<Clinical scenario>
エンドキサンパルス療法を開始することにした。治療方法は最新のRCTの方法に従った。
長期にわたる治療なので、インフォームドコンセントを有意義なものにしたい。
この方が治療に反応するかどうかを予測するマーカーはないか?
<ALMSのデータからの研究>
この度はALMSについて調べているときに見つけた論文で、以前から読みたいと思っていたものです。
Identification of biomarkers that predict response to treatment of lupus nephritis with mycophenolate mofetil or pulse cyclophosphamide.
Arthritis Care Res (Hoboken). 2011 Mar;63(3):351-7.
Abstract
OBJECTIVE:
ループス腎炎の治療のアウトカムを予測する臨床的な特徴やバイオマーカーを特定する必要がある。この目的のため、私たちはベースラインおよびMMFやIV-CYCに対する腎炎の早期の改善のデータで可能性があるものを検出するため、Aspreva Lupus Management Studyのデータを用いた。
METHODS:
class III-Vのループス腎炎の患者がMMF or IV-CYCにランダムに割りつけられた。私たちはベースラインの特徴、臨床所見、ラボ所見、組織の特徴について腎炎の改善を予測するかどうかを評価した。治療2ヶ月以内に得られる早期の臨床、ラボデータについても評価した。腎炎改善のオッズ比(ORs)と95%信頼区間を各々の推定される予測因子として計算した。
RESULTS:
Week 8におけるC3, C4、および両者の正常化はWeek 24の腎炎の改善を強く予測した(ORs 2.5, 2.6, and 2.9, respectively; P < 0.05)。Week 8までの蛋白尿の25%以上の改善はWeek 24の腎炎の改善を予測した (OR 3.2, P < 0.05)。Week 8における抗ds-DNA抗体の減少は腎炎の改善を予測しなかった。3つのベースラインのデータ(C4値、腎炎の診断からの時間、推定GFR)が腎炎の改善を予測した;残りのデータ(年齢、ループス腎炎発症の年齢、SLE診断からの時間、性、組織型、抗dsDNA抗体値、C3値、蛋白尿、ACE阻害薬・スタチン・ヒドロキシクロロキンのの使用)は予測しなかった。
CONCLUSION:
この研究はC4値、ループス腎炎の診断からの時間、ベースラインの推定GFR、早期の補体の正常化、蛋白尿の減少が独立して、6ヶ月後の治療による腎炎の改善を予測した。
Estimated GFR (n=369) N Renal response OR (95%CI)
≥ 30 ml/min/1.73 m2 337 195 (58%) -
私たちは有意差のあった全てのベースラインのデータ、および早期改善の予測因子を24週時の改善を含んだ相関行列に入れた。多重共線性を避けるため、排除すべき変数を特定するために。補体の変数は全てがアウトカム変数よりも、補体同士で互いに密接に関連があった。したがって、私たちはアウトカム変数と最も関連した変数のみを多変量解析ロジスティックの方程式に入れた(Week 8におけるC3とC4の正常化)。以下の共変量が含まれた:ベースラインの推定GFR<30 ml/min/1.73 m2、ループス腎炎診断からの時間(1-5 yrs vs <1 yr and ≥ 6 yrs vs <1 yr)、Week 8における>25%の蛋白尿の減少、Week 8におけるC3とC4の正常化。
< 30 ml/min/1.73 m2 32 6 (19%) 0.2 (0.1-0.4)
Complement C4 (n=360) N Renal response OR (95%CI)
≥ 16 mg/dl 126 59 (47%) -
< 16 mg/dl 234 138 (59%) 1.6 (1.1-2.5)
Time since LN diagnosis N Renal response OR (95%CI)
<1 yr 236 143 (61%) -
1-5 yrs 80 29 (36%) 0.4 (0.2-0.6)
≥ 6 yrs 54 30 (56%) 0.8 (0.4-1.5)
Table 3. Early improvement in biologic parameters as predictors of renal response for the entire ITT population
† 蛋白尿の減少の解析はベースラインとwk8に蛋白尿のデータがあるもののみを対象とした。蛋白尿の減少は25%以上の減少と定義した。
‡ 補体の正常化の解析はベースラインの時点で低補体血症(C3:<90 mg/dl, C4:<16 mg/dl)があり、wk8の時点でデータがある症例のみを対象とした。
§ 抗dsDNA抗体の解析はベースラインで抗dsDNA抗体>30 IU/mlである症例のみを対象とした。wk8の時点でデータがある症例のみを対象とした。抗dsDNA抗体の減少はベースラインで≤200IU/mlならwk8で≤30、>200IU/mlなら8wkで≤60 IU/mlと定義。
Results - Multivariable analysis
結果はTable 5のModel 1の通り;共変量のデータ損失によるリストワイズ除去のため、解析から98の観察が除外された(全体サンプルの26%)。4つの共変量は多変量解析後も有意なままだった。単変量解析の結果と比べ、蛋白尿とC3とC4の正常化のORsが少し弱まったが(蛋白尿2.7 vs 3.2, 補体正常化2.6 vs 2.9)。他の2つについては変化なかった。これらの共変数のパラメーターとしての同等性、統計学的有意性から、それらはWeek 24の腎炎の改善を独立して予測する因子であることが示唆された。人種と民族の変数を多変量の方程式(Model 2)に入れたが、パラメーターの評価はModel 1とほとんど一致した。したがって、この4つの共変数は人種や民族に影響されずに、24週後の腎炎の改善を予測した。
<リウマトロジストのコメント>
治療をする前なので、ベースラインのデータだけに注目したいとこです。
単変量解析の結果、ベースラインのデータとして、C4低値がWeek 24の腎炎の改善を予測しました。
ほかにも、腎不全(eGFR<30)であれば改善が期待しにくいこと、腎炎の診断から1-5年たっていれば改善が期待しにくいことも分かりました。
この度の患者さんのように、新規のループス腎炎では頼りになるマーカーはC4低値だけのようです。
とはいえ、腎臓の改善がC4≥16 で47%であるものが、C4<16で59%に上がるだけの話です。
ベースラインのデータから腎炎の改善を予測することは大きなインパクトはないようです。
また、残念なことにベースラインのC4値は多変量解析には含められませんでした。
補体は互いに相関が強すぎるため、代表として「Week 8までのC3とC4の正常化」が選ばれたためです。
Week8までのC3とC4の正常化は、もともといずれかが低値であった287例のうち86例で達成され、そのうち76%において腎炎の改善が得られました。これが達成されなかった199例では腎炎の改善は51%であり、25%もの差がつきました。ORは単変量解析で2.9、多変量解析で2.7でした。
同じく、蛋白尿の改善では腎炎の改善は68% vs40%で、28%もの大差がつきました。ORは単変量解析で3.2、多変量解析で2.9でした。
<Scdenario caseの経過>
ベースラインのデータからは患者さんに良い説明ができそうにありません。
仕方がなく、アジア人における腎炎の改善率、64%というデータを紹介しました。
8週後の蛋白尿、補体の改善を期待することにしました。
ps
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