リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

非定型抗酸菌症(MAC)による化膿性関節炎

Clinical scenario
多発血管炎性肉芽腫症(GPA/Wegener's)にて免疫抑制療法を受けている70歳男性が入院した。
 
5ヶ月前より左手関節の腫脹・疼痛が出現した。
 
左手滑液包の穿刺液の検査にて、WBC2万、細胞診(-)、抗酸菌塗抹(±)Mycobacterium intracellularePCRが陽性であった。
 
(症例は架空です)
 
(※)MACとはM. aviumM. intracellulareを合わせたものを言い、両者はPCR法で区別できます。
 
 
< 疑問、発生! >
非定型抗酸菌による化膿性関節炎について勉強しよう。
 
 
Uptodate
mycobacterium avium complex arthritisを検索し、Epidemiology of nontuberculous mycobacterial infectionsのなかのMACを見ましたが、Pulmonary diseaseDisseminated diseaseしかなく、関節炎の記載がありません。
 
関節炎はNTMという比較的稀な疾患の稀なプレゼンテーションなのです。
 
 
Pubmed
*1 AND (joint or arthritis or monoarthritis or oligoarthritis)
 
Pubmed検索します→127件。。。
 
polyarthritisならDisseminated NTMになるだろうと思ったので、mono-oligo-にしました)
 
Case reports or Review, Humans, Englishで絞ると、54件になったので、タイトルを読んでみます。
 
新しくはありませんが、Freeで落とせたものだけ読むことにしました。
 
ARARDCID、いずれも一流ジャーナルですね。よし、よし。
 
 
13. Mycobacterium avium complex tenosynovitis of the wrist and hand.
Arthritis Rheum. 2004 Feb 15;51(1):140-2.
 
Case report
44歳の左利きの白人男性
(主訴) 手と手首の腫れ
(病歴)
15ヶ月前、左中指のDIPの掌側に結節が出現し、こわばりを伴った。4ヶ月後、左中指と環指の間欠的なこわばりと腫脹、左手首から前腕の掌側の疼痛、左手のしびれとチクチクした痛みを訴えた。彼はNSAIDと手のスプリントで2-3週間治療されたが、症状は持続した。
・神経伝導検査は左手首で中等度~高度の正中神経の単神経症を示し、局所的な脱髄と軸索障害を伴った。
・彼は左手根管の開放術、屈筋腱の腱鞘滑膜切除術、左中指の結節の生検を受けた。術後彼の手の症状は改善し、4ヶ月間良い状態であった。
・組織学的に無数のよくできた非乾酪性肉芽腫が認められた。抗酸菌と真菌の染色は陰性。培養は得られず。
・彼は左母指、示指、中指、環指の間欠的な腫脹とこわばりのため、この施設を受診した。発熱、悪寒、皮疹はなく、左手の外傷はなかった。その他の関節には症状がなかった。仕事は建築業で汚水をよく扱った。彼はIV Drugの使用はないと言い、内服歴で寄与するものはなかった。唯一の趣味はカーレースをすること。
身体所見と検査
・診察上、左手と手首が腫脹。母指球のしわのすぐ内側に手術痕があり、左手首の掌側、左母指の橈側に紅斑と浮腫があった。左第2MCPに滑膜腫脹があった。左環指に小結節があった。左腋窩にリンパ節腫脹を認めた。ESR 8 mm/h。左手のMRIは前腕の長屈筋腱の滑液包から掌の屈筋腱にかけて液貯留を認めた(Figures 1 and 2)
(手術)
・左前腕年に部、手首、手指の屈筋腱の滑膜切除術を行った。滑膜の高度増殖性の肥厚と炎症があった。凍結標本にて非乾酪性肉芽腫が証明された。組織検査は組織検査に加え、ルーチン検査、嫌気培養、抗酸菌培養、真菌培養に提出された。組織検査にて滑膜の過形成、慢性炎症、壊死性の上皮性肉芽腫が分かった。抗酸菌培養にてMACが培養されたが、薬剤感受性は得られなかった。真菌培養は陰性。胸部X線は特記事項なし。
(治療)
クラリスロマイシン(CAM 500mg12回、リファブチン300mg/日、EB 1200mg/日のコンビネーションで治療された。1ヶ月後、彼は視力低下に気付き、リファブチンを半分に減量して改善した。2ヶ月後、視力低下が再発し、びまん性の筋痛・関節痛を伴った。リファブチンを中止し、症状は改善した。最近の受診時、12ヶ月の抗抗酸菌療法のうち11ヶ月を終えていた。症状はなく、左手の筋力とROMはフルに戻った。制限なく仕事に復帰している。
 
