リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

シリコンと強皮症

<Clinical scenario>
 
50代女性がレイノー現象のため紹介された。
 
手指の皮膚効果と爪郭の毛細血管異常を認めた。
 
胸部CTにて間質性肺炎を認め、胸壁に豊胸術によると思われるインプラントが写っていた。
 
(症例は架空です)
 
 
 
<疑問>
強皮症とシリコンとの関連性は?
 
 
 
<疑問を解決する>
 
Pubmedで、"Scleroderma, Systemic"[Mesh] and siliconeを検索
 
→ 69件ヒットしましたが、3件目にLupusという雑誌にちょうどよいレビューがありました。
 
Silicone and scleroderma revisited.
Lupus 2012 Feb;21(2):121-7.
 
関連するところを訳しました。
 
Introduction
シリコンは様々な種類の有機体とともにsilicon-oxygen chainを有する合成ポリマーの一群。長い間
生物学的に活性をもたない物質と考えられていたため、無数の医療材料やデバイスとして使用された。心臓の人工弁、関節のインプラント、脳室腹腔シャント、眼内レンズなど。まぎれもなく、もっともよく認知されたシリコンの使用は豊胸手術だ。実際、シリコンによる豊胸手術SBI)は1960年代早期に再建目的、美容目的にて最初に導入されて以降、莫大な人気を得た。SBIを行った女性に強皮症やその他の膠原病症例報告とシリーズ報告はその導入からすぐに医学文献に登場し始め、SBIと強皮症の発生の関連を示唆した。
現在までにシリコンと強皮症との関連は議論あるところではあるが、シリコン粒子に対するホスト側の局所および全身性の自己免疫反応を支持する意見が多い。このレビューでサマライズする。
 
Silicon(略)
 
Silicone breast implants
USAでは1960年代始めに導入され、1963-1988年の間、89万人の女性が美容目的で豊胸術を受けた。1990年代初めには10万人に11-12人であり、15歳以上の女性では約1%2009年には311957件の豊胸がなされ、半分がシリコンインプラント
シリコンの豊胸インプラントは通常シリコンジェルで満たされたシリコンのエラストマー加熱すると溶け、常温でゴム弾性を示す高分子物質)の膜からなる。一方の生食インプラントも生理食塩水で満たされたシリコンエラストマーを用いる。ほとんどの女性はシリコンの量が多いにもかかわらず生食インプラントよりもシリコンによる豊胸術SBIを好む。その理由は全体的に美容上優れていることと長期的に破裂してしまうリスクが少ないことである。
 
Host immune response to silicone breast implants
SBIが米国の市場に導入された1960年代早期、製造者はFDAに安全性と効果のエビデンスを提供しなくてもよかった。しかし、SBIが始まって、局所・全身性の反応が徐々に明らかになっていくに連れ、シリコンの局所と全身性の安全性に対し多くの疑問が上がり、今日に至るまで議論されている。インプラントの後、異物に対する炎症性反応として、インプラントの周りに被膜が形成される。この反応はマクロファージが貪食できないほど大きくて、分解できない物質に対する正常な反応とみなされた。この皮膜形成はインプラントの最もコモンな合併症であり、シリコンジェルで満たされたインプラントを使った患者の約50%で起きると見積もられている。生理食塩水で満たされたインプラントではより少ない。シリコンの拡散やbleeding(漏れ)は時間とともに増加し、被膜の周りの炎症反応を増強させる。病原性の強くない皮膚に常在する細菌がさらにインプラントを取り巻く局所の免疫反応を強め、被膜が拘縮するリスクが上がる。加えて、シリコン、あるいはシリコン重合の触媒に用いられインプラントの中に微量存在するプラチナに対するアレルギー反応が起きる。
稀ではあるが、シリコンとプラチナの両方に対する過敏反応が起きる。これは主に化粧品やベビーボトルのような家庭内の様々な製品への慢性的な接触などで過去にプラチナに暴露された人たちにおいて起きる。強く感作された患者はSBIを受けて過敏性のアレルギー反応が起きることもある。
免疫システムの局所の活性化に加え、シリコンはその分解に関わる全身性の作用ももたらす。分解された断片は生物学的に不活化ではなく全身に異動し、癌や自己免疫減少を引き起こす可能性がある。
SBIに関連した発癌のリスクはこのレビューの目的ではないが、豊胸術を受けた73000人の参加者を含むいくつかの大規模疫学研究では、悪性腫瘍の発生率や死亡率の上昇を示されていない。
破裂したインプラントでは破裂していない場合と比べ疼痛と慢性的な疲れやすさが多く報告されており、シリコンによる全身性の自己免疫反応を示唆する。このことでインプラント製造者は破裂を防ぐべくエラストマーのシェルを強くせざる負えなくなった。しかし、全身性のシリコン暴露はシリコンで満たされたインプラントに限ったことではなく、生理食塩水のインプラントでも起きうる。加えて、被膜外へのシリコンの移行は破裂だけでなく、シェルを介した慢性的な漏れによっても起きうる。シリコンがインプラントを囲む瘢痕組織の被膜の外側に移行していれば、女性は自己免疫疾患や膠原病に診断されやすくなる。
 
