リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

低用量ステロイド剤で長期安定のSLE患者においてステロイド中止は可能か?②

長期安定のSLEにたいしプレドニゾン5mgで継続 vs 中止のRCTがフランスで行われ、再発は7% vs 27%で、継続のHR0.2という結果でした。

https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/2020/06/17/000000

 

この試験は多くのリウマチ科医の興味を引き付ける結果であったようです。Correspondence letter 3通も掲載されていますね。否定的な見解も寄せられているようです。興味深い攻防?についてさっそく読んでみましょう!(略しながら意訳しています)

 

 

(letter from Acharya)

Glucocorticoid Withdrawal in Lupus - To Do or Not to Do?

Acharya N

https://ard.bmj.com/content/early/2020/03/10/annrheumdis-2020-217261

 

いくつかの研究によって、副作用はもちろんSLEの寛解維持のための長期間のステロイド投与は臓器ダメージの蓄積をもたらすことが示唆されている。SLEにおけるステロイド中止をテーマにした多くの観察研究がある。ランダム化試験はGalbraithによってなされたSIMPLという小さなパイロット試験に限られる。この研究ではステロイド中止のもたらすLN寛解維持に対する影響が15例の患者で研究されたというものだ。

Mathianらによって行われた上述のCORTICOLUPという研究はこの問題に向けられた科学的エビデンスを提供するものだ。この研究は全ての再燃と重症再燃の両方においてステロイド維持療法が中止よりも優れていることを示した。フォロー期間は52wkと短いが、中止群の再発率は27%と極めて高く、継続群(7%)の中止群に対するHR 0.2という結果であった。CORTICOLUP研究の結果は過去の結果と異なっている。

CORTICOLUPの2群の患者(継続28例、中止25例)の大多数がHCQ以外の免疫抑制剤の投与を受けておらず、11例はHCQを投与されていなかった。もし免疫抑制剤を投与されていた患者において、投与されていない患者に比べて再発率の違いがあるかどうかが分かれば興味深かったであろう。Taniらの後向き研究では最後の再燃からステロイド中止までの期間も将来の再発に置いて重要な役割を有することが示唆された。興味深いことにCORTICOLUPの中止群の安定していた期間は継続群にくらべ有意ではないがより長期であった。

寛解導入においてbiologicsがステロイドを減量できるかどうかを調べる研究は現在行われているところである。Oonらのメタ解析においてBelimumab, epratuzumab, tabalumabがステロイド量を25%以上減少させることが成功的に示された。SLEの維持療法のステロイド減量効果としてbiologicsとその他の免疫抑制剤の使用はまだ研究されているところである。ステロイド中止が望ましいことを示すランダム化試験の研究がないため、ステロイドを中止をした方がよいのか、中止しない方がよいのかについての疑問はまだ解決されていない。

 

(reply from Mathian) 

Response to: 'Glucocorticoid withdrawal in lupus: to do or not to do?' by Acharya.

Mathian A, et al.

https://ard.bmj.com/content/early/2020/04/02/annrheumdis-2020-217282

 

私たちの研究において安定した病態と治療を有するSLE患者においてPSN 5mg/dayの中止がSELENA-SLEDAI flare indexとBILAGで定義される再燃リスクが1年間で4倍(27%)高いことを示した。Acharaはこれらの結果が過去の二つの研究と比べ同じ条件なのに異なっていることを述べた。しかし、これらの研究は私たちの研究とは比較することができない。Acharyaも指摘されたようにthe Steroids In the Maintenance of remission of Proliferative Lupus nephritis (SIMPL) trialは15例のみを登録した小さなパイロット研究であるが、低用量プレドニゾンの維持の有効性・安全性を評価するためにデザインされたものではない。Moroniらの報告については彼らの研究において腎炎を有するSLE患者の治療中止にはステロイドだけでなく免疫抑制剤も含まれていた。私たちはCORTICOLUP試験はこれらの出版された研究結果と矛盾しない結果であることを議論したい。すなわち低用量ステロイドは活動性がないかあってもわずかなSLE患者の約1/4~1/3において再発を予防するということを示したということだ。

