リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

わたしの皮膚はやわらかくなりますか?

(2012.6月)
 
 
リウマトロジストが、心痛める患者さんからの言葉
 
「わたしの皮膚はやわらかくなりますか?」
 
 
どう答えていますか?
 
 
「はい、この薬を使えばよくなります。」
 
それとも、
 
「残念ながら、皮膚をやわらかくすることが分かっている薬はありません。」
 
ですか?
 
 
Clinical senario
#びまん皮膚型強皮症の70歳男性がここ半年間の皮膚硬化の進行のため、当科に紹介された。
 
※実際のケースを一部アレンジしております。
 
現病歴
年前、手指、両足以下にレイノー現象が出現し、強皮症と診断された。
5年前より、間質性肺炎を認めている。
半年前より、全身の皮膚の硬さが進行した。
 
身体所見 
舌消退短縮、皮膚硬化は上腕、前腕、手指、前胸部、腹部、背部に及ぶ。
 
肺機能 VC 2.4LL、%VC 65%%DLCO 25%
胸部CT 両肺底部に網状影を主体とする間質性陰影
 
Uptodate
Sclerodermaを検索して、
 
Overview of the Treatment of prognosis of systemic sclerosis (scleroderma) in adults
 
Organ based treatment
skin
Treatment of widespread skin sclerosis
 
が良さそうです。
 
The possible efficacy of systemic approaches to the treatment of the diffuse and limited cutaneous subsets is presented separately.
 
ということで、
 
Immunomodulatory and antifibrotic approaches to the treatment of systemic sclerosis (scleroderma)
 
に飛びます。
 
読む気がしないときは、
 
SUMMARY AND RECOMMENDATIONS に飛びます。
 
強皮症に対する免疫修飾剤と抗線維化的アプローチは、論理的にはみえるが、まだ毒性よりも利益が大きいと示されてはいない。治療をガイドするためのデータが限られていることは承知したうえで、現在私たちは特定の環境において、以下の薬剤を勧める。
 
・進行した線維化に至っていない胞隔炎の患者に対する、ステロイドとエンドキサンの併用。
 
・筋炎、症状のある漿膜炎、NSAIDsに耐性の関節炎や腱鞘炎にはステロイドを用いる。20mg/日未満が望ましい。
 
・低用量のD-ペニシラミンを用いてもよいかもしれないが、多くの専門医がそれが有効だとは考えていない。私たちは患者にこの薬を使うことはない。
 
 
Uptodateの著者は治療をしないのでしょうね。
 
 
じつは、リウマトロジストは以前、間質性肺炎を有する30代女性の強皮症にエンドキサン内服について、ICしたことがあります。
 
その根拠となった論文が↓です。
 
 
<歴史に残るスタディScleroderma lung study
 
強皮症の治療を語る上でかかせないRCTがあります。
 
強皮症の間質性肺炎に対し、わずかな有効性が報告されたScleroderma lung studyです。
 
Scleroderma lung study (1yr)
 
シクロフォスファミド(CYC)群はplacebo群と比較し、肺活量をわずかに改善させたという報告ですが、じつはその論文に大切な記載が。。
 
Scleroderma lung study (1yr)
Method-Statistical analysis
A post hoc analysis of scores for skin thickness was performed in a similar fashion.
皮膚硬化のスコアに関する事後解析が行われた。
 
Result – POST HOC ANALYSIS
85例のびまん皮膚型強皮症において、二群間で皮膚硬化スコアが有意差があり、CYC群でよかった(−3.06; 95 percent confidence interval, –3.54 to –0.52; P = 0.008)。
 
 
 
<歴史に残るスタディの悲しい結末>
 
このRCT1年間だけシクロフォスファミドを投与するというものです。1年で止める理由は長期的な毒性が懸念されるからです。中止後無治療で1年経過観察し、2年後の結果が報告されました。
 
Scleroderma lung study (2yrs)
 
RESULTS
 
The 24-Month Outcomes
 
→(第5パラグラフ)Figure 4に、ベースラインの皮膚硬化スコアとHRCTの線維化で補正した皮膚硬化スコアの平均値をびまん皮膚型強皮症に限って示した。なぜ、びまん皮膚型に限ったかと言うと、びまん皮膚型は限局皮膚型よりも有意にベースラインの皮膚硬化が高度であり、12ヶ月の時点で皮膚硬化スコアの改善が得られたのはびまん皮膚型だけだったからだ(p<0.01)。
びまん皮膚型の患者では、CYC群では24ヶ月の試験期間中、継続して皮膚硬化は減少した。それに対し、placebo群では始めの一年目で皮膚硬化が進行し、結果としてCYC群との差は12ヶ月の時点で有意となった(p<0.01)。しかし、12-18ヶ月では、placebo群の皮膚硬化はCYC群と同じスピードで減少した。逆に、18-24ヶ月の間はplacebo群で比較的安定し、CYC群でわずかに悪化した。その結果として、24ヶ月の時点で両群間の差は有意ではなくなった(p=0.23)。
 
 
Senario caseの経過>
 
シクロフォスファミドはこの患者の皮膚硬化にたいし有益と考えられるだろうか??
 
再診時、ICをした。
 
Scleroderma lung study (2yrs)Figure 4をおみせした。
 
 
「シクロフォスファミド(CYC)の1年間の内服が、皮膚硬化にわずかに有効であったという報告があります。
 
しかし、内服を中止して、もう1年たつとその効果はなくなりました。
 
この薬剤は副作用が多いため、1年以上使うと副作用のリスクが高いと考えられています。
 
したがって、長期的なことも考えたとき、皮膚硬化に良さそうな薬はないというのが現状です。
 
どうしても治療をしたいのであれば、CYC1年間内服してみて、その後別なお薬(アザチオプリン)に変えることはできます。
 
しかし、その治療法が確立されたものではなく、ぜひともお勧めしたい方法ではありません。
 
皮膚硬化は年単位でみれば、ピークを超えて少しは柔らかくなるとされています。
 
CYCなどの治療をせずに、経過観察をするという方法も間違った判断ではないと思います。」
 
 
リウマトロジスト@若かりし頃、強皮症の線維化を研究しようと思っていた。
 
 
ps;Scleroderma lung studyの除外基準、DLCO<30%という条件をこの患者は満たしていました。それでも、IPに対してはいくらかの効果が期待できたかもしれません。