リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

Segmental arterial mediolysis (SAM)のSR - Discussion ー

Skeikらの論文はSRをもとに総説まで記載されています。SRに基づいて見解を述べるという、素晴らしい論文ですね。ではDiscussionを訳していきます。

 

 Introduction & Methods

 https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/2020/08/15/110000

 

 Results

 https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/2020/08/16/000000

 

Discussion
私たちは126の論文と自験例17例に基づく143例のSAMを見つけた。過去の広範な文献レビューは2014年にShenoudaら、Kimらによる2016年の論文があり、各85、101例を報告した。私たちのinclusion and exclusion criteriaに基づくと私たちの研究に登録される資格があるのは、これらのレビューの患者の少数のみであった。
さらに私たちはいずれにも属さない83例を追加した。2018年、Mayo clinicのNaiduらは111例のSAMケースを含んだ大きな単施設に基づくレポートを報告した。これらのデータは詳細な患者背景が得られなかったため私たちの文献レビューと解析に含まれてなかったが、このことは私たちの収集したデータ解析に影響するかもしれない。Naiduらは腎動脈が最も侵されやすい血管であると報告した(47%)。彼らの患者の大多数が内科的な管理を受け (抗血小板薬47%、抗凝固療法46%、β阻害薬36%、ACE阻害薬33%)、彼らの報告時に死亡はなかった。さらにフォローアップのデータが得られた患者の80%が安定したか、疾患の減弱を認めた。


Epidemiology
過去の報告に基づくとUSで年間10万人あたり1人という推定発生率は過小評価のようだ。さらに過去の論文は異なる診断基準を用いており、正確な疾患の発生率を予測することが難しい。鍵となる患者背景の理解は医師にSAMの患者のコモンな表現型に気づくことを可能にする。私たちのレビューは男性が67.8%とやや男性優位で、年齢の中央値は55歳であった。しかし疾患の症状は広範囲な年齢に報告されていた(25–88 歳)。とくに私たちのセンターからの18-60歳の患者だけを含めば(17例)、全シリーズの年齢範囲に影響を与え、年齢範囲を低くしたであろう。高血圧症(43%)、喫煙歴(12%), 高脂血症(12%), 糖尿病(1.4%)がコモンな併存症であった。高血圧症は血管壁にストレスを与えるものであると考えられるため、SAMと高血圧の組み合わせは驚くようなことではない。より多くのデータが必要ではあるが、血圧コントロールはSAMに関連する併存症リスクと死亡リスクを減らすために適切であるかもしれない。喫煙とSAMのアウトカムの関連についてもまだ研究が必要。

 

Clinical presentation
腹痛はSAMの最もコモンな症状であり、よく確率された症状。私たちのレビューでは80%の患者が発症時に腹痛を有しており、その他のレビューよりも高頻度であった (66–74%)。驚くべきことに腹痛を呈する患者のうち半数に近い患者が腹部出血を呈した。このことはSAMの患者の多くが最初に重大な血管性イベントの後に診断されることを示唆する。Shenoudaらは彼らの85例の患者のうち29%が出血性ショックを呈したと述べたが、過去の報告は初診時の腹部出血を支持していない。私たちのレビューでは12%の患者が脳の症状(出血, 頭痛, 失語, 注意力低下)を呈しており、その他の報告と一致した (14%, 12%)。したがってSAMの早期診断は疾患に関連する併存症リスク・死亡リスクを減らすために適切でタイムリーな管理のために必要。

