リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

強皮症の間質性肺炎

(2011年1月22日)
 
 
強皮症の治療法は皮膚が柔らかくなるとか、とびきりのものがありません。
 
ある薬に期待が寄せられては、RCTで否定されることを繰り返しています。
 
有効な治療法がない今の時代に患者さんにどう言ってあげたらよいのでしょうか。
 
 
 
Clinical scenario
70歳男性、強皮症の患者が紹介された
 
※実際のケースを一部アレンジしております。
 
患者は8カ月前より手指の皮膚硬化、5ヶ月前より息切れに気付いた。紹介時、CT上、肺野辺縁に有意なスリガラス状陰影、両肺底部の牽引性気管支拡張症と網状影を認め、NSIP疑いとされた。
 
VC1.68L(47.9%)DLco8.8337.7%)HbA1c 7.0
 
この患者にとって最善の治療法は?
 
 
 
<疑問を解決する>
1)疑問が生じたら、まずはUptodate
Uptodatescleroderma、あるいはsystemic sclerosisを検索
 
”Prognosis and treatment of interstitial lung disease in systemic sclerosis (scleroderma)” を読んでみよう
 
General approach — 治療することが決まれば、我々は少量のステロイドPSN10mg/day)に加え毎月のシクロフォスファミド静注(IVCY)を行う。治療中飲水を十分にとるよう指示する。AZP+ステロイドは代わりとなりえ、シクロフォスファミド(CY)が禁忌の患者や拒否した患者には考慮してよい。
 
Cyclophosphamide — 強皮症肺におけるCYの有効性は明らかではない毒性と効果に関し相反する結果がるから。内服、静注ともCYが早期の有症状SScにおいて少しは有益であることが示されている。しかし、3RCT6コのOpen label studyメタ解析では12ヶ月の治療肺機能の改善は確認されなかった(FVC, DLco)。CYプラセボを比較した研究において患者の多くが少量ステロイドを併用されてた。これが我々が少量のステロイドを使う理由だ
 
Oral — Oral CYは有症状SSc-ILDの一部には有益なようだ13)。上述の通り全ての研究で確認されているわけではないが。肺機能の改善は多施設二重盲検試験the Scleroderma Lung Study)によって確認された13)。息切れがあり活動性の胞隔炎の所見を有する早期SSc-ILD158名を対象とし、Oral CYプラセボ1年間投与した。活動性胞隔炎の所見とはHRCTにおけるGGO又はBALで好中球か好酸球↑とした。ステロイド併用は許可したが≦10mg12ヶ月後の結果は以下の通りだ。
 
CY群はFVCの低下(-1.0% vs -2.6% of predicted)、TLC-0.3% vs -2.8% of predicted)がより小さかった。DLCOは両群で同じであった。
 
・一部の患者はHRCTの線維化(網状小葉内間質の肥厚、牽引性気管支拡張、気管支拡張症orコンビ)、GGO、蜂巣肺がスコア化され、1年後再検された。CY群はプラセボに比べ線維化の進行が少なかった。GGOや蜂巣肺に関しては変化なし。
 
・皮膚の肥厚、息切れ、自己判断の身体障害もCY群で良かった。
 
CY群はプラセボに比較し、QOLに関する健康調査においてわずかな上昇を示した。
 
・副作用はCY群に多かった。12ヶ月以内に79例中9例に血尿、19例に可逆性の白血球減少症、7例に好中級減少症、5例に肺炎を認めた。一例が出血性膀胱炎となり手術を要し、3例に悪性腫瘍を認めた。この試験の期間はCYによる悪性腫瘍の真の頻度を調べるのに十分でない。発症までに数年かかるからだ。
 
これらの結果はOral CYが活動性胞隔炎を有する早期SScの患者においてわずかな効果を有することを示唆した。しかし、Oral CYの毒性は考慮しなければならず、治療を開始する決定は利益と可能性のあるリスクとのバランスがとれたものでなくてはならない。
 
1年のCY治療を終えた109例のうち93例における24ヶ月後の結果が報告された。CYを投与された48例中12例が少量PSNを併用された。FVCにおけるCYの良い効果はCY中止後6ヶ月は持続したが、24か月までに消失した。これはCYへの反応は長持ちしないことを意味する。皮膚硬化と呼吸器症状の改善は24ヶ月後も持続した。
 
