リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

Polyarticular septic arthritis

 
Clinical scenario
78歳女性、多関節痛
 
関節リウマチ(RA)のため近医にてフォロー中であった。プレドニゾロン10mg投与中。
 
来院の10日前より右手関節痛、ついで両膝関節痛を来たし、
 
4日前に前医を受診。WBC11000, CRP20。多関節炎を認め、リメタゾン注射。
 
ERに紹介され、当科に紹介。
 
37.1度、150/80mmHg、脈拍100RR20, SpO2 94%
 
右手(尺側)、両膝に著名な腫脹を認め、両足~足背に強い発赤、腫脹を認めた。
 
関節液穿刺を行ったところ、右膝;膿性の関節液20mlWBC 46000、結晶なし。
 
左膝;白濁した関節液5ml、沈着物のため途中で抜けなくなる。WBC 9000、結晶なし。
 
右手部、右足;抜けず、左足;1滴のみ
 
血液培養2setを施行し、CTRX, VCMを開始した。
 
後日、血液培養、両膝関節液培養より、MRSAを検出した。
 
MRSAによる多関節の化膿性関節炎と診断した。
 
(症例は架空です)
 
 
 
< 疑問発生! >
 
化膿性関節炎と言えば、通常、単関節であることが多いと思うのですが、多関節であることもあるのでしょうか。
 
 
 
Uptodate
Uptodateにてseptic arthritisを検索し、Septic arthritisin adultsを読みます。
 
Polyarticularを検索すると、CLINICAL MANIFESTATIONS に以下を見つけました。
 
少数関節または多関節の感染が化膿性関節炎の約20%で見られ、通常2-3の関節。多関節の化膿性関節炎はRA患者かその他の全身性膠原病、重症敗血症の患者に起きやすい(ref28)
 
Ref28に飛びます。
 
<Uptodateの孫引き>
Medicine (Baltimore). 1993Sep;72(5):296-310.
Polyarticular septic arthritis.
 
Abstract
・Polyarticular septic arthritis (PASA)25例が13年の間に当科で観察された。全ての化膿性関節炎の16.6%(文献の平均15%)。当科の患者では男性が多く、文献でもそうだった。
・膝が最多で、次いで肘、肩、股がシリーズに応じ、様々な順に多かった。侵される関節は平均4関節。
・病因となる微生物は当科では25例中20例でブドウ球菌、出版されたケースでは約50%。その他に多い菌は連鎖球菌とグラム陰性の細菌。
・当科の症例において血液培養と関節液培養は各々19/2223/25で陽性。その他の化膿性病変は25例中10例だった。
・発熱と高度の白血球上昇は5/25(文献では37%)でなし。
・基礎疾患は13/25で関節リウマチ。その他の9例が薬剤か併存疾患のために免疫抑制の状態だった。典型的にはRAは長期罹患で破壊性。患者は足部に感染の原因となる潰瘍化した胼胝を有し、これは出版されたRAPASAにおいて23/36でみられた。SLEPASAの原因としては稀であったが、グラム陰性感染を推進した。
2剤の抗生剤による有効な治療にも関わらず、8/25が死亡し、文献上の報告と同様だった(30%)。驚くべきことにこの予後は最近40年において同じだった。比較として当科におけるMASAの死亡率は4%のみ。
予後不良に寄与する因子は>50歳、基礎疾患として関節リウマチがあること、ブドウ球菌によるもの。
・化膿性多関節炎は健康そうに見えない時にも考えるべきだ。微熱、白血球が正常である時も。離れた関節が同時に障害されていても否定するべきでない。実際に根底となるリウマチ性疾患とその治療は臨床状況をさらに複雑にするかもしれない。感染を有する関節は過去にリウマチ性疾患で障害された関節も含め、関節液排液をすべきである。
 
 
Patients and methods
Definition of PASA
観察する対象は以下
1) 関節液より細菌が検出されること and/or
2) 血液培養陽性の敗血症の患者における急速に広範に伸展する関節障害
3) 仙腸関節以外の複数の関節が障害されている時。
外傷による感染、淋菌、Brucella属、抗酸菌、マイコプラズマ、その他の非細菌性微生物は除外した。
当科はおもに田舎の県の一次・二次の紹介センターであり、薬物乱用、HIV感染はまだ稀である。このため薬物乱用やAIDS患者における化膿性関節炎については研究(検査)されていない。
この後ろ向き研究は1979-1991年において当科に入院した化膿性関節炎の全ての患者のカルテを包括するものである。多関節性化膿性関節炎(Polyarticular septic arthritis, PASA)が25例含まれた。比較対象として、単関節性化膿性関節炎(Monoarticularseptic arthritis, MASA95例を集めた。
Literature reviewは略。
 
