リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

SLICC分類基準が作られた集団、検証された集団 -その3-

SLICC基準はvalidation(検証)のためのセットにおいて、ACR基準に比べ感度が高く(97% vs 83%)、特異度が低いことが報告されました(84% vs 96%)
 
Derivation(派生または誘導)セットでは高い感度 (94% vs 86%)と同程度の特異度 (92% vs 93%)を持つように作成されたのに、肝腎のvalidationセットでこけてしまったのです。
 
この度は、SLICC基準が誘導されたderivationセット、検証されたvalidationセットについて詳しく見ていきたいと思います。
 
とはいっても、訳しているだけですが(笑)
 
 
SLICC基準のまとめ
 
その1(定義)

https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/13071623

 

 
その2(検査特性)

https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/13075047

 

 
 この度はResultsを訳しています。
 
 
Arthritis Rheum 2012;64(8):2677-86.
Derivation and validation of the Systemic Lupus International Collaborating Clinics classification criteria for systemic lupus erythematosus.
Petri M, et al.
 
 
RESULTS
Derivationのステップで716例より抽出したデータが25施設から提出された。ほとんどのケースは>20例のデータを提出したが、2施設より10例、1施設(Johns Hopkins)より171例のデータが提出された。提出された716のうち、様々な施設でつけられた診断は以下であった:
SLE (n = 293),
RA (n = 119),
myositis (n = 55),
chronic cutaneous lupus (n = 50),
undifferentiated connective tissue disease (n = 44),
vasculitis (n = 37),
primary APS (n = 33),
scleroderma (n = 28),
fibromyalgia (n = 25),
Sjo¨gren’s syndrome (n = 15),
rosacea (n = 8),
psoriasis (n = 7),
sarcoidosis (n = 1),
JIA (n = 1).
 
提出された各々のデータは26-32の医師によってレビューされた。最初の分類の結果がTable 1にサマライズされている。716例のうち262(36.6%)において、80%の医師がSLEと分類した。354 (49.4%)のシナリオにおいて80%の医師がSLEでないと分類した。このようにSLEを持つか持たないかの点については616(86%) において80%の同意が得られた。616例中561(91%)のシナリオにおいて分類は提出された診断と一致していた。
 
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残りの100シナリオ(14%)においてSLEを有するか有さないかの分類について同意は80%未満だった。これらの100シナリオはさらに、5人のパネリストによるレビューと議論に回された。80%の同意は86例において得られた。したがって最終的に同意の得られた診断は提出された716例中702(98%)で得られた。同意の得られた診断は提出された医師の診断と95%で一致していた。
 
SLEの診断に関わる18の基準が決められ、最初に考えられた。これらの基準はSLICCの分科委員会の判断によって「臨床」と「免疫学的」のカテゴリーに分けられた。各々の基準の感度と特異度はTable2の通り。Recursive partitioning再帰分割)が最初のワーキングルールに届いた変数のセットに適応された。誤って分類されたケースについて議論と精査をした後、いくつかの定義が改良され、白血球減少とリンパ球減少が合わせられた。
 
Table 2 derivationサンプルにおける各項目の感度と特異度
 
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*80%以上の医師の同意によってSLEと分類された310シナリオにおける感度
80%以上の医師の同意によってSLEでないと分類された392シナリオにおける特異度
 
Table 3は基準の最終リストを示し、各々が最終的にどのように定義されるかについて詳細を示した。基準は同時期に存在しなくてもよい。提案する基準のルールは以下の通り:臨床基準と免疫学的基準の各々1項目以上を有し、合計4項目以上を有する場合、あるいは、抗核抗体か抗dsDNA抗体を有し、腎生検にてSLEに一致する腎炎を有する場合、SLEと分類する。
 
※(Table 3はその1)
 
 
Table 4は提案する分類のルールのderivationセットにおける検査特性を示す。Derivationセットにおいて、提案されたルールは1997年のACR基準よりも感度が高く(94% versus 86%; P <0.0001)、特異度は同等であった(92% versus 93%; P=0.39)。McNemar’s testを用い、提案する分類ルールの応用することによって、分類ミスが現在のACR分類基準と比べ少なかった(P=0.0082) 
 
 
新しい分類基準をvalidationするため、この基準に作るのに用いなかった追加的な690例の患者データを用いた。これらの患者のデータは15の施設から提出された。全ての施設が>20例の患者を提出し、Johns Hopkins180例のデータを提出した。validationのために提出された690のシナリオにおいて、提出した施設における診断は以下のとおり:
SLE (n = 337),
RA (n = 118),
undifferentiated connective tissue disease (n = 89),
primary APS (n = 30),
vasculitis (n = 29),
chronic cutaneous lupus (n = 24),
scleroderma (n = 20),
Sjo¨gren’s syndrome (n = 15),
myositis (n = 14),
psoriasis (n = 8),
fibromyalgia (n = 4),
alopecia areata (n = 1),
sarcoidosis (n = 1).
 
初回の評価では590の患者シナリオ (86%)において80%の同意が得られた。80%の同意が得られなかった100シナリオは次いで、2回目の評価のためより大きなLICCメンバーに送られた。その2回の評価に基づいて得られた、690のシナリオにおける同意の割合をTable 5に示した。留意すべきはSLEか否かに関する80%以上の同意が得られなかったのは75シナリオ(11%)のみであったことである。93%において、大多数の評価はSLEであるかないかに関する提出された診断と一致した。
 
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Table6validationセットにおける大多数の評価における分類に対する、各々の分類基準の感度と特異度を示す。SLICC基準は1997年のACR基準と比べ、感度が高かったが(97% versus 83%; P <0.0001)、特異度は低かった(84% versus 96%; P <0.0001)。全体的にSLICC基準はACRよりも検査特性は良く、この基準を用いることで分類ミスが12例少なかった。カッパ値も高かった。両基準の違いは統計学的に有意な差はなかった(P = 0.24)
 
2回の評価で80%以上の同意が得られた615例に限って解析を行うと、SLICC基準の感度、特異度は98%91%。これに対し同じシナリオセットにおいてACR基準の感度と特異度は88%98%だった。ACR基準によって9例余分に分類ミスが起きた。
 
 
 
 
 
  
<リウマトロジストのコメント>
感度、特異度を述べるとき、なにをSLEとしたのか(=Gold standard)が大切です。
 
 
Derivationセットでは716例の患者シナリオを専門医のコンセンサスに応じ、SLEかNon-SLEに分類し、コンセンサスが得られなかったものは解析に含めませんでした(14例を排除し、702例で解析)。
 
 
この集団のデータをもとに分類基準が作成され、同じく十分に吟味した690例のVaridationセットで新しい基準の妥当性が評価されました。
 
 
さて、ここで言う感度とはSLEの集団において基準を満たした割合、特異度とはNon-SLEの集団において正しく陰性と判定した割合のこと。
 
 
SLICC基準が特異度でACR基準に負けたということは偽陽性SLEでない患者のうち誤ってSLEに分類されてしまう割合)が多かったということです。
 
 
どのような集団で偽陽性が出やすいのでしょうか。
 
 
DerivationセットとValidationセットとの患者層の違いとして、以下が目立つと思いました。
 
 
UCTD
44/716 (6.1%) vs 89/690 (13.9%)
 
 
UCTDにこの基準を使うとき、注意しておいた方がよいのかもしれません。
 
 
 
 
(※SLICCにおける最終診断のデータは論文に記載されていないため、ここで言うUCTDとは各施設の診断に基づいたものです)
 
 
ps; Discussionの訳はこちらです。
 
 

 

ps

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