リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

抗リン脂質抗体陽性のSLE

(2012.5月)
 
 
よく議論になります。
 
くりかえし訪れるこのシチュエーションに、自分なりの見解をもっておきたいものです。
 
 
Clinical senario
 
不明熱で入院した60歳女性。
 
※実際のケースを一部アレンジしております。
 
頬部紅斑、口腔潰瘍、血小板減少、抗カルジオリピン抗体(aCL-IgG)20<10)、抗核抗体320倍を認め、SLEと診断した。
 
プレドニゾロン30mgを開始する予定とし、ICにのぞんだ
 
SLEの一般的な説明、ステロイドの副作用の説明をした後、患者さんから質問された。
 
「中枢神経障害がとくに心配です。頻度はどのくらいですか?」
 
「約1-2割です。髄膜炎脳梗塞などがあります。」
 
ここで不安がよぎった。
 
さて、aCL陽性のSLEの患者において、血栓症の予防のためにアスピリンをはじめた方がよいだろうか?
 
 
 
<抗リン脂質抗体陽性で血栓症のないSLE患者にアスピリンは有効か?>
 
Uptodateで、APSAntiphospholipid syndromeの略)を検索
 
Treatment of the antiphospholipid syndrome
SLE with aPL
 
を読んでみよう。
 
 
「抗リン脂質抗体(aPL)陽性のSLE
 
aPLが陽性のSLE患者は血栓塞栓症and/or習慣性流産のリスクが高い。予防的な治療はそのリスクを下げるかもしれない。aPL+SLEの二つのシリーズにおいて、10-20年のフォローで患者の約20-50%APSの基準を満たした(流産or血栓症を起こして満たしたということ)。
 
 
私たちは予防投薬の利益を支持するデータが限られていることを認識したうえで、血栓症のないaPL陽性のSLE患者に以下のようなアプローチをとっている。
 
SLEやその他の膠原病患者において、もし心血管系のリスク、家族歴のようなその他の危険因子があれば、アスピリンの禁忌がないかぎり、低用量アスピリン81mg/日)の予防的治療を勧める。
 
aPL陽性の女性は経口避妊薬を控えるべきだ。とくに高用量のエストロゲンを含むものは。
 
・修復可能な血栓症の危険因子に取り組むべきだ(静脈うっ滞、高血圧、高脂血症、喫煙)。
 
 
また、私たちは第13回抗リン脂質抗体国際会議における、aPL(+)SLEのためのタスクフォースの推奨を支持する。
 
・定期的なaPLの測定。タスクフォースは定期的な測定を定義しなかったが、私たちはaCL-IgMIgG抗体、抗β2GPI抗体、ループスアンチコアグラント(LAC)を最初の評価の時かSLE診断時に測定する(過去に測定されていなかったら)。フォロー中、APSの疑いがある患者では測定を繰り返す。
 
LACまたは単独の持続的な中等度ー高い値のaCL抗体を有するSLE患者において、ヒドロクロロキン(HCQ)と低用量アスピリンを初期の予防法とする。HCQはいくつかの研究とシステマティックレビューによって支持されている。しかし、HCQアスピリンの併用療法をプラセボ、あるいは各々の単剤と比較したRCTはない。
 
・低用量アスピリンの予防投与における利益の可能性は、aPL(+)SLE患者144例を中央値104ヶ月フォローした観察研究において証明された。その試験で、aPL(+)SLE患者がaPL(-)SLE患者144例と比較された。aPL(+)87例がアスピリンを内服した;予防投与したaPL(+)の患者とアスピリンを長期に内服した患者は血栓症を起こしにくかった。
 
 
 
Uptodateの孫引き>
 
もちろん、アスピリンの試験です。HCQを使うのは日本では社会的に難しいでしょう。
 
 
Methodより)
 
aPL(+)SLE患者144例を中央値104ヶ月フォローした。コントロール群は性年齢をマッチさせたaPL(-)SLE患者 144例とし、112ヶ月フォローした。両群の特徴はTable 1のとおり。
 
aPL陽性とは以下の少なくともひとつが12週以上あけて2回以上陽性であることと定義した:
 
1) LAC, 2) aCL of IgG and/or IgM isotype in medium or high titer (i.e., >40 IgG or IgM phospholipid units, or >99th percentile), and 3) anti-β2GPI of IgG and/or IgM isotype in titer >99th percentile.(※)
 
 
Resultより)
 
血栓症aPL(+)29例(20.1%)、aPL(-)11例(7.6% (P = 0.003)。急性血栓症の発生は100人年あたり、aPL(+)2.09件、aPL(-)0.79件。
 
両群の背景に喫煙歴、アスピリン使用以外に差はなし(26%vs7%60%vs8%; p<0.001)(Table 1)。これらを含め性年齢補正した後のaPL(+)の患者はaPL(-)にくらべ3.88倍も血栓症になりやすかった。
 
単変量解析において、低用量アスピリン血栓症にたいし、予防的な役割を示した(HR 0.43, p=0.027)。HCQはそうではなかったが(HR0.67 p=0.30)。
 
交絡因子があるかもしれないため、多変量解析をおこなった(Table 2)。
 
aPL(+)の患者では血栓症に独立して関係していたのは男性、LAC陽性、aCLの持続的陽性であった。さらに、アスピリン1ヶ月あたりの血栓症発生のリスクを2%低下させた(HR per 1 month = 0.98p=0.05)。同様にHCQ1ヶ月あたりの血栓症のリスクを1%低下させた(HR per 1 month = 0.99p=0.05)。
 
 
aCL陽性が持続するSLE患者を対象とした観察研究(マッチドコントロールとの比較試験)では、アスピリンの予防投与の有効性が示されたようだ。
 
 
(※)2006年のAPS国際基準の検査基準と同様です。日本では、検出されれば中等度以上の陽性と判断されます。(渥美達也、抗リン脂質抗体症候群 日本臨床2005;63 Suppl 5:484-9.
 
 
 
Senario caseの経過>
 
この試験はaCL2回以上陽性であったSLE患者を対象としていたため、今回の患者にはまだ結果を適用できないと判断した。
 
aCL-IgG抗体を12週以上あけて再検することとし、入院中にアスピリンを開始することは控えた。日本では保険適応になっていないaCL-IgM抗体も追加することとした。
 
もし、これらが2回以上陽性になれば。。アスピリンの予防投与をしてもよいと思った。
 
Uptodateの著者の推奨にある「心血管系の危険因子や家族歴」はなかったが。
 
リウマトロジストは、RCTがちゃんと行われていないセッティングに出くわすことが多い。しかし、その状況で悩みながら選択をしていくのが、また楽し