リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

SLEの胸膜炎③ - ANAの比≧1よりも160倍以上

(つづき)
食欲低下、寝汗、発熱を呈した73歳女性。
 
ループス胸膜炎の胸水所見について勉強しております。
 
 
<Dubois’slupus erythematosus>
Dubois's lupus erythematosusSLEに関するテーマだけで一冊の分厚い本になっています。数年おきにしか出版されませんが、詳しく記載されていて役立ちます。
 
開くときにはそこそこ気合いがひつようですが(笑)。
 
Serositis:Pleurisy and Pericarditis
胸膜炎と心膜炎はSLEの肺と心臓の症状のもっともコモンなもの。Euro-Lupus (SLEに関するヨーロッパワーキンググループ)の観察コホートによると漿膜炎の有病率は発症時17%、累積36%。胸膜痛様の胸痛がSLEの経過中に起きる確率は60%までに及ぶ。
ループス漿膜炎の臨床所見はその他の原因による胸膜炎と心膜炎特別できない。胸膜痛は片側性でも両側性でも良い。通常、前方・後方において肋骨横隔膜の境界に限局する。胸膜痛の発作は通常数日持続し、週単位になるかもしれない。しばしば咳、呼吸苦を伴う。心膜炎は通常前胸部の疼痛で深吸気と臥位で悪化し、典型的には座ると改善する。発熱と関節痛・関節炎、皮疹のようなその他のループスのサインはコモン。身体所見上、摩擦音が聴取されるかもしれない。大量の貯留になれば典型的には心音・肺音の減少が見られる。呼吸不全や心タンポナーデではループス漿膜炎では極めて稀。
胸水貯留、心嚢水貯留は漿膜炎の経過中に起きるかもしれないし、起きないかもしれない。そのため、しばしば臨床背景による診断に必要ではない。画像検査にて片側、または両側の胸腔に様々な程度に明らかになりうる。And/or有意な心嚢水貯留によって心臓のシルエット拡大を伴って。CT、心エコーは少量の液を検出する感度が高い。心膜炎の心電図はPR部分の低下と広範なST部分の上昇。
SLEにおける胸水と心嚢水の鑑別診断には感染症が含まれる。主に結核であるが、心不全、ネフローゼ、悪性腫瘍である。さらにループスの患者における胸膜痛の鑑別には常に肺塞栓が入る。とくに抗リン脂質抗体がある時には。
胸水の解析はしばしば完全な診断のために必要とする。一方、胸水穿刺、心嚢水穿刺は難しく侵襲的な検査である。そのため行われないこともしばしば。SLEの胸水はほとんどいつも滲出性。リンパ球と多核球優位であってもよい。ループス胸膜炎のほとんどの患者において、胸水の糖は60mg/dLより高い。これはRAの胸水において糖低値、75%において<30mg/dLとなることと対照的。糖低値は膿胸、結核でも見られる。
胸水中の抗核抗体(ANA)の存在はループスの診断に役立つ検査かもしれない。ほとんどの調査者が陰性適中率は極めて高いことに同意をする。すなわちANA陰性であれば極めてループスによるものではないのだ。SLEの患者であってもそう言えるのでその他の原因を突き止めなければならない[6-8]。一方でANA陽性の胸水はループス以外の患者でも見られる。その中で悪性は可能性のある原因リストのなかで最初に鑑別されなければならない[7,8]ANAの血清/胸水比はANA160倍の検査特性をさらに改善するものではないようだ;したがって血清/胸水比を臨床プラクティスにおいて用いることは勧められない[7,8]。心嚢水のANA測定の検査特性も同様。
 
Dubois'の孫引き>
6. PorcelJM, Ordi-Ros J, Esquerda A, et al.: Antinuclear antibody testing in pleuralfluid for the diagnosis of lupus pleuritis. Lupus. 16:25-27 2007
 