私たちの解析ではSMAがもっとも侵されやすい血管で(53%)、ついで肝動脈(45%), 腹腔動脈(36%), 腎動脈(26%), 脾動脈(25%), 脳の動脈(13%) であった。その他のレビューと同様、最も侵されにくい腹部動脈はIMAとその分枝であった(11%)。私たちは腎動脈の頻度が26%とNaiduらと比べ(47%)、低いことを報告した。これは私たちのレビューがSAMとFMDとの鑑別を改善させたことによるものであるかもしれない。腎動脈が侵される場合、SAMからFMDを鑑別することは難しくなりえる。さらに多くの患者が疑わしい症状がない限り、頭頚部の画像検査を受けないため、報告される障害は十分に併存する脳血管の病変を十分にとらえていないかもしれない。全ての報告が多発性の血管障害を支持しているわけではないが、私たちのレビューの患者の88%が、多発性の動脈病変(62%)を有するか、同じ血管で多発性の病変を有した(26%)。私たちは孤発性の動脈瘤や解離からSAMを信頼して鑑別できるように、多発性の動脈病変かひとつの動脈における多発性の病変を有する患者にSAMの診断を温存しておくよう勧める。

 

Diagnostic imaging and laboratory analyses
コンセンサスの得られたSAMの診断基準はない。私たちのレビューはCT/CTAがSAMを診断し除外診断のために用いられる主要な検査法であることを報告した(59%)。組織学的検査がその次に行われる方法であり(44%)、カテーテルによる動脈造影(29%)、ラボデータ(e.g. genetic testing, CRP, ESR, ANCA, CBC, CMP) (11%)がこれらに次ぐ。SAMの診断はある程度組織学的に確認できるが、CTA、MRAの質の向上と普及によってしばしば実現可能性が低い、侵襲的な動脈生検の必要性を減らすことが可能になった。12年間に及ぶ私たちの文献レビューにおいて組織学的サンプルの使用の減少が確認された。これは炎症のある動脈や解離性の動脈を生検することに関する安全性の懸念と挑戦によるためのようだ。また初期の診断ツールとして非侵襲的な画像検査(CTA or MRA)が増加した(Figure 2)。私たちのレポートは過去の報告と同様、カテーテルによる動脈造影が緊急のプレゼンテーションを呈する重症患者に温存されていることを報告した。CBAを行った私たちの患者の54%が腹部出血を呈していたように。実現可能性と安全性がある限り、私たちはいまだに組織生検を勧める。FMDのような似た血管疾患を除外するためだ。

FMDからSAMを鑑別することは興味深く、また重要がある。‘string of beads’は多巣性FMDの最も重要な画像所見であるが、この所見はその他の真似をする血管疾患でも報告されている。私たちのメタ解析のうち21例はCT or MRAでbeading appearanceを呈した。同様に単施設におけるSAM111例の28%がbeading patternを少なくとも一つの動脈を呈したと報告された。‘string of beads’はFMDでより多く報告されているが、解離はSAMで最もよく見られる。FMDのUS registryのうち動脈解離を来たしたのは19.7%のみであった。一方、私たちのSAM症例のうち60.8%が解離を有した。FMDの診断・管理のための第1回国際コンセンサスが最近FMDの診断を「小型・中型血管の狭窄を来たす特発性、区域性、非動脈硬化性、非炎症性の動脈壁の構造の疾患」と改訂した。さらに最近のFMDコンセンサスはひとつの血管で限局性or多巣性FMDを診断した後、その他すべての血管床において動脈瘤、解離、不正があれば多血管性のFMDと考慮されるであろうということを確立した。FMDのupdateされた定義に基づいて、string of beadsを呈するケースでは多血管を侵す他の血管症はもちろん、FMDからSAMを除外することは組織生検がない限り非常に難しい。私たちのレビューの21例のうち7例が‘string of beads’ または‘beaded’ の画像所見を有し、組織学的検査に基づいてSAMの診断が確認された。残りの14例はひとつのstring of beadsの所見を呈する一つの動脈に加え、異なる動脈に病変を呈しており、FMDの新しい基準を満たしていたかもしれない。組織検査がないかぎりSMAの診断を正確に行うことは不可能である。しかし、これら14例は男性で、動脈解離or破裂を伴い、より劇的な発症を呈していたため、SAMがもっともらしい診断であった。

beading appearanceを呈するSAM症例を多巣性FMDから確実に区別するためには組織生検を行うしかないが、ある特定の患者背景、症状の特徴、ラボ、画像所見、疾患の経過によって鑑別疾患が可能になるかもしれない。Table 5はSAMとFMDの鑑別に役立つかもしれない比較表である。とくに組織学的検査ができないときに。

