リウマチ膠原病のQ&A

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SLEの診断基準についての批評的レビュー

題名に魅かれて、読みました。
 
新しい基準の批判的レビューかと思いましたが、ぜんぜんそうじゃなかったですけどね(笑)
 
SLEの診断基準改訂の歴史がまとめられています。
 
 
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Diagnostic criteria for systemic lupus erythematosus: a critical review.
J Autoimmun. 2014
 
 
1. Introduction
SLEは多彩な臨床所見と広範な種類の自己抗体によって特徴づけられる自己免疫疾患である。臨床的、血清学的な不均一性のため診断は大きなチャレンジである。とくに、基準に必要な所見の数が足らない、超早期の段階において。もっとも広く用いられるSLEの分類基準はACRによって提案されたもの。この基準の最初のバージョンは1971年で、1982年と1997年に改訂された。
 
2. The preliminary criteria for classification of SLE
暫定的な基準は14の項目を含み(Table 1)、その基準が作られる元となった集団において健常人を除外する上で有効であった。しかし、SLEの早期の段階では患者を診断する上ではパフォーマンスは良くなかった。さらに、これらの患者においてLE細胞テストは行えないことも多かったため、妥当なものとするため高力価の抗核抗体もひとつの基準として用いられた。Wolfらは100例の健康な女性についてSLEの暫定的な基準の任意の項目について調査した。彼らは3項目よりも多く有する者はおらず、半数は項目はゼロであることを見出した。20例がANA陽性であったが、その中にSLEの臨床所見を有する者はいなかった。
ANA偽陽性は傾向い避妊薬と関連するかもしれない。そのため、ANAの項目はSLEの診断における特異性を下げる。
 
3. The 1982 revision of classification criteria for SLE
1971年の基準が出版された後、多くの提案がなされた。皮膚所見に関する基準が多すぎること、メジャーな臓器障害の項目が少ないことによってACR 1971の特異性は低いものとなった。1982年に改訂された基準のセットが出版された(Table 1)。1971年の基準と比べ、この改定基準はレイノー現象、脱毛のような特定の皮膚の項目を削除した。ANAは新しい項目として分けられた。加えて蛋白尿の基準は>3.5g/日より>0.5g/日に減らされ、二つの腎臓に関する項目はひとつにまとめられた。関節炎の基準は2関節以上の非びらん性関節炎という記述が加えられた。
新しい基準は18の参加クリニックより集められたSLE患者とコントロールの患者において検査され、感度96%、特異度96%であった。1971年の基準と比較すると、1982年の改訂基準は感度、特異度とも改善させた。1982ACR基準は妥当性を評価されている。Passasらは207例の患者について検査し、改訂基準の特異度は暫定基準よりもわずかに高かった (99% vs. 98%)。レビンらは159例のSLE患者を検査し、改訂基準の感度があがったのはANA検査によるものであることを見つけた。反対にGilboeらは1982年の改訂分類基準の感度と特異度をノルウェー人の膠原病患者のコホート346例で評価し、感度は72%と驚くほど低かったが、特異度は91%と容認できるものであった。
 
(table 1)
 
イメージ 1
 
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4. The 1997 updated classification criteria for SLE
Pietteらは抗リン脂質抗体(aPLs)SLEとの関連の理解が改善されたことを踏まえACR基準を改訂することを提案した。SLEの分類基準の1997年アップデート版はこれらの抗体を基準のリストに加えた(Table 1)。
1997ACR基準は妥当性を評価されていないが、SLEの一般臨床と臨床研究に広く使われている。ACR基準の11項目すべてに制限がある。Eilertsenらはノルウェーにおいて1996年から2006年に1997年のACR基準を用いて登録された開始の患者コホートと同じくノルウェーにおいて1978年から1995年の間に1982年のACR基準を用いて登録されたコホートを比較した。彼らは1997ACR基準は1982年の基準と比べ、構成上の妥当性を持っていることを見出した。
しかし、新しい抗体を入れる事の理由と理論は不明なままだ。抗リン脂質抗体症候群APS)はよく知られた症候群であるが、SLEを真似しない。そして、SLEを含む多くの膠原病患者がaPLsを有することが知られ、APSを合併することもある。病因的な観点からにおいても抗dsDNA抗体や抗Ro抗体などの多くのその他の抗体がSLEに関連するが、aPLsはそうでない。
 
