リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

SLE患者の妊娠 ①

Pregnancy in women with systemic lupuserythematosus
 (uptodate, accessed on July 2015)
 
PREGNANCY PLANNING — 理想的にはSLE女性の妊娠の全てが受胎の前の6ヶ月間SLEが落ち着いている間に計画されるべきだ。受胎の時の活動性SLEは母体と出産のアウトカムの悪い結果を最も予測するものだ。こういうリスクはあるものの、そのような妊娠の大多数が出産という結果に至る。
 
最大の観察研究は受胎時に軽症・中等症の活動性を有するSLE患者385例の研究である。81%は合併症のない妊娠であった。ベースラインのループスアンチコアグラント、高血圧治療、血小板減少、疾患の再燃、またはベースラインの中等度の活動性で補正した後、ヒスパニック系でない白人における悪い妊娠アウトカムは8%。しかし、研究のポピュレーションは高活動性、活動性LN、コントロール不良の高血圧、糖尿病を除外したものであるため、制限がある。
 
ループス患者の267回の妊娠の研究によると第12トリメスターにおいて疾患活動性が高い女性は低い場合と比べ妊娠の失敗が3倍も増える(流産と周産期死亡)。しかし、疾患活動性が高い女性は低い場合と比べ出産の数において統計学的に有意な差があるわけではない(77% vs 88%)。
 
Preconception evaluation — 女性には受胎に伴う薬剤の中止によってループスの再燃のリスクが増加することを助言すべし。理想的には受胎を考える女性は妊娠に適した薬剤のみ内服すべきであり、治療を継続するよう助言すべし。
 
Risk assessment — 妊娠前の評価は疾患活動性と主な臓器病変を含む。静脈血栓症や併存疾患はもちろん。出産のアウトカムをレビューし、SGA(妊娠期間に比べ小さい)胎児、子癇前症、死産、流産、早産の病歴に注意を払う。
活動性のSLEの患者、とくにループス腎炎の患者は疾患が少なくとも6ヶ月間よくコントロールされるまで妊娠を延期するよう助言すべきだ。腎不全の患者には一次的あるいは永続的な腎機能の定期亜のリスクの評価を含みカウンセリングする。
母体の疾患の重症であれば一般に母体と胎児の妊娠に伴うリスクが上がる。最近の脳卒中、肺高血圧症、重症の間質性肺疾患、副腎不全は母体、胎児ともに危険になりえる。これら、またはその他の悩ましい合併症母体・胎児医療の専門医によってそれらのリスク・プロフィールについて慎重にカウンセリングされるべきだ。代理出産、養子縁組も紹介すべきだ。妊娠の継続を選択すれば、患者はハイリスクセンターの多くの専門分野においてフォローされるべし。
 
母親の抗体は評価しておく。抗リン脂質抗体はいくつかの出産のリスクを上げる。Ro/Laに対する抗体は新生児ループスを起こしやすくさせる。
 
Specific laboratory testing — ルーチンの妊娠前ヶさに加え、以下を測定する。
抗リン脂質抗体aPLs: ループスアンチコアグラント(lupus anticoagulant, LA), CL抗体のIgGIgM、抗CLβ2-GP- I抗体のIgGIgM
Ro/SSA、抗La/SSB抗体
腎機能 (クレアチニン、尿検査・尿沈渣、随時の尿蛋白/Cr)
完全な血液カウント(CBC)
肝機能
dsDNA抗体
補体(CH50, or C3 and C4
尿酸
 
Medications — 内服薬をレビューしなければならない。妊娠中もっとも安全な薬剤で疾患のコントロールが得られるという目標のため受胎前に調整しなければならない。SLEの治療に用いる多くの薬剤は妊娠中有害であるかもしれないし、また禁忌であることもあるが、より安全な選択肢もある。
 
Selective use allowed during pregnancy —
以下の薬剤は妊娠中安全なプロファイルを有するが、特定の制限もある。NSAIDs、ステロイド、アザチオプリン、いくつかの降圧剤がこのカテゴリーに入る。胎児に有害であるというリスクが少しはあるが、妊娠中のSLEのコントロールのために必要であれば許容できる。
 
