リウマチ膠原病のQ&A

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SLEの妊娠 ③ (ヒドロキシクロロキン HCQ)

SLEの妊娠①において、「HCQの中止が妊娠中のSLEの再燃に関わる」とした論文を読みます。
 
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 SLEの妊娠①
 SLEの妊娠②
 
 
Hydroxychloroquine in lupus pregnancy.
Clowse ME, Magder L, Witter F, Petri M.
Arthritis Rheum. 2006;54(11):3640-7.
 
Introduction
・いくつかの研究はHCQが腎炎とCNSループスを予防し、SLEの効果を減少させることを示している。(1,2)HCQを中止すると6ヶ月以内のループスの再燃のリスクが2倍以上になる。
・妊娠中のSLEのケアにおける専門医はHCQを妊娠中継続するよう勧める。2004年の第4回国際性ホルモン・妊娠・リウマチ性疾患会議において、妊娠中の内服薬のワーキンググループはHCQを継続することを推奨した。この推奨を支持するのは300未満の妊娠の報告に限られている。一方で少数派のリウマトロジスト、特に年間少数のループスの妊娠を扱わない者はHCQを妊娠中にHCQの継続をルーチンには勧めない。 (8).
・子宮内のロロキンの毒性についての早期の報告は妊娠中にHCQを使用することについて、いくらかの恐怖を与えた。しかし、妊娠中にHCQを使用することについての最近の系統的な研究はその安全性を示唆している。子宮内のHCQ曝露に直接起因する胎児の奇形や視野・聴力障害の症例報告はない。
・この研究ではSLEのコホートにおける妊娠、胎児、ループスのアウトカムにHCQ曝露の影響をレビューする。私たちの知る限り、この研究はHCQ中止が妊娠中のSLEの活動性に与える影響に関する最初の報告である。
 
PATIENTS AND METHODS
・ホプキンス・ループス妊娠コホートはホプキンス・ループス妊娠センターで見られた連続的な患者を1987年より登録している。この報告は1987-2002年までに見られた妊娠について報告する。この前向きコホート研究はJohns Hopkinsの倫理委員会にて承認された。全ての女性が登録の前にICにサインをした。
・初診時に患者のループスと産科的な病歴と妊娠前・中の内服が登録された。以降の妊娠中の全ての受診において、通常4-6週間毎において内服とループスの活動性を記録した。
 
Study protocols.
・この研究でループスの活動性に関するいくつかの測定を行った。医師の疾患活動性全般評価としても知られる医師のループス活動性の評価(PEA)、SLEDAIPEAは現在のSLEの活動性を測定するための妥当化されたVASスケールであり、病歴、診察、ラボの所見に基づく。スケールは0-3の範囲で、0はループスの活動性が全くないことを意味し、1は軽度の活動性、2派中等度の活動性、3は重症のループスの活動性を示唆する。中等度から重症のループスの活動性は妊娠中、PEAスコア2と定義された。
・再燃はこのスケールが90日の期間内で1上昇することと定義された。SLEDAIは妥当化され広く使用されるループスの活動性の指標。私たちはSLEDAI score4点以上を臨床的に妊娠中における重要なループスの活動性と定義した。私たちはループスの活動性が高い妊娠をこれら二つのスケールを用いて定義した。
 
Patients.
・この患者のコホートはHCQの使用に基づき3つのグループに分けられる。HCQ半減期40日と見積もられる。SLEの活動性においてこの薬の中止の影響は数ヶ月みられるかもしれない。そのためグループ分けする際、妊娠より3ヶ月前にさかのぼってHCQへの曝露、中止を考慮に入れた。Group1は妊娠前3ヶ月の間、また妊娠中にHCQへの曝露はなかった。Group 2は妊娠経過を通しHCQを内服した群。Group 33ヶ月より前、あるいは第1トリメスターの間にHCQを中止した。
・妊娠中にHCQを開始した6例はサンプル数が小さいため、解析に含めなかった。2例は妊娠35週の後にループスクリニックを受診した。彼女たちは早産や死産のリスクがなかったために研究から除外した。全ての出産に関する情報は分娩後のフォローの間、母親より聴取した。幼児は幼児ケアのためにルーチンに行われる以外に、全身性の先天性異常の検査や特別な眼科的・聴力検査を受けなかった。
・流産は20週未満の妊娠の喪失と定義した。John Hopkins Lupus center20週より前に受診した妊婦全例において流産率が計算された。20週を超えた妊娠についてはさらなるアウトカムが解析された。死産は20週以降の妊娠の喪失と定義された。超未熟児は20-27.9州の間の誕生と定義した。37週以降の全ての分娩が臨月としてカウントされた。妊娠年齢にしては小さい幼児は米国の基準に基づいて、10番目のパーセンタイルよりも体重が低いこととした。An infant who was smallfor gestational age weighed less than the 10th percentile for age at birth,based on US national norms
 
