リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

RAを診る前に

リウマチ外来にデビューする若手のための、キホンをたたき込むためのレクチャーです。
 
リウマトロジスト(20年目)より若い世代は、Treat to targetでないと取り残されますよ!
 
<総論>
ACR core setにのっとって68関節を評価する。股関節は腫脹を評価しないので、腫脹関節数(SJC)は66関節(圧痛関節数;TJC68関節)。ACR core setとは、TJCSJC、患者疼痛評価(VAS)、患者全般評価(VAS)、医師全般評価(VAS)、炎症反応、身体機能(当院ではmHAQ)の7項目。
 
・患者の疼痛評価(VAS)は100mmのスケールを見せて、「この世で最大の痛みを100とするとどのくらいですか?。1週間の平均でお答えください」。
 
・患者の全般VASは「痛みはもちろんですが、腫れ、こわばり、だるさ等、ぜーんぶ含めたリウマチの炎症の程度はどのくらいですか? 1週間の平均でお答えください」

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・ある薬が「抗リウマチ作用がある」ことを証明するには臨床試験においてプラセボよりも有意に多くの患者が「ACR20」を満たせばよい。ACR20とはおおむね疾患活動性の2割の改善を表す。定義は「SJCTJC2割の改善にくわえ、その他の5項目中3項目で2割以上の改善を認めること」。しかし、日常診療における「薬の効果」を考えるとき、これを実践するには手間がかかりすぎる。
 
・より臨床的な指標として、疾患活動性をスコア化したComposite measure(SDAIDAS)が普及している。DAS28寛解X線の良いアウトカムを予測しないことが分かった。この結果をへて、2015年より当院の電子カルテの関節評価テンプレートをDAS28よりSDAIに変更した。ずいぶん軽くなった(笑)
※この論文にはSDAIを提唱したSmolenも、DASを提唱したvan der Heijdeも名を連ねています。
 
ACR core setが発表された1993年、オランダのvan der HeijdeDASを発表した。RA113例の3年間の前向き研究において、6人のrheumatologistsDecisionに影響した因子として開発された。

※modified sharp scoreの先生ですね。ACR20/50/70は改善の割合だけしかわからないのに、RAを根拠に基づいて、スコア化した彼女は偉大だと思う。

・DASは1995年に28関節に凝縮され、DAS28になったことで一気に脚光を浴びた。28関節とは両側のMCPPIP(母趾IP)の20関節に加え、手・肘・肩・膝の8関節。

※日本では2005年、ETNの全例調査が始まって、DASの計算機が手渡されたことも拍車をかけたように思う。
 
SDAIDASに遅れること10年(2003年)、オーストリアSmolenらによって発表された単純化したスコア。SDAITJC(28)SJC(28)Pt’s general VASDr’s general VASCRPで求められる。DASと異なり、SJCの貢献を相対的に大きく扱っていることがX線のアウトカムに関連するのであろうと考える(当然、Swollen jointsは壊れやすいでしょう)。
 
・現代のリウマチ診療は、Treat to target!!高血圧や糖尿病を目標(BP<130/<70など)を定めて管理するように、RAはRemissionSDAI3.3)を目指して管理する。ただし、Established RAではRemissionを達成することはなかなか難しく、Low disease activitySDAI11)が現実的な目標かもしれない。
 
・診断について;ACR/EULAR2010年分類基準において、小関節は最大5ポイント、大関節は最大1ポイント割り当てられている。小関節とは両側のMCPPIP、手、母趾IP、第2-5MTP、計32関節。最大の5ポイントの条件である、11ヶ所以上の関節炎を判定するときは、大+小関節炎は顎関節、胸鎖関節、肩鎖関節などを含めてよい。
 
 
<関節の各論>  ここはあくまで個人の見解です。)

関節炎を腱鞘炎(※)と分けて考えよう。肘や膝では、痛いところを指さしてもらうとよい。

 
・足趾のみかた;MTPIPを評価する。MTPの診察RA診断において大切。検者の感度を上げるため、できるだけソックスを脱いで診察する。検者の第1,2指で上下から挟み込み、関節表面をなでると、該当する足趾が上下するのが分かる。IPは視診で腫脹をとらえやすい。手指のPIPに相当する関節という思いをもって、触診する。
 