Results
PASAのシリーズ (Table 1)と対象となるMASA (Table 2)
・診断時PASAの平均年齢は62歳;56%60以上;50歳未満はいなかった。MASAの患者は似たような年齢分布を示した。
PASA52%MASA67.4%が男性。
 
イメージ 1
 
 

 

 
・平均の障害関節数は4(範囲2-14)。
・主な関節は多い順に膝(n=18、両側10)、肘(n=10、両側2)、肩(n=9、両側1)、手(n=8、両側4)、MCPIPn=8)、足(n=6、両側4)、股(n=5、両側2)。稀にMTP、肩鎖、胸鎖関節。
MASAでは、膝、股、肩関節は全ての場所の73%を占めた。4例は人工関節の感染(股4、膝1)。
・細菌がPASA92%から検出され、MASA95%から検出された。関節液穿刺はRA患者13例中11例において、RA以外では12例中6例において2関節以上で陽性となった。抗生剤の早期からの使用が8例中4例の二回目の穿刺で陰性となった原因だった。
PASA患者の76%で血液培養が陽性だったが、MASA患者では33%のみ。
PASA80%MASA62%においてブドウ球菌が原因微生物であった。
PASA85%MASA86%がメチシリンに感受性があった。連鎖球菌はPASAでは頻度(4%)がMASAの頻度(19%)よりも少なかった。
PASAでは皮膚病変が感染の源だった。6例が足部。3例では外科的処置が原因;その他の2例はステロイドの関節注射、1例では尿路感染だった。
・関節外の複数の化膿性病変がPASA10例で見られ、肺4例、心内膜炎3例、皮下膿瘍3例、以下は1例ずつ;中耳炎、感染性耳下腺炎、肝膿瘍、化膿性滑液包炎。
PASA患者の20%MASA19%において入院時に熱がなかった(<37.5度)。PASA10例においてWBCは上昇していなかった(<10000)。PASA3例は白血球減少を呈した(<4000)。ESRは平均90mm/1h14例において>100であったが、2例において<30だった。
・関節液の白血球数はPASA6例中2例、MASA41例中6例において10万を超えた。
・併存するリウマチ性疾患はPASAでは52%と多く、MASAでは稀(6%)。基礎疾患は通常関節リウマチ。典型的には進行した長期罹患(平均14年;>10年が13例中9例)で、ステロイドで治療されていた(13例中11例)。
・一例は糖尿病を有し、もう1例がアミロイドーシスを有した。
RAを合併していないPASA3例が肝硬変、2例が糖尿病、その他は5例で以下が1例ずつ:クッシング病、SLE、多発性神経根障害、再生不良性貧血、軟骨石灰化症。MASAでは16%が糖尿病、4%ステロイド投与中、4%が癌、1例がSLE、もう1例が乾癬性関節炎。
・治療は抗生剤2剤を3-4週間、静脈投与し、経口抗生剤2剤を平均4.5ヶ月投与した。
・血清における殺菌性をVitroで検査した。殺菌性の値は治療を少なくともピーク1/8、トラフ1/2に調整するように用いられた。大関節に関節液が多量溜まっている時、関節液排液が必要である限り、毎日の排液が行われた。
・外科的治療もPASA44%MASA22%で行われた。ほとんどのケースにおいて膿がドレナージされ、壊死組織や感染した人工物が取り除かれた。関節固定術が2例で行われ(足、MCP、第1IP)、3例目では二つの指を切断した。オスミウム酸、放射性アイソトープ、稀にはトリアムシノロンの関節注射が6例に12回行われた。
PASA32%MASA4%感染症かその合併症のため死亡した。
 
Literature reviewTable 5のみ示します。
 イメージ 2
 
RAを基礎疾患としたPASAは、ブドウ球菌は約半数であり、予後も約半数で死亡というものであった。
 
 
<Scenario caseの経過>
生命予後は約半数とする報告があります、とICした。
 
VCMによる治療を継続し、両膝のドレナージ術を施行した。両膝の洗浄を繰り返した。
 
後日の造影CTにて化膿性脊椎炎・腸腰筋膿瘍の合併が判明したが、外科的な介入は困難と判断された。
 
 保存的治療を1ヶ月継続し、血液培養がやっと陰性化した。
 

ps;↓SLEについて執筆しております!

 

ps;↓執筆協力しております!