<Clinical scenario>
73歳女性
3-4ヶ月前からの食欲低下、寝汗、発熱。体重減少あり。
WBC 3100, Ly 1600, ANA2560(Homo)、DNA-RIA 6.9 (<6)、RNP(-)、Sm(-)、補体は正常。
皮疹、関節痛、尿検査異常はなし。
t-spot陰性。
(症例は架空です)
胸水をカウントすればSLEの分類基準を満たします。でも、ADA高値とは結核性胸膜炎の特徴であったように記憶しています。
< 疑問発生!>
1)SLEの胸膜炎について勉強しよう。
2)SLE胸膜炎でADAは上がるか?
3)結核性胸膜炎におけるt-spotの感度は?
この度は疑問1) SLEの胸膜炎について一般的なことを学びます。
※その他は別項をご参照ください。
<Uptodateにて>
Pulmonary manifestations of systemic lupus erythematosus in adultsを読みます。
Pleuritis
・胸膜摩擦音や胸水貯留がなくても、胸膜の炎症が胸痛を起こしうる。この状況では胸痛が胸膜炎を表しているのかを判断することは難しいことが多い。しかし、時に一過性であるが胸膜摩擦音があったり、胸水貯留があれば診断することができる。
・これはあるシリーズにおいて患者の44%が胸膜炎を有したが胸水があったのは20%であったことに表されている。
・胸水は通常少量か中等度。多いこともあるが。一過性で再発性になりやすく、しばしば両側性。
・SLEの胸水はLDH上昇に特徴づけられる軽度の滲出性。しかし強い炎症の所見はない。とくにRAのようなその他の疾患では所見が異なる(Table 1)。
●白血球数(リンパ球優位であっても多核球優位であってもよい)はループスの胸水では少ない。しかし、オーバーラップがかなりあるため、白血球数で診断を確立することはできない。
●ループス胸水における胸水の糖は血清よりも少し低い;これに対しRAの胸水は糖はかなり低い。
●低補体血症はループスとRAの胸水を特徴づける。
●蛋白濃度はループス胸水では低い。これはRAでは見られない。
RFとANAの存在は各々RAとSLEを示唆するが、これらの所見は血清ANAを測定すること以上の情報をもたらさない。したがって、これらの検査は胸水のサンプルでは行わなくてもよい。感染症、心不全、尿毒症のようなその他の胸水の原因を除外すること。
ループス胸膜炎による線維胸は稀な合併症。ある報告ではその他に問題がない肺を肥厚した臓側胸膜で絞扼することは呼吸困難の原因になるが、胸膜のストリッピング(剥皮術)にて改善したという。
Tale 1. SLEにおける胸膜病変 | ||||
SLE | 感染症 | 悪性 | 関節リウマチ | |
症状 | 胸膜炎 | 胸膜炎 | 様々 | 胸膜炎 |
胸水検査 | ||||
性状 | Clear | Cloudy | Variable | Variable |
蛋白 | Low | High | High | High |
糖 | Normal | Low | Normal > Low | Low |
赤血球 | 0 | ± | + | 0 |
白血球 | 3 - 5000 | High | High | High |
補体 | Low | Normal | Normal | Low |
免疫複合体 | High | Normal | Normal | High |
ANA | Positive | 0 | 0 | ± |
LDH | High | High | High | High |
RF | 0 | 0 | 0 | High |
<Pubmedにて>
Uptodateで物足りなかったので、Pubmedで調べます。
lupus pleural effusionを検索し、Review、EnglishにてLimitsして41件。
以下の5つのレビューをチェックしましたが、入手できたのは7と19のみ。
7. Arch Bronconeumol. 2011 Jul;47(7):361-70.
9. Presse Med. 2011 Jan;40(1 Pt 2):e19-29.
11. Respiration. 2008;75(4):361-71.
16. Curr Opin Pulm Med. 2002 Jul;8(4):312-6. Review.
19. Thorax. 2000 Feb;55(2):159-66. Review.
●7. Systemicdiseases and the pleura.
Ferreiro L, Alvarez-Dobaño JM, Valdés L.
Arch Bronconeumol. 2011 Jul;47(7):361-70.