Silicone and autoimmunity
埋め込まれたシリコンのデバイスに強い免疫反応を呈する患者は周囲の組織にIgG沈着の増加、高い抗体価の抗シリコン抗体を有することが分かった。免疫系広報によって直接みる事によってインプラントの周囲の組織に抗シリコン抗体が証明された。さらに血清抗シリコン抗体はコントロールと比較し、インプラントを装着された患者においてより高頻度に検出された。抗体価はインプラントの破裂があると有意に上昇した。したがって、豊胸術のインプラントと自己抗体との関係から、シリコンかその副産物がアジュバント(免疫補助剤)様の作用を有することが推測されるかもしれない。シリコンを植えると自己免疫疾患を自発的に発症する実験用マウスにおいて、抗ds-DNA抗体、リウマトイド因子などの様々な自己抗体が有意に上昇することが分かった。私たちは以前に自己抗体はSBIを受けた症状のある女性において無症状の女性よりも上昇していることを示した。症状のない女性122例のうち抗体価の上昇は2-13%に診られ、ほとんどが、dsDNA8%)、ssDNA9%)、SSB/La13%)、シリコン(9%)、2型コラーゲン(9%)に対するものであった。86例の症状のある女性の20%がこれらの自己抗体の4個以上を有していた。
私たちはシリコンインプラントのある患者においてB型肝炎ワクチンが自己免疫疾患の所見を呈する慢性疲労症候群を発症するトリガーとなるかもしれないことを示した。これらの物質のco-adjuvant効果を暗示するものかもしれない。
全体として、現在あるデータからはインプラントのある患者で自己免疫現象を発症するリスクのあるサブグループが存在することが示唆される。
1984年、Kumagaiらはシリコンインプラントのある24例の患者においてRASLE、多発筋炎、SScを含む定型的な自己免疫疾患のスペクトラムを述べた。このケースシリーズにおいてSScが多かったが、それは相対リスクの3倍の増加であった。何年もかけてRASjS,SLEMCTDSScなどの自己免疫疾患の症例報告がインプラントを受けた患者において報告された。それにもかかわらず、Janowskyらによって20コホート研究・症例対象・横断研究のデータを用いたメタ解析が報告され、豊胸術と膠原病の間における補正相対リスクは0.8095%CI:0.62-1.04)であった。さらにNational Science Panelによって評価された20の疫学研究に関する包括的な研究によるとSBIと特定自己免疫疾患との関連は明らかでなかった。
SBIと特定の自己免疫疾患との関連についての議論とは異なり、特定の膠原病の診断基準をいずれも満たさない自己免疫性の症状を呈する特定の集団との関連はいくつかの研究者によって確認された。VaseyらはSBIに関連した27の症状所見において統計学的に有意な増加を認めた。これには数ある症状のなかでも、体の疼痛、異常な疲れ、認知機能障害、うつ病、眼球乾燥、口腔乾燥、皮膚の異常、麻痺、液化腺の腫脹や圧痛、原因不明の発熱、脱毛、頭痛、朝のこわばりが含まれた。
もうひとつの大規模研究において、FryzekらはSBIを受けた1546例の患者群は乳房の減量術を受けた女性2496例のコントロール群と比較して28の調査された症状のうち16の症状において統計学的に有意な増加を認めたことを示した。筋骨格の症状の評価のために紹介されSBIを受けた女性の半数が線維筋痛症and/or慢性疲労症候群の基準を満たした事を示した。この意見はFDAによって線維筋痛とシリコンジェルプラントの破裂との関連性が認められたことでさらに強調された。
最近、シリコンへの暴露後に起きるこれら様々な症状を言う、「siliconosis(シリコン症)」は新しく定義された症候群、Autoimmune (Autoinflammatory) Syndrome Induced by Adjuvants (ASIA)に組み込まれた。ASIAはワクチン後の現象、Gulf war syndrome、マクロファージ筋膜症候群、シリコン症のような、いずれも似たような症状を呈しいくつかの不可解な病気を包括する。さらに、慢性疲労症候群Sick building syndromeのようなその他の曖昧な疾患もASIAに見られる多くの症状・所見をシェアする。これらの疾患が様々な物質(感染症、アルミニウム塩、シリコンなど)に刺激されたアジュバント(免疫補助)作用に次いで発生することは明らかである。遺伝的に感受性のある人たちでは、天然またはシリコンのような薬剤のアジュバントによって免疫系が活性化され、特殊な状況下で自己免疫反応が促進されるのかもしれない。
 