Acharyaが指摘されたように試験の結果は大多数の患者が免疫抑制剤を併用されていれば違っていたかもしれない。もちろん私たちはCORTICOLUPの結果は寛解している全ての患者に応用できるものではないことを認識している。CORTICOLUPの研究によると免疫抑制剤で治療された患者は合計で27%であり、私たちのチームのclinical practiceを反映するものである。さらに私たちのpracticeはその他のチームのそれとも匹敵するものである。しかし免疫抑制剤の使用はとくに寛解した患者においてはエビデンスに基づくものではなく、現在のところ医師の決定に基づいているため、医師の確信によって異なるものだ。最後に私たちの研究のFigure 3に示した相互解析において、PSN単独による維持と免疫抑制剤やHCQの間に有意な相関はなかった。

結論としてAcharyaと同じく、私たちは免疫抑制剤やbiologicが再発予防のための長期のステロイド療法を減らすことができるかもしれないと信じている。しかしこの信頼は証明されなければならないし、このタイプの薬剤による長期曝露によってもたらされうる感染症や発がんリスクとバランスが取れたものでなくてはならない。

 

 

 

(letter from Mousavi) 

Comments on the article: "Withdrawal of low-dose prednisone in SLE patients with a clinically quiescent disease for more than 1 year: a randomised clinical trial".

Mousavi MR, Taherifard E.

https://ard.bmj.com/content/early/2020/03/18/annrheumdis-2020-217287

 

MathianらのRCTは、臨床的に非活動期のSLE患者においてPSN 5mg/dayの継続 vs 中止によって再発を1年かけて調査した。低用量ステロイドの中止は4倍の再発リスクの上昇に関連した。この研究は印象的で、低用量PSNの再発予防における有効性を示す最も強いエビデンスではあるが、この研究の妥当性を危うくさせるかもしれないいくつかの懸念がある。

まずこの研究は2群における再発リスクの比較を目的としているため、可能であればこれまで文献で再発リスク上昇に関連すると決定される全ての因子を考慮に入れること、これらを2群で比較することが期待される。African-American race (Caucasianと比べたOR 1.8), 罹患期間≤25 years (HR 2.14)、血清BLyS levels ≥2 ng/ mL (重症再燃の12ヶ月間のHR 1.5–1.9) が現代の研究で考慮されていない危険因子である。本研究ではこれらの因子による交絡の可能性が除外されていないため、PSNの中止と再発リスク上昇との因果関係は問題になるであろう。ベースラインの血清BLyS levelはもはや評価できないが、最初の2つの要素は簡単に測定でき、この研究に追加できるであろう。これらの可能性のある交絡因子の調整ができればこの研究における結果の信頼性を顕著に上げる。

Second, masking the nature of the treatment course known as blinding is a critical methodological feature of randomised clinical trials (RCTs). #誤植?;RCTで大切な事は盲検化であるが、本研究ではなされていないことを述べたいのだと思われる)。同様の目的で近いデザインであるGalbraithらのパイロット研究はこの状況でプレドニゾンプラセボ錠ともカプセル化することで盲検化は可能であることを示した。本研究ではプラセボ群がなく、オープンラベルに基づく所見は2つの問題に影響されている。まず中止群の何例かは彼らの病気が継続群よりもよいので厳格に内服を継続することが必要でないと考え、PSN中止後に免疫抑制剤のadherenceが低下したかもしれない。2つ目の問題として中止群の何人かはPSN中止後に、大多数が長期の低用量ステロイドを受けているのに彼らだけが維持療法を受けていないという事実に基づいて感情的なストレスを感じたかもしれない。治療へのコンプライアンスの低下と感情的ストレスのいずれも再燃リスク上昇に関連したと考えられるため、盲検化は行うべきであったのだ。

上記にもかかわらず、本研究は魅力的なエビデンスを提供し、SLE患者における長期間のステロイドの維持療法に関して適切な規模で行われた唯一のRCTである。しかし、この低用量ステロイドを継続するのか中止するのかを決めるためにはこの研究結果を正当化するさらなる研究が必要である。またSLE患者においてステロイド中止の他の側面を調べるための研究が必要である。低用量ステロイドによる維持療法のgoalは疾患の再燃を防ぐためだけではないからだ。

