EULAR recommendations for the management of antiphospholipid syndrome in adults.
Tektonidou MG, et al.
Ann Rheum Dis. 2019 Oct;78(10):1296-1304.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31092409
抗リン脂質抗体症候群のEULAR推奨、EULAR recommendations for APSが発表されました。抗リン脂質抗体高値陽性の無症状の個人においてアスピリンを勧めるという、too aggressive!?な推奨となっております。
※論文は2019ですが、SRや会議は2018年に行われているので、正しくはEULAR recommendations 2018になるかと思います。
Medium-high aPL titres.
► 血清または血漿で標準化されたELISAで測定されたIgG and/or IgM型の抗CL抗体が>40 IgG phospholipid (GPL) units or >40 IgM phospholipid (MPL) units, or >the 99th percentile。標準化ELISAで測定されたIgG and/or IgM型の抗β2GPI抗体が>the 99th percentile
High-risk aPL profile.
► 12週間以上離れた2回の測定でループスアンチコアグラント(ISTHガイドラインに沿って測定された)が陽性、あるいは2つ(LA、aCL、抗β2GPI抗体の任意の2つ)か3つ(これら全て)陽性、あるいは高抗体価での持続的陽性
Low-risk aPL profile.
► 単一のaCLまたは抗β2GPI抗体が低~中等度の抗体価で陽性、とくに一時的に陽性である場合。
#ここの検査法の閾値は、日本の検査法では応用しにくいところですが....
Overarching principles 包括的指針
- 抗リン脂質抗体(aPL)を有する個人のリスクの層別化は以下の要素の決定に基づくべき:ハイリスクのaPLのプロフィール(複数陽性、LA、または持続的な高いaPL抗体価のいずれかで定義される)、血栓症の既往、産科APSの既往、SLEのような自己免疫疾患の合併、既知の心血管系危険因子の存在。
- aPLを有する個人における一般的な対策にはすべての個人において、特に高いaPL抗体価を有する個人において、心血管危険因子のスクリーニングと厳格なコントロールを含むべき:禁煙、高血圧・高脂血症・糖尿病の管理、定期的な運動。そして、静脈血栓症のスクリーニングと管理、手術・入院・長期の不動・産褥期のような高リスクの状況における低分子ヘパリンLMWHの使用も含むべき。
- APSの管理において重要なことは、 治療を遵守する事に関する患者教育とカウンセリング、VKAで治療中の患者におけるINRモニタリング、経口抗凝固薬で治療中の患者における周術期の低分子ヘパリンLMWHのbridging therapy、経口避妊薬の使用、妊娠と出産後の時期、閉経後ホルモン療法、ライフスタイルの推奨(ダイエット、運動)。
Recommendations
Statement, LoE*/GoR† LoA (0–10)‡
aPL陽性者における血栓症の一次予防
- 高抗体価のaPLプロフィールを持つ無症候性のaPLキャリア(血管or産科領域のAPS分類基準を満たさない)は古典的リスクの有無にかかわらず、LDA (75–100 mg /日)が推奨される。 (LoE/GoR 2a/B). LoA 9.1 (1.5)
- SLE患者で血栓症や妊娠合併症のない患者において
A.高抗体価のaPLであれば、LDAによる予防投与が推奨される。 (LoE/GoR 2a/B). LoA 9.5 (0.7)
B.低用量のaPLであればLDAによる予防的治療は考慮されてもよい。 (LoE/GoR 2b/C). LoA 8.9 (1.7)
- 産科領域のAPSの既往のみを有する非妊娠女性はSLE合併の有無によらず、LDAの予防投与が十分なリスクと利益の教育を行ったうえで推奨される。 (LoE/GoR 2b/B). LoA 9.0 (1.3)
A. INR2-3をターゲットとしてVKAの治療が推奨される。 (LoE/GoR 1b/B), LoA 9.9 (0.3)
B. リバロキサバンは再発リスクが高いため3つのaPLが陽性の患者では使用すべきではないLoE/GoR (1b/B)。DOACはVKAのコンプライアンスがよくてもINRが達成できない患者、VKAが禁忌の患者(アレルギーや不耐など)では考慮されるかもしれない。 (LoE/GoR 5/D) LoA 9.1 (1.3)
C. 最初の要因のない静脈血栓症の患者において抗凝固療法は長期に継続されるべき。 (LoE/GoR 2b/B) LoA 9.9 (0.3)
D. 要因のある静脈血栓症の患者では治療は国際ガイドラインにそってAPSのない患者で推奨される期間、継続されるべき (LoE/GoR 5/D)。より長期の抗凝固療法はaPLが繰り返し高抗体価である患者、または再発のその他の危険因子がある患者では考慮できるかもしれない (LoE/GoR 5/D)。LoA8.9 (1.4)
~ Statement, LoE*/GoR† LoA (0–10)‡
- APS確定した患者においてINR2-3をターゲットとしたVKA療法にもかかわらず再発をした患者において:
A. VKA治療の順守に関する調査と教育を考慮すべき。頻繁なINR測定とともに。(LoE/GoR 5/D) LoA 9.6 (0.8)
B. もしINR2-3が達成されているのであればLDAの追加、INRターゲットを3-4に上げる事、あるいは低分子ヘパリンLMWHへの変更を考慮してもよい (LoE/GoR 4–5/D). LoA 9.4 (0.7)