●Nonsteroidal antiinflammatory drugs – NSAIDの使用は先天性奇形と強い関連があるわけではない。しかし、受胎サイクルの間におけるNSAIDsの使用は排卵implantationの妨げになるかもしれないため、受胎期間中は避けるのが最善。第1トリメスターのNSAIDsの使用が自然流産を増やすかどうかについてのエビデンスは相反している。第3トリメスターにおけるNSAIDsの使用は動脈間の早期閉鎖の原因になるかもしれないため避けるべきだ。低用量アスピリンは妊娠中安全に使用できる。しばしば子癇前症のリスクを減らすことが示唆されている。
 
Hydroxychloroquine– Hydroxychloroquine (HCQ)SLEの全ての患者において妊娠期間中は継続されるべきだ。その他の禁忌がない限り。いくつかの研究がHCQを妊娠中継続した患者は疾患の再燃が少なく、アウトカムが良かったことが示されている。副作用の増加はなく、先天性奇形もなかった。さらにいくつかのデータではHCQに曝された抗Ro/SSA、抗LA/SSB抗体を有する母体からのリスクのある胎児において先天性心ブロックの発生は減少したことが示唆された。
 
●Glucocorticoids – ステロイドは妊娠中の母体における様々な疾患に用いられる。私たちはプレドニゾンの可能な限りで最少の投与量で用いる事を進める。理想的にはプレドニゾロン10mg。第1トリメスターの間のステロイドの使用は口唇裂に関連する。口蓋裂があってもなくても。母体と胎児の副作用は別にしめす。
 
Azathioprine– AZPは妊娠中、比較的安全と考えられているが、投与量は2mg/kg/dayを超えないこと。
 
Cyclosporine限られた観察結果ではあるが、子宮内でシクロスポリンに曝露された子供が正常な腎機能と血圧を有した。製造者は妊娠中の使用は母体の利益が胎児のリスクよりも大きい場合に限って用いるよう示唆する。
 
Tacrolimusタクロリムスと先天性欠損との関連は分かっていない。子宮内で曝露された胎児が多く小さいが。SLEの妊婦9人の小さなケースシリーズではタクロリムスにて疾患の維持またはループス腎炎のコントロールが得られた事を報告した。
 
●Antihypertensive medications – メチルドパ、ラベタロール、ニフェジピン、ヒドララジンは妊娠中に最もよく用いられる降圧剤。一方、ACE阻害薬、アンギオテンシン2受容体拮抗薬は妊娠中禁忌。利尿剤は注意をして用いる。ニトロプルシドは難治性の重症高血圧を急いでコントロールするための最後の砦;緊急の状況で短期間にかぎって用いるべし。
 
Selective use with caution in pregnancy
●Biologic medications – B細胞を除去する抗体であるリツキシマブやBAFF阻害薬、ベリムマブのような生物製剤を妊娠中に用いる事に関するデータは限られている。症例報告ではリツキシマブに曝された乳児において6ヶ月まで続くB細胞のリンパ球減少が起こるかもしれない事が示唆された。そのため妊娠中にこれらの薬剤を使おうと思わない。
 
Contraindicated in pregnancy
Cyclophosphamideシクロフォスファミドは先天性(または胎児の)奇形に関連するため、胎児が催奇形物質に最もさらされやすいgestationの最初の10週間は避けるべきだ (figure 1)。しかし、この薬剤は生命に関わる臨床状況では妊娠後期では用いられている。
 
Mycophenolatemofetil – 先天性異常が妊娠中MMFに曝された新生児において報告されている。妊娠中は避けるべき。AZP or Tacが妊娠前、妊娠中MMFの代わりになるかもしれない。あるいは疾患をコントロールできる最低量のステロイドを用いてもよい。
 