 

 

 

組織学的検査を報告したSAMのかなり割合の患者がlaparotomy (65%) と開腹術(44%)を受けていて、組織学的なサンプリングを可能にした。組織生検が得られない患者のほとんどは男性であり(76%)、腹部出血を伴う急性のプレゼンテーションを呈さなかった(35%)。組織検査を行えた患者では腹部出血を伴う急性のプレゼンテーションを呈した患者は68%であったが。さらに腹腔動脈、腎動脈は組織検査が得られていないケースでよりコモンに障害されていた。‘string of beads’ の所見は組織が得られていれば11%、得られなければ18%と同等であった。2群間における治療とアウトカムの有意な差は、組織生検が得られた患者ではより重症で緊急のプレゼンテーションを呈した事で最もよく説明される。生検が可能になるのはおもに開腹術を要するケースにおいてに限られるということを考慮すると組織が得られない患者では真のSAM症例であるかどうかを推測することは難しい。Table 4は組織所見の有無によってプレゼンテーション、病因、治療の違いをアウトラインしたものだ。

私たちは47歳男性のSAMの典型例を簡単にシェアする。症状は突然の腹痛と嘔気・嘔吐。CTAは血腫、および脳・腹部動脈の狭窄、解離、偽性動脈瘤動脈瘤、梗塞を明らかにし(Figure 3)、SAMのような血管疾患が疑われた。患者は開腹術で、回腸・結腸切除, 腸瘻増設術を要し、腹膜血腫2Lを排液する必要があった。組織生検を行うことができ、SAMと診断することができた。遺伝子検査でSAMに似たその他の膠原病を除外することができた。

 

Figure 3. (A) Head and neck CT angiogram transverse image revealed right ICA dissection with severe stenosis (arrow) and (B)
same CT study, sagittal image showed right ICA dissection with critical stenosis (arrow). (C) Abdomen and pelvic CT angiogram
transverse image with contrast revealed celiac artery dissection with pseudoaneurysm (gray arrow), splenic artery aneurysm
(small white arrow with asterisk), right renal infarct (black arrow), and splenic infarct (large white arrow) and (D) expanding
intraabdominal hematoma measuring 11.6 × 13.1 × 8.2 cm (arrows).
CT, computed tomography; ICA, internal carotid artery.

 

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個々の患者の症状と検査前確率に基づいて、CBC, creatinine, 肝機能, CRP, ESR, ANCA, ANA, 遺伝子検査を考慮すべき。Naiduらの施設や私たちの施設を含め、ほとんどのセンターが過去に炎症マーカーの上昇を除外基準のために使用しているが、私たちのレビューによるとラボの検査を受ける患者のうち33%はESR上昇、69%がCRP上昇を伴うという結果であった。これらの炎症反応は同時に起きる解離や腹腔内出血で説明がつきうる。SAMの診断において炎症マーカーの役割を決定するため、PANやLVGTのような炎症性のmimicsからSAMを鑑別するためにはさらなる研究が必要だ。

 

