リウマチ膠原病のQ&A

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SLICC分類基準をより深く理解しましょう -その4-

SLICC分類基準をより深く理解しましょう。
 
この度は、SLICC分類基準を発表した論文のDiscussionを読みます。
 
 
SLICC基準のまとめ
その3(対象集団)
 
 
 
 
Arthritis Rheum 2012;64(8):2677-86.
Derivation and validation of the Systemic Lupus International Collaborating Clinics classification criteria for systemic lupus erythematosus.
Petri M, et al.
 
 
 
Discussion
SLEのためのSLICC分類基準は8年間におよぶ臨床レビュー、コンセンサス、統計解析の努力のたまものである。最終の基準は再帰分割(“tree-based” approach)に由来するが、単純なルールにされた:患者は少なくとも臨床基準1項目、免疫学的基準1項目を含む、計4項目を少なくとも満たすか、腎生検にて証明されたループス腎炎を有し、抗核抗体か抗dsDNA抗体を有さなくてはならない。臨床基準、免疫学的基準を少なくとも一つずつ有さなくてはならないという点は臨床基準だけ、血清学的検査だけで基準を満たしてもSLEに診断的と考えるべきではないとするSLICCの意見を反映したものだ。SLEとは究極的には自己抗体が関係した臨床的な疾患であるからである。
 
新しい臨床基準は改訂ACR分類基準をいくつかの重要な点で改善した。
 
頬部紅斑と日光過敏症は大きく重複するため、分けられた項目にしなかった。皮膚ループスの一つの項目に急性皮膚ループスと亜急性皮膚ループスを含めた。別な皮膚の項目に円盤状皮疹に加え、現在のACR基準に含められていない多くの異なる慢性皮膚ループスの型を含んだ。これらの基準を理想的に用いるために、SLEが疑われた患者のなかには皮膚科へのコンサルトを必要とし、時に皮膚生検を必要とするであろうことが期待された。非瘢痕性の脱毛は1971年のオリジナルの予備基準で含められたように新しい基準に含められた;非瘢痕性脱毛症はSLEに特異的ではないが、単変量解析と再帰分割解析では検査特性が良く、臨床コンセンサスのthe barを満たした。
 
関節炎の基準は統計学的に再定義された。第一にX線所見は問わないものにした:SLEによる関節症の中には実際にびらんを呈する者もある。つぎに関節の圧痛と30分の朝のこわばりが関節炎とみなした。線維筋痛症SLEのオーバーラップを呈する患者もいるため、びまん性の疼痛ではなく、関節のラインの圧痛であることを確認する必要があるだろう。また、臨床いはSLICC基準の全てにおいて原因がその他の病気ではなく、SLEによるものらしい事を判断できなければならない。
 
腎臓の基準は蛋白尿の測定を蓄尿のための時間を必要としない尿の蛋白/Cr比によるものとした。これはスポット尿やランダムに採取した尿の蛋白/Cr比が24時間の尿蛋白/Crを採取するよりも簡便な方法として受容されつつある事を反映したものだ。また、ディップスティックによる量的な尿蛋白の推定は信頼性に乏しい量的な測定法であるため、これだけでは臨床上の判断ができない事を反映した。しかし、尿蛋白/Cr比を24時間蓄尿で得ることはGold standardであることに変わりはない。
 
神経学的な基準はオリジナルのACR基準の痙攣と精神病よりもずっと多いSLEの神経学的所見を含むよう大幅に書き換えられた。この度はACRの神経精神の定義をすべて含んでいないが、これはそれらのほとんどの所見は特異性が乏しいからだ。
 
血液学的基準は3つのパートに分けた:溶血性貧血、白血球減少・リンパ球減少、血小板減少である。統計学的なモデルによって、この基準が1回であろうと複数回であろうと違いがないことが示された。したがって、評価を単純にするためにSLICC基準は1回の検査異常だけで良いこととした(もちろん、その結果はステロイド[リンパ球減少]免疫抑制剤の使用やその他の原因によるものではなく、SLEによるものでなくてはならない)。私たちは白血球減少のカットオフ値は特定の民族の患者におけるものに修正される必要があるかもしれないことを容認する。
 