 

(reply from Mathian) 

Response To: 'Comments on the Article: "Withdrawal of Low-Dose Prednisone in SLE Patients With a Clinically Quiescent Disease for More Than 1 Year: A Randomised Clinical Trial"' by Mousavi and Taherifard

Mathian A, et al.

https://ard.bmj.com/content/early/2020/04/09/annrheumdis-2020-217323

 

Mousaviらは、私たちが過去の論文で決められた‘African American ethnicity’, 罹患期間≤25年、血清BBLyS ≥2 ng/mLのような様々な再燃の危険因子を加味しなかった事について懸念を述べた。しかし、Mousaviが引用した研究は活動性のあるSLE患者を含めている(例、BLISS-52 and BLISS-76におけるSELENA-SLEDAI score ≥6)。CORTICOLUP 研究は臨床的に安定した患者のみを登録した。再発の予測因子は活動期か臨床的安定期かによって同じではない。臨床的に安定した患者における再燃の予測因子はあまり分かっていない。それらには年齢、疾患活動性、寛解期間、抗dsDNA高値、低補体血症が含まれる。これらの因子はCORTICOLUPの相互作用解析で加味されている。Mousaviらのコメントに、より特異的に答えるとするならば、‘African-American, Caucasians or Hispanics’のような患者背景については、フランスや世界のその他の地域では重要ではない。これを要求するauthoritiesもいるが。フランスのSLEの人口は大いに多民族であり、CORTICOLUPに代表されるようにアフリカ系とアジア系の患者を十分な割合で含んでいる。さらに私たちはこれらの考えは本研究の結語に影響しないと考える。なぜならrandomizationの手続きの結果として、Mousaviらが指摘した異なる再燃リスクの頻度は両群で差はないはずであるからだ。この点において罹患歴25年以下の患者の割合は中止群、継続群で同様であった (38% vs 36%, p=0.9 using the χ2 test).

もちろん私たちはCORTICOLUPの結果はプラセボコントロールのないオープンラベルのデザインという視点において解釈されなければならないことは理解している。しかし私たちは治療中止による感情ストレスがSLE再燃のリスク上昇に関連する認識された因子であることを知らない。全ての患者が研究期間中、実際に治療レジメンを飲んでいたかについては確信できないことについて、私たちはMousaviらに同意する。しかし、このlimitationは臨床試験でしばしばあることである。薬剤の血中濃度の評価がない限り患者の治療へのadherenceを確認することが難しいからだ。この点に関して血中HCQ値の測定は励みになる。私たちは血中HCQ濃度が非常に低い事はSLE治療へのadherenceが低いことの客観的なマーカーとして役立つことを報告した。この方法を用いてCORTICOLUPの全般評価の一部としてpost-hoc解析を行った。この結果はMousaviらの懸念に向けられたものだ。HCQで治療された患者のうちPSN中止群の1例、維持群では0例が3、6、9、12ヶ月の時点においてHCQ blood levels<100 ng/mLであった。この結果はCORTICOLUP研究の患者の治療へのadherenceを確かめるものだ。

結論として、私たちは維持療法のgoalが再燃の予防だけではないことについてMousaviらに同意をする。しかし、再発回数と臓器ダメージ発生、QOL、コスト、労働率との一貫した関連性が論文に報告されており、再燃の回数を減らすことは重要である。

 

 

(letter from Sabio) 

Withdrawal of Low-Dose Prednisone in Inactive SLE Patients: Is There Another Alternative?

