の平均プレドニゾン量はBCで2mg/d、CCで8.3mg/d。HCQはBCで64%、CCで100%に使用された。6ヶ月後のCRはBCで30%、CCで69%(p=0.001)、12ヶ月後のCRは各42%vs. 86%(p<0.001)。CCの患者はCRを達成しやすかった(adjusted HR 3.8, 95%CI 2.05-7-09)。mPSLのパルスの数はCRに関連した(adjusted HR 1.09, 95%CI 1.03-1.15)。CCの患者はステロイドの副作用リスクがひくかった (adjusted HR 0.19, 95%CI 0.04-0.89)。

Conclusion: CCのLNのプロトコールはLNのアウトカムを改善させた。繰り返しのmPSLパルス療法はステロイドの投与量を減らし、臨床的反応を増強させるかもしれない。

 

#LNにおいてmPSLを繰り返すことで(内服PSNを抑え)、効果が有意に高く、副作用も有意に少なくできるとのこと。

 

 

つぎに「LNの推奨」から、4.6の解説文を読んでみます。

https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/2020/06/03/000000

 

- Initial treatment - LNのステロイドパルスの記載

長期のステロイド治療による有害事象の認識、およびmPSLパルス療法後の低用量のステロイド(≤0.5 mg/kg/日)は高用量と比べて同等かもしれないというエビデンスの出現によって[40-42]、委員会は静注mPSLの総投与量を500㎎から2500mgまでを範囲としても良いことを推奨した(疾患活動性)に応じて柔軟に変更してよい)。経口プレドニゾン量は0.3–0.5 mg/kg/日でよく、3-6ヶ月で≤7.5 mg/日に減量する。

 

#同様に、この解説文の40-42のAbstractをチェックします。

 

(LN-40) Zeher M, Doria A, Lan J, et al. Efficacy and safety of enteric-coated mycophenolate sodium in combination with two glucocorticoid regimens for the treatment of active lupus nephritis. Lupus 2011;20:1484–93.

https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0961203311418269

 

ステロイドMPAの併用療法はLNの治療において安全で有効であることが一連の試験で示された。無効がない限りステロイド量を減量してよいというレジメンは利益があることであろう。MyLupusは活動性の増殖性LNの患者を対象とした24週間の多施設オープンラベル試験である。全例がenteric-coated mycophenolate sodium (EC-MPS)で治療され、標準のステロイド(n = 42)と減量ステロイド(n = 39)にランダムに割り付けられた。Primary endpointである、24w時のcomplete responseは19.8% (16/81)であった(標準量ステロイドで19.0%、減量ステロイド20.5%;差の97.5% CIの下限-15.9%で非劣性は証明されなかった (p = 0.098)。Partial responseは42.0% (34/81)であった。ベースラインから24週まで平均のglobal BILAG (British Isles Lupus Assessment Group) score は14.0 ± 5.4 → 5.0 ± 3.8 に低下した(p < 0.001)。有害事象の発生は80.2% (65/81)であり、胃腸障害が最も高頻度 (31/81, 38.3%)。感染症は標準量ステロイド群で57.1% 減量ステロイド群において35.9%で(p = 0.056)、帯状疱疹が各16.7% and 0% (p = 0.012)。3例が有害事象のため治験薬を中止した。この予備的な研究はEC-MPS は活動性LNの患者において無効なしでステロイド減量を促進することを示唆したが、現在の標準治療に対する長期的な比較試験での確認が必要である。

 

(LN-41) Ruiz-Irastorza G, Danza A, Perales I, et al. Prednisone in lupus nephritis: how much is enough? Autoimmun Rev 2014;13:206–14.

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1568997213002061?via%3Dihub

 

Objective: LNにおける中等量のステロイド剤を用いたプロトコールの有効性と安全性を評価すること

Methods: 'Cruces-protocol cohort' (CPC)を受けた患者に対し、1:2で'historic cohort' (HC)を割り当てた。CPCはmPSLパルス療法、HCQ、免疫抑制剤(通常シクロフォスファミド)を併用した中等量のプレドニゾンを投与された。HCは高用量のプレドニゾンとシクロフォスファミドを投与された。部分寛解率、完全寛解率、ステロイドの副作用を評価した。

