リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

日本の市中病院におけるHCQの継続率、安全性、効果を調べるための研究

SLEにおけるHCQに関する観察研究を読んでみます。

 

Continuation Rate, Safety and Efficacy of Hydroxychloroquine Treatment in a Retrospective Cohort of Systemic Lupus Erythematosus in a Japanese Municipal Hospital

Hosokawa Y, et al.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/internalmedicine/advpub/0/advpub_5042-20/_article

 

Introduction

・HCQの治療はステロイド療法と同じく、SLEのスタンダードな治療戦略である。HCQは再燃リスク、臓器障害の発生、腎機能の悪化、血栓症の発生、感染症のリスクを下げることが報告され、死亡率でさえも下げると報告されている。これらの観察に基づき、HCQはSLE全例に勧められている。しかしながら日本ではHCQは保険が通った2015年までは普及していなかった。

 

・HCQで治療されたSLE122例の研究によるとHCQの継続率は1年で79.5%であった。有害事象(AEs)は最初の2ヶ月以内の頻度が高かった。著者らはさらに維持療法中の42例において1年のHCQ治療で疾患活動性、抗dsDNA抗体価、CH50が彼らのコントロール群と比べ改善したことを示した。もうひとつの研究ではHCQで治療された35例のSLE患者を含み、疾患活動性、プレドニゾロンの投与量において有効性が認められた。私たちはHCQの継続率と安全性にフォーカスを当て、市中病院でHCQで治療された47例の観察研究を行った。選択されたケースにおいてHCQの有効性の可能性についても検討した。

 

Materials and Methods

・当科を2009.4月~2019.7月に受診し、HCQを開始されたSLE全例を対象とした。SLEの診断はACR1997分類基準またはSLICC2012基準に基づくこととした。

 

Data extraction

・retrospectiveにカルテレビューを行った。抽出されたデータはHCQの開始日と中止日、AEsと発生日、HCQ開始3ヶ月前、6ヶ月前のステロイド量と免疫抑制剤の量、HCQ開始時のSLEDAI、抗dsDNA IgG抗体、抗DNA(RIA)抗体、免疫複合体(IC)、CH50、C3、C4。AEはHCQの中止や減量を要した任意のイベントと定義した。ただし持続寛解のためHCQの投与量を減量した場合はAEとはみなさなかった。

 

・先行する免疫抑制療法から独立したHCQの効果を調べるため、私たちはステロイド免疫抑制剤が少なくとも6か月間変化がなかったケースを選択した。この目的のため、SLE発症時の患者も同時にステロイド免疫抑制剤が開始されていないかぎり含むこととした。HCQ開始3、6、12ヶ月後の臨床データ、免疫学的データを抽出した。著者の2人が独立してデータを抽出し、意見の不一致はコンセンサスのもと解消された。

 

Statistical analyses

・変数データはそれらの分布に応じて平均(SD)か中央値(範囲)で表された。HCQの継続率を調査するためにAEsのないHCQ治療の継続率、一時中止のないHCQ治療の継続率、永続的中止がないHCQ治療の継続率をKaplan-Meier極性で評価した。

 

・HCQの効果の解析にはデータの時系列の変化をrepeated measures ANOVAあるいはFriedmanテストを適切に用いて比較した。測定範囲よりも低い値となったデータは可能性のある最大の値に取り換えた。このimputationをすることで、私たちは時系列データの間の全ての変化は最小になるため有意差があれば必ず真の有意差であることを示唆できると考えた。欠損値は解析から除外した。

 

・p<0.05を統計学的に有意であるとみなした。全ての解析はR studio (R version 3.6.1)を用いて行った。

 

Patient characteristics

 

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47例が登録された(Table 1)。2015年当初は慎重に適応を選んでいたが、徐々に疾患活動性に関わらず全例に導入するようになっていった。HCQ導入の期間は2016.5月から2019.4月の間であった。フォロー期間のちゅおうちは102週間。PSLの中央値は10mg/日。15例(31.9%)で免疫抑制剤を併用され、内訳はアザチオプリン8例、MMF3例、MTX1例。

 

Continuation rate

 

Figure 1. Survival probabilities without AEs, temporary discontinuation and permanent discontinuation. The curves for A, D and P mean AE-free survival, temporary discontinuation-free survival, and permanent discontinuation-free survival.