Scleroderma
(略)
強皮症は比較的まれな疾患であり、推定発生率は伝統的に100万人あたり、2-10人。高いものは100万人あたり20人とするものもあるが。発症年齢は典型的には50-60代。女性は男性の3倍なりやすく、その性差は発症が早期(40歳以下)になれば大きくなり、女性が7倍発症しやすくなる。発症から強皮症の正式な診断まで平均6年の大きな後れがあるようだ。一方、自己抗体は診断よりずっと以前に出現している。
 
Environmental factors(略)
 
Scleroderma and silicone
豊胸の注射を2-3年前に行った女性に膠原病が起きた最初の症例は1964年、日本のグループより報告された。1980-1990年代を通し、強皮症やその他の膠原病SBIを行った女性に起きたという症例報告とシリーズ報告が見られ続けた。これらの報告に基づき、豊胸術と強皮症の発症との関連が疑われた。
強皮症が稀であるため、ケースコントロール研究がこの両者の関係を研究する上でもっとも適切な疫学的アプローチであると思われた。WhortonWong1995年までに報告されたそのような研究にいくつかの前向き研究を加えて解析をした。彼らがレビューした研究を以下にまとめる。
Burns1985-1991Michiganで強皮症と診断された274例を解析し、電話での質問を行えたコントロール1184例と比較した。強皮症の2例とコントロール14例が豊胸術を受けていた。強皮症の2例はともにSBIを受け、手術の1年後、12年後に強皮症と診断された。全体的にOdds ratio1.395%信頼区間0.27–6.23。興味深いことにこれらの研究は強皮症の発症と溶剤に暴露される特定の職業・趣味との関連があることを見出した。彼らは強皮症の患者では制酸剤をより多く使用している事を報告した(OR 1.83, 95%CI 1.19–2.82)。これには二つの解釈があるかもしれない;強皮症の診断よりも先行して起きた食道の蠕動低下と逆流のため制酸剤を使用した可能性、シリコンをわずかに含む制酸剤が強皮症を起きやすくさせた可能性の二つである。
EnglertBrooksによる研究はオーストラリアで強皮症と豊胸術を調査した。251例が1974-1988年の間に強皮症or CREST(強皮症の限局型)と診断され、289例のコントロール群と比較された。強皮症患者における豊胸術の割合は1.59%であり、コントロール群では1.73%であった(OR 0.89CI 0.233.41)。レトロスペクティブに検討すると、その?4例中2例が豊胸術の前に症状を有しており、インプラントが感受性のあるホストにおいて強皮症を加速させたかもしれないことを示唆した。SBIを施行し後に強皮症を発症した患者の中で制酸剤の使用が多いことはこの試験で繰り返し示された。この試験の継続試験において、コホートに強皮症患者が追加された。SBIの後に症状が出現した3人の患者のサブ解析では、補正されたOR0.5 (0.112.41)。これらの患者におけるSBI後に最初の強皮症に関連した症状が出現したのは術後4カ月、8年、10年であり、今日症の診断は5,10,3-5年後であった。
HochbergPerlmitterは強皮症と豊胸術に関する多施設のケースコントロール研究を報告し、1991年以前に診断された強皮症837例を含んだ。1例あたり中央値3例のコントロールが割り当てられた。11例の強皮症と31例のコントロールが豊胸術を受けており、OR 1.07であった。
これら3つのケースコントロール研究のメタ解析によると豊胸術を受けた女性は強皮症の発症リスクは上昇しないことが示唆された。著者はこのデータが強皮症発症のリスクを除外する確率は70%と低いが、統計学的にその確率で除外できると述べた。
US単施設における1986-1992年の間のリウマチ性疾患4229例の研究でインプラント術を施行したのは150例であった。RA12例、UCTD1例を含んだが、強皮症は0例。データベースの強皮症患者64例のうちSBIを受けた者はいなかったため、OR0.0であった。
いくつかの前向き試験はSBIと強皮症発症との有意な相関がないことを裏付けた。しかし、これらの研究が強皮症の様な比較的稀な疾患の発症リスクの増加を検出するために十分な統計学的パワーを有していないことを知っておくべきだ。また強皮症は暴露後何年もたって発症し、もし発症したとしてもさらに平均6年たって診断がつくという疾患であるため、フォローアップ期間が十分に長くない。この統計学的パワーの欠如はGabrielらによって行われたpopulation-based studyで顕著だ。彼らは1962-1991USAMinnesotaOmstead countryにおいて豊胸術を行った女性を研究した。749例の豊胸術を行った女性がインプラント術後平均7.8年フォローされ、1498例のコントロール群と比較された。インプラント術を行った女性のなかでこの研究機関に強皮症を発症した者はいなかった。
各年の問診票による特定の疾患を評価するNurses Health Studyによると、膠原病と証明できる1294例の中で乳房の移植術の頻度は無視できるほどであった。
美容および再建の目的でインプラント術を行った女性累積約2000例をフォローしたいくつかの負荷的な研究によると、様々なフォロー期間において強皮症のケースを見つけることはできなかった。
これとは反対の結果が報告されたのが、Women’s Health Cohort Study である。これは、45歳以上の女性の医療関係者における心血管系疾患と悪性腫瘍の一次予防における低用量アスピリン酸化防止剤による利益とリスクを評価するために行われた無作為化二重盲検プラセボコントロール試験である。395,528人の中で10,830インプラントを報告しており、これはコホート集団の2.74%であった; 324例が強皮症を有すると報告し、そのうち10例が以前に豊胸術を受けていた。相対危険度RR1.84 (95% CI 0.96–3.48)であり、インプラント術を受けた女性で膠原病の発症リスクがわずかに上昇することが示唆された。
2000年に出版された、現時点で最大のメタ解析は9個のコホート研究、9個のケースコントロール研究、2つの横断的研究を含んだ。その結論として豊胸術と個別の膠原病やその他の自己免疫疾患、リウマチ性疾患の関連性はないと結論付けた。とりわけ、これは方法論の問題からWomen’s Health Cohort Studyを除外することで得られた;この研究を含めば強皮症の補正相対危険度は1.3 (95% CI 0.86–1.96);しかし、除外すればそのリスクは1.01 (95% CI 0.59–1.73)であった。
全体として、ここで示したデータの合計は豊胸術によるシリコンへの暴露と強皮症発症との相関は有意でないことが示唆された。しかし、ほとんどの研究がフォローが短く、自己免疫疾患関連症状というよりも、特定の自己免疫疾患にフォーカスを当てられたものであることを医師は知っておくべきだ。It was mentioned above that symptoms may begin to appear only 6 years post-implantation and hence a full-blown picture of scleroderma, which is what the studies chose as their ‘end-point’, may be exhibited only years later. したがって、適切なデザインとはリスクを過小評価しないようにフォロー期間を少なくとも10-15年とするべきだ。
その代わり、ASIAに含まれる自己免疫疾患を疑わせる症状、倦怠感やその他(i.e. 微熱、レイノー現象、胸やけ)に焦点を当てると、特定の疾患に焦点を当てる場合と比べ、短いフォロー期間を部分的には問題にしなくてよいかもしれない。Levyらによる最近の報告はSBI後に強皮症を発症した4例を記述し、これらのポイントを強調した。最初の症状である関節痛、胸やけ、レイノー現象は強皮症の症状は術後5, 14, 15, 20年後に出現した。これらの4例のうち3(75%)が出版の日までに経過観察できなくなっており、SBIと強皮症との関連を弱くした。
 