免疫学的基準はSLEの血清学的検査に関する新しい知見を反映したものであり、またELISAの普及と多重分析の測定法に関するSLICCの配慮を反映したものである。ANAの基準は変わっていない。過去の免疫学的基準では、抗dsDNA抗体、抗Sm抗体、ループスアンチコアグラント、梅毒の生物学的偽陽性、抗カルジオリピン抗体が合わせられた。新しいSLICC基準のシステムはこれらの所見を別々の基準にして、各々が分類に寄与できるようにした。しかし、新しい抗dsDNA抗体の基準はELISAのカットオフを厳しいものにした。抗Sm抗体は今は独立した基準である。新しい抗リン脂質抗体の基準は今や抗β2GP1抗体を含む。抗カルジオリピン抗体の定義は(改訂されたACR基準には含まれていた)非特異的な「低値」は除外する。抗β2GP1抗体と抗カルジオリピン抗体についてはIgG, IgM, IgAが許容されるが、これはIgA型がSLEには重要であるという知見を反映したものである。
 
SLICCのメンバーのコンセンサスに基づき、低補体血症(C3, C4, 血清補体価で定義され、病因に補体が寄与することを反映する)が含められた。統計学的なモデルを改善したわけではないが。直接クームス(抗グロブリン)試験も含められ、統計学的モデルを改善した。しかし、二重でカウントすることを避けるため、この検査は溶血性貧血の臨床基準を満たしていればカウントできない。
 
新しいSLICC分類基準の最終の重要な点は、ループス腎炎の国際腎臓協会/腎病理協会2003年の分類に基づいて、組織学的にSLEに一致することが確認された腎炎はANAか抗dsDNA抗体があればSLEの分類に十分であるとしたことである。SLICC委員会は臨床的なプラクティスにおいても、臨床試験の登録においても重要であると考えた。抗dsDNA抗体陽性でANAが陰性であることは稀な現象であり、ラボのエラーによるものかもしれないことは認知されたことである。
 
SLICC分類基準は改訂ACR基準よりも特異度の点ではなく感度の点において改善された。SLICC基準は臨床により関連したものになるよう意図されたものであり、臨床的にループスと定義される患者を現在のACR基準で含められるよりも多く登録できるようにするものだ。新しい基準の使用は臨床試験や縦断的な観察研究において重要であろう。
 
SLICC分類基準は厳格な検査を受けた。Validationに用いられた新しい患者サンプルは690例からなり、多数の施設においてループスの臨床所見と重なる所見を有する多くの疾患を含む患者を含んだ。ValidationのサンプルではSLICCACR基準と比べ、分類ミスされるケースが少なく、感度が高かったが、特異度は低かった。ACR分類基準とSLICC分類基準の違いは統計学的に有意ではなかった。SLICC分類基準は表面的妥当性と内容妥当性を有している。なぜなら、この基準は現在のACR基準に関連する多くの懸念を克服するものであるから。とくに新しい分類基準は臨床基準と血清学的基準の両方を必要とするものであるため、SLEの特質である自己抗体や低補体血症を有さない患者はSLEと分類できないようになった。臨床研究はこの欠点を克服するため、Inclusion criteriaにループスの自己抗体を必要とすることを追加した。
 
このSLICCの活動はSLICC分類基準の最初のvalidationとしての機能を果たす(改訂されたACR基準のvalidationも同時に果たす)。この研究はSLEACR基準の最初のコンセプト以来、最大の多施設からの人口サンプルを対象としている。ACR基準の1997年の改訂がこれまでにvalidationされていなかったことを強調することも重要である。ACR基準は現在のゴールドスタンダードである医師の診断に比べ検査特性が良いものであり続けるが、SLICC基準における、アップデートされたより包括的な変数の定義を含んでいない。SLICC分類基準はSLEの臨床と研究に用いるための代賛となる分類基準を提供するものである。ValidationされたSLICC分類基準は改訂されたACR基準に比べ表面的妥当性を改善しており、SLEの病因のコンセプトをより前進させた。留意すべきはオリジナルの改訂ACR基準と同様にSLICC基準は診断の目的で検査されていないことだ。
 
SLICCグループの結論として、この新しい基準が簡便性を保ちつつ、ACR基準が最初に提案されて29年の間に得られたSLEに関する現在の知見を反映したものであることを述べる。
 
 

ps

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