Management and outcomes
2つの最もコモンなストラテジーはコイル塞栓術(28%)と開腹術だ(24%)。コイル塞栓術は私たちのレビューで最もよく使用されていたが、過去に報告されていたほどではなかった(33–79%)。私たちのレビューにおいて緊急のプレゼンテーションの割合が多かったため、腹部外科が動脈関連の合併症を管理するために行われた。次に多く行われたのは開腹下での動脈修復(21%), 血圧コントロール(20%), 抗凝固療法(12%), 抗血小板療法(11%)。血管再建術・ステント留置術は最も少ない方法で8%に行われた。過去の報告によると開腹術では血管内治療と比べ死亡率が高く(8% vs 0%)、後者で合併症が少ないことが示唆されている。最後に私たちは保存的治療法が過去の報告と比べ少ないことを報告した(8.1% vs 19%)。これは介入的なストラテジーにはフォーカスが当てられやすいが、保存的治療法が過小に報告されたためであろう。疾患の認識の高まり、より良い画像検査が普及したことによって、私たちはより多くのSAMのケースが診断され、侵襲的アプローチよりも保存的に管理をされるであろうことを期待している。私たちはSAM症例の予後が極めてよいことを報告した(93%)。また91%が症状の改善または軽減を経験した。Shenoudaらは2014年に死亡率は26%と報告し、Kimらは22%と報告した。より最近のNaiduらによる2018年フォロー中の死亡率は0%であった。これはSAMをより致死的な膠原病や血管疾患から区別するための診断基準の感度と特異度があがったことで説明されうる。腹部の血管疾患を呈する患者の私たちの管理をFigure 4に示す。SAMの経験に基づき、私たちはほとんどの患者において血圧コントロール、腸管の安静、血球のモニタリング、疼痛コントロールを含む保存的治療を勧める。

 

Table 5. Distinguishing characteristics of SAM and FMD.

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FMD, fibromuscular dysplasia; ICA, internal carotid artery; SAM, segmental arterial mediolysis; SMA, superior mesenteric artery.

 

動脈破裂による腹部emergencyを有する不安定な患者では開腹による修復よりも血管内治療を提案する。私たちの現在のSAM病変の進行に関する基づき、私たちのセンターはthin-slice CTA画像を1, 3, 6, 12ヶ月後にしあ検する。疾患の進行や偽性動脈瘤の拡大や増大する血腫のような重大な合併症を除外するために。さらなる精査は初診時に侵された動脈と重症度に基づく。私たちは私たちの診断基準がSAMを診断し、似通った血管疾患を除外するうえで適切であることを信じている。診断基準と管理に関するコンセンサスが得られるためにはさらなる調査が必要。

 

Study limitations
本研究は異なる診断基準を用いた施設より報告された症例報告の後ろ向きなレビューであり、SAMに関連する多様性を報告した。これらの解離を和らげるため、私たちはいかなる結果を参照する際も「報告された」という言葉を用いる。他の著者による論文をレビューしたメタ解析として、研究に含まれた全てのケースにおいて私たちは完全に正確な診断をかくとはできない。私たちは著者とこれらの出版に関連したレビュアーが適切にFMDなどからSAMを鑑別したことを信じている。さらに2019年のFMDの第1回国際コンセンサスで用いられた新しい基準はFMDの診断に必要な動脈病変を任意の、または多発性の中型動脈の病変を要することと拡大した。そのため多数の中型動脈を侵す動脈病変が多数ある状況では、FMDからSAMを鑑別することが非常に難しくなった。したがって私たちのシリーズにおいてSAMと診断されたケースの少数は新しい診断基準に基づけばFMDを持っていたと考えられていたかもしれない。とくにstring of beadsを有し組織がない14例において。さらにケースレポートでは稀でユニークな合併症を有するSAM症例が報告されやすかったというバイアスがある。そのため循環する文献は、より重症で介入を要するようなプレゼンテーションに偏っていたかもしれない。逆に致死的なSAM症例は報告されにくかったかもしれず、死亡率を過小評価した可能性も考えられる。

このレビューは家族歴と関連する遺伝子検査の情報がないということでもlimitationがある。私たちの遺伝子診断の経験は進化する遺伝子検査に基づいて増え続けるため、availabilityに基づいて遺伝子カウンセリングと検査に関するアプローチがより標準的されることを期待する。また年齢を私たちのセンターの年齢範囲である18-60歳に限ってレビューしたことはsample sizeの過小評価をもたらしたかもしれないことに気づいている。


Conclusion
Segmental arterial mediolysis (SAM)は中年成人を侵す稀な疾患であり、稀に死亡を含む重大な合併症に至る。診断基準の標準化と適切な管理についてのコンセンサスを確立できるようさらなる研究が必要。私たちは私たちのセンターにおけるSAMに関する適切な診断と管理について、保存的ストラテジーを好む推奨を示した。