リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

強皮症と妊娠②

 
強皮症の妊娠について、ICに備えて勉強をしました。
 
 
 
<Uptodateの孫引き>
 
Uptodateのなかで、99例の109回の妊娠を対象とした研究を読んでみました。
 
Arthritis Rheum 2012;64(6):1970-7.
Brief report: successful pregnancies but ahigher risk of preterm births in patients with systemic sclerosis: an Italianmulticenter study.
Taraborelli M, et al.
 
PATIENTS AND METHODS
Patients. イタリアの25施設で定期受診するSSc99例の女性。2000-2011年の間で全ての女性がSSc発症後109回の妊娠をした。109回のうち102回はACR guideline; 基準を満たす患者で、lcSSc54例、dcSSC48例、LeRoy and Medsger criteria for early SSc を満たす6例、scleroderma sine sclerosis1例。
 
ほとんどの患者が白人。African 2例、African American1例、Asian1例。患者のベースラインでの特徴と妊娠アウトカム(Table1+2に示す)を前向きに集めた。妊娠前1年以内、最初のtrimester、分娩後。データは後ろ向きに統一されたプロトコールでレビューされた。
 
有意な変化を以下で定義した:
the modified Rodnan skin thickness score(MRSS)>30%の変化,
FVC, DLCO>15%の変化
LVEF>10%の変化
・血清Cr>70%の変化
 
コントロール群として一般の産科人口を用いた。この人口はイタリアのある産科施設において2009年に起きた出産した全ての女性 (n = 3,939)。このコントロールサンプルは出産だけに基づいており、妊娠の数を計算することは不可能であった。そのため、この群における流産と胎児死亡の頻度は文献より入手することとした。全ての対象患者が研究としてデータを用いることに書面による同意を得た。
 
Statistical analysis.
連続変数にはStudent’s 2-tailed t-test、カテゴリー変数には chi-square or Fisher’s exact testsを用いP<0.05を有意と考えた。The Cox proportional hazards modelを早産の独立した危険因子を決定するために用いた。multivariate model for stepwise selectionに入れるためにはP<0.05を有意レベルと考えた。
 
RESULTS
Course and outcome of pregnancy.
SSc女性99例が109回の妊娠をした(107は自然分娩、2例は人工授精)。計101例の出産があり、男児59、女児42例。3例は双子。妊娠時の母体の平均年齢は31.8 (Table 2)で、一般の産科人口と同等であった (30.9)。妊娠時のSSc期間の中央値は60ヶ月(範囲2-193mos)(66.9ヶ月)。子宮内胎児発育遅延 (IUGR)SSc患者で一般の産科人口よりも多かった (6% vs 1%)。加えて早産の頻度はSScで増加した (25% vs 12%)患者は重度の早産(妊娠34週以前の出産)の頻度も多かった (10% vs 5%) (Table 2)
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単変量解析において早産をしたSSc女性では期間通りに出産した患者と比べステロイド使用が多かった (40% vs 21%; p=0.05)。加えて期間通りに出産した女性と比べ早産を経験した患者はIUGRの頻度型か多かった (24% vs 0%; p=0.0001)。これらの女性はより多くが極低出生体重児の児が多かった (20% vs 0%; p=0.001)。しかし、早産の女性は葉酸の使用頻度が低く (36% vs 68%; p=0.009)、抗Scl-70抗体の頻度が少なかった (32% vs59%; p=0.036)。母体年齢、罹患期間、Medsger Severity Score for SSc、疾患のsubtype゚、抗セントロメア抗体と抗リン脂質抗体の存在は早産に関連しなかった。
 

多変量解析において(IUGRの率、極低出生体重児、抗Scl-70抗体、ステロイド使用、葉酸使用を含む)ステロイドのみが早産のリスクであった (OR 3.63, 95%CI 1.12–11.78)葉酸の使用 (OR 0.30, 95% CI 0.10–0.91)と抗Scl-70抗体 (OR 0.26, 95% CI0.08–0.85)はリスクを下げた。
 
早産25例の大多数 (72%)が医原性(帝王切開、経膣分娩)。帝王切開は一般の産科人口よりも多かった (52% vs 31%)帝王切開20例は緊急手術であった (9例が産科的な理由で11例は胎児仮死)31例がelectiveであり、その中の14例が実際の悪化はなく患者の産科医が決めた。
 
6例がICUに中央値15日(範囲1-30日)入院した。入室の理由;respiratory distress syndrome (n = 1), 水頭症(n = 1), 食道閉鎖症(n = 1), 32wksより早い未熟児 (n = 2)IUGR (n = 1)。ある重症の早産の児は (妊娠27.4週に出差) は多臓器不全のため6日で死亡した。
 
私たちはSSc患者群で妊娠年齢の割に小さい胎児の頻度が一般の産科人口と比べ増加することを見いだすことはなかったが、極低出生体重児SScで有意に多かった (5% vs 1%)。自然消失は抗リン脂質抗体の存在に関連しなかった。3例が大奇形を有した;臍帯ヘルニアを合併した片側性腎無形成1例(父親に同じ奇形あり)、食道閉鎖1例(母がメトトレキサートを内服中に妊娠していた)、口唇口蓋裂1 (母が少量mPSLで治療されていた)。私たちは妊娠のアウトカムと疾患のサブタイプの間に有意な違いを見いだすことはなかった (Table 2)

