リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

IgG4関連神経症

Clinical scenario
70歳女性。
 
2-3年前より顎下腺のしこりに気付いていた。
 
耳鼻咽喉科にて左顎下腺の摘出術を受け、採集されたリンパ節組織のなかにIgG4陽性の形質細胞を多数認めた。
 
血液検査にてIgG4 200と高値を認め、当科に紹介された。
 
1ヶ月前より両足首以遠のじんじん感があるとのこと。
 
神経学的所見にて、異常感覚の部位に一致して、触覚・温痛覚の低下を認めた。
 
(症例は架空です)
 
 
< 疑問、発生!>
IgG4RDにて末梢神経障害を来たすことはあるか?
 
 
Uptodateにて>
Overview of IgG4-related diseaseにて、neuropathyを検索しますが、出てきません。
 
IgG4RDの症状として神経障害はないと考えて良いでしょうか。
 
 
Pubmedにて>
igg4[ti] neuropathyを検索します。
 
IgG4titleに含む」 (and) neuropathyを含む」という条件です。
 
4件ヒットしますが、3番目のタイトルがぴったりです。
 
一流Journalのようですが、FREE DOWNLOADできました!
 
IgG4-related neuropathy: a case report.
JAMA Neurol. 2013 Apr;70(4):502-5.
 
 
REPORT OF A CASE
 
55歳男性、1.5年前より糖尿病にて内服中。HbA1c 6.0
 
4ヶ月前より両下肢のしびれ。他覚的に握力↓(右23kg、左16kg)、DTR↓、温痛覚↓、振動覚↓。触覚、位置覚の障害はなし。手に異常感覚の訴えはあるが、他覚的には振動覚の軽度低下のみ。
 
IgG 2544 mg/dL, IgG4 259 mg/dL
 
・神経電動検査(NCS);感覚運動神経障害の存在を示唆。運動電動速度は正中・尺骨・脛骨神経において正常。複合筋活動電位は正中・尺骨神経では保たれ、脛骨神経で低下。感覚神経電動速度は正中・尺骨で減少だったが、知覚神経活動電位は正常。知覚神経活動電位は腓腹神経では誘発されず。
 
・左下腿の皮膚生検において、豊富なコラーゲン繊維とIgG4陽性形質細胞の浸潤で神経上膜が著名に肥厚していた。神経鞘の血管周囲に炎症細胞浸潤を認めたが、血流の閉塞やフィブリノイド壊死のような壊死性血管炎を疑う所見はなし。
 
・免疫組織学的において、神経上膜と神経鞘の血管周囲の領域にCD20+Bリンパ球、CD3+Tリンパ球、CD68+のマクロファージ、IgG陽性の形質細胞の混在を認めた。CD20+Bリンパ球は神経鞘の血管周囲の領域に豊富だったが、神経上膜には稀。神経終末に炎症細胞浸潤はなし。IgG4+形質細胞の集簇が神経周囲の組織にみられた。IgG4+形質細胞は>10/hpfLarge and small fibersの密度は中等度減少。再生しつつあるファイバーである可能性がある、有髄ファイバーの集簇が少数見られた。Teased fiber studyは軸索変性(11.9%)を示唆し節性脱髄の所見はなかった。コンゴーレッド染色にてアミロイド沈着はなし。
 
・患者はIgG4-RDと診断され、経口PSL 30mg/dayにて加療された。PSL開始後、しびれと持続痛の症状は改善し、握力は3週間以内に改善(右36kg、左30kg)。長距離歩けるようになった。IgAIgG2週間後に正常化。IgG43週間後に正常化(IgG4, 102 mg/dL)
 
DISCUSSION
“Comprehensive Diagnostic Criteria for IgG4-RD, 2011,”によると診断には以下が必要。
(1)単一臓器または多臓器の腫脹または腫瘤
(2)IgG4>135mg/dL
(3)組織学的検査においてIgG4+形質細胞を伴う著名なリンパ球と形質細胞の浸潤(IgG4+/IgG+の細胞比>40%、かつIgG4+形質細胞>10/hpf)と線維化
 
・本症例では末梢神経の腫脹、IgG4高値、IgG4+形質細胞浸潤を伴う線維化がみられ、IgG4RDの臨床所見のほとんどが存在した。
 
・炎症細胞浸潤による血管の閉塞による局所の虚血や著名な線維化による収縮(狭窄)がIgG4関連神経症のメカニズムと考えらるかもしれない。患者の臨床症状は多発性単神経炎のパターンを示し、腓腹神経の生検結果は軸索障害を示した。これらの所見は、血管周囲の炎症細胞浸潤と合わせ、神経障害の原因は血管炎であることを示唆する。しかし、壊死性血管炎の所見はなかった。
 
・最近、眼窩内、三叉神経、傍脊椎性の神経障害が報告されている。病理学的な評価では神経がIgG4陽性形質細胞の浸潤を含む炎症細胞の浸潤と線維化病変に囲まれている。これらのケースでは周囲の組織の収縮が原因と思われる。IgG4RD神経症の原因をはっきりさせるためにはさらなる研究が必要である。
 
・結語として私たちは私たちの知る限り、最初のIgG4関連神経症を報告した。本症例では四肢の疼痛と皮膚硬化を伴う感覚運動神経障害を呈した。腓腹神経生検の組織学的所見はIgG4-RDを示唆した。経口PSLは非常に有効であった。多発性単神経炎のタイプの鑑別疾患としてIgG4-RDを含めるべきだ。
 
 
< こたえ >
組織学的に証明されたIgG4関連の末梢神経障害の報告があった。
 
IgG4-RDの包括的診断基準が2011年に報告されて、2013年には最初の報告がなされており、今後も症例の蓄積が期待される。
 
 
Scenario caseの経過>
神経電動検査は感覚運動神経障害の所見であった。
 
IgG4関連神経症を疑い、神経生検の適応を検討することとした。