Discussion(一部略)
MACは至る所にいる菌である。
Hellingerらは明らかな免疫不全患者における手指・手首のMACの腱鞘滑膜炎を報告した。1966–1994年の英語の文献例10例をレビューし、自験例6例を報告した。
・患者は一般に中年か高齢であり、通常指一本または手関節が数ヶ月腫れる。一つの指が侵されるとき、腫脹は指全体を侵すかもしれない。あるいはひとつの関節(とくにMCP関節)か指節骨に限局するかもしれない。時に手指全体が腫脹することもある。症状が出現する前に外傷の既往があるかもしれない。
・時に患者は手根管に治療的な注射をしているかもしれないし、手根管症候群に対する開放術を受けているかもしれない。その後徐々にその部位に腫脹と疼痛が出現する。ほとんどの患者が外傷による抗酸菌の侵入によって、または治療手技の間の局所的な導入によって二次的に感染症にかかっているのであろう。
・外科的デブリードマンの間に得られた材料は肉芽腫性の滑膜炎を示す。塗抹は自験例では陰性だったが、抗酸菌培養は通常菌の同定に寄与する。
・適切な治療法はなにか?Hellingerらは外科的なデブリードマンと滑膜切除術が管理する上で不可欠であることを示唆した。そして、滑膜切除術のみで改善した非定型抗酸菌による滑膜感染症の報告があることを示した。抗抗酸菌治療の役割は不明。それらのシリーズにおける患者のほとんどが何らかの抗抗酸菌治療を受けている。
・一般に非定型抗酸菌症多剤による治療が必要である。イソニアジド(INH)はほとんど無効でピラジナミドは使われない。治療をガイドする臨床データはほとんどないが、CAMかアジスロマイシン、EB、リファンピシン(RFP)またはリファブチンのコンビネーションが肺MAC症の治療では用いられており、おそらく腱鞘滑膜炎の治療でも用いられるべきだ。
・自験例ではデブリードマンを含む最初の外科的処置は根治的でない。二回目のデブリードマンと抗菌化学療法が治癒に効果的であり、手指の機能を維持した。私たちのケースは手術と抗抗酸菌治療のコンビネーションが有効であった症例のリストに加わった。
 
 
15. Two cases of Mycobacterium avium septic arthritis.
Ann Rheum Dis. 2002 Feb;61(2):186-7.
 
Case 1
51歳女性
1999年にレイノー現象と顔面の毛細血管拡張、強指症、抗核抗体陽性のため受診した。労作時呼吸困難を訴え、HRCTにて活動性の胞隔炎を示唆するすりガラス状陰影を認めた。強皮症の間質性肺炎と診断し、プレドニゾンPSN30mg、アザチオプリン(AZP100mgの治療を開始した。
20008月、左肩の疼痛とこわばりを訴え、ステロイドの関節注射で治療された。6ヶ月後左肩の液貯留を来たし、漿液血液状の関節液50mlを排液した。グラム染色と最初培養検査は陰性で、チールニールセン染色も抗酸菌を示さなかった。顕微鏡検査にてカルシウムヒドロキシアパタイトの存在が示唆されたため、肩関節に再びステロイドを注射した。2ヶ月後M.aviumが培養にて同定された。
CAMEBで治療され、改善した。
 