5. The modified weighted criteria for SLE
多数のグループがSLEの新しい分類基準を改善させるため、新しい統計学的な手法を使ってきた。修正された重みづけの基準がSLEの分類のためのACR基準よりも優れた精神測定特性を有するかどうかは不明である。ふたつの重みづけによる基準、the 1984 Cleveland Clinic Weighted Criteria、およびthe 2002 Boston Weighted Criteriaは条件付き確率のベイズ理論に基づいている。後者は1982年のACR基準と比べ感度は高いが、特異性は低いことが分かった。これらの基準はクリニックや調査目的で広く用いられていない。
 
6. The ACR case definition for neuropsychiatric SLE
ACRによる神経精神SLEのケースの定義)
神経精神SLEのためのACR分類基準はSLEの神経精神所見の全スペクトラムをカバーできるように考えられたわけではない。1999年、ACRの神経精神SLEのケースの定義がACRの調査委員会で容認された。19の神経精神症候群が記述された。分類基準は2001年に44万人からなるpopulation based studyにおいて妥当性が評価された。46例のSLE患者と各々の患者にマッチされた同数のコントロールがエントリーされた。
患者の91%、コントロール56%が少なくともひとつの基準を満たした (OR 9.5, 95% CI 2.2 - 40.8)。しかし特異度は低かった (0.46)。著者らは改訂された16の基準のセットを提案し、その基準は特異度を93%に改善させた。ACRのケースの定義は神経精神SLEの診断に向けたステップになるが、頭痛や不安のような神経障害にあたらない症状のいくつかを含んでおり、診断を確立する上でACR基準を使っても、その効果には制限がありそうだ。
 
7. Clinical and immunologic criteria in the SLICC classification
国際的なグループである、The Systemic Lupus International Collaborating Clinics (SLICC)SLEの臨床研究にフォーカスをあて、SLEの分類基準を1982年に分類基準が開発されて以降に起きた様々な懸念に対応するよう改訂した。誘導と評価のステップの詳細は2012年に出版された。
SLICC基準は改訂されたACR分類基準をいくつかの重大な点において改善させた。急性と亜急性ループスの両方を含む皮膚の基準はCLEの分類のためにしばしば使われる分類法CLE (the Gilliam and Sontheimer’s classification)に近い. 非瘢痕性脱毛は統計学的なパフォーマンスがよかったため、そして臨床コンセンサスの標準を満足したために含められた。2010Gronhagenらは厳密な皮膚科学的な分類法に従ったSLE患者の皮膚所見の頻度を調べた。彼らは診断を確立する上で組織学の大切さについて取り組んだ。彼らの研究はSLE患者260例を含み、そのうち139例に頬部紅斑があった。頬部紅斑が除外された時、SLE分類基準を満たないのは8例にすぎなかった。加えて頬部紅斑のうち組織学的にLEと診断されたのはごく一部であった。さらにCLEを呈したのは10例のみだった。これらの結果をもとに彼らはSLEの皮膚所見のためのthe Gilliam and Sontheimer criteriaは急性CLEと頬部紅斑の基準を使用せず診断に有効であることを提案した。彼らは組織学的に確かめられたCLEのみがSLEの基準に当てはめるべきだと提案した。
SLEの診断のための日光過敏症の基準の定義には多型性光線疹(polymorphous light eruption, PLE)の詳細な病歴を含むべきだ。Gronhagenらの研究では患者の42%PLEを有した。著者は日光過敏症はスウェーデンの健常人の約20%にあり、SLE患者では早期の時代の研究と同様、60%であることを述べた。SLE患者はしばしばリウマトロジストによって診られ、リウマトロジストと皮膚科医との臨床上の協力が診断をつけるのに時に役立つ。しかし、しばしば両者の意見の一致は少なく、これらのケースでは組織が重要になる。
ループスの関節炎における骨びらんの重要性は研究されていない。ループス関節炎を評価するのに用いることができる新しい画像テクニックの発達とともに、いくつかのSLEの関節炎は実際のところ、びらん性であることが分かった。Saketkooらはループスの関節炎を5つのカテゴリーに分類した。
1) SLEの関節炎を伴わない関節痛。骨びらんや変形はない。
2) 変形をしない、骨びらんもない関節炎
3) 変形はないが、骨びらんのある関節炎
4) 機械的にびらんと変形を来たす関節症
5) 滑膜炎によるびらん性変形性の関節症
X線はSLEの関節炎の型を区別するために役立つので、診断のツールとして強く勧められる。免疫学的基準の変化はSLEの血清学的検査の新たな理解を反映している。抗dsDNA抗体、抗Sm抗体、ループスアンチコアグラント、梅毒反応の偽陽性、抗カルジオリピン抗体は異なる項目に分けられ、各々が診断に寄与できるようになった。ANAの新しい基準はELISA法の厳しいカットオフ値を求めた。新しく加わった抗β2-GP- I抗体、低補体血症のような項目はこれらのバイオマーカーがSLEの病因に役割があることを反映したものである。
 
