リウマチ膠原病のQ&A

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ステロイド抵抗性の高安大動脈炎の治療③-アザチオプリン-

19歳女性、ステロイド抵抗性の高安動脈炎の治療について迷っています。

 
前項でMTXの観察研究について勉強しました。
 
 
この度は唯一保険適応のある、アザチオプリン(AZP)の観察研究を読んでみます。
 
Role of immunosuppressive therapy on clinical, immunological, and angiographic outcome in active Takayasu's arteritis.
J Rheumatol. 2003 Aug;30(8):1793-8.
 
OBJECTIVE:
活動性TAの患者における臨床的、免疫学的、血管造影的なアウトカムにおいてAZPPSLの免疫抑制療法の役割を評価すること。
METHODS:
19961月から20011月の間過去にいかなる免疫抑制療法も受けていない連続した新規TA患者65例のうち、15例が疾患活動性の基準を満たした。これらの患者において詳細な臨床的、ラボ的な評価を行った。AZPPSLの併用療法を1年間行った。全例で大動脈造影を治療が終了する前後で行った。
RESULTS:
治療開始3ヶ月以内に全身症状と疾患活動性のラボデータの改善が得られた。ESR3ヶ月以内で平均55.5 +/- 14.7 mm/hから21.9 +/- 9.5 mm/hに減少し (p < 0.001)1年後にはさらに20.8 +/- 15.2まで減少した(p = NS)CRP4.8 +/- 5.2 mg/dlから3ヶ月後0.5 +/- 0.2 mg/dl (p = 0.004) 1年後0.5 +/- 0.3 mg/dl (p = NS)。末梢の脈拍や四肢の血圧に変化はなかった。繰り返し行った血管造影ではベースラインと比べ有意な変化はなかった。新たな病変が出現した患者はいなかった。免疫抑制療法は目立った副作用なく、よく耐用できた。
CONCLUSION:
AZPPSLの免疫抑制療法は安全でよく耐用された。TAの疾患活動性の全身症状、ラボデータを改善させる上で有効であった。血管造影における病変の進行を少なくとも1年間は止めるが、動脈の狭窄を改善させるには見えなかった。
 
 
MATERIALS AND METHODS
19961月から20011月の間、循環器科と臨床免疫学にて連続して診療した新規TA患者全てが疾患活動性のスクリーニングを受けた。免疫抑制剤で治療された者はいなかった。活動性を有すると診断された患者を研究の対象とした。TAの診断はACR1990年の基準に基づいた。全ての患者が詳細な診察とESR, CRP, RF, ANA, IgG抗カルジオリピン抗体を含むラボの検査を受けた。胸部X線、12誘導心電図、心エコー、末梢血管ドップラー検査を全例に行った。心臓カテーテル検査および両心の圧検査、完全な二方向透視による大動脈造影を全例に行った。疾患はUeno基準に基づいて、Type I, II, and IIに分類された。
 
Criteria for disease activity.
Validationはされていないが、過去に用いられた疾患活動性の定義をこの研究でも用いた。頸動脈圧痛を含む臨床的に圧痛を伴う動脈が観察されれば、疾患は活動性とみなされた。この身体所見がなければ少なくとも以下の二つの所見が活動性と分類するために満たされなければならなかった:
(1) 1週間以上の説明のつかない発熱and/or 関節痛と筋痛
(2) ESR上昇 > 30 mm/h
(3) CRP上昇 > 0.6 mg/dl
患者は活動性基準に基づいて活動性を有するGroup 1、活動性の所見がないGroup 2に分けられた。
 
Treatment protocol.
・活動性のある患者はPSLAZA併用の標準的プロトコールに沿って免疫抑制療法を受けた。
PSL1 mg/kg/日を6週間、ついで疾患活動性の所見が改善し炎症に関するラボデータが正常化すれば漸減し12週までに5-10mgとした。疾患活動性の所見が12週を超えて続けば、ステロイドの減量はより緩徐にした。PSLは維持の投与量5mg/日または10mg/日にて1年間継続した(中央値10mg、範囲5-10mg)。
AZA2mg/kg/日で1年間投与された。全ての患者が対称療法を受けた(たとえば、高血圧に対する降圧剤)。
・免疫抑制療法を受ける患者は6週後、3612ヶ月の時点でフォローされ、詳細な臨床評価とラボの検査を受けた。
・血管造影は免疫抑制療法の1年後に繰り返された。予め決めたAZA中止の指標はWBC< 4000/mm3, 血小板 < 100,000/mm3, Hb < 7 g/dl
 
Angiographic analysis.
・血管造影は全例において免疫抑制療法を開始する前と、少なくとも治療を行って1年以上たって行われた。全ての血管造影手技は鼠径動脈ルートから逆行性に行われ、標準7Frカテーテルmeglumine dye (Urograffin, Schering AG, Berlin, Germany)を用いた。二回目の血管造影の際には最初と同じビューを繰り返すよう注意を払った。血管造影は13例において標準35mmのシネアンギオグラフィックフィルムにて記録され、2例ではdigital subtraction angiography (DSA)フィルムで記録された。
・全ての動脈造影は患者の病状を知らされていない二人の独立した専門のレビュアーにて解析された。血管造影は実際の検査時ではなく、レトロスペクティブにレビューされた。血管造影はレビュアーにランダムに提示された。
・血管造影で測定したデータ、狭窄の程度がhand-held caliper methodを用いて計算された。大動脈の異なる部位における横断直径を病変がない場所で測定した。外径7Frカテーテルを基準として(7 French = 2.33 mm)。同様に大動脈とその枝の病変部位の横断直径をもっとも狭い部位で測定した(管腔の最少直径)。そして、いずれの病変の狭窄の%を各々計算した。同じ方法は治療前後の血管造影に適応された。ベースラインと免疫抑制療法後の血管造影における各々の領域、狭窄を比較した。
 
