リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

リンパ腫様肉芽腫症(LYG)

Scenario case
70歳女性、20年来の関節リウマチ
 
8年前よりMTXにて治療されており、低疾患活動性を維持していた。
 
肺に多発結節影・腫瘤影が出現し、四肢に皮下結節が出現した。
 
MTXを中止後、皮膚科と呼吸器科にコンサルト。呼吸器科にて気管支鏡検査が予定された。
 
1週間後、皮膚生検を施行した皮膚科医よりお電話があった。
 
「あの方、Grade 3LYGでしたよ」
 
 
・・は ・・・はい?
 
 
(症例は架空です)
 
 
LYGとは・・・>
リンパ腫様肉芽腫症(Lymphomatoid granulomatosis, LYG)とはEBVに関連したB細胞系のリンパ増殖性疾患のことです。
 
一般に免疫不全のMTX関連の悪性リンパ腫と同様、MTXに関連し、同剤の中止で改善することが報告されています。
 
 
Pubmedにて>
PubmedにてLymphomatoid granulomatosis rheumatoid arthritis methotrexateを検索してみます。
 
10件・・日本からの報告が多いようですね。
 
1. 肺、皮膚、中枢神経病変を呈するもMTX中止のみで改善したGrade 3 LYG
 
2. 肺、腎臓、中枢神経病変を呈するもMTX中止と脳の放射線治療だけで改善したGrade 2 LYG
 
3.(題名からだけですが)肺LYGの死亡例
 
4. 肺腫瘤にて出現しMTX中止のみで寛解したGrade 2 LYG
 
※過去の報告は1.のTableに6例がまとめられております。最近の3例(2、3、4)と合わせ、2015年1月現在、9例の報告があることになります。
 
リンパ増殖性疾患のあるタイプを勉強したい時はUptodateでもよいかもしれませんが、血液内科の先生から聞いたところ、 2008年の「WHO Classification of Tumors of Hematolopoieticand Lymphoid Tissues」が良いそうです。
 
この度、LYGを経験したので、訳してみました。
 
 
WHOClassification of Tumors of Hematolopoietic and Lymphoid Tissues, 2008
 
リンパ腫様肉芽腫症(LYG)
 
定義
リンパ腫様肉芽腫症(LYG)は血管中心性に発生し血管の破壊を伴う節外性リンパ増殖性疾患。EBウイルス陽性のB細胞と通常数的に優位な反応性T細胞が混在する組織像を呈する。病変の組織学的なグレードと臨床的な悪性度は大きなB細胞の割合に関連する。
 
疫学
LYGは稀な疾患。通常成人に起きるが免疫不全の小児に起きてもよい。男女比は2:1
 
病因
LYGEBVに誘導されたリンパ増殖性疾患。免疫不全のある患者はリスクが高く、素因として同種の臓器移植、Wiskott-Aldrich症候群、HIV感染、X 連鎖性のリンパ増殖性疾患がある。背景に免疫不全の疾患がない患者においても通常、臨床的または検査上なんらかの免疫機能の異常がある。
 
発生部位
肺病変は90%より多く見られ、通常診断時には存在する。その他よく発生する部位として脳(26%)、腎臓(32%)、肝臓(29%)、皮膚(25-50%)がある。上気道、消化管も侵されてもよいが稀。リンパ節と脾臓に起きることは極めて稀。
 
臨床症状
通常呼吸器に関連する症状を呈し、咳(58%)、呼吸困難(29%)、胸痛(13%)が見られる。その他に、発熱、体重減少、神経学的症状、関節痛、筋痛、消化管症状がある。中枢神経病変を有する場合、無症状であるか、存在する部位によって多彩であり、難聴、複視、構音障害、失調または意識障害を呈する。無症状の患者は稀(<5%)。
 
肉眼検査
LYGはほとんどの場合多彩なサイズの肺の結節影を呈する。通常両側性で中下肺野に見られる。大きな結節は中心の壊死を来たし空洞を形成しやすい。結節病変は腎臓、脳にも見られ、通常中心部の壊死を伴う。皮膚病変は非常に多彩である。結節病変は皮下組織に見られる。真皮の病変も見られ、時に壊死と潰瘍を形成する。斑状皮疹、斑点状丘疹は稀。
 
