リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

リウマチ熱 vs 溶連菌感染後反応性関節炎

Clinical scenario
60歳男性
 
1ヶ月前より左足の疼痛・腫脹、その数日後より右手の疼痛・腫脹が出現した。
 
前医に入院の上、セファゾリン、アンピシリン・スルバクタムを計3週間投与され、軽減したものの、左足の関節炎は持続。
 
3日前に退院し、科に紹介された。前医のASO 2200と高値のため、リウマチ熱疑いとのこと。
 
移動性関節痛なし。皮下結節なし。
 
WBC8000、CRP5 (発症時はCRP30)。RF(-)、ACPA(-)。
  
よくよくお話を聞いてみると、関節炎が出現する少し前に扁桃腺炎になって耳鼻咽喉科で投薬を受けたとのこと。扁桃腺炎は1年に1回くらい、繰り返していると。
 
 
(症例は架空です)
 
 
< 疑問、発生!>
急性リウマチ熱の診断は?
 
 
Uptodateにて>
Clinical manifestations and diagnosis of acute rheumatic feverを読みます。
 
PREDISPOSING FACTORS —急性リウマチ熱(ARF)は一般に先進国ではA群連鎖球菌(GAS)の扁桃腺炎に次いで起きる。GASの皮膚感染症ではなく。しかし、ARFとリウマチ性心疾患の多い発展途上の地域のデータではこのことは明らかでない。
例えば、オーストラリアのアボリジニ―の中では、最もコモンなGAS感染症は膿皮症;症状のある扁桃腺炎and/or咽頭のコロナイゼーションは稀。その理由として可能性があるのがGASによる再発性膿皮症は咽頭感染やコロナイゼーションに対し保護的に働く。代わりに、GASのある特定の抗原や酵素を持つG群やC群の連鎖球菌がARFの病因として重要であるかもしれない。オーストラリアのアボリジニ―のARFの中にはG群、C群連鎖球菌が咽頭ではなく、膿皮症より検出されている。
 
 
CLINICAL MANIFESTATIONS
Acute illness — 急性疾患―
ARFがもっともよく起きるのは5-15歳の子供:3歳までの子供と成人には稀。
ARFの診断は臨床背景によるところが大きい。Jones criteriaとして知られる最初の臨床所見の既述は1944年にJonesによって出版され、1965年に改訂された。続いて、アメリカ心臓協会AHA)が1992年にガイドラインを作成し、AHAJones criteriaワーキンググループがこの記述を2002年にレビューした。
ARFGAS感染症に次いで起きる以下の臨床所見によって特徴づけられる。
 
5つの大基準は:
■移動性関節炎(主に大関節)※
■心臓炎と弁膜炎(すなわち、全心臓炎)
■中枢神経障害(例、Sydenham舞踏病)
■有縁性紅斑
■皮下結節
 
4つの小基準は:
■関節痛
■発熱
■急性期反応物質(ESR, CRP)の上昇
PR間隔の延長
 
(※引用の文献、JAMA1992ではMigratory arthritisではなく、Polyarthritisとされております
 
ARFの確率が高いのはGAS感染症についで二つの大基準、または一つの大基準と二つの小基準がある場合。二つの小基準だけでは診断的ではない:そのような患者をフォローしても遅れてARFが発症するということはない。
 
抗炎症薬で治療される患者には単関節炎があるかもしれない。ARFの所見や症状が明らかになる前にステロイドNSAIDSで治療することはARFの診断を難しくするかもしれない。そのような場合、二次的なリウマチ熱の予防の必要性を決定することが難しくなる。そのような治療を一時的に待つことが悪い結果をもたらすというエビデンスはない。
 
ARFの推定の診断を上述の基準に縛られずにくだすことができる3つの状況がある。
 
■舞踏病のみ
GAS感染症の数カ月後に受診する無痛性の心臓炎のみの患者
■リウマチ熱の既往やリウマチ性心疾患のある患者における再発性のリウマチ熱。心膜炎や新たな弁膜症がない場合、急性発作中の急性心臓炎を診断することは難しいかもしれない。したがって、最近のGAS感染症の証拠があれば、いとつの大基準かふたつの小基準でもって再発性ARFと暫定的に診断してもよいかもしれない。単関節炎、発熱、関節痛のような単独の臨床所見をひとつの基準としてカウントすることには注意した方がよいことが提案されている。
 