7. Wang DY, YangPC, Yu WL, et al.: Serial antinuclear antibodies titre in pleural andpericardial fluid. Eur Respir J. 15:1106-1110 2000
 
8. Toworakul C,Kasitanon N, Sukitawut W, et al.: Usefulness of pleural effusion antinuclearantibodies in the diagnosis of lupus pleuritis. Lupus. 20:1042-1046 2011
 
Duboi’s の孫引きで入手できたのは7のみでした。
 
Matherials andmethods
1996-1999年の間、China Medical Colledge Hospitalメディカルセンターにおいて最初原因不明であった胸水・心嚢水を対象とした。
・エコーガイドに穿刺して、液を検査に送った。診断がつかない場合、治療にもかかわらず改善が得られない場合、2回目の穿刺を2週間後に行った。胸水検査には生化学(蛋白、アミラーゼ、糖、LDH)、PHCBC、細菌培養、細胞診、ANAを含んだ。以下の一つに該当する場合滲出性と判断した。1)蛋白の液/血清比、2)LDHの液/血清比、3)液のLDHが血清の正常上限の2/3より高いこと。この基準を満たさない液は漏出性と考えた。
3年をかけて心嚢水30例、胸水150例を集めた。24例の胸水が除外された。7例はラボデータが得られなかったため、17例では検査を拒否したため。結果として126例の胸水、30例の心嚢水が解析された。ANA160倍以上の高い抗体価を示した患者では診断が確定しない限り2週間後に再検した。最終的な診断は156例全例においてついた。平均年齢は48歳(10-85際)。胸水・心嚢水はランダムに数字が当てられ、ANA検査はMBL(東京)の商品キットを用いて行われた。そのANAキットはHEP2細胞ラインを基質とした間接的免疫蛍光抗体法を用いた。全ての標本はリン酸バッファーされた生食で40倍希釈にてスクリーニングされ、もし陽性であればより高い希釈で検査された。免疫蛍光法は40倍以上で観察されれば陽性とした。穿刺液はルーチンにパパニコロ染色、リウ染色、免疫化学法で染色された。以前報告されていた方法に基づいて。細胞診スメアと組織切片は二人の独立した病理医にてレビューされた。彼らの許可のもと、原因不明の胸水・心嚢水を呈する患者のほとんどがTru-cut生検または外科的検査を行った。穿刺・生検は過去に報告されたエコーガイド検査に従って行った。
 
Results
胸水126サンプル、心のう液30サンプルのうち抗核抗体陽性は各々3910サンプル(table 1)ANA陽性のサンプルは一例を除き全例が滲出性。ANA陰性のサンプルも心不全と粘液水腫のグループを除くと滲出性であった。ANA陽性と漏出性胸水の一例の原因は心不全。この患者のANA抗体価はSpeckledパターンで40倍と低かった。Table 1に示すように混在したグループには薬剤アレルギーによる胸水、横隔膜膿瘍、強直性脊椎炎、乳び胸、アメーバ症、過敏性肺臓炎、Meigs’症候群、Dressler症候群による心嚢水。上記診断のサンプルのうちANA陽性だったのは1例のみ(アメーバ症で160倍)。
 
SLEの胸水・心嚢水が15 (table 2)。活動性ループスによる胸水または心嚢水は15例中11例において確認された(症例1~11)。その他4例の胸水の原因は肺炎 (症例1213)とうっ血性心不全
(症例14,15)。陰性か低い抗体価のANA80以下)は症例12~15。ループス胸膜炎・心膜炎の症例1~11は高い抗体価(160倍以上)であった。そのうち5例飲みがHomogeneousパターン。胸水・心嚢水の血清に対するANAの比はループス胸膜炎・心膜炎の11例中5例のみで1以上。
 