形態学
LYGは血管中心性、血管破壊性に多様なリンパ球が浸潤することが特徴であるリンパ球が主体であり、形質細胞、免疫芽細胞と組織球が混在する。好中球と好酸球は通常目立たない。背景の小さいリンパ球はわずかな異型性や不整を呈するかもしれないが、あからさまに腫瘍性ではない。LYGの組織は様々な程度の、通常少数のEBV陽性B細胞が顕著な炎症の背景に混在するというものである。EBV陽性細胞は通常少しの異型性を示す。それらは免疫芽細胞に似るかもしれないし、頻度は低いがHodgkin細胞によく似たより多形性の形態を呈する。多核細胞が見られてもよい。典型的なReed-Sternberg細胞は通常見られず、もしあればHodgkinリンパ腫の可能性を考えるべきである。形の良い肉芽腫が肺に見られることは典型的にはなく、ほとんどの場合はその他の節外臓器である。しかし、皮膚病変はしばしば皮下組織に明らかな肉芽腫性反応を示す
LYGでは血管の変化が顕著である。血管壁にも浸潤がみられるリンパ球性血管炎がほとんどのケースで見られる。血管へのリンパ球浸潤は血管の構造に障害を与え、梗塞のような組織壊死をもたらす。フィブリノイド壊死のようなより直接的な血管のダメージもよくあり、EBVに誘発されたケモカインに媒介されているLYGは鼻型の節外性NK/T細胞リンパ腫と区別されなければならない。この疾患もEBVに関連し、血管破壊性の増殖パターンをしばしば呈するからだ。
 
グレード
LYGのグレードは背景の反応性リンパ球に対するEBV陽性のB細胞の割合に関連する。Grade 3Grade 1 or 2と区別することは最も大切である。EBV陽性の大きな異型B細胞の多形の背景を有さない単一の集団はびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)と分類されるべきであり、現在定義されるようなLYGスペクトラムを超える。
Grade1の病変は細胞異型を伴わない多形性のリンパ球浸潤からなる。おおむね免疫組織学的検査にて確認される巨大化したリンパ球細胞はないか、あっても稀。EBERプローブを用いたin situ hybridizationISH)を用いて、EBV陽性細胞がわずかに検出されるのみ(<5/hpf)。EBV陽性細胞がなくてもよいが、その場合はその他の炎症性・悪性疾患を除外する検査を用いて注意して診断をすべきである。
Grade 2の病変は多形性の背景に時に巨大なリンパ球様細胞または免疫芽球を含む。小さな集団がとくにCD20染色で見られる。壊死はよりコモンに見られる。EBVのためのISHによって容易にEBV陽性細胞が検出され、その数は通常5-20/hpfである。EBV陽性細胞の数と分布は多様である。結節かのなかに見られることもあるし、結節の間に見られてもよい。数は時に50/hpfまでになってもよい。
Grade3の病変はやはり炎症性の背景がみられるが、CD20で容易に検出される異型B細胞がより大きな集簇を形成する。顕著な多形性を示し、Hodgkin様細胞がしばしば存在し、通常広範な壊死巣も見られる。ISHにてEBV陽性細胞は極めて多数(>50/hpf)であり、小さなシート状の癒合を限局的に形成することもある。EBVISHは壊死の範囲が大きい場合にはRNAの保存ができていないため、信頼できないことを考慮に入れておくことが重要である;EBVの分子学的検査の追加が役立つかもしれない。
 
Immunophenotype
EBV陽性B細胞は通常CD20を表現する。細胞は様々な程度にCD30陽性を示すが、CD15は陰性になる。LMP1は異型巨細胞とより多形性の細胞では陽性になってもよい。細胞質の免疫グロブリンの染色を行っても通常役に立たない。稀にモノクローナルな細胞質免疫グロブリンがとくに形質細胞様の文化を示す細胞に表現されることはあるが[2420]。背景のリンパ球はCD3陽性のT細胞であり、CD4+の細胞はCD8+の細胞よりもよくある。
 
Genetics
Grade 23のほとんどのケースにおいて、免疫グロブリン遺伝子のclonalityが分子遺伝的なテクニックを用いて証明されうる。解剖学的な部位が異なれば、異なるクローン増生が検出されるかもしれない。サザン・ブロット解析もEBVclonalityを示すかもしれない。Grade 1のケースにおいてclonalityの証明はGrade 23と比べ一貫していない。これらのケースにおいてEBV陽性細胞が比較的少ないこととも関係しているためかもしれない。代わりにLYGのケースの中にはpolyclonalなものもあってよい。T細胞受容体の遺伝子はmonoclonalityの結果を示さない。癌遺伝子の変異は認められない。
 
仮定される正常の相対物
EBVによって変化した成熟B細胞
 
予後と予測因子
臨床経過が悪化したり改善したりすることがあるが、治療をしない限り自然に寛解することは稀である。しかし、ほとんどの患者において疾患はより侵襲的となり、歴史的なシリーズによると生存の中央値は2年以下である。より最近のシリーズによると、Grade3の病変に対してリツキシマブを含む積極的な化学療法を行い、反応を示している。Grade 12は通常インターフェロンα2bに対し持続的な反応を示す。LYGEBV陽性のDLBCLに進展するかもしれない。Grade 3LYGの患者の中には免疫抑制療法や免疫状態の是正に伴い自然寛解を示すものもいるが、臨床的にはこれらの患者はDLBCLとしてのアプローチをとるべきだ。
 
 
Scenario caseの経過>
MTX中止後、体調が良さそうだったので経過を見ていたところ、3週間後、CT上多発結節影・腫瘤影は著明に縮小した。
 
LYG grade 3の再燃はなく、2年間CRを維持している。