流行地域においてJones criteriaに縛られすぎると、underdiagnosisの原因になるかもしれない。単関節炎と微熱が重要な所見とされるオーストラリアのアボリジニ―においてARFと確かめられた555例の報告に証明されている。
 
Arthritis — リウマチ熱による関節炎の自然歴はいくつかの関節に関節炎が立て続けに起き、各々2-3日から1週間続く。膝、足、肘、手がよく侵され、典型的には下肢の関節が最初に侵される。異なる関節に関節炎が起きることが重なり、疾患が関節から関節へと移動する様相を呈する。このように"migrating"、または"migratory"はリウマチ熱の多関節炎を記述するのに用いられる。関節炎の発症と改善は急速であり1-2日以内であるかもしれない。関節炎は運動を障害するほど重症であってよい。関節障害は子供よりも10代、若い患者によりコモンで、重症。
 
関節炎は通常ARFの最も早い臨床症状である。無症状の心臓炎が最初に出現してもよいが。関節痛は通常炎症所見よりも顕著でほとんどいつも一過性。典型的に、関節炎は多関節に出現し、各々の関節が1週間以上炎症を起こしていることはない。侵された関節のX線所見はわずかな液貯留を示し、通常はっきりしない。
 
ARFの自然歴は経験的なNSAIDs治療で変化する。そのような場合、関節炎は急速に改善し、新たな関節に移動しない。関節炎を治療されたリウマチ熱の患者のシリーズ研究で、ひとつの大関節炎がコモンだったとするものがある。別なシリーズでは、オーストラリアの555例のアボリジニ―の患者において、単関節炎が17%で見られた。
 
リウマチ熱の関節液検査では無菌の炎症性関節液が認められる。
 
 
Carditis — リウマチ熱は心膜、心外膜、心内膜に及ぶ心筋全心臓炎を起こす。弁炎の存在は聴診所見とMRARを示すエコー所見で診断される。しかし、心エコー所見は非特異的かもしれない。心臓の弁へのダメージは慢性、進行性で心不全の原因になるかもしれない。心臓炎の臨床所見と診断は別に述べる。
 
 
Sydenham chorea — 小舞踏病や"St. Vitus dance"としても知られるSydenham舞踏病は突然発症する不随意運動で、筋力低下、感情変化からなる神経症状。神経学的所見では感覚異常や錐体路の障害は認められない。
この運動はしばしば片側で顕著で時に完全に片側性(片側舞踏病)。睡眠中は止まる。筋力低下は患者に検者の手を握るよう指示すれば最もよくわかる。患者の握力が気まぐれに強くなったり弱くなったりする。ぶり返す握力、またはミルク絞りサインとして知られる現象。びまん性の筋緊張低下があるかもしれない。感情変化は泣いたり、じっとしていられないなどの不適切な行動で出現する。稀に精神症状が重症であったり、一次的に精神病になるかもしれない。
 
舞踏病は連鎖球菌感染後8カ月まで出現しうる;これはその他のリウマチ性疾患に比べ長い潜在期間である。舞踏病の患者の中にはその他の臨床症状がないものもいるが、心エコーによる心臓炎の評価を受けるべきだ。
 
Erythema marginatum — 有縁性紅斑は体幹と時々四肢を侵すが、顔を侵さない一過性のピンクか淡い紅色の皮疹。病変は外側に向かって拡大し、中心部の皮膚は正常に戻っていく。外側の縁はシャープ;内側の縁はびまん性。病変は通常持続的で輪を形成するため、“環状紅斑”としても知られる。
 
個々の病変は時間単位で出現したり、消えたり、また出現したりする。温かい風呂やシャワーによってそれらが明らかになるかもしれない。有縁性紅斑は急性心臓炎の患者において通常ARFの初期に出現するが、その他の所見が全て消えた後でも持続したり、再発したりする。慢性心臓炎の患者で報告されている。病変が経過の遅くに初めて出現したり、回復期に出現することもある。
 