Case 2
36歳男性
1993年に関節痛、近位筋の筋力低下、CK 12000 U/Lを認め受診した。筋生検によって多発性筋炎の診断が確定した。プレドニゾン(初期量60mg/)AZP 150 mgが開始された。
1997年患者は腋窩リンパ節腫脹を来たし、生検は結核菌を示した。RFPINHEBによって改善した。
1999年、左膝と右手に滑膜炎が出現した。ともに関節液穿刺を行い、最初のグラム染色、チールニールセン染色、培養検査が陰性であることを確認して、コルチコステロイドを注射された。
8週間後、M.aviumが左膝より培養され、CAMEBRFPによる治療が開始された。
6ヶ月後に右手の腱鞘滑膜切除術が施行され、組織は肉芽腫を示した。培養はM.aviumの存在を確かめた。
・現在、患者はPSN 7.5mg/日とAZP 150mg/日に加え、抗抗酸菌治療を続けている。しかし、化膿性関節炎の臨床所見は残存する。
 
Discussion
M aviumによる化膿性関節炎は稀。ほとんどは免疫抑制剤HIV陽性患者の様な免疫不全患者に起きる。
・膝がもっともコモン。非定型抗酸菌による化膿性関節炎の患者の40%までが問題の関節にステロイドの関節内注射を受けている。これらの感染症の診断は培養結果が分かるまでは遅れる。関節液の培養で診断されるのが約15%、あるいは外科的に得られた組織の培養によることもある。この感染症はしばしば潜在性に発症するため、診断が何年も遅れるが。
・抗抗酸菌薬を(感受性に応じて)投与する。外科的な滑膜切除術を行うことも行わないこともある。予後は様々であるが、ほとんどの患者においてほど良い機能の回復を期待できる。
・まとめると、M. aviumによる化膿性関節炎の2例を報告した。2例は以前に炎症性関節炎と診断されたことがあり、AZPと全身性・関節腔内のステロイド投与を受けていた。皮膚筋炎や強皮症において有意な滑膜炎を有する関節炎はコモンではないため、これらの薬剤を投与される患者の鑑別疾患としてM. aviumを考慮するべきである。
 
 
21. Primary Septic Arthritis and Osteomyelitis Due to Mycobacterium avium Complex in a Patient with AIDS
Clin Infect Dis. 1997 Oct;25(4):925-6.
 
Case
46歳のhomosexualの男性。1989年よりHIV陽性で、梅毒、B型肝炎、再発性の肛門周囲ヘルペスの既往あり。
19968月、来院。左膝の腫脹、発赤、歩行時の疼痛が3週間かけて進行したため。
・膝や周囲の皮膚の外傷歴はなし。発熱、寝汗、体重減少なし。HIVに対する抗ウイルス剤内服中。
・診察上、左膝は腫脹、軽度発赤し、熱感がある。ROMは減少し、液貯留がある。
WBC 4100Hb12.7Plt11.5万。ESR、肝機能は正常。
19967月、CD4 8/μLHIV-PCR 292000コピー/mL。ツ反(-)
X線にて外側唇の溶解あり。MRIにて外側唇の破壊性変化が膿瘍に一致する軟部組織に拡大していることを確かめた。
・膝の関節液穿刺は失敗したため、生検とドレナージ術を施行。骨は黄色い脂肪組織と液貯留に置き換わっていた。骨標本の顕微鏡的検査では肉芽腫性骨髄炎を示した。Kinyoun染色にて多数の抗酸菌を認め、培養にてMACを検出。その他の真菌、細菌は陰性。血液培養、喀痰培養は抗酸菌(-)
INH, RFP, EB, PZAが開始されたが、MACと判明してからはリファブチン、CAMEBに変更された。腫脹と疼痛は最初は改善したが、手術した部位に瘻孔が形成され、慢性的に排液があった。
199611、傷と瘻孔の閉鎖のため2回目のデブリードマン術を施行。CD4 9.8/μLHIV-6 DNA 800 copies/mL。膝の疼痛・腫脹は抗菌化学療法によって数カ月かけてゆっくり改善した。
 