 

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AEsが25例(53.2%)に起き、そのうち4例でHCQ治療は少ない量で継続された。残り21例はHCQを中止されたものの、17例で再投与が試みられた。HCQの治療はその17例の11例(64.7%)で継続することができた。ゆえにHCQはAEsを経験した25例のうち15例(60%)で継続することができた。1年のHCQの継続率は78.3%(36/46:1例はHCQ内服中のMonth 10にloss to follow up)。

AEなしのHCQ継続率、中止のないHCQ継続率、永遠中止のないHCQ継続率のKaplan-Meier曲線をFig. 1に示す。これらの曲線に示されるようにAEsが軽症のケースで減量を試すことで(中止するのではなく)、生存確率は(A)から(D)になることが期待される。さらにHCQを一旦中止されても再投与を試みることで(D)から(P)に改善するであろう。

 

Adverse events

 

Table 2. Adverse Events: Reasons for Discontinuation of HCQ or Decrease of Dose.

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26のAEsが25例に起きた(全体の53.2%)(Table 2)。AEsには3つのタイプがあった:皮膚病変、消化器症状、その他。皮膚病変は最もコモン(25.5%)。2例は最終的にSLEやその他の薬剤によるものと考えられたが。皮膚病変が出現するまでの期間のちゅおうちは26.5日(範囲4-954日)、6週間未満が10例(83.3%)。私たちは皮膚のAEsが起きた12例全例にHCQの再投与または減量を提案し、10例が了承した。10例中2例は蕁麻疹や掻痒のみであり減量するだけで中止せずに継続することができた。4例ではHCQは一旦中止されたが、より少ない量で再開され、全例で継続可能であった。しかもそのうち3例では元の量まで戻すことができた。残り4例は減感作療法を受け、2例で継続することがでkちあ。中止の2例のうち1例は皮疹が再発し、もう1例はレジメンを内服中に継続を拒否した。したがって、皮膚のAEsが起きた12例のけいぞくりつは66.7%(6例)。

4例(8.5%)は消化器症状を呈したが、3例が下痢であった。残り1例は心窩部痛と軟便。消化器症状のAEs発生の中央値は353日(133-486)。全例がHCQの再投与または減量を受けた。結果2例は所下記症状の再発のためHCQを継続できなかった。消化器症状noAEsのケースにおけるHCQの継続率は50%。

その他のAEsのなかで、1例はHCQ投与中に低血糖が繰り返し起きて中止に至った。視力低下を訴えた1例で一旦中止されたが、眼科的所見で異常ないことを確認後に継続可能であった。2例で妊娠中に開始されたが、出産後の授乳を始める際に中止された(添付文書の記載に従って)。HCQと関係のない中止や減量があった;患者側の理由(受診を忘れる等)、舞踏病(おそらく低血糖による)、発熱、血小板減少(この2つは最終的にSLEの症状と考えた)。

 

Efficacy in cases on stable treatment

 

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HCQ開始の少なくとも6ヶ月前よりステロイド量と免疫抑制剤の量が変わっていない16例において、PSL量、SLEDAI、抗DNA抗体、免疫複合体、CH50はmonth 0 to 12における時系列の変化は有意であった(Table 3)。

 

Figure 2 (A). Changes in the average level of CH50 for 1 year. The error bar expresses the standard error.

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検証されたパラメーターのうちCH50とC4はrepated measures ANOVAを用い評価された。その結果、CH50の平均はHCQ開始後12ヶ月以内に徐々に改善を示した(Fig. 2)。幸いにも免疫抑制剤の量は1例を除いて12ヶ月以内で変化はなかった。その1例では併用されていたアザチオプリンが中止されたというものであった。すなわちこの変化は併用される免疫抑制剤の影響から独立したHCQの効果であることを示唆するものであった。HCQは効果判定のための16例のうち14例で1年間継続することが出来た。1例はmonth 10でlost to follow up、もう1例は低血糖のためmonth 6で中止された。

 

<リウマトロジストのコメント>

HCQの副作用中止時にも減量or落ち着いてから再開することで、多くの場合継続可能ということが分かりました。あと効果を述べるにあたって、コントロールがないこと、missing dataの取り扱いなどがlimitationとして挙げられますかね。