Statistical analysis.
私たちは妊娠と疾患のアウトカムの割合を3群で比較した。(略)
 
RESULTS
HCQ group characteristics.
Hopkins Lupus Pregnancy Cohort1987-2002年の間の197人の女性における257の妊娠を含んだ。これらの妊娠のうち56 (22%) は妊娠経過中常にHCQに曝露された。163 (63%)はまったく曝露されなかった。38(15%)の妊娠では女性は第1トリメスターの間、あるいは妊娠前の3ヶ月以内にHCQの内服を中止した;10人は妊娠前に、28人は第1トリメスターに。中止の理由は通常胎児への曝露に関する懸念。HCQの各群において双子の出産が1件ずつ。
・各群の背景をTable 1に示す。民族の分布、母性年齢は同様。いずれの群も、ACR基準に基づくループス腎炎の病歴が同様に高率に見られた。Sapporo基準に基づいて診断されたAPSHCQ曝露なしの妊娠のうち14%、妊娠の全経過中曝露された妊娠のうち5%HCQを中断した群ではゼロだった。HCQの使用も時とともに変化があった。1995年よりも以前にHCQを内服している間に妊娠した女性の大多数がこの薬を中止した。一方、1995年以降にHCQを内服中に妊娠した女性の大多数が薬を継続した。
1995年前後で妊娠を比較すると他にも統計学的な有意差があったものが判明した。1995年以前はコホートの多くの女性がアフリカ系アメリカ人だった。母親の年齢は若く、ループスの活動性も高かった。多くの女性がより高用量のプレドニゾンを内服していた。
 
Pregnancy outcomes.
3群の間で妊娠喪失率、妊娠喪失の時期、分娩時の妊娠期間、妊娠年齢の割に小さい胎児の割合などの妊娠のアウトカムは統計学的に同等 (Tables 2 and 3)。二次性APSの女性の妊娠を解析から除外すると、妊娠のアウトカムの差は統計学的に同様だった。
APSをもたない患者のうち、流産はHCQ曝露なしの妊娠の5%HCQ継続群の5%HCQ中止群の10%だった(p=0.44)。
・死産はAPSがなければHCQ曝露のない群で6%HCQ継続群で6%、中止群で9%に起きた(p=0.88)。
イメージ 1
イメージ 2
 
 
Neonatal complications.
この研究において、明らかにHCQ曝露に帰属する胎児異常はなかった。全体のコホートで先天性異常の割合は低く、健康な妊娠と同等だった。HCQ曝露のある79の子供のうち1児が口唇裂と口蓋裂、1児が出産後の肺炎と胸水、もう1例が軽度の直腸出血。これらの問題は医療で改善した。HCQに曝露されていない163の妊娠のうち3例の胎児が重症の致命的な先天性異常を有した。1児が腹壁ヘルニア、3例が先天性心ブロック、4例が出産後に血小板減少を呈した。視力・聴力障害の報告はなかった。
 
