リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

アザチオプリン(AZP)の過敏性症候群

<Scenario case>
27歳女性。SLEの血球貪食症候群(HPS)に対し、ステロイド剤とシクロスポリンにて寛解した。
 
シクロスポリン投与中、起立性低血圧の症状があり、同剤を中止した。
 
HPSは重症病態であるためステロイド単独よりは何らかの免疫抑制剤が必要であろうと考えた。
 
アザチオプリンを開始したところ、下痢を繰り返した。
 
アザチオプリン100mg投与中、背部に掻痒を伴う皮疹が出現し、同剤の副作用ではないかと考えた。
 
(症例は架空です)
 
 
<AZP過敏症のレビュー>
The cutaneous and systemic manifestations of azathioprinehypersensitivity syndrome.
Bidinger JJ, et al.
J Am Acad Dermatol. 2011 Jul;65(1):184-91.
 
Abstract
BACKGROUND:
アザチオプリン(AZA)による過敏性症候群は稀な副作用であり、典型的には治療開始早期に起きる。皮疹を呈するかもしれない。感染症や疾患の再燃を真似するため、しばしば過小に認識される。最近までAZA過敏の皮膚所見は診断的な生検による根拠がなく非特異的、記述的な用語を用いて報告されてきた。
 
OBJECTIVE:
AZAの過敏性症候群に関連する皮膚所見と組織学的所見を特徴づけること。
 
METHODS:
AZAの過敏性症候群の2例をretrospective二解析し、各々の皮膚所見と組織学的所見について述べる。AZAの過敏症またはAZAに関連したアレルギー、または副作用に関する英語論文のレビューを行った。
 
RESULTS:
AZA過敏症67例をレビューする; 49% (33/67)が皮膚所見を有した。皮疹を呈した症例の中で76% (25/33)neutrophilic dermatosisに一致する生検結果または臨床所見を呈した。残り24%(8/33)は非特異的な皮膚反応として報告された。
 
LIMITATIONS:
皮膚所見が分類できた症例にかぎってレビューした。
 
CONCLUSIONS:
文献と自験例で報告された有意な皮膚反応はneutrophilicdermatosisであった。AZAの過敏症は局所的な好中球病から全身性の疾患まで幅広い臨床スペクトラムを呈しうる。皮膚所見は重要なAZA過敏症を早期に診断する手掛かりであるかもしれない。生命に関わる可能性があるこの副作用の早期の認識と治療に役立つかもしれない。
 
Review of the literature
・自験例2例を含め、1986-2009年のAZA過敏症67例をレビューした(Table I)。これらのうち49% (33/67)は皮疹を呈した。
・皮疹のあった患者の76%が好中球性皮膚症に一致する組織所見または臨床所見を呈した。残り24% (8/33)は非特異的皮疹と記載された。好中球性皮膚症と報告された多くは生検をされた最近の症例報告であった。いくつかの早期の症例報告は好中球性皮膚症を疑わせる皮膚所見のより詳しい記載がなされていたが、生検にて確認されていなかった。もし臨床的に好中球性皮膚症を疑うケースを含めると、皮膚所見を呈した88% (29/33)が好中球性皮膚症を有したことになる。これらの症例報告のうちいくつかのケースは自験例でみられた丘疹のう胞性の病変の記述に非常に近い皮膚所見を有した。
・生検で証明された好中球性皮膚症のうち、64% (16/25)IBD (Crohn’s disease, ulcerative colitis)を有した。これらのケースの多くがWalker and Cohenによって記載された薬剤誘発性スウィート病の診断基準を満たした。AZA過敏症のその他の発症時の所見、全身症状、TPMT活性、検査所見、ステロイドの同時の使用はその他の症例とレビューと同様。性年齢はAZA過敏症の発症やリスクに影響しなかった。
・多くの患者が治療開始後4週間以内にAZA過敏症を呈した。
・特異的な診断名(IBDと神経疾患)を有する患者が49% (33/67)を占めた。皮膚科学的な診断名を有したのは私たちのシリーズでは3人のみ (4%)であった(乾癬、水泡性類天疱瘡、天疱瘡).
・発症時にステロイドを使用されている患者は多く、39% (26/67)であった。.
 
