リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

日本人のTRAPS

18歳男性が繰り返す発熱、紅斑、腹痛にて紹介された。
 
WBC19000, CRP21, ferritin 1万。
 
(症例は架空です)
 
リウマトロジストはFMF疑い2例、TRAPS疑い1例の遺伝子検査をお願いしたことがありますが、いずれも陰性でした。
 
この度、5年ぶりにTRAPS疑いと判断したので、遺伝子検査を検討しよう。
 
いつか診断できますように。。。
 
 
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Tumor necrosis factor receptor-associated periodic syndrome (TRAPS) in Japan: a review of the literature
 
Abstract
TNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)は優性遺伝性の自己炎症性疾患であり、皮疹、腹痛、筋痛、結膜炎、胸痛、関節痛に関連した発熱発作を繰り返すことを特徴とする。強い腹痛を呈し腹部手術に至る患者もいる。TRAPSのほとんどの報告はヨーロッパの家系であるが、日本では9例の報告がある。この報告で我々はこれら9例をレビューする。この9例において報告されたTNFRSF1A geneの突然変異はC70S, T61I, C70G, C30Y, C30R, N101K, and N25D。発熱は23例全例(100%)で見られた。ほとんどの患者が皮疹(紅斑)(84.6 %)、関節痛(73.3 %)を呈し、半数に筋痛(54.5 %)、腹痛(50.0 %)があった。腹痛を呈したのは半数であったが、手術に至った症例はなかった。これとは反対に胸痛(20.0 %)、結膜炎(20.0 %)、頭痛(10.0 %)は少数。ほとんどのケース(95.7 %)が周期性発熱の血縁者を有した。これらは日本のTRAPSの患者は西欧諸国の患者よりも軽症であるかもしれない事を示唆する。
 
 
Introduction
TRAPS、以前はFamilial Hibernian Feverとして知られていた疾患は遺伝性の自己炎症性疾患であり、原因はTNF55-kDaの受容体をコードする遺伝子、TNF受容体タイプ1(TNFRSF1A)の突然変異である。TNFRSF1A遺伝子の突然変異は最初TNFRSF1Asheddingの脱制御に関連していると考えられた。2006年、Lobitoらはこの突然変異はTNF-αとは独立してもうひとつのシグナルを自発的に誘発するかもしれないことを報告した。TRAPSは最初遺伝性疾患として提唱されたが、TNF遺伝子の突然変異が証明された症例のみTRAPSとして含められるべきである。
INFEVERSというWWWでアクセス可能な突然変異データベース(http://fmf.igh.cnrs.fr/infevers)にてTRAPSの患者のために100より多い遺伝子変異が報告されている。しかし、一般人口の約1%で見つかるTNFRSF1A遺伝子の突然変異も少数ある。病気を有さない人に存在するTNFRSF1A遺伝子変異は低い%であると考えられている。
TRAPSは皮疹、腹痛、筋痛、結膜炎、胸痛、関節痛に関連した発熱発作を繰り返すことで特徴づけられる。Hullらは遺伝子的に確認されたアメリカのTRAPS患者の臨床所見を報告した(ヨーロッパ系47例、プエルトリコ2例、アフリカ系アメリカン人1例)。周期熱に関連した症状でコモンなものは筋痛(98.0 %)、結膜炎・眼窩周囲の浮腫(90.0 %)、腹痛(88.0 %)皮疹(86.0 %)、関節痛(84.0 %)、胸膜炎(54.0 %)。これら50例の患者の中で26例(52%)が腹痛を呈し手術に至った。PelagattiらはTRAPSのイタリア人11例の臨床プロファイルを報告し、繰り返す発熱発作は腹痛(81.8 %)、関節痛(63.6 %)、筋痛(63.6 %)、皮疹(54.4 %)、頭痛(54.4 %)、胸痛・胸膜炎(27.2 %)、結膜炎(9.0 %)に関連したと述べた。これらの著者は関節痛(63.6 %)は周期熱によく合併すると述べたが、関節炎(27.2 %)はすくなかった。
TRAPSアイルランドとスコット人において最初に報告された。報告されたほとんどのTRAPSの患者は北ヨーロッパ系の人種であった。いかなる人種もこの疾患に罹患してよいが。
私たちはTNFRSF1A 遺伝子のC70GC30Rに突然変異を有する日本人のTRAPS家系を報告した。しかし、私たちの報告を含めても、遺伝子的に確認されたTRAPSの患者は日本には9例しかない。
さらに、私たちの知る限り日本以外の東南アジア諸国においてTRAPS患者は報告されていない。日本人のTRAPS患者の修正された診断基準を開発する事に加え、東南アジアの人口におけるTRAPSの特徴を明らかにするため、私たちは遺伝子的に確認されたTRAPSの日本人患者の報告例をレビューした。
 
 
Japanese patients with TRAPS
 
Table 1TRAPSの日本人患者の症例報告とその家族についてのサマリーである。TNFRSF1A 遺伝子の7つの異なる突然変異がTRAPSの日本人患者9例において報告された: C70S (T295A), T61I (C269T), C70G (T295G), C30Y (G176A), C30R (T175C), N101K (C390G), N25D (A160G)。これら日本人患者における突然変異はいずれもエクソン領域に存在する。TNFRSF1Aの突然変異の9つの報告のなかで、6つの報告が家族のメンバーも臨床症状とともに遺伝子変異を有することを示した。一つの報告は家族のメンバーが周期性発熱を有したことを示したが、遺伝子解析は行われていない。もうひとつの論文はTRAPSの患者はこの疾患の家族歴がなかったと報告した。
この9例のうち3例(30%)、23例中6 (26.1 %)TRAPSの診断がつくまでに若年性特発性関節炎や成人スティル病と誤って診断されていた。これら全ての患者は周期性発熱の家族歴を持っていた。
 
Table 2に示すように、発熱は日本人の患者全てに見られた。約90%が皮疹(紅斑)を有し、80%近くが関節痛を患った;筋痛を呈したのは半数のみ(55.6 %)。逆に日本人の患者のうち腹痛 (33.3 %)、胸痛(22.2 %)、結膜炎(22.2 %)、頭痛(11.1 %)を呈したのは少数だった。
70%において、発熱と皮疹はステロイド治療で改善した (66.7 %)2例はステロイドを使うチャンスがなかったが、発熱と皮疹はTRAPS患者の9例中6(77.8 %)においてステロイド投与後に改善した。日本人患者では1例を除く全てにおいて(88.9 %)、親族に周期性発熱の患者が見つかった。
 
Table 2は日本人の9例とその家族のTRAPS患者の臨床症状のサマリーでもある。発熱は全例に見られ、ほとんどの患者において皮疹(紅斑)(84.6 %)、関節痛(73.3 %)が見られ、半数に筋痛(54.5 %)、腹痛(50.0 %)が見られた。日本人のTRAPS患者の半数が腹痛を呈するが、手術を行ったケースはなかった。逆に、胸痛(20.0 %)、結膜炎(20.0 %)、頭痛(10.0 %)は少数であった。ステロイド治療を受けた10例のうち80%が反応した。1例を除く全例 (95.7 %) が周期性発熱の発作を患った親戚を有した。
 
(table 2)
 
イメージ 1
 
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