SLEの診断は15例中11例において急性漿膜炎のエピソードよりも前についていた。症例8, 9, 10,11 SLEの病歴がなかった。症例8, 9,11は急性胸膜炎、発熱、咳、白血球上昇、胸水の多核球優位を伴って発症した。肺炎随伴性胸水が最初に疑われた。症例8は膿胸(糖<40g/dlLDH>1000U/L)の臨床的証拠のため胸腔ドレナージ術を受けた。その患者は大量の腹水のため腹水穿刺も受けた。しかし、非経口の抗生剤1週間の治療に対し改善を認めなかった。胸水と腹水のANA高値が判明し、後にSLEであることが確かめられた。症例10は最初発熱、呼吸困難、原因不明の心嚢水にて発症した。心嚢水のANA陽性、臨床的検査によって後にループス心膜炎であることが判明した。コルチゾン療法に対する反応は劇的であり、胸水の急速な反応に至った。
 
症例1は原因不明の胸膜炎が突然発症したというSLE患者。当初はADA高値(174U/L)にて結核性胸膜炎が疑われた。抗結核薬が開始されたが、胸膜炎は持続した。胸水ANA高値と細胞診にて多数のLE細胞を認めループス胸膜炎と診断された。抗結核薬は中止され、ステロイドに良好に反応した。
 
 
 
イメージ 1
 
ループス漿膜炎の11例に加えて、ループスによらない計145例の胸水・心嚢水も検査された。38例(26%)が胸水または心嚢水ANA陽性であった。様々な染色パターンの高い抗体価(160倍以上)が13例において見られた(table 3)。悪性または傍悪性の胸水・心嚢水は13例中11例を占めた。
 
症例2526は原因不明の大量胸水を呈した。入院時、第14病日に行われた胸水穿刺は淡血性。5210倍の非常に高いANA抗体価が検出され (table 3)、当初ループス胸膜炎が疑われた。しかし、続くワークアップの後SLEの分類基準を満たさないことが分かった。続く細胞診によって症例25では小細胞癌であることが判明し、症例26ではLE細胞または悪性を伴わない中皮細胞であることが分かった。胸水・心嚢水の腫瘍マーカーの解析(CEACA19-9CA15-3)は正常値を示した。症例26は後に胸部CTにて小さな前縦隔の腫瘍を有することが分かった。ドップラーエコー下に針生検とTru-cut生検を行い胸腺癌であることが確かめられた。心嚢水を呈したがSLEを有さなかった26例についても研究された。心嚢水のANA陽性は6(23%)。これらの心嚢水のうち4例が悪性に関連し、1例が結核1例がウイルス感染に関連した。このうち2例のみが高いANA160倍)の心嚢水を有した;1例は結核1例は悪性。
 
胸水・心嚢水ANAが高い値を示した13例において血清ANAも測定された。ANAの胸水・心嚢水の血清に対する比は3例を除き(症例18, 19 and 22)1以上であった。13例中11例は悪性によるものであったが、悪性の胸水と分かったのは5例のみ。CEA値は8例の胸水において高値であった。それゆえに腫瘍の胸膜浸潤、CEA値はANA値と特に関連はなかった。
 
 
<リウマトロジストのコメント>
SLE患者においてループス胸膜炎・心膜炎に対するANA160倍以上の感度は100%(=11/11)、特異度は100%(=4/4)でした。ANAの胸水・心のう水/血清比≧1の感度は5/11(45%)。なので、わざわざ比をとる必要はなく、ANA160倍以上かどうかだけでよいのです。
 
SLEを有さないのに胸水・心のう水でANA≧160倍を呈したのは13/145(9%)でした。このうち11例が悪性または傍悪性、残りの2例は結核性胸膜炎とアメーバ膿胸でした。
 
ANA≧160倍でも癌性胸膜炎や結核性胸膜炎が否定できないのですね。
 
ついで、ループス胸膜炎におけるADA値について検討し、
 
結核性胸膜炎におけるt-spotの感度について検討しました。
 
<Scenario caseの経過> についてもここに記載しております。
 

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