Sabio JM, et al

https://ard.bmj.com/content/early/2020/04/26/annrheumdis-2020-217575

 

Mathianらの論文で、著者らは非活動性SLEにおいて長期のPSN 5mg/dの維持療法が再発を予防すると結論づけた。最近updateされたSLE管理のEULAR recommendationsでは、専門医はSLE治療の目的は可能な限り最小限のステロイドの維持量で寛解や低疾患活動性を保つ事、全ての臓器で再発を予防する事であるべきと述べた。しかし、PSN 5mgは長期の非活動性SLEの患者において「可能な限りの最小限」ではないかもしれないというのが私の意見であり、5mgからさらに減量していくという代替のストラテジーがある。これについて本研究で考慮されていなかった。私は5mg/dayから1回での中止は急速すぎて、再燃に好都合であったかもしれないと考える。これとは反対に多くの患者がより緩徐な減量によって利益を得るかもしれない。この状況で私たちの施設のプロトコールは中止されるまで2-3ヶ月毎に1.25mg減量するというものだ。再発すれば過去に長期間有効であった投与量に戻して、その後より緩徐に減量する。このストラテジーの目的はステロイドの累積投与量を減らすことである。ステロイド使用に関連した非可逆的な臓器ダメージを予防するために(Systemic Lupus International Collaborating Clinics/American College of Rheumatology Damage Index (SDI))。この研究ではSDIと副作用について1年間、中止群と継続群との間に有意差は見られなかった。しかしこの1年という期間は短かすぎるかもしれない。いくつかの研究はより長期間の低用量ステロイドはSDI上昇に関連するかもしれない事を示唆しているからだ。まとめると、長期間の非活動性SLEの患者において5mg/dayという不確定な維持療法を決定してしまうまでにPSN漸減という代替の方法を考慮すべきだ。

 

(reply from Mathian) 

How to Stop Prednisone in SLE in Remission?: Response To: 'Withdrawal of Low-Dose Prednisone in Inactive SLE Patients: Is There Another Alternative?' by Sabio

Mathian A, et al.

https://ard.bmj.com/content/early/2020/05/06/annrheumdis-2020-217641

 

Dr SabioはPSN 5mg/dayを1回で中止することは急速すぎて、SLEの再燃に好都合であったかもしれないと提案した。彼らの施設のプラクティスではPSNを中止するまでに2-3ヶ月毎に1.25mgずつ減量するというpracticeを記載した。再燃の場合、有効であった投与量でより長期間維持して、その後より緩徐に減量するというものだ。寛解の期間においてPSN5mg/dayという超低用量を突然中止すること自体がSLEの再燃に好都合であったかもしれなかったであろう、そして結果としてゆっくりで緩徐な漸減が必要となるであろう、という意見は多くの医師に共有されるものだ。しかし私たちの知る限り、この仮説を支持する研究は存在しない。SLEにおける緩徐なステロイド減量を報告した観察研究では約1/4が再発しており、私たちの研究で報告された数と同じだ。さらに他疾患で比較する事には慎重であるべきではあるが、超低用量のPSNまたはPSLを低疾患活動性の関節リウマチ患者に継続することは疾患のcontrolをよくすることが報告されている(緩徐に減量されたケースにおいてでさえ)。私たちの研究では大多数がステロイドの中止後にHCQを長期間内服し続けており、そのため実際にSLE治療の日常のpracticeは突然に止められたものではないことを考慮することが大切である。

Dr Sabioに取り上げられた問題は大変重要なものであり、臨床医が将来行うべきことを強調する。すなわち、(1)再燃リスクが低く、長期間の維持療法の中止から利益が得られるであろう患者を同定しやすくする臨床的特徴とバイオマーカーがあるかどうかを決定すること、(2)(特にこの手の研究は少ないため)寛解した患者において治療のde-escalationの方法に挑戦することである。

この疾患に関する新たな知識は疑うべくもなく、より良いSLE治療の理解につながるであろう。私たちの研究は臨床的に安定した患者において再発を防ぐためにPSN 5mg/dayの維持療法が中止する事よりも優れていると結論することによって、患者管理を改善することを目的とした将来の研究への道しるべとなる合理性(と私たちは考えている)を提供する。

 

 

#以上3通のやり取りをご紹介しました。リウマトロジストはSabioさんの意見と同じで、PSL 5mg/dayをいきなり切るというよりも漸減して、中止できそうな場合に限って中止する、というスタンスです(その場合、HCQかAZPかBelimumabを入れたうえで)。日本の専門医の多くがそう考えるのではないでしょうか。

 

 

ps

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