Lupus activity.
HCQ内服を中止した女性はループスの活動性が上昇し、妊娠中のループスの再燃が増加した(Table 4)PEAスコア2以上の高活動性のループスはHCQ治療を継続した群に比べ中止した群で2倍多く起きた (P = 0.05)。再燃率も継続群や火内服群と比べ中止群で多かった(P = 0.05)。これらの再燃は妊娠中を通し見られた。その他の群に比べ、中止群において第1、第3トリメスターの間に統計学的に多かった。ループス再燃のリスクは統計学的に有意ではないが、出産年、年齢、民族、APSの有無、ループス腎炎の病歴で補正しても多かった(P = 0.10)
・最大のSLEDAIスコアは妊娠前・妊娠中にHCQを中止した女性において最大だった(P = 0.06)HCQ治療を中止した女性はより多くが妊娠中にSLEDAIscore4以上を有し(P=0.007)、これは出産年、APS、年齢、民族、ループス腎炎の病歴で補正しても維持された(P =0.10)
HCQで最もよくコントロールされたループスの活動性のタイプは関節炎、全身症状。HCQは蛋白尿や血小板減少のようなより重症の合併症を予防しなかった。これらの危険なループスの合併症はとくに妊娠初期に起きた時、妊娠の喪失に関連するとされている[26]>500mg/24hの蛋白尿はHCQ治療を継続した妊娠の18%、中止した群の26%、非曝露群の29%に起きた(P=0.23)
3群における蛋白尿の最大レベルは同様 (P=0.65) 。血小板減少はHCQ非曝露群の20%、継続群の23%、中止群の16%に起きた(P=0.64)。妊娠and/or関節炎に関連しない倦怠感はHCQ治療を中止した妊娠の61%に存在したのに対し、継続群では27%、非曝露群では28%だった(P=0.005)。出産年齢、APS年齢、民族、ループス腎炎の病歴で補正しても、倦怠感and/or関節炎の頻度はHCQを中止した女性において統計学的に高い状態が維持された(P=0.01)。
・妊娠前数ヶ月のループスの活動性は妊娠中のループスの活動性と妊娠の生存率に影響したとされる[27]。この研究においてHopkinsLupus centerで妊娠の6ヶ月以内に診られていた女性は95例。HCQを中止した女性のなかで妊娠前にHopkinsLupus Centerでフォローされていたのは14例。この14例のうち4例(29%)が妊娠の6ヶ月以内にPEA score2以上のループスの活動性の上昇を示した。14例中1例が個の活動性に先んじてHCQを中止し、その他は妊娠後に中止した。妊娠期間中、HCQを継続し妊娠前にフォローされていた29例のうちループスの活動性を有した女性はいなかった。HCQ非曝露群で妊娠前に診られていた52例のうち8例(15%)がループスの活動性の上昇を有した。妊娠中のループスの活動性の上昇はHCQ中止群でより多かった。妊娠前のループスの活動性に関わらず。妊娠前にループスの活動性が低かった女性において、HCQ中止群10例のうち3例(30%)が高活動性のループスになった。HCQ継続群では3%29例中1例)、HCQ非曝露群では7%44例中3例)が活動性ループスになった。
・妊娠の喪失は妊娠前の高活動性ループスの女性においてより多い。妊娠前の6ヶ月以内のループスの活動性の解析に含まれた妊娠の数が小さいため、この解析で統計学的な有意差は確認されなかった。
 
Medication during pregnancy.
・コホートに含まれた患者の大多数が妊娠中プレドニゾンを内服した。しかし、HCQ中止群においてより多くの女性がプレドニゾンを内服した(P=0.003)。高用量のステロイド(プレドニゾン20mg以上またはパルス療法)を要した女性はHCQ継続群においてより少なかった(P=0.16)。プレドニゾンの最大投与量の平均はHCQ継続群においてHCQ非曝露群、HCQ中止群に比べ少なかった(P=0.06)
・妊娠中のAZPの使用頻度はHCQ継続群、非曝露群において同様であった(14%13%)。中止群においてはより少ない女性がAZPを内服した(5%)。この差は統計学的に有意ではなかったが、妊娠の年に関連しやすかった。1995年以前はAZPに曝露された妊娠はこのコホートでは少なかった。
 
<まとめ>
HCQを内服中のSLE患者が妊娠したら、HCQを継続した場合、中止した場合と比べSLEの活動性が有意に上がる。妊娠のアウトカムに差はない。

 

 

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