リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

抗リン脂質抗体症候群の臨床所見-その2-

抗リン脂質抗体症候群、奥が深いんです。。。
 

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その1

https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/13215713

 

その3

https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/13218552

 

 
 
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Clinical manifestations of the antiphospholipid syndrome
 
(つづき)
 
Recurrent thrombotic events —
再発性の血栓症のイベントはAPSでコモン。全てではないがほとんどの研究者が最初に動脈血栓症を起こせば動脈性のイベントが起きる傾向があり、最初に静脈血栓症を起こせば、通常、これが再発することを記載している。ある研究で、101例の患者において186の再発が見られたとしており、最初の動脈性の血栓症93%において動脈血栓症が見られたが、最初の静脈血栓症76%に静脈血栓症が見られた。静脈系、動脈系の傾向を決める因子は分かっていない。
APS患者における血栓症の再発率は様々であり、aCLの存在は再発のリスクである。最大のデータは最初の静脈血栓症のエピソードに対しワーファリンによる抗凝固療法を6ヶ月間行った412例の前向き試験に由来する。結果は以下の通り。
抗凝固療法を中止後、最初の6ヶ月間における再発のリスクはaCLを有する患者において抗体を持たない患者に比べ2倍であった(29 vs 14%)。加えて、再発のリスクはaCLの抗体価とともに上昇した。
二回目の静脈血栓症を起こしたaPL陽性患者34例のうち、抗凝固療法の2回目のコースを行っている間、再発はなかった。再度6ヶ月のみ治療された患者では20%で再発が見られた。
40年間の死亡率はaCL陽性患者において15%であり、陰性における6%と比べ有意に高かった。
aCLの予後因子としての重要性はもうひとつのコホート研究でも記載されている。56例の原発APSの患者が5年間フォローされた。15例(27%)が少なくとも1回の再発を起こした。多変量解析にてaCL高値(>40 GPL units)のみが再発性血栓症の独立した予測因子であった。
APSの唯一の症状が不妊症である女性も後の血栓症のリスクである。これは過去に血栓症がないAPSの産科的基準を満たす不妊症の女性を10年間フォローした試験で示されている。aPLを有する女性 (n = 517) DVTPEStroke or TIAのリスクが血栓形成素因を有さない女性(n = 796)に比べて有意に高く、約2倍であった (adjusted HRsDVT1.85, 95% CI 1.50-2.28; PE1.93, 95% CI 1.30-2.87; Stroke or TIA 1.87, 95% CI 1.20-2.93, respectively)。これは純粋な産科的なAPSの女性に対し低用量アスピリン (100 mg/)を投与していたにも関わらず、このようなデータであった。APS患者におけるDVT, PE and stroke or TIAの絶対的なリスクは13.2%, 3.9%, 2.9%であった。. ループスアンチコアグラントは近位・遠位、表層の静脈血栓症の用量依存性のリスク因子であった。
 
Neurologic syndromes besides stroke — aPLの存在と認知機能障害and/or白質病変との関連は現在では強い関連があると認識されている。しかし、APSとその他の神経合併症との関連はより弱い。
 
Cognitive deficits — aPL認知障害との関連については重大な興味と論争がある。報告された認知障害の程度の範囲はわずかな所見から一過性の全健忘、永続的で顕著な認知機能に及ぶ。APSにおいて報告されている認知障害は時々、常ではなく、白質病変に関連する。
認知機能障害は包括的な神経精神的検査を行った原発性・二次性APS60例の研究で記述されている。APS患者は性年齢、教育でマッチされた健常人のコントロール60例、有疾患コントロールAPSを持たないSLERA25例と比較された。以下の観察結果が得られた:
認知障害APSの患者において有意に多かった(42% vs 18% and 16%)。APS認知障害は診察上の網状皮斑とMRI上の白質病変と関連した。
認知障害と過去の中枢神経疾患(例、脳卒中)との関連はなかった。
 
White matter lesions — APSCNS障害は血管障害による変化を示唆するMRI上の高信号域と関連する。これらの病変は多発性硬化症のそれと区別することは難しいかもしれない。それらの病変が臨床的または血清学的にSLEAPSの所見を呈する患者にあれば、ルポイド硬化症と呼ばれてきた。
多くの多発性硬化症の患者が抗リン脂質を有する。しかし、これらの抗体と多発性硬化症のいかなる臨床所見も関連性はないようだ。
 
Other neurological associations — aPLを有すると報告されたその他の神経学的異常には以下があるが、関連性は弱い。
Epilepsy
Psychosis
Chorea and hemiballismus
Transverse myelopathy
Sensorineural hearing loss
Orthostatic hypotension
Migraine
 
Pregnancy loss and preeclampsia妊娠損失と子癇前症 APSの存在は妊娠合併症のいくつかのタイプと関連するかもしれない。これらには妊娠10週以降の重症の子癇前症や胎盤不全による胎児死亡、多数の胚損失(10週未満)が含まれる。aPLを有する患者における胎児の損失と再発性の胎児損失の女性に対するアプローチは別に示す。
子癇前症やHELLP症候群 (hemolysis, elevated liver enzymes, and low platelet count in association with pregnancy)を呈するaPL陽性の患者では、劇症型APSの発症の可能性を考えるべし。とくに血栓症の既往がある患者や自然流産の患者においては。
 