Methotrexate– MTXは催奇形性があるため妊娠中は避けるべし。
 
Leflunomideレフルノミドを中止後2年間は妊娠を延期すべし(あるいはwashoutの処置を行うべし)。この薬剤は2年までは血清で検出され続ける可能性があるため。
理想的にはconceptionは疾患が寛解している時か妊娠に適した薬剤で安定している時期に似のみ計画されるべし。しかし、妊娠が疾患活動性のある時期に起きた場合、薬剤は胎児と母体の安全のために調整されなければならないだろう。
 
SPECIFIC CONSIDERATIONS DURING PREGNANCY
Exacerbation of SLE — 妊娠と出産後の時期においてSLE再燃率が高いことは一般的に認識されるが、25-60%と様々な率が報告されている。この多様性は研究デザインの不均一性、;患者とコントロールの多様性、研究に用いられた再燃の定義の違いによるものかもしれない。
以下の要素が妊娠中のSLE再燃に関連する。
受胎前6ヶ月の期間における活動性の疾患
ループス腎炎の病歴
●HCQの中止
 
Impact of lupus on pregnancy — SLE患者の妊娠は健康な女性に比べ合併症のリスクが高い。SLEに合併した母体と妊娠合併症を評価した最大の研究は13555の妊娠を含んでおり、母体の死亡率はSLEにおいて20倍も高いことを見出した。SLEの女性はpreterm labor、計画されていない帝王切開による分娩、胎児発育不全、子癇前症、子癇症を含む産科合併症が2倍から4倍高くもある。また、SLE患者は血栓症感染症、血小板減少、輸血のリスクが優位に高い。
 
もうひとつの研究によるとSLEの女性では妊娠中の高血圧、早産、計画されていない帝王切開、分娩後出血、母体の静脈血栓塞栓症の全てがSLEを有さない女性に比べ増加した。
 
SLE女性において良くない妊娠のアウトカムがいくつか判明している。それは活動性疾患、降圧剤の使用、ループス腎炎、抗リン脂質抗体の存在、血小板減少。
 
●Preeclampsia – 子癇前症はSLEの妊娠における最も頻度の高い合併症の一つ。一般の産科人口では4.6%であるのに対し、SLEでは16-30%に起きる。危険因子は一般人と同じ。SLE患者に特異的な追加的なリスクは活動性ループス腎炎、ループス腎炎の既往、補体低下、血小板減少。抗リン脂質抗体が子癇前症に曝しやすくするかどうかに関するか否かは不明。いくつかの研究は関連を示唆するが。
 
●Preterm birth – 早産はSLEの女性において最もコモンな産科合併症。早産の頻度は15-50 %と報告されている。ループス腎炎を有するか疾患活動性が高い女性において頻度が高い。これはUSにおける一般の参加人口の12%と肩を並べる。ループス腎炎の存在と活動性疾患は早産の最も強い予測因子。
Fetal complications — 妊娠中の胎児の合併症にはfetal loss、発育不全、新生児ループス(NL)症候群、早熟の合併症。
 
●Fetal loss –歴史的にSLEの女性では早期・晩期ともpregnancy lossが多い。その当時のほとんどの研究グループは胎芽のlossから死産まで全てfetal lossという言葉を使っており、そのため早期の流産と後期の胎児死亡のリスクを理解することをchallengingなものにしている。
胎芽のlossに対するSLEの影響は議論されるところである。リスクが少し上がるかもしれない。SLEの女性は10週を超えて胎児死亡のリスクが上がる。とくに活動性SLE、ループス腎炎、抗リン脂質抗体症候群において。総じて胎児を失う率は最近10年では減少し出生の割合が増えてきた。
 
●Fetal growth restriction – SLEの女性において約10-30%が胎児発育遅延、妊娠期間に比べ小さい新生児を合併した。その他の合併症と同様、そのリスクは活動性疾患、高血圧、ループス腎炎において高かった。出生時の低体重は全ての在胎齢においてSLE女性で多かった。
 

●Neonatal lupus – 新生児ループスは受動的に罹患した自己免疫疾患であり、抗SSAまたは抗SSB抗体を有する母より生まれた新生児に起きる。SLEやシェーグレン症候群の診断のあるなしに関わらず。NLの主な所見は皮膚症状か心症状であるが、その他のNLの症状には血液学的、肝機能的な異常が含まれる。
新生児において最も重大な合併症は先天性完全房室ブロック。抗Ro/SSA抗体を有する母から生まれた子供の約2%に発生する。