Discussion
MACによる化膿性関節炎はAIDS患者4例において報告されている。その4例のうち3例が播種性MAC症。一例は最初の感染が推定されたが、感染部位から離れた部位からの関節に浸透する傷が持続した。すなわち、化膿性関節炎は免疫が弱まった時に慢性感染が再燃することを表現するものかもしれない。そのような浸透性の外傷から何年もたってMAC症が発症することが免疫に問題のない宿主において報告されている。顕著なのは、同様の外傷歴から35年もたってMACの化膿性関節炎を発症した46歳男性の例である。
・自験例は播種性MAC症を有さず、感染部位の外傷歴を有さなかった。したがって、この感染症原発性の化膿性関節炎と言える。
・明らかな免疫不全にもかかわらず肉芽腫形成を伴う局所の強い免疫反応の存在は過去に報告されている。この反応は進行したHIV患者でも比較的保たれるCD3+, CD4-, Thy1+細胞の補充を表しているものと推察されている。もう一つの仮説は最近導入された抗レトロウイルスの治療レジメによってウイルス抑制が可能になり、免疫の再構築をある程度可能にしたという事である。この仮説は199611月、この患者のCD4 cell countが増加しウイルス量が減少したことで支持される。
・このケースはAIDS患者おいてMACの増大するスペクトラムの中に播種性疾患、すなわちde novoの感染として化膿性関節炎が出現すること、そして局所の外傷後に侵入して感染症が起きることを示した。化学療法による改善はMAC関節炎の全ての報告例において記載されているため、AIDS患者では抗酸菌による全身の症状がなくても亜急性関節炎の鑑別疾患として早い段階で考慮されるべきである。
 
 
< まとめ >
 
・(AR2004)既知の免疫不全がない44歳男性。15ヶ月前から一本の指より発症。月単位で悪化。滑膜切除術で4ヶ月間改善。組織は非乾酪性肉芽腫でMACが培養される。2回目の滑膜切除術とCAM、リファブチン、EBにて加療し改善。
→滑膜切除術とCAM、リファブチン、EBにて改善。
 
・(ARD2002-Case1ステロイドAZPにて治療中のSScを有する51歳女性。左肩の関節液50mlよりM.aviumが検出され、CAMEBにて改善。→2剤で効いた例
 
ARD2002-Case2)ステロイドAZPにて治療中の筋炎を有する36歳男性。左膝よりM.aviumが培養され、CAMEBRFPにて加療されたが、6ヶ月後に右手の腱鞘滑膜切除術が施行され、培養で再度M.aviumを検出。治療を続けるが、化膿性関節炎は慢性化。→3剤が無効だった例
 
・(CID1997HIV+46歳男性。左膝のMACにドレナージ術、リファブチン、CAMEBにて一旦改善したが、術創に孔形成し排液。3ヶ月後、傷と瘻孔の閉鎖のため再度デブリードマン術を要した。化学療法にて数カ月かけて改善。→リファブチン、CAMEB、ドレナージ→デブリードマンにて改善した例。
 
・多いのは膝と手~手指。経過は数カ月~最長15カ月。原因は免疫抑制剤AIDS
 
 
Scenario caseの経過>
この方は免疫抑制療法中に出現した左手滑液包炎で月単位に悪化し、5カ月で診断されました。MACによる化膿性関節炎として典型的な経過でした。
 
報告例において、CAM, RFP, EBによる治療の報告が多いようですね。また、滑膜切除術をしているケースが多いです。
 
この方の場合、SMを加えた4剤にて治療を開始し、1か月後に改善に乏しかったため、滑膜切除術を整形外科にお願いしました。
 
 
ps; SMの詳細は割愛しますが、以下を参考にしました
 
Uptodate; Treatment of nontuberculous mycobacterial infections of the lung in HIV-negative patientsfibrocavitary MAC lung disease or severe nodular or bronchiectatic disease
 
Uptodate; Mycobacterium avium complex (MAC) infections in HIV-infected patientsTherapy
 
 

ps;↓SLEについて執筆しております!

 

ps;↓執筆協力しております!

 

*1:"Mycobacterium avium Complex"[Mesh] OR "Mycobacterium avium-intracellulare Infection"[Mesh]