リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

成人スチル病の皮疹 = 非掻痒性のサーモンピンク疹(?)

Scenario case
19歳女性が発熱(40℃台まで5日間)、強い掻痒(かゆみ)を伴う全身性の皮疹にて入院した。
 
ROS; 咽頭痛(+)、関節痛(-)
 
皮疹は強い掻痒を伴う紅色の丘疹で、四肢、胸腹部、背部に多発。
 
腋窩、鼠径に1cm大有痛性リンパ節(+)
 
WBC 2万、CRP 20AST/ALT 正常、LDH 300、フェリチン 1万。RF陰性。
 
造影CT;肝脾腫、表在リンパ節腫脹。悪性腫瘍を疑う所見はなし。
 
成人スティル病(ASD)の分類基準上、Majorの発熱は日数が足らず、皮疹、関節痛はなし。WBC上昇の1項目のみ。
 
Minorのうち、咽頭痛、リンパ節腫脹・脾腫、肝機能障害(LDH3項目を満たした。ANAは結果待ち。
 
発熱が1週間以上続けば、2 Majorを含む5項目以上となり、分類基準を満たします。
 
しかし、、
 
ASDの皮疹は「非掻痒性のサーモンピンクの斑点または斑状丘疹性発疹。通常発熱時に出現する。」と定義されている。
 
強い掻痒を伴う全身性の皮疹なのでASDではないだろう、と考えた(どちらかというと、抗生剤による薬疹を疑いました)。
 
 
(症例は架空です)
 
 
 
< 疑問、発生!> 
掻痒性の皮疹であれば、ASDを否定してよいか?
 
 
 
<疑問が生じたらまずは・・・>
UptodateのClinical manifestations and diagnosis of adult Still's disease - Rashを見ます。
 
ASDの典型的な皮疹は一過性で、サーモンピンク色、斑点または斑状丘疹性発疹であり、発熱時に出現する傾向がある。皮疹はおもに体幹と四肢を侵すが、手掌、足底にも見られるし、時には顔面にも見られる。皮疹が皮膚への刺激によって誘発される、ケプネル現象が見られるかもしれない。ASDの皮疹はぴったりした衣服にさらされる領域において探すべきである。ベルトのラインや乳房の下部など。皮疹はしばしば薬疹と間違われる。
 
 → 掻痒の有無については記載が不十分でした。
 
 
 
<Uptodateで分からないときは・・・>
Pubmedで調べましょう。 
 
掻痒、痒いの単語を適当にならべて・・・
 
*1 AND "Still's Disease, Adult-Onset"[Mesh]
 
を検索したところ、11件ヒットしました。
 
その中でASD36例における皮疹に焦点をあてた報告を発見!!
 
しかも、同じアジアの台湾からの報告です!
 
Evanescent and persistent pruritic eruptions of adult-onset still disease: a clinical and pathologic study of 36 patients.
Semin Arthritis Rheum. 2012 Dec;42(3):317-26.
 
Abstract
Objective:
持続的掻痒性皮疹(PPE)は私たちのASD患者ではよく見られる。この研究の目的はASDに関連した一過性の皮疹と持続性の皮疹の臨床病理的特徴を決めること。
 
Methods:
1998-2009年の間、私たちの病院でASDと診断された患者全ての皮膚病変の臨床病理的所見をレビューした。
・診断はYamaguchi criteriaに基づく。
 
Results:
・全部で36名(男性6例、女性30例)、発症年齢は1767歳(平均35.7歳)。
・一過性の皮疹は31例(86%)、PPE28例(78%)に見られた。
PPEは通常発症時に見られ、広範囲に出現し、掻痒性の紅斑で蕁麻疹様の丘疹・皮疹、あるいは紫から褐色の頂点がフラットな(苔癬様)丘疹・皮疹。体幹、頸部、顔面、四肢の伸側にみられる。
PPEは臨床的に蕁麻疹様丘疹 (n = 21)、苔癬様丘疹 (n = 18)、顕著な線状・皮膚描記症様 (n = 11)、皮膚筋炎様 (n = 7), 色素性痒疹様 (n = 4)、苔癬様アミロイドーシス様 (n = 2)と分類された。
・臨床活動性スコアは全体として5.78±1.11 (範囲4-8)、皮膚筋炎様のPPE 6.57±0.98、皮膚筋炎様でないPPE 5.57±1.07 (P = 0.0314)
5例が死亡し、3例は皮膚筋炎様のPPEであった。
・病理学的に一過性皮疹(8検体)は表層性の血管周囲のリンパ球・好中球浸潤を示し、PPE32検体)では表皮の表層に孤立性または群集状の壊死性角化細胞が見られ、真皮上層・中層にリンパ球・好中球の浸潤を伴っていた。
 
Conclusions:
私たちのASD患者においてPPEはコモンだった。PPEの臨床的、病理学的所見を認識することでASDの診断が容易になるかもしれない。したがって、ASD患者の非典型的な皮疹があれば、生検をするべきである。非常に独特な病理所見によってこれらの皮疹を速やかに分類することが可能であるためだ。
 
(この論文は写真が多くて分かりやすかったです。ぜひ原著を!) 
 
 
 
< こたえ >
成人スティル病36例において、一過性の皮疹は31例(86%)、持続的掻痒性皮疹は28例(78%)に見られた。前者は発症時に見られやすいとのこと。
 
したがって、初診時に掻痒性の皮疹であっても、ASDを否定できません。発熱と関係しない掻痒性皮疹も、立派なASDの皮疹なのです。
 
もちろん、基準は基準なので、定義に合う皮疹しかカウントできませんけどね。。。
 
 
 
Senario caseの経過>
初診から1週間後、掻痒を伴う皮疹は消失し、発熱は持続。 ANAは陰性であった。
 
新たにASTALT上昇を認めた。 EBVCMVserologyは既往感染。 HIV-RNA陰性。
 
発熱時に非掻痒性の淡い紅色の皮疹を認めた。
 
成人スティル病の分類基準上、Major3項目(発熱、皮疹、WBC)、Minor4項目(咽頭痛、リンパ節腫脹・脾腫、肝機能障害、RF陰性and ANA陰性)を満たし、成人スティル病と診断した。
 
 
 

 

ps;↓ですが、執筆協力しております!

 

*1:pruritis or pruritic or itching