7.1. Anti-b2 glycoprotein 1
抗β2-GP- I抗体が新しい抗リン脂質抗体の基準に含まれた。Mehraniらは抗β2-GP- I IgG抗体がSLE血栓症と最も強く関連すること見つけた。抗β2-GP- I IgA抗体は深部静脈血栓症脳卒中により強く関連した。抗β2-GP- I IgM抗体は血栓症と関連しなかったが、ループス腎炎とSLEの腎障害には保護的な効果と関連するようであった。SLE患者における抗β2-GP- I抗体はAPS患者におけるそれと比べると親和性が低かった。
 
7.2. Decreased complement function
統計学的なモデルを改善しないにもかかわらず、低補体血症が診断基準に含まれたことはSLICCのコンセンサスに基づいている。低補体血症は全ての補体の病因への寄与を反映する総溶血性補体の低下で定義される。しかし、SLE患者における歴史的な自己抗体の検査と現在の検査との関連を調べた研究によると、C3C4低値の経歴がある患者において、現在の基準値で判定した場合、C3C4が低値となるのは全経過のごくわずかな時間であることが分かった (18% and 39%)。これらの所見はSLEの診断において一考させるものである。SLICC基準の妥当性を評価するための研究が進行中である。ACR基準よりもパフォーマンスがよいかどうかを確かめるために。
 
8. Future directions
SLEが多巣性で不均一な疾患であるため、多くのグループが診断の助けになる新しいバイオマーカーを発見しようとしてきた。IgG抗ヌクレオゾーム抗体はdsDNA抗体やSm抗体が陰性の患者を診断するのに役立つことが証明された。抗ヌクレオゾーム抗体は実際、抗dsDNA抗体よりもSLEにおける感度が高いかもしれない(59.9% vs. 52.4%)。抗リボゾーマP抗体もSLEを診断する際、もう一つの可能性を持ったバイオマーカーかもしれない。特異度は高いが感度は低い(99.4%, 14.2%)。
いくつかの抗体やサイトカインが特に特定の臓器障害のパターンを予測するかもしれない。特に人年において。たとえば、抗C1q抗体と尿MCP-1はループス腎炎における価値あるバイオマーカーであるかもしれないことが報告された。加え、インターフェロンαも神経精神ループスのある種には可能性のあるバイオマーカーである。
 
9. Discussion
SLEは不均一な疾患であるため診断が必ずしも簡単ではない。そのため、診断基準のシステムが1971年より用いられてきた。これらの基準は病態生理学や疾患の過去40年に及ぶ臨床的な歴史における発見を認識するよう改訂されてきた。しかし、いまだに疾患の病因である単一のバイオマーカーは存在しない。現在のループスの診断は標準化された臨床的な基準とラボの基準の助けをもとに時代遅れの臨床的な洞察力に頼っている。さらなる研究がこれらの基準で定義されうるループスの亜型を定義する方向に私たちを導くかもしれない。最後に私たちはいくつかの最近のレビューを書いた。重複症候群の議論やここでカバーできなかったループスの活動性に関して。治療は疾患のさらなる分類にガイドされるようになるかもしれないし、遺伝子的・プロテオオミクスの見地からターゲットを絞った、または特別なアプローチに導かれるかもしれない。
 
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<勉強になったこと>
・日光過敏症はスウェーデンの健常人の約20%SLE患者では60%。
 
・SLEの関節炎に骨びらんがあってもよい。
 
・抗β2-GP- I IgG抗体はSLE血栓症と最も強く関連する。抗β2-GP- I IgA抗体は深部静脈血栓症脳卒中により強く関連した。抗β2-GP- I IgM抗体は血栓症と関連しない
 
・C3C4が低値となるのは全経過のごくわずかな時間であることが分かった (18% and 39%)。
 
IgG抗ヌクレオゾーム抗体はdsDNA抗体やSm抗体が陰性の患者を診断するのに役立つ。感度(59.9%)は抗dsDNA抗体(52.4%)と同等
 
・抗リボゾーマP抗体の感度は低いが(14.2%)、特異度は高い(99.4%)。
 
 

 

ps

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