<Clinical scenario>
※実際のケースを一部アレンジしております。
頬部紅斑、関節炎、腎炎、抗dsDNA抗体>400を有する活動性SLEの32歳女性が入院しました。3ヶ月前より関節炎、発熱に対しPSL7.5mg投与中、抗カルジオリピン抗体IgG陽性にてバイアスピリン※投与中でした。
ある先生より、「D-dimerの測定を!」とアドバイスをいただきました。
そもそも、D-dimerとは大動脈解離や肺血栓塞栓症に感度が高いマーカーで、陰性のときに除外の根拠となりうる検査です。
SLEにおいてD-dimeの有用性はちゃんと検証されているのでしょうか。いくらなら異常と考え、どういう行動をとるべきでしょう。精査? ひょっとして治療?
PubmedでD-dimerのMeSH とSystemic lupus erythematosusのMeSHを探して、かけ合わせます。
#1 Search "fibrin fragment D" [Supplementary Concept] → 2867件
#2 Search "Lupus Erythematosus, Systemic"[Mesh] → 41886件
#1 and #2 →12件
その中からひとつだけ、SLEにおけるD-dimerと血栓症のリスクについて報告した論文をみつけました。
D-dimer level and the risk for thrombosis in systemic lupus erythematosus.
Wu H, Birmingham DJ, Rovin B, Hackshaw KV, Haddad N, Haden D, Yu CY, Hebert LA.
Clin J Am Soc Nephrol. 2008 Nov;3(6):1628-36.
Method
・100人の連続したSLE患者(Ohio SLE Study;OSS)において前向きにD-dimer(以下、DD)を測定した。
・2ヶ月毎にフォローし、毎年DD、ACL(抗カルジオリピン抗体)、LAC(ループスアンチコアグラント)を測定(DDは臨床状況に応じ測定してもよい)。
・DD上昇、またはPhysicalで動脈静脈血栓が疑われれば精査した。DVTには下肢の二重走査を、肺塞栓症が疑われれば造影CT、中枢神経の血栓症が疑われれば造影MRI、その他の血栓に対してもMRAや心カテを行った。小血管の血栓の精査として、細血管性溶血性貧血の評価(分裂赤血球症、Ret、LDH)、新たな低酸素には歩行後のSpO2(<94%なら肺塞栓の評価)、重症尿蛋白を伴わないCr上昇には腎生検を行った。新たな心雑音や動脈血栓の所見があれば、経食道心エコーを行った。
Results
・フォロー中のDD最高値で群分けしたところ、血栓症の頻度は
DD<0.5mcg/ml群(n=45)・・・0 (0%)
DD0.5-2.0群(n=19) ・・・1例 (6%)
DD>2.0群(n=36) ・・・14例 (42%)
・DDの測定頻度を調べたところ(血栓症診断後のDDの値は除外した)
DD<0.5群 1.7±1.0
DD0.5-2.0群 1.9±2.3
DD>2.0群 5.2±5.0
と、DD>2.0群で有意に多かった(p=0.001)。理由はDD>2.0群ではSLEがより重症であり、頻回な測定につながったため。
・フォロー期間は
DD<0.5群 35.3±12.5(ヶ月)
DD0.5-2.0群 36.6±20
DD>2.0群 45.2±13.5
と>2.0群で有意に長かった(p<0.01)。しかし、測定頻度はフォローの年数より少なかった(3年目以降はコスト削減のため毎年の測定を中止したため)。
・DD>2.0群を血栓症を起こした15例と起こしていない19例にわけてDD値の推移をグラフ化したところ、両者は似かよっていた。
・血栓症を起こした15例の内訳は、Unexplained hypoxia(3)、細血管障害性抗リン脂質抗体症候群(5)、PE(1)、CAPS(2)、冠動脈疾患(1)、脾動脈閉塞(1)、Libman-Sacks(2)。
DD>2(vs DD≦2.0) 感度0.93 特異度0.74
抗リン脂質抗体陽性(vs 陰性) 感度0.87 特異度0.61
Conclusion
批判的吟味
・フォロー中のDDの値で群分けが随時なされるという奇妙な方法をとっている。その割にDDは「臨床状況に応じ」測定してよいと曖昧。年に1回測定のルールも守られていない。
・DD>2.0群においてDDがもっとも頻回に測定され、フォロー期間が最も長かったことは無視できない。
→SLEにおけるDD測定の意義を言うには不十分ですが、DDが陰性の場合には血栓は起きにくいようです。
Scenario caseの経過
DDを測定したところ、8.0と高値でした。それまでに右心カテ(肺高血圧疑い)、脳MRI(頭痛の精査)を行っていましたが、いずれもnegativeでした。身体所見上、血栓症を示唆する所見なし。それ以上の精査は控え、DD高値はActive SLEによるものであろうと判断しました。陽性結果にたいし、どこまで検査するのがよかったのでしょう。。
リウマトロジスト@反省
ps;SLEのDD測定に批判的な見解もありました。DD測定はCost effectivenessを含めさらに検討を要すると。
※解説
・血栓症はないが、抗リン脂質抗体を有するSLE・・・RCTではありませんが、ケースコントロール研究でアスピリンが血栓症の発症に予防的に働いたという報告がUptodate19.1” Treatment of the antiphospholipid syndrome”紹介されています。
・検査をすることの弊害・・たとえば、検診における腫瘍マーカーやリウマトイド因子の測定が挙げられます。陽性結果は健康な人を不安にさせ、仕事を休んで病院を受診させます。そして、CTやPETなどの検査の費用。。検査は検査前確率とともに議論されなければなりません。一般人口のように検査前確率が低い集団に一斉に検査をした場合、たとえば1人の癌やリウマチを見つけるために、100人の偽陽性に出くわします。1人の病気の発見は100人にかかったコストと天秤にかけられなければなりません。これをcost effectivenessといって、欧米でよく議論される問題です。
ps
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