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私たちは妊娠前にthe Medsger SeverityScore for SScに応じて重症の臓器障害を有する女性における妊娠のアウトカムを調べた。このうち2例は重症の消化管障害を有し、1例は合併症なく出産したが、もう1例はIUGRの頻度型のため早産で帝王切開を要した。重症の間質性肺炎を有する2例は産科的な合併症を起こさなかった。これらの女性はベースラインで肺高血圧症、重症の腎障害や心病変をもっていなかった。
2つの妊娠は人工授精でなされた。1例はin vitroで卵細胞質内精子注入法、1例は人工授精で誘発された。これらの処置は卵巣刺激を含み、合併症はなかった。
 
Clinical course of the maternal disease.
妊娠中強皮症はほとんどの患者でstableであり、出産後1年間もstableであった (Table 3)。しかし数人では特筆すべき変化があった。17 (15%)の患者 (12 with dcSSc, 4 with lcSSc, and 1 with early SSc)において、the MRSSは妊娠後に有意に悪化した;平均スコア7.7から15に。レイノー現象は32%の患者でsecond trimesterで一時的に改善した。手指潰瘍における同様の改善が20%の患者にみられた;これらの利益は出産後には失われた。10%の女性において呼吸困難は一時的に悪化したが (肺病変のある2)、器質的な肺病変の進行はなかった。人工授精は疾患の進行に関連しなかった。
 
出産後12ヶ月の間に内臓病変の発生が4例に起きた。全例が抗Scl-70陽性。そのうち3例は3年以内の病歴であった。1例のみベースラインで重症の臓器病変を有した。
 
最初の患者は34歳のアフリカの女性で、食道閉鎖の児を出産して9ヶ月後に肺高血圧症を有した。胎児のサイズは妊娠期間に対して十分にみえた。この患者はlcSScを有し、LAC陽性で、ベースラインで重症の肺病変(FVC 37%, DLCO/ alveolar volume 23% predicted)と高血圧症を有した。彼女はSSc発症4ヶ月後に妊娠した。妊娠中、推定肺動脈圧は正常であった。出産9ヶ月後、彼女は息切れを自覚し、収縮期肺動脈圧が上昇した。右心カテーテル検査の結果は毛細血管前の肺高血圧症を確認した (平均PAP 37 mm Hg、肺動脈楔入圧8mmHg)。現在8年たっているが、彼女は心肺移植を待っている。
 
2番目のdcSSc を有する31歳女性はベースラインで持続的な心室異所性拍動を有した。発症28ヶ月で妊娠し、妊娠34週で妊娠週数に対し十分なサイズの児を出産した。出産の1ヶ月後、ホルター心電図は持続的な心室性頻拍のエピソードを示した。抗不整脈薬が開始され、除細動器を装着された。発症5年後、除細動器が放電したことはない。
 
3番目の患者は28歳のdcSScで、発症12ヶ月後に妊娠した。34週で早産をしたが、児は妊娠週数に対し十分なサイズであった。その6ヶ月後、息切れを自覚し、心エコー (LVEF 34%), MRI、冠動脈造影、心筋生検の結果、心筋炎の存在が確認された。免疫抑制療法は彼女の臨床所見を改善させLVEF54%に改善させた。
 
最後に4番目の患者はdcSSc30歳女性で、発症60ヶ月後に妊娠した。37週で妊娠週数には小さなサイズの児を出産した。出産の1ヶ月後、彼女は腎クライシスを発症した。Crが突然7mg/dLに上昇した。彼女は透析、高用量のラミプリル、ボセンタンを始めた。現在4年立っているが、彼女は党籍を離脱し、現在のCCr25 ml/min
 
全てで発症3年以内の抗Scl-70抗体を有するSSc患者の13%が出産後にいくつかの型の疾患の進行を認めた。
 
<まとめ>
強皮症の妊娠は98/109(90%)が出産まで至る。
強皮症の妊娠はIUGR6%lc2%, dc11%)と多い(一般人口の1%p=0.001
早産(<37w)25%lc20%, dc32%)と多い(12%p<0.001
<34wの早産も10%8%, 11%)と多い(5%p=0.03
帝王切開52%46%, 57%)と多かった(31%p<0.001
妊娠高血圧、子癇、子癇前症に差はない。
低出生体重児<1500g)が5%2%, 8%)と多い(1%p=0.002
 
ステロイド使用は早産のリスクであった (OR 3.6)葉酸の使用 (OR 0.3)と抗Scl-70抗体 (OR 0.26)は早産のリスクを下げる。
 
Scenario caseの経過>
患者と夫に説明をした。
「強皮症は妊娠の制限にはあまりなりませんが、母胎・胎児にとっても多少のリスクを伴います。慢性の病気であるため妊娠中、出産後も強皮症の進行が見られることがあることがあります。もし、間質性肺炎の治療を優先したいということであれば応じますが、将来の妊娠は現実的なものではなくなるかもしれません。」