#リツキシマブはB cell depletionという、CD20を表現するB細胞を除去する機能を持つ薬剤です。つまり、この薬剤で治療中の患者はウイルス感染の免疫システムである抗体産生が上手くできない恐れがあります。
この度はリツキシマブを使用中にCOVID-19を発症し、通常1週間前後とされる肺炎発症までの期間が2-3週間であった3例の報告です。
Severe COVID-19-associated pneumonia in 3 patients with systemic sclerosis treated with rituximab
https://ard.bmj.com/content/79/5/668
Table 1. COVID19とSScの3症例の臨床的特徴
Guilpainらの症例報告(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32312768/)は私たちにとって興味深いものであった。リツキシマブ(RTX)による最近の維持療法を含む免疫抑制状態の多発血管炎性肉芽腫症(GPA)患者が重症の生命を脅かすレベルのCOVID-19を発症した報告である。この報告で特徴的なのは、ほとんどのCOVID-19のシリーズで観察される悪化の進行がより重症であったとことだ。私たちの論文ではRTXで定期的に治療中にCOVID-19を発症し、遅発性の重症肺炎を合併した強皮症(SSc)の3例を報告する。RTXは難治性の皮膚症状、筋骨格系、間質性肺炎のためにオフラベルでよく使用されている。観察研究によると安全性プロフィールは関節リウマチで報告される程度のものであることが報告されている。私たちの3例の主な特徴をTable 1に示す。
・Patient 1は早期のびまん皮膚型SScであり、抗RNAポリメラーゼ3抗体と重症の皮膚病変 (peak modified Rodnan Skin Score at 32/51)が主要な臨床症状であった。
・Patient 2は長期の限局皮膚型SScで、再発性の手指潰瘍と炎症性関節炎を主要な臨床所見として呈していた。
・Patient 3は2年前から発症した限局皮膚型SScで、抗RNAポリメラーゼ3抗体が陽性で、持続性の関節炎を呈した。
これらの患者はいずれも間質性肺疾患を有さず、また一次的・二次的な心疾患を持っていなかった。主な合併症として、patient 1は高血圧のためperindopril, furosemide and lercanidipineで治療され、patient 2は慢性腎不全と肺塞栓の既往があった (2002 and 2008).
Figure 1. Patient 2のHRCT
全例が典型的なCOVID-19の初発症状を呈した (table 1)。Patients 2 and 3は鼻咽頭スワブのreverse transcription (RT)-PCRでCOVID-19と診断された。胸部のhigh-resolution CTが全例に行われ、典型的な両側性の間質性肺炎を呈した (figure 1)。
全例が二次的な臨床的悪化を経験し、急な呼吸不全のため緊急入院を要した。ARDSのためpatients 1 and 3はICUに入院し、特異的な治療は行わずNIPPVで7日後、15日後に改善し、酸素を中止された。Patient 2はnasal high-flowの換気を要し、lopinavirとanakinraの連日皮下投与を4日間受けた。この治療にも拘らず急速な呼吸状態悪化のため静注ステロイドパルス療法 (120 mg for 3 days)とtocilizumab注射(8 mg/ kg)を要した。これらの治療で改善し、酸素重要は減量された。
3例はヘパリン(patient 1 and 3は予防的投与量、patient 2は治療域)と抗生剤を投与されたが、血栓塞栓症や二次的な細菌感染症は見られなかった。また最近COVID-19の患者に末梢血管の所見が報告されているが、微小血管障害は進行性ではなかった。
この度の3例の観察に関していくつか考慮・議論されるべき点がある。COVID-19に特にリスクとなる疾患はなかった。実際、3例の疾患プロフィールは年齢、罹患期間、皮膚所見、強皮症の症状は不均一であった。The World Scleroderma Foundationが最近COVID-19 panemicの間のSSc患者の管理について暫定的な助言を提唱した。間質性肺疾患(ILD)の頻度が高い事、同時に併用される免疫抑制剤を考慮すると、SSc患者がSARS-CoV-2感染に罹患すると、より重症の経過と高い死亡率のリスクが高いと考えられるかもしれない。重要な事として、これら3例は既存のILDはなく、感染の重症度という点では有利であったかもしれない。一方、patient 1 and 2の年齢と併存疾患からは長期のRTXに加えて、潜在的なリスクがあることを加味すべきかもしれない。
Guilpainらが述べたのと同様、この3例のCOVID-19の経過は典型的に言われている期間に比べ遅発性の悪化で特徴づけられる (days 19, 15 and 23)。RTX、patient 1 and 3のMTX、および3例ともに見られた長期のステロイド使用は最初にサイトカインストームを不十分に抑制したかもしれず、このことが遅発性の悪化を招いたのかもしれない。とくにRTXで想定されるウイルスに対する液性免疫反応の障害もひょっとすると二次的な悪化に寄与したかもしれない。これら3例では、ルーチンのRTXレジメンによって重症の低ガンマグロブリン血症はなかったが、完全なB cell depletionがCOVID-19感染の少なくとも2ヶ月前には確認されていた。この事もリスクになっていた可能性もあるかもしれない。感染症におけるRTXのインパクトはまだはっきりしていないが、RTXの維持療法中のCOVID-19感染に関するもう2つの観察結果が最近報告された。最初のケースはSScと肺病変を有する32歳女性であり、ヒドロキシクロロキンとRTXで治療をされていた。彼女はCOVID-19による重症の間質性肺炎を来たし、ICUで挿管されトシリズマブの投与にもかかわらず死亡した。(http://www.jrheum.org/content/early/2020/05/09/jrheum.200507)
二番目のケースはGuilpainによって報告されたGPAでフォロー中の52歳女性で、COVID-19による突然の呼吸不全をday18に来たし、経気管支的な挿管と人工呼吸器管理を要したが、その後改善した。
以上よりまとめて考えると、これらのケースはRTXで治療中の自己免疫疾患は慎重なフォローが必要であることが示唆される。とくにこれらの患者が遅発性の悪化を経験した事にはとくに注意すべきことであり、慎重なモニタリングを要するということ。
現在の暫定的な経験では、生物製剤、合成標的DMARDsを投与中の慢性炎症性リウマチ性疾患の患者がとくに重症COVID-19感染症のリスクが高くないかもしれないとされている。しかしこれらの重症で生命を脅かすCOVID-19感染症のタイプの観察は免疫抑制剤を投与中のSSc患者には継続的な注意が必要であることを支持する。the EUSTAR COVID-19 registry の開始によって大規模な患者数からの重要な情報が得られ、より堅固な結論がえられるであろう。
ps
もう1例、RTX投与中にCOVID-19を発症し、1ヶ月後に低血圧で入院するも(抗体陰性を保ちながら)ウイルス排除が確認された症例が報告されています(2020/6/10現在)。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7283641/