リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

巨細胞性動脈炎GCAにアスピリンは有効か?

(2012.6月)
 
 
実際、研修医に出した問題です。
 
みなさんは、どう取り組みますか?
 
 
 
Clinical scenario
※実際のケースを一部アレンジしています。
 
側頭動脈炎疑いの79歳男性が治療目的にて入院してきた。
 
症状は8ヶ月前から続く発熱、寝汗、側頭部痛、PMR症状。側頭動脈は蛇行のみ。ESR55mm/1hPETで大血管の集積を認めた。側頭動脈生検を施行し、結果を待たずにプレドニゾロン50mg1mg/kg)を開始した。
 
指導医より、やっかいな宿題が出た。
 
「この患者にアスピリンを投与した方がよいか、検討してみてください。」
 
 
 
<疑問が生じたら、まずは>
Uptodateで、GCAを検索
 
Treatment of giant cell (temporal) arteritis → Antiplatelet therapyをみる。
 
Antiplatelet therapy — (略)
 
2つのレトロスペクティブコホート研究によって、GCAの患者において視力障害と脳血栓症Odds ratioがかなり低下したことが示された [22,23]。そのうちの一つは175例のGCAをレビューし、そのうち36例がGCAの診断以前の心血管系の疾患のため低用量アスピリン(100mg/day)を投与されていた。全ての患者はプレドニゾンで治療され、以下のことが記された。
・発症時、脳虚血のイベントはアスピリンを内服している患者群で多かった(8 vs 29%; odds ratio 0.22
GCAの診断後、41例がアスピリンをあらたに開始された。GCAの診断後3ヶ月の間、脳虚血性イベントはアスピリン群で少なかった(3 vs13%)。
 
同様の利益はもうひとつの143例のレトロスペクティブスタディでも記載されてある。143例のうち60%が抗血小板剤(ほとんどがアスピリン)かワーファリンで治療されていた。このうち20%の患者は過去の虚血性イベントのためそれらの投薬を受けていた [23]。虚血性のイベントはアスピリンかワーファリンを投薬された患者においてずっと低かった(16 vs 48%, adjusted odds ratio 0.18 for aspirin and 0.17 for warfarin)。
 
これらの観察研究の結果と低用量アスピリンの比較的低い副作用のリスクを考慮し、我々はGCAの患者全てに低用量アスピリン81-100mg/day)勧める。
 
→治療の有効性はRCTで評価されるべきですが、コホートしかないようです。
 
 
 
<たまの批判的吟味>
このコホート研究、reference [22]を読んでみます。
 
Low-dose aspirin and prevention of cranial ischemic complications in giant cell arteritis.
Nesher G, Berkun Y, Mates M, Baras M, Rubinow A, Sonnenblick M
Arthritis Rheum. 2004;50(4):1332.
 
 
みなさんは、論文を批判的に読んだことがありますか?
 
批判的吟味の方法ですが、南郷先生のthe SPELLがお勧めです。
 
→「資料集」
→「はじめてシート(批判的吟味のためのチェックシート)」
→「はじめてコホートシート」にアクセスして、getします。
 
 
 
Critically appraised topic for Cohort study
0.このチェックシートを用いるのは適切か?
コホート研究→このままチェックを続ける
 
1.論文のPICOは何か?
P:側頭動脈炎の患者において、
Iアスピリン投与群は
Cアスピリン日非投与群とくらべ
O:頭蓋の虚血性イベント(脳梗塞や視力障害)が少ないか?
 
2.予後,病因,危険因子,害,予測ルールのいずれかをみる研究か?
アスピリン投与が頭蓋内の虚血性イベントを予測するかを見ているので、予測ルールで良いか。
 
3.追跡期間はどれくらいか?
跡期間: 26.3-26.4ヶ月
Outcomeが生じるのに十分な追跡期間である(だったのだと思う)
 
4.結果に影響を及ぼすほどの脱落があるか?
→追跡率=結果の症例数/研究開始時の症例数
    =166/175
    =94.9% (>80%なら良しとされる)
 
5Outcomeの観察者が危険因子についてmaskingされているか?(予後の場合はskip
→記載がないので,outcomeの評価には影響を与えるかどうか不明
 
6.交絡因子の調整が行われているか?(予後の場合はskip
→(PATIENTS AND METHODSの第3パラグラフ)
Multivariate analysis was performed with logistic regression models. とある。
ロジスティック回帰モデルを用い、交絡因子の候補としてアウトカムに寄与した可能性がある因子(p<0.09)で補正している。
 
7.結果の評価
Outcomeの発生率:
危険因子のRR(risk ratio)HRhazard ratio),ORodds ratio):
生存分析(Kaplan-Meier曲線):
予測ルール:
Odds ratioで評価されている。※
 
(表)
脳虚血性イベント
      (+)(-)
投薬    2 71 73
無投薬  12 81 93
(合計) 14 152 166
 
Odds ratio = (2/71)/(12/81)=0.19014(単変量解析)
→多変量解析後、OR = 0.18(95%CI 0.04-0.84)とされた。
アスピリン投与群はアスピリン非投与群とくらべ、脳梗塞・視力障害のオッズを<1/5にするパワーがあるとされました。
 
 
 
アスピリン脳梗塞・視力障害を減らすと言えるか?>
批判的に吟味をしましたが、追跡率は十分で追跡期間も脳梗塞・視力障害の発生が十分に見られるほどだったと思われました。交絡因子の候補を検出し、多変量解析で補正されてもオッズは有意にアスピリン群で下がりました。
 
マスキングについて記載されていなかったため、Outcome評価者が脳梗塞かどうか、視力障害か否かを左右できた可能性は残りますが、白黒つきやすいアウトカムでしょうから、主治医の判定をくつがえすことは難しいでしょう。
 
このコホート研究の結果から、アスピリンは側頭動脈炎患者の脳梗塞・視力障害を減らすと考えました。
 
 
 
Senario caseの経過>
患者にアスピリンの有効性を説明し、バイアスピリン100mgを処方した。
 
プロトンポンプ阻害剤も忘れず、追加した。
 
 
 
※解説
1)側頭動脈炎は失明や脳梗塞のリスクもあるため、早目の治療が勧められます。この方は病理結果はまだ返ってないのですが、MRIで血管炎を確認してから、ステロイドを開始しました。ACR分類基準(1990)は満たしていました(50歳以上、頭痛、血沈>50)。
 
2)ORodds ratio)、RR(risk ratio)について
 
→単変量解析ですが、Risk ratio (Relative risk) も計算できます。
RR = (2/73)/(12/93) = 21.2%
脳梗塞・視力障害を発生する確率が約5分の1になるということです。こちらの方がイメージしやすい?
 
 

 

 

 ps;↓でGCAのreviewを執筆させていただきました!


 

 

以下でEGPAのreviewを執筆をさせていただきました!