Subcutaneous nodules — ARFの皮下結節は硬く、無痛性の数ミリから2cmまでの病変。結節は通常骨表面や突起や腱の近くに限局し(通常伸側)、通常対称性。それを覆う皮膚は炎症がなく、通常結節の上を移動させることができる。結節の数は一つの場合から20-30ヶのこともある。平均は3-4ヶ。
 
リウマチ性の皮下結節は通常、比較的重症の心臓炎の患者に通常発症の最初の週が終わって出現する。典型的に結節は1週間以上存在する;稀に1ヶ月より長く持続する。
 
ARFの結節は関節リウマチの結節と比べ小さく、より短命である。ARFRAとも肘が最も好発する部位。ARFの結節が肘頭に最もよく出現するのに対し、リウマチ結節はそれより3-4cm離れた部位に通常出現することで区別される。
 
ARFの同時期のアウトブレイクにおいて結節はもっとも稀な所見(<5%)。
 
 
Late sequelae — 後期の後遺症―リウマチ性心疾患はARFの最も重症の後遺症。最初の疾患から通常10-20年後に起きるのが普通で、世界中で後天性弁疾患の最もコモンな原因。僧帽弁は大動脈弁よりもよく侵される。僧帽弁の重症の石灰化によって起きる僧帽弁狭窄はリウマチ性心疾患の典型的な所見。
 
ARFの既往のある患者においてリウマチ性心疾患の発生率は様々。;一般に弁の障害は腎性の紅斑に心雑音として出現し、最初に心臓炎の所見があった患者の約50%に起きるようだ。
 
多関節炎を有するARFの再発性のエピソードに関連する稀な後遺症はJaccoud関節症。これは手指and/or足趾を侵す良性の慢性関節症。変形は疼痛がなく、修復可能で、機能障害の原因にならない。関節症は活動性の関節炎と関連しない。
 
DIAGNOSIS — ARFGASに次ぐ上述の臨床所見で特徴づけられる。診断的な検査にはGAS感染症を証明するためのもの、急性期反応物質、心機能の評価。様々なARFの基準の有用性は疾患の発生率によって変わるようだ。
 
溶連菌性咽頭炎は以下のいずれかで診断される。
 
咽頭培養にてA群β連鎖球菌を検出
■迅速連鎖球菌抗原テスト
ASO抗体価の高値
 
咽頭培養はリウマチ熱の症状が出現したタイミングで行っても約75%で陰性。
 
ASO抗体価は年齢、季節、地域によっても異なる。健康な小学生の年齢の子供は200-300 Todd U/mLの抗体価を有する事が多い;無症状で咽頭に溶連菌を有するキャリアは非常に低力価でぎりぎり検出できるくらい。溶連菌咽頭炎についで出現する抗体反応は約4-5週間でピークに達する。この時期は通常リウマチ熱が発症して2-3週後である。次の数カ月のうちに抗体価は急速に低下し、6ヶ月後より緩徐に低下する。これらの理由のため、ARFが最初に疑われた時に1回検査をして、もう一回は2週間後に検査するのが良いかもしれない。
 
確認されたARF例の約80%ASO力価の上昇を来たす。これはリウマチ熱の活動性としては使えないが。ASOが陰性であれば、抗DNAseB抗体(6-9カ月後に検出される)、ストレプトキナーゼ、抗ヒアルロニダーゼ抗体のようなその他の抗連鎖球菌抗体の検査を急いで提出すべきだ;これらの抗体の商品化されたものがある。確認されたARF例のうち陽性になるのは二つの抗原が評価されれば約90%、3つの抗原が評価されれば約95%
 
急性期反応物質はARFで上昇する。CRPESRARFが治療されない限り、常に上昇する。CRPESRは治療を減らした時の炎症のリバウンドをモニターするのに役立つ。リウマチ熱の治療をやめて2週間後にこれらが正常であれば最善の経過であることを示唆する(舞踏病が出現しない限り)。CRPは恐らくより有用である。なぜなら典型的には急性炎症のエピソードが消失すれば、典型的には日単位で正常化するからだ。ESRは一過性の炎症刺激の後2ヶ月までは上昇したままであるかもしれない。
 