Discussion
AZA過敏症は一般に認識されるよりもコモンかもしれない。2001年、CranerZajicekによると多発性硬化症MS)の患者21例中14例においてAZA過敏症を認めた。Bajajらはクローン病の患者143例中42例に早期の副作用を認めた。AZA過敏症はこれらのシリーズで詳しく述べられていないが、42例中8(19%)においてAZA過敏症が疑わしい症状を呈した。
IBDや神経疾患の患者は私たちのレビューの49%を占める(see Table I)。この所見はIBDMSAZA過敏症のリスクが高いことを示唆する。この理由は分からないが、AZA過敏症を起こしやすくする遺伝子多型による可能性もある。これはより多くのIBDMSの患者がAZAで治療されることによるものかもしれないし、この副作用が認知されていないことによるものかもしれない。あるいは特定の専門分野による報告のバイアスによるものかもしれない。
AZA過敏症は用量に依存しない。最初の4週間以内に起きる傾向がある。用量依存性の副作用とは異なり、TPMTのレベルによらずに起きる。AZA代謝異常があっても結節性紅斑、スウィート病やその他の症状を予測するものではない。全てのケースが自験例同様、正常なTPMTレベルを示したか、TPMTレベルが報告されていなかった。AZA6-MPの部分とその代謝物がほとんどの副作用の原因だと考えられているが、イミダゾールの要素も過敏反応の原因になるかもしれない。このプロセスはイミダゾールが特定の蛋白に結合する時、ハプテンの生成に関係する。この理論を支持するのはAZA過敏症の患者でその後の6-MPの投与に耐用できた患者の症例報告がいくつかあることである。しかし、AZA過敏症の後に6-MPの最初の投与でも再投与でも同様の副作用が起きたという報告もある。したがって、正確なメカニズムは分からない。イノシトール・トリフォスフェート・ピロフォスフェターゼ遺伝子の遺伝子多型がAZA過敏症に関係しているかもしれない。
・過敏反応は3型か4型の過敏反応を呈するものと考えられている。真の薬剤アレルギーはIgEが介在する1型であるが。稀ではあるが、AZAは著名な低血圧を呈するショックに関連するとされている。このため一旦この薬剤に過敏症が発生すると、再投与は禁忌である。私たちの最初の患者はこの診断がつかない時期に再投与をされた。
AZA過敏症の全身性の症状には発熱、倦怠感、関節痛、筋痛、吐き気、嘔吐、下痢、皮疹がある (Table II)。時には肝障害や腎障害、低血圧、ショックがあるかもしれない。皮膚所見はこの文献レビューまではよく分類されていなかった。
 
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・皮膚所見は歴史的に斑状・丘疹状、または膿疱性と記載されてきた。加えて、紫斑、蕁麻疹、結節性紅斑の報告もあった。
・最近ではAZA過敏症に関連したスウィート病(SS)の報告がいくつかある。私たちの最初の患者は同様にSS様の病変を呈した。2例目は薬剤性SSの診断基準を満たした。過去の報告では皮膚所見を欠く者や生検なしで非特異的皮疹と記載されるものがあった。最近の報告では私たちの報告と同じように、好中球性皮膚症の所見を呈する皮疹が優位なようだ (Tables I and III)。さらに、皮膚の過敏反応はIBDの基礎疾患を有する患者によく見られるかもしれない。皮疹が見られた患者の48%IBDの診断であったというように。
 