Systemic Lupus Erythematosus
・最初のよくある症状は関節炎、日光過敏症性皮疹、自己免疫性血球減少、糸球体腎炎。
・出産可能な年代の女性の病気(9対1)と考えられるが、割合としては肺障害は男性に多い。
・LUMINA試験においてコーカシアンと比較し、アフロ・アメリカン、ヒスパニックはSLEの発生率が3倍高く、若くして発症し、より大きな病的状態と死亡率を呈する。
・胸膜の症状が主訴になるのは5%。全経過では30-50%。
・典型的には胸膜由来の特徴を有する急性の胸痛。呼吸困難、咳、発熱がみられることがある。
・リウマチ性の胸膜炎(Rheumatic pleuraleffusion;RPE)と異なり、通常診断時には症状がある。
・SLEの患者はしばしば漿膜炎(胸膜炎)を疾患の一部として呈する。しかし、胸水葉腎不全や肺塞栓や心不全によっても出現しうる。胸水は両側性に少量たまりやすいが、レントゲンでは明らかでないかもしれない。RPEと比べ肺病変を合併していない。
・SLEでは胸膜炎は補体系の活性化と免疫複合体産生を伴う局所的な免疫炎症によるもの。胸水貯留は典型的には蛋白高値(>3.5 g/dL)、LDH (<500 U/L)を伴う滲出性[55]。白血球は500-15000。有核細胞で優位なのはリンパ球であっても多核球であってもよい。糖の濃度は低いが、RPEほどではない。pHは正常で>7.30。補体低値、ANA>160倍の所見は疑わしいが診断的とまでは言えない。癌性胸膜炎、とくにリンパ腫の中には高値をとりうるため。
・反対にLE細胞の特異性は高い。この検査は用意の時間が長いため、稀にしか行われないが。
・薬剤誘発性ループスを起こしうる薬剤は多くあるが、胸膜炎があってもよい。これらの症例の臨床症候学は様々であり、ANAの存在だけであるものからSLEの症状が出現するものまで。投薬を中止すると症状は緩徐に改善する。これらで見られる胸水は補体正常、細胞の特徴と生化学所見はSLEと同様。
・少量の無症状の胸水貯留は自然に改善するが、ほとんどの場合、SLEや薬剤性ループスによる胸水はNSAIDsまたは低用量のステロイドに反応する。時に胸水の減少を得るために高用量のステロイドを要することもある。非常に稀ではあるが、難治性、再発性胸水をコントロールするために免疫抑制剤を要することもある。この胸膜炎のその他の治療にはタルクによる胸膜癒着術、テトラサイクリン、免疫グロブリン、胸膜切除術がある。
●19. Pleuropulmonary manifestations of systemic lupus erythematosus.
Keane MP, Lynch JP 3rd.
Thorax. 2000 Feb;55(2):159-66. Review.
Pleural disease
・SLEにおける最もコモンな胸部症状は胸膜痛。胸膜痛は45–60%にあり、胸水はあってもなくてもよい(fig 1)。臨床的に明らかな胸水は50%までに報告されており、necropsyの93%までにみられてもよい。
・胸水は通常両側性であるが、片側性でもよく、その場合左右に差はない。
・常に滲出性でRAと比べ血糖は高くLDHは低い。ANA、抗DNA抗体、LE細胞が胸水に見られる。LE細胞は比較的特異的。胸膜生検はSLEで行われることは少ないが、所見は非特異的であり、リンパ球と形質細胞浸潤、線維化、線維性胸膜炎の所見。
・他の原因を除外するために適応となる。胸腔鏡にて臓側胸膜に結節が認められ、それらの結節の生検組織の免疫染色では免疫物質の沈着を認める。
・胸膜病変の治療は症状の重症度による。少量の無症状の胸水は治療しない。NSAIDsは軽い胸膜痛に有効かもしれない。すでにステロイドを内服中の患者におけるより重症の病態にはステロイドの増量が必要となることが多い。長期の管理はヒドロキシクロッロキンのような抗マラリア剤の使用を要するかもしれない。胸腔ドレナージや胸膜癒着術を要する事は稀。
< 3つのレビューのまとめ >
(Uptodate)
・あるシリーズにおいてSLE患者の44%が胸膜炎を有したが胸水があったのは20%。
・胸水は通常少量か中等度。一過性で再発性になりやすく、しばしば両側性。
(Arch Bronconeumol 2011)
(Thorax 2000)
・胸膜生検は比特異的。免疫染色では免疫物質の沈着を認める。
つぎに7の[55]を孫引きをして、ループス胸膜炎の検査所見を勉強します。
https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/14008440
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