Statistical analysis. (略)
 
RESULTS
Baseline characteristics.
19961月から20011月の間、計15例が疾患の活動性の基準を満たした。15例全例が初めてTAと診断され、免疫抑制療法を受けた者はいなかった。
・全例女性で平均年齢28.3 ± 7.3(範囲14–38)。発症から登録までの平均期間は12.9 ± 5.8ヶ月(範囲 4–24)
・高血圧が6例、上肢の跛行8例、下肢の跛行3例、前失神4例。頸動脈圧痛は4例に認めたが、6例は関節痛and/or筋痛を有した。1週間以上発熱を認めたのが6例。
・平均ESR 55.5 ± 14.7 mm/h、平均CRP 4.8 ± 5.2 mg/dlANAは全例陰性。
・一例はRF軽度陽性。低力価のaCL2例;1例はIgGIgM、もう1例はIgG-aCL陽性。
・血管造影にてtype Itype IIが各々6例。3例がtype III13例が純粋な狭窄のタイプ、2例が狭窄と動脈瘤のタイプ。
 
Treatment and followup.
15例全例が免疫抑制療法を1年間内服した。有意な副作用はなかった。血球減少のために治療の中止を要する患者はいなかった。AZAの減量やを一時的な中止を要した患者はいなかった。1年後、全例が2mg/kgを投与中。
・全例とも最初の12週間に症状は完全に消失した(頸動脈圧痛、筋痛、関節痛など)。
ESR高値は平均55.5 ± 14.7 mm/h から 21.9 ± 9.5mm/h12週間以内に急速に低下した(p = 0.001)。改善は治療経過を通して持続した。1年間の治療終了時、ESR 20.8 ± 15.2mm/h
CRPも平均4.8 ±5.2 mg/dlから3ヶ月の時点で0.5 ± 0.2 mg/dlに顕著に低下し(p = 0.004)、治療期間中改善は持続。1年の治療終了時にはCRP 0.5 ± 0.3 mg/dl
12週後にESRCRPあるいは両者が上昇したのは15例中6例のみ。1年の治療後にESRCRPあるいは両者が上昇したのは2例のみ。1年後、ESRCRPも高値であったのは1例のみ。末梢の脈拍や血圧の違いが変化した患者はいなかった。
・血管造影は15例全例において免疫抑制療法の1年後に再度行われた (範囲1214 ヶ月)。治療前後の詳細なデータをTable 1に示す。病変がある部分の治療前後の狭窄の平均%を示している(二人のレビュアーの観察結果の平均値)。観察者の間における違いは全例において5%未満。治療前後の病変で見られた差よりも小さかった。観察者はいずれも一貫してもう一人よりも大きな変化を測定することはなかった(?)。
・フォローの血管造影は狭窄部位のわずかな変化をとらえたが、いずれの患者においても統計学的に有意な進行や改善は認めなかった。
15例の全患者で見られた54の血管領域のうち52は狭窄。これらのうち、27は完全閉塞であり、フォロー中も同じだった。残り25の病変のうち狭窄は17例で改善し、8例で悪化した。統計学的な有意差はなかったが。2例は動脈流を有し、いずれも上行大動脈(直径46mm)、右総頸動脈(直径23mm)。フォローの血管造影でこれらの動脈瘤の部位にサイズに変化はなかった。新たな病変は出現しなかった。臨床的な再発が一例において1年後に起きた。
 
 
<リウマトロジストのコメント>
まとまった報告は新規TAを対象としたこの観察研究くらいなのでしょうか。
 
Pubmeにて("Takayasu Arteritis"[Mesh]) AND azathioprine[title]を検索しましたが、0件でした。
 
ステロイド抵抗性のTAに対するAZPのエビデンスは乏しいようです。
 
治療抵抗性のTAに保険適応が通っているはずなのですが。。。
 
以上から、ステロイド抵抗性のTA長期の成績のあるMTXをお勧めするのが妥当と判断しました。
 
しかし、新規TAを対象にしてるとは言えど、AZPで治療した15例全例が1年間の治療で副作用なく、改善したという結果は魅力的だと思いました。
 
 
<Scenario caseの経過>
ICの日。。。患者さんにステロイド単独では寛解に至らないため、MTXあるいはAZPの併用療法を提案した。
 
観察研究の結果、保険適応の問題を説明し、どちらかというと、患者さんの臨床状況におけるエビデンスがあるMTXの方が良いと考えていることを伝えた。
 
 

 

 ps;↓でGCAのreviewを執筆させていただきました!


 

 

以下でEGPAのreviewを執筆をさせていただきました!