Conclusions
シリコンは無数の医療デバイスのメジャーな要素であり、豊胸術のインプラントとしてもっとも認知される。SBIが導入された1960年代より、強皮症をはじめとする特定の自己免疫疾患の発症との関連について、散在的ではあるが無数の報告がなされた。しかし、メタ解析と疫学的報告はそのような関連性を確かめていない。同じ時期に報告されたシリコン誘発性自己免疫現象、近年ではASIAに関する多くの報告があるが。
強皮症は最初の暴露から長期間を経て発症するため、また最初の症状は見逃されやすいため、これらの研究は強皮症のケースを多くは含めていない。数年以内に長期のデータを含むさらなる研究がシリコンと自己免疫、とりわけ強皮症との予測される関連性を明らかにするべきだ。
 
 
 
 (Uptodateでもscleroderma siliconeを検索し、Risk factors for and possible causes of systemic sclerosis (scleroderma)に記載がありましたが、この度は稀なテーマなので、Pubmedからはじめてしまいました
 
 
 
<Scenario caseの経過>
 
シリコンと強皮症との関連が明らかなものなのかを調べ、シリコンの除去をする意義があるのかを知りたかった。
 
このレビューはシリコンと強皮症の関連性について研究をしている研究者によるものであるが、現時点では関連性を示す疫学的な研究はない。除去術を勧めることの妥当性はないと判断した。
 
強皮症の間質性肺炎としての治療を説明した。