Hematologic manifestations — APSにおける顕著な血液学的な異常には血小板減少症、再血管性溶血性貧血、稀に出血が含まれる。
 
Thrombocytopenia — 血小板減少はAPSにおける最もコモンな所見のひとつである。血小板数は通常5-14/mcl。血小板減少症はAPS血栓症の合併症の発生を除外するものではない。SLE患者(and/or SLE-like diseases) 869例からなる13の研究のレビューによると血小板減少症はLA陽性(55%)aCL陽性 (29%)においてこれらの抗体を有さない患者と比べ頻度が高かった。逆に自己免疫疾患を有し血小板減少を有する患者はaPLを持っていることが多かった(例えば、SLE患者と血小板減少を有する患者の70 to 82 %、自己免疫性血小板減少症を有する患者の30 to 40%)。
血栓症の発症や胎児損失のリスクはaPLを有する自己免疫性血小板減少症の患者において上昇していた。これは自己免疫性血小板減少症を呈した82例の患者の前向き研究において示された。5年間における血栓性のイベントや胎児損失の割合はaPL陽性の自己免疫性血小板減少症の患者31例(38%)の約60%であったが、aPL陰性では2-4%だった。自己免疫性血小板減少症と持続的なLAを有する患者はリスクがもっとも高いようだった;そういう患者の半分近くは平均38ヶ月のフォローの間に血栓症を来たした。
 
Thrombotic microangiopathy 血栓性微小血管障害 — aPLSLEに発症するTTP/HUSのいくつかのケースで関連があるとされた。例えば、ある研究ではそのような症例8例のうち5例がaPLを持っていた。加えて、原発APSの患者のなかにはTTPを発症する者もいる。
血栓性微小血管障害とaPLを有する46例のレビューでは、以下の臨床所見との関連性が記述された。
TTP/HUS in 33%
Catastrophic APS in 23%
Acute renal failure in 15%
Malignant hypertension in 13%
HELLP syndrome (hemolysis, elevated liver enzymes, and low platelet count in association with pregnancy) 4%
APSの患者のなかには出血の診呈する患者もいる。APS1000例のシリーズによると、溶血性貧血は平均7年の観察期間において10%でいつかのタイミングで見られた。しかし、このコホートSLEを含んでおり、溶血の原因については記載されていない。そのような患者では自己免疫性溶血性貧血と細血管性の赤血球の破壊とも役割を持っているかもしれない。
 
Bleeding episodes — LA陽性の患者がプロトロンビン値が低く、血栓よりも出血の合併症を有する場合、プロトロンビンに対する抗体の存在が疑われるべきだ。
 
Pulmonary disease — 肺塞栓はDVTを有するAPS患者の約3分の1に起きる。APSのその他の肺合併症で認識されたものには以下がある:血栓塞栓性肺高血圧症を有する、または有さない肺高血圧症。
 
Alveolar hemorrhage
線維性胞隔炎、ARDS、非血栓性の肺高血圧症においてaPL陽性例が報告された。しかし、aPLとの関連性は不明。
 
Cardiovascular disease — aPLを有する患者はしばしば心疾患を来たし、これには弁の肥厚、僧帽弁の結節、非細菌性疣贅が含まれる。僧帽弁と大動脈弁の障害は弁の逆流症や稀ではあるが弁の狭窄症に至ることがある。
aPLは以下の原因になる;心臓内血栓、心嚢水貯留、心筋症、感染性心内膜炎を伴う・伴わない塞栓症、早い時期における冠動脈バイパスの静脈グラフトの狭窄、末梢血管疾患。
 
Valvular disease — aPLSLEの心血管病変との関連がSLEレジストリ200例において評価された;21%aCLまたはLA陽性であった。aPLを有する患者は僧帽弁の結節と中等度から重症の僧帽弁逆流を有する率が高かった(14% vs 4% without aPL)。僧帽弁の結節は高力価のIgG aPLを有する患者においてコモンだった(31% vs 4% without aPL)。aPLは心肥大、収縮不全、動脈硬化や肺高血圧症には関連しなかった。
 
Ischemic heart disease — APSと虚血性心疾患の頻度上昇との関連があるかないかについては議論されてきた。
異なるシリーズにおいて、aCLはその他の自己免疫性疾患を有さない虚血性心疾患の患者の20%に見られた。抗β2-GP- I抗体は不安定狭心症30%に見られた。
動脈造影で正常な心外の冠動脈を有する狭心症cardiac syndrome X)とAPSとの関連が示唆されてきた。
心臓造影MRIにおける異常はAPS患者においてより多い (8 of 27, 30%)。健常人のコントロールと比べ(3 of 87, 3.5%)。これらの観察の結果は確かめられれば、APSの多くの患者が冠動脈疾患のリスクであることを示唆する。
2000例の患者の症例対照研究において、β2-GP- Iに対する抗カルジオリピンIgG抗体の存在に関連して心筋梗塞のしっかりとした増加が見られた(補正オッズ比1.8, 95% CI 1.2-2.6)脳卒中のリスクと同様、aCLのみ、抗β2-GP- I抗体のみ、およびIgG以外のクラスの免疫グロブリンのいかなるタイプのaPL心筋梗塞のリスク上昇の原因にはならない。
 
Spontaneous echo contrast — 左心房のSpontaneous echo contrast (SEC)はせん断能力が低い時に赤血球が凝集することに起因すると考えられている所見であるが、左心房内血栓形成と動脈塞栓のの危険因子である。SECAPS患者の16%までに見られるが、臨床的な重要性については分かっていない。