・足のみかた;頸骨、腓骨、距骨の作る関節に沿って触診する。足関節の外側で足を底屈させることで距骨が出てくるのを感じとる(関節注射の時に距骨の外側で打つので知っておくとよい)。中足足根関節(リスフラン)、横足根関節(ショパール)も意識的に触る。

アキレス腱付着部、足底筋膜の付着部。
 
・膝のみかた;膝蓋骨の外縁に検者の第1,2指を置いて液貯留を感じとる。Buldge signBallotment sign

内・外側側副靱帯、鵞足包(Anserine bursitis)を診る。膝窩嚢胞(Baker’s cyst)。
 
・股関節のみかた;腫脹を触れることはできない。内旋で痛いかどうか。股関節炎のある患者はのけぞるように患側の股関節をベッドから浮かせることがある。
 
・手関節のみかた;橈骨の遠位端と手根骨の近位端の間を意識する。3-4ポータルの上あたりで腫脹を感じとる(とよいと個人的に思っている)。

De Quervain腱鞘炎(Finkelsteinテスト)。総指伸筋、尺側手根伸筋(ECU)の腱鞘炎。
 
・手指のみかた;第2MCPを見れることが最初の目標;中手骨の骨頭と基節骨の骨底を4ヶ所で触れ、その中に関節腔があることを意識する。MCPPIP、(DIPは検者の両母指で同時に押さえこむことで関節包の跳ね返りを感じ取る。母指MCPは180度以上で関節を触れることができる。

手指の屈筋腱炎を評価する。A1プーリーという中手骨末梢の掌側にある腱鞘を押さえて、圧痛を確認する。腱鞘内注射が有効。屈筋腱炎があるとMCP診察のときに検者の第2指がMCP掌側のA1プーリーを押さえることで圧痛が生じることがあるが、検者の第2指があたらないようにしてMCPのみを圧迫すれば、真のMCPの圧痛を評価できる。
 
手根管症候群はリウマトロジストにとってはCommon diseaseである。長掌筋腱の橈側に正中神経が走っており、手根部に入るところで検者の第3指でたたく(Tinel)。Phalen兆候、Finger splittingを確認する
 
・肘のみかた;触診する前に視診で、伸展障害を確認する。伸展障害があれば腫脹によるものかもしれない。若い女性はもともと過伸展(>180)するので、伸展障害があるだけで腫脹を予測できる。Blue collor workerであった高齢男性は元々、軽度の伸展障害がよくあるので注意する。検者の母指を橈骨頭、尺骨、上腕骨の3つを同時に触れることができる、一番深いところに沈め、腫脹を感じ取る。ここで回内・回外をすると橈骨頭が回転しているのが分かる。

内側上顆炎(テニス肘)・外側上顆炎(ゴルフ肘);付着部に負荷を与えて痛みを誘発する(Finkelsteinの原理を応用する)。
 
※尺骨に沿ったリウマチ結節を確認すること。
 
・肩のみかた;まず肩の解剖を理解しておくのが大切。患者の背後に回り、検者の第2(-3)指で烏口突起をふれる。第3-4指を烏口突起と上腕骨頭との間、烏口突起の外側下方に沈めていき、圧痛を確認する。腫脹はわかりにくい。三角筋下滑液包の腫脹があれば視診でも分かることがある。
Range of motionをみる。正常は外転180度、屈曲180度、伸展60度。

五十肩(棘上筋腱炎)では初期は外転だけが障害される。肩を伸展させると棘上筋腱が前方に露出して圧痛を検出できる。他動的に外転を継続すると比較的楽に上がる。
 
・顎関節;検者の第2または3指で。咽頭の観察で開口障害に気づくことがある。
 
・胸鎖関節;MCPと同じように鎖骨端と胸骨切痕を触診できる。RAで以外とよく腫れる。化膿性関節炎の好発部位であることを忘れない。
 

・肩鎖関節。鎖骨を近位より遠位になぞっていって、少し隆起した後に落ちるところ。
 
※↑の3関節は分類基準の関節数に含まれてよい場合がある(≧11関節5ポイント)。
 
(補足)RAというよりはSpAで使う診察
仙腸関節;側方からの圧迫、後上腸骨稜の下あたりを圧迫。

※坐骨結節の付着部炎。臀部の診察は同意を得てから行いましょう。
 
ps;
リウマトロジストの経験上、RAにおいて決して腫れない関節が二つあります。それは顎関節と肩鎖関節です。股関節は腫れていても、分からない関節なのです。なので、腫脹は62関節でよし。なんてね(笑)