 イメージ 2
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
・皮膚科学におけるAZAの幅広い使用にもかかわらず、皮膚疾患(免疫水泡性疾患、アトピー性皮膚炎、乾癬、光線過敏症)のために治療された患者ではほとんど報告がない。特に興味深いのは明らかな薬剤性SSを呈する患者がいるため、これらの患者において薬剤性SSと診断するのかSSのような症状を呈したAZA過敏症と診断するのかというジレンマがあるということである。
・自己免疫疾患に関連するSSも報告されている。IBDに合併するSSは稀であり、時に疾患の再燃時に起きるかもしれない。
・私たちの経験と文献の報告例をもとに私たちはAZA開始時期のSSは薬剤性SSと分類するよりもAZA過敏症と分類することが最善であると信じている。いくつかの症例報告において、AZA過敏症はいくつかのケースにおいてAZA過敏症は原因として完全に見逃されており、SSはその他の原因によるものとされている。
50%以上においてAZA過敏症はSSで見られる全身症状(発熱、白血球上昇、倦怠感、関節痛)と一緒に起きるが、皮疹はないか、SS以外の皮膚所見が報告されている。私たちのケースのようにSSに似た皮疹を呈するケースもあるが、特徴的なものではないか、WalkerCohenの診断基準を満たさない。たとえば私たちの1例目はSSのように見える皮疹を呈し、Pathergyを呈する。しかし、それらは圧痛を伴わず、SSの典型的な組織所見を呈さなかった。好中球浸潤があるが、リンパ球、組織球、好酸球も豊富にあり、わずかな真皮浮腫もあった。
・加えて、AZA過敏症はステロイドの使用とは無関係に起きるようだ。私たちの所見と同様、FieldsらはAZA過敏症と診断された39%の患者 (19/49)が初診時にステロイドを内服していたことを見いだした。ステロイドSSの治療選択になるため、このことはSSらしくない。
・その他の典型的でない所見に病変の部位と消化器症状が多い事があげられる。SSの病変はほとんど頭部、頸部、体幹におきるが、AZA過敏症の患者は下肢に皮疹が起きやすい。私たちの研究において58% (7/12) の患者が消化器症状 (吐き気、嘔吐、下痢)を呈する。これらはSSでは稀。より正確な特徴をつければAZA過敏症のメカニズムの理解と今後の認知を良くするかもしれない。
・薬剤性SSの病態生理学は完全には解明できていない。それは根底にある過敏反応を含むものかもしれない。同じことが薬剤によらない感染症や悪性腫瘍に対する過敏症としてのSSにも言えるかもしれない。これはSSとして発症するAZA過敏症の頻度の増加を部分的に説明するかもしれない。
・薬剤性SSのもうひとつの原因は顆粒球コロニー刺激要素で見られるような白血球の数と活動性のスパイク的な上昇である。ステロイドによる相対的な好中球上昇は同じようにAZA過敏症によるSS発生に寄与するかもしれない。
AZA過敏症のほとんどのケースが初診時には私たちのケースと同様、感染症や原疾患の悪化と混同される。免疫抑制療法を受けている患者ではとくに白血球上昇と発熱を伴っている場合は感染症の懸念が優先される。しかし、感染症のワークアップは通常陰性であり、SLEでは補体やdsDNA抗体のような疾患活動性の血清学的スクリーニングは正常でありやすい。加えて私たちの患者ではdsDNA抗体、C3C4は正常であった。これらの状況かでAZA過敏症は疾患活動性の再燃よりも疑われる。
AZA過敏症はしばしばAZAの再開やチャレンジテストにて最初の投与から数時間以内に症状が再発して認識される。感染症や疾患活動性の再燃がなくして新たな皮膚所見が存在する場合、臨床医はAZA過敏症の可能性に気付くべきだ。AZA過敏症のほとんどのケースにおいて投薬を中止して2-3日以内に症状が改善し、ステロイドの増量を要することもない。
 
 
<Scenario case の経過>
皮疹は好中球性皮疹のようではなかったが、消化器症状を伴ったことからAZP過敏症を疑った。
 
AZP中止したところ、下痢・皮疹は改善した。
 
AZP50mgで再開したが、下痢・皮疹の出現なく、内服できている。
 
 

 

 

ps

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