Intravenous — SSc-ILDにおける少量ステロイドと併用するIVCYの効果は小さい観察研究とひとつのRCTで評価されている15)。そのRCTでは45例がMonthly IVCY6ヶ月+PSL20mg隔日、又はプラセボに分けられた15)CY群において12ヶ月後のFVCにおいてわずかな改善を認めた(ベースラインのFVCで調整後)。しかし、この改善は統計学的有意差には到達しなかった。DLcoも呼吸困難の程度も両群とも改善を認めなかった。
 
まとめると、これらのRCTCYと低用量ステロイドが早期の有症状SSc-ILDにおいてわずかな利益があることを示唆する。Oral CYによる効果は統計学的有意差を達成したが、小さいRCTにおいてIVCYは有意差がなかった。しかし、静注は累積投与量を減らし、副作用も軽減するかもしれない。それゆえ、我々はIVCYを好む。
 
 
 
2)この患者に試験結果を説明してもよいのか?
ぜひ、Uptodateの孫引きをしましょう。OralでもIVCYでもよいのですが、原著を読む意味は、自分の患者が試験の対象から漏れていないかを確認することにあります。
 
13) Scleroderma lung study-1yrs(歴史に残るRCTです)
 
23) Scleroderma lung study-2yrs
 
15) IVCYRCT
 
 
リウマトロジストはIVCYが良いと思ったので、15)を読みました。読んだのはAbstractPatients and Methodだけです。
 
Abstract
IVCYプラセボと比べ、FVCが相対的に4.19%改善すると算出されたが、統計学的に有意差はなし。しかし、p=0.08と傾向はあったようです。IVCYの効果はあってもFVC%の改善しかなく、さらにそれは9割程度の確からしさしかないようです(8%の確率でウソ)。
 
Inclusion criteria
18-75歳、SScACR基準を満たすこと、HRCTか胸腔鏡下肺生検で肺線維症が認められること、コンプライアンスがよく、定期的な受診ができること
 
Exclusion criteria
過去のイムランorエンドキサン治療>3ヶ月、過去の高用量ステロイド治療(PSL30mg、>3ヶ月)、治療前3ヶ月以内にPSN10mgの治療を受けた患者、コントロール不良の糖尿病、重症骨粗鬆症1年以内に肺移植を要しそうな患者、SScと関連がない重大な全身疾患or精神疾患が疑われる病歴やラボデータを有する者、妊娠中or授乳中、アルコールや薬剤中毒、同意がえられない患者
 
→この患者はエントリー基準を満たすので、この試験結果をこの患者にお話してもよいと判断します。
 
 
 
Senario caseの経過
本人にICをした。
 
強皮症の間質性肺炎SSc-ILD)です。NSIPという慢性に進行していくタイプだと思われます。進行のスピードは様々であり、呼吸不全になったり急性に悪化することもあり、命に関わる病態です。
内服のCYがこの病気において有効であることが分かっています。その効果は肺活量を数%改善させるという小さなものです。内服で投与すると、白血球減少、発癌性などのCYの副作用が多いと考えられています。
近年、その他の膠原病で総投与量を抑えるための方法としてパルス療法が普及してきています。SSc-ILDでは、小規模の試験で無治療群と比べ良い傾向を示しましたが、有意な差とまでは言えませんでした。確実な有効性とまでは言えないが、有効である可能性が高いということです。
いずれにせよ改善はあってもわずかなものであり、治療をしないという選択肢もありだとは思います。
治療を希望するのであれば、この試験に従って、エンドキサンパルス療法と少量ステロイドで治療することを勧めます。CYの長期の効果は現時点までに分かっていませんが、半年後より毒性の少ないAZPに変えて経過を見れたらと思います。
 
 
患者さんは治療に同意をされ、1ヶ月に1回のIVCY(600mg/m2BSA)6回行った。PSL20mg隔日は併存する糖尿病のため10mg連日投与とした。
 
半年後、
 
肺機能はVCがわずかな改善(1.68L1.83L)を示したが、CTでは著変ななかった。試験のプロトコール通りAZPにスイッチした。糖尿病の悪化を来し、PSLは漸減することとした。
 
 
この患者さんに治療介入することに意味はどれほどの意味があったのだろうか。
 
 
しかしながら、SSc-ILDの患者さんを診るたびに同じ説明を繰り返すしかないのである。
 
 
リウマトロジスト@抗線維化薬の登場を待ちわびている