慢性炎症による軽度の正球性正色素性貧血がARFの間見られるかもしれない。通常炎症を抑えることによって貧血は改善する;鉄剤の適応はない。
 
補体レベルはARFでは通常正常。反対に低補体血症は典型的には溶連菌後糸球体腎炎では見られる。
 
関節液検査は通常、無菌性炎症性。
 
DIFFERENTIAL DIAGNOSIS —
子供と成人の多関節痛へのアプローチは別に示す。
 
Poststreptococcal reactive arthritis — 溶連菌感染後に関節炎を来たすケースのいくつかはARFによるものではないかもしれないとする報告がある。この疾患は溶連菌感染後反応性関節炎(PSRA)と呼ばれてきた。反応性関節炎は別に示す。
 
以下は反応性関節炎が独立した疾患であることを支持するために用いられる観察結果だ。
 
■溶連菌の先行感染と移動性関節炎の発症は典型的なARFで見られる2-3週間と比べると短い(1-2週間)。
アスピリンやその他のNSAIDsによる関節炎の改善は乏しく、典型的なARFで見られる劇的な改善とは対照的。
■心臓炎の所見はPSRAでは見られない。関節炎の重症度はずっと顕著。
PSRAでは腱鞘滑膜炎や腎障害のような関節外症状がしばしば見られる。
■急性期反応物質(ESRCRP)はARFよりも低い傾向がある。
 
しかし、これらの患者は上述の現象を説明しうる他の要素があるのであれば、ARFを有するかもしれない。例えば、アスピリンへの反応は子供によって多様であるが、これはサリチル酸のレベルが十分でないために起きるものかもしれない。さらに、通常でない臨床経過だからと言って、ARFの診断を除外するべきではない。とくに子供の場合、Jonesの大基準を持たない移動性関節炎は小基準2項目があれば、まだARFと考えられるべきである。
 
この反応性関節炎をARFの亜型としてはっきり定義することは二次予防を考える上で重要。いくつかの研究者はPSRAは予防投薬が要らない良性の疾患だと感じている。一方、1992年のガイドライン2002年のアップデートとも以下の結論に達した。
 
PSRAARFの関係は分かっていないが、Jones基準を満たす患者はARFと考えられるべきだ。
Jones基準を満たさない患者の中で、ライム病や関節リウマチなどのリウマチ性疾患を除外できた場合のみ、PSRAの診断をしてよい。
 
私たちの経験では、これらの患者は通常Jonesの大基準1項目、小基準2項目を満たす。そのため、そういう患者はARFとして治療をすべきであって、適切な抗生剤の予防投薬を行う。この見解を支持する研究がある。移動性関節炎だけを呈した子供の50%が長期の経過観察の後に有意な弁の障害を来たしたというもの。これらの子供が溶連菌感染症を起こしたのはペニシリンが広く入手できるようになる以前の1939-1955年。
 
もうひとつのシリーズは1978-1985年の間にPSRAと診断され、10日間のペニシリンで治療されたが、予防投薬を受けなかった小児の12例。一人の子供は最初のエピソードから18ヶ月後に弁膜炎を伴う典型的なARFを呈した。この割合は心臓炎をもたないARFの最初のエピソードの後に弁膜炎で再発する割合の約10%と同じである。
 
 
Scenario caseの経過>
ASO高値と咽頭炎の既往より、溶連菌感染症を疑った。
 
ARFJones基準において、大基準ゼロ、小基準3項目(関節痛、発熱、急性期反応物質)のみであった。Uptodateの著者の経験上、PSRAは通常大基準1項目、小基準2項目を満たすとされており、PSRAにしても典型的ではないと思われた
 
咽頭炎発症の日付を耳鼻咽喉科に確認してもらったところ、関節炎発症の12日前に受診していた。
 
Uptodateには、感染から関節炎を発症するまでの期間はARF2-3週間、PSRAでは1-2週間されている。この潜伏期間に加え、溶連菌感染後に発生した関節炎にてJones基準を十分満たさないことから、PSRAと判断した。
 
抗生剤治療は十分であり、アスピリンのみで経過観察することにした。