 
完全房室ブロックのリスクは前の新生児が皮膚新生児ループスを有する場合16-18%、あるいは10-15%に上がる。
 
SLEはその他の先天性奇形のリスクを上げないようだ。いくつかの研究では聴力障害がSLEの母から生まれる子供、とくに男児の場合は頻度が高いかもしれないとされた。しかし、これを確認するためにはさらなる研究が必要。
 
 
Special considerations
Lupus nephritis — 活動性ループス腎炎LNを有する女性は母体のアウトカムを最適にするために疾患が少なくとも6ヶ月安定するまで妊娠を延期するよう励行されるべし。上述の通り、ループス腎炎の既往または妊娠中の活動性LNは母体と胎児の合併症のリスクが高いことに関連する。以下が分かりやすい。
 
●SLE104例における193回の妊娠に関する観察研究において、81回は活動性腎疾患がある時に起きたが、出産時の低体重は腎疾患を有する妊娠において頻度が高かった。妊娠中の活動性腎疾患は妊娠高血圧とループス再燃の頻度が高かった。
 
●SLE患者の女性における95回の妊娠に関するもうひとつのretrospective studyによると過去のループス腎炎は母体の合併症の頻度が高く(88% vs 43%)、再燃の頻度が高かった(54% vs25%)。ほとんどは腎疾患の再燃。しかし、ほとんどの腎疾患の再燃は重症ではなく、高用量のステロイドに反応し、妊娠の喪失には至らなかった。
 
●58例のループス患者における90回の妊娠に関するretrospective studyによると子癇前症、早産、妊娠の喪失はLN寛解状態にある女性において、活動性LNの女性に比べ低かった(35, 30, and 25 % versus 57, 52,and 35 %, respectively)
 
このようにこれらの女性は妊娠中注意深いモニタリングを要し、疾患をコントロールするために投薬を要するかもしれない。
 
腎移植を受けたSLE女性の妊娠のアウトカムはその他の臓器移植のそれと同様。
 
Presence of antiphospholipid antibodies — 抗リン脂質抗体は約1/4から半数のSLE患者において認められる;APSに関連した血栓症や産科合併症を呈するのはわずか。10週を過ぎてからの胎児の死亡や3回以上の流産、子癇前症または胎盤不全による34週未満の出産のようなAPSを疑う産科的な病歴を有するSLEの妊婦、あるいは説明のつかない静脈・動脈血栓症を有するSLEの妊婦は抗リン脂質抗体の存在を検査すべきだ(ループスアンチコアグラント、IgG型・IgM型抗カルジオリピン抗体、IgG型・IgM型抗CLβ2-GP- I抗体)。
 
APSの診断を有さないaPL陽性の女性が妊娠の損失のリスクが高いのかは分かっていない。これらの自己抗体が妊娠女性に存在することに関連した問題と管理は別に示す。
 
Presence of anti-Ro and anti-La antibodies— 上述の通り抗Ro/SSA、抗La/SSB抗体に曝された胎児は完全心ブロックまたは新生児ループスを発生するリスクが高い。ほとんどのケースで完全心ブロックは妊娠18-24週で発生する。このようにいくつかのセンターでは抗Ro/SSA、抗La/SSB抗体を有する女性において心ブロックのための頻繁な胎児検診を行っている。調査は様々な場所、様々なプロトコールで行われる。心ブロックへの進行を予防する証明された治療介入の方法はないものの、早期に検出すればモニタリングを増やすことができる。妊娠中のHCQは心ブロックの頻度を減らすことに関連する。
 
Ro/SSA、抗La/SSB抗体を有する女性は乳汁中にこれらの抗体を検出できるかもしれないが、新生児ループスが乳汁から起きるというエビデンスはない。
 
ps;
SLEの妊娠②(uptodateつづき)
 
SLEの妊娠③(HCQ)