Results: CPC15例、HC30例が解析されたプレドニゾン初期量の平均(SD)はCPC 22 (8) mg/d vs HC 49 (19) mg/d (p<0.001)。プレドニゾンの6ヶ月間の平均累積投与量は各々1.7 (SD 0.5) g (平均9mg/d) vs 4.5 (2.1) g (平均25mg/d)であった (p<0.001)。シクロフォスファミドの6ヶ月後までの累積投与量の中央値は3 (0-4.5) g vs 5 (0-16.8) g (p<0.001)。CPCで15/15(100%)、HCで10/30 (33%) がhydroxychloroquineで治療された (p<0.001)。6ヶ月の時点でCPC 12/15 (80%) が部分・完全寛解を達成したが、HCQ群では14/30 (47%)であった(p=0.015)。12ヶ月の時点で、各13/15 (87%)、19/30 (63%)が部分・完全寛解を達成した (p=0.055)。ステロイドによる副作用は各1/15 (7%) vs. 20/30 (67%) で確認された(p<0.0001).

Conclusion:中等量のプレドニゾン、mPSLパルス、シクロフォスファミド、HCQの併用療法は少なくとも高用量プレドニゾンを含むレジメンと同じくらい有効であり、毒性が少ない。

 

(LN-42) Rovin BH, Solomons N, Pendergraft WF, et al. A randomized, controlled double-blind study comparing the efficacy and safety of dose-ranging voclosporin with placebo in achieving remission in patients with active lupus nephritis. Kidney Int 2019;95:219–31

https://www.kidney-international.org/article/S0085-2538(18)30628-8/fulltext

 

LNの寛解導入療法の標準治療に追加されはたカルシニュリン阻害薬はcomplete renal remission (CRR)の率を増やすかもしれない。AURA-LV studyは活動性LNにおいて新しいカルシニュリン阻害薬voclosporinの有効性と安全性をテストした。AURA-LVはMMF (2g/d)と急速減量のステロイドに併用されたvoclosporinの2つの投与量(23.7 mg or 39.5 mgを1日2回)とプラセボを比較した第2相の多施設二重盲検RCTである。Primary endpointは24週時のCRR;secondary endpointは48週時のCRR。20ヶ国、79施設から265例が登録され、48週間の治療にランダムに割り付けられた。24週時のCRRはlow-dose voclosporinで29例 (32.6%)、high-dose voclosporinで24例 (27.3%)、プラセボ群で17例 (19.3%) (OR=2.03 for low-dose voclosporin versus placebo)。low-dose voclosporin群の有意に高いCRR rateは48w時に持続しており、high-dose voclosporin群の48w時のCRRもプラセボに比べ高かった。voclosporinの両群とも重症の副作用が多くみられ、low-dose群ではプラセボ、high-dose群と比べ死亡が多かった (11.2%, 1.1%, 2.3%)。これらの結果より、活動性LNにおいてlow-dose voclosporinをMMFステロイドに加えた導入治療はMMFステロイドのみの治療に比べ、より優れた腎炎の改善をもたらすが、死亡を含む有害事象の率がより高くなることが観察された。

 

 

#(LN-40) Zeher 2011はenteric-coated mycophenolate sodium (EC-MPS)を全例に投与したRCTですが、比較は標準量のステロイド(n = 42)と減量ステロイド(n = 39)の間でなされています。LN-41は小さなコホート研究(n=15 vs 30)です。LN-42はvoclosporinの2つの投与量間で比較しており、ステロイドの投与量とは関係なさそうです(なぜこれを引用?)。

 

以上より、まず唯一RCTの引用である、(LN-40) Zeher 2011の本文を読んでみました。

https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0961203311418269

 

比較は、45mgで開始した群と22.5mgで開始した群との間で行われていました(全例MPAとmPSL0.5mg3日間を投与された後)。これではパルス療法の効果は分かりません。少なくとも22.5mgの群で、そこそこCR、PRが良いのであれば、パルス後は低用量でもいいかも、と言えたかもしれませんが、24w時のCRが標準量で19.0%、減量で20.5%、PRが各47.6%、35.9%とかならずしも良くありません(EULAR推奨なのに大丈夫か....)。

 

つぎに(LN-41) Ruiz-Irastorza 2014を読んでみました。さすがに懐疑的になっておりましたが、これが素晴らしい研究結果でした!!

 

→EULAR recommendations for LN 2019 ③ (ループス腎炎にはステロイドパルス!!) 

https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/2020/06/08/000000 

 

 

ps;Dubois' lupus erythematosus and related syndromesは言わずと知れた、Lupusistたちの教本です