A. VKA療法がLDA単剤よりも推奨される(LoE/GoR 2b/C). LoA 9.4 (0.8)
B. 個人の出血リスクと血栓症の再発を考慮にいれて、INR2-3 または3-4のVKA療法が勧められる(LoE/GoR 1b/B)。INR2-3のVKA療法とLDAの併用も考慮されてもよい(LoE/GoR 4/C) LoA 9.0 (1.3)
C. リバロキサバンはtriple(+)のaPL陽性患者で動脈血栓症を有する患者では使用すべきでない(LoE/GoR 1b/B)。現在のエビデンスに基づいて私たちは動脈血栓症を有するAPS確定例にはDOACの使用を勧めない。再発性の血栓症のリスクが高いため(LoE/GoR 5/D)。LoA 9.4 (0.9)
- 十分なVKA治療にもかかわらず再発性の動脈血栓症を起こす患者では、その他の可能性のある原因を評価したうえで、INR3-4への上昇、LDAの追加、低分子ヘパリンLMWHへのスイッチを考慮してもよい(LoE/GoR 4–5/D) LoA 9.3 (1.1)
産科的APS
- ハイリスクのaPLプロフィールを有するが、血栓症や妊娠合併症の既往がない女性において(SLEの有無にかかわらず)、妊娠中はLDA (75–100 mg/日)による治療を考慮すべき(LoE/GoR 5/D)。LoA 9.3 (1.5)
A. 3回以上の自然流産歴(妊娠週数<第10週)がある場合、第10週以降の胎児消失のある患者において、LDAと予防投与量でのヘパリンの併用療法を推奨する(LoE/GoR 2b/B)。LoA 9.6 (0.9)
B. 子癇や重症の妊娠高血圧腎症による、あるいは確認された胎盤不全の徴候による妊娠34週未満の既往がある女性では個々のリスクプロフィールを考慮して、LDAの治療かLDAと予防投与量のヘパリンが勧められる (LoE/GoR 2b/B) LoA 9.5 (0.8)
C. 2回の再発性の自然流産(<第10妊娠週数)や重症の妊娠高血圧腎症や子癇による妊娠34週以降の出産などのような、基準を満たさない臨床的なAPSではLDA単独あるいはヘパリン+LDAが個々のリスクプロフィールに基づいて考慮されてもよいかもしれない(LoE/GoR 4/D)。LoA 8.9 (1.7)
~ Statement, LoE*/GoR† LoA (0–10)‡
D. 妊娠中予防投与量のヘパリンで治療された産科的APSの患者ではヘパリンの予防的投与量を出産後6週間は継続することを考慮すべき。母体の血栓症リスクを減らすために(LoE/GoR 4/C) LoA 9.5 (0.9)
- LDAと予防投与量のヘパリンの併用療法にもかかわらず再発性の妊娠合併症を伴う、基準を満たす産科的APSでは、ヘパリンの投与量を治療域に増やすこと(LoE/GoR 5/D)、HCQの追加(LoE/GoR 4/C)、またはFirst trimesterの低用量のプレドニゾロン(LoE/GoR 4/D) を考慮してもよい。十分に選択されたケースにおいて、静注の免疫グロブリンを使うことも考慮してもよいかもしれない(LoE/GoR 5/D)。LoA 8.7 (1.7)
CAPS
- A. 全てのaPL陽性の個人において早期の抗菌療法の使用による感染症の速やかな治療がCAPS発症を予防するために推奨される(LoE/GoR 4/D)。血栓症を有するAPS患者において抗凝固療法への干渉を最小限にする事と低いINRもCAPS発症を予防するために推奨される(LoE/GoR 4/D)。LoA 9.6 (0.7)
- B. CAPSの患者の第一選択治療として、ステロイド、ヘパリン、血漿交換や免疫グロブリンの併用療法が単一の治療やその他の治療の併用療法よりも推奨される。加えて、いかなるトリガーとなる因子(感染症や壊疽や悪性腫瘍)も適切に治療されるべき(LoE/GoR 5/D)。LoA 9.7 (0.6)
12. C. 難治性CAPSの患者ではリツキシマブなどを用いたB cell depletionやeculizumabなどによる補体阻害療法を考慮してもよい(LoE/GoR 4/D) LoA 9.2 (1.0)
↓注釈
多数のratingがある時、これらはその推奨の一致するサブの部分を表わすものとする。
*Level of evidence (LoE):
1a: systematic review of RCTs;
1b: individual RCT;
2a: systematic review of cohort studies;
2b: individual cohort study (and low-quality RCT);
3a: systematic review of case–control studies;
3b: individual case–control study;
4: case series and poor-quality cohort and case–control studies;
5: expert opinion without explicit critical appraisal, or based on physiology, bench research or ‘first principles’.
†Grade of recommendation (GoR):
A: consistent level 1 studies;
B: consistent level 2 or 3 studies, or extrapolations from level 1 studies;
C: level 4 studies or extrapolations from level 2 or 3 studies;
D: level 5 evidence or troublingly inconsistent or inconclusive studies of any level.
‡ ‘LoA’の中の数字はタスクフォースメンバーの同意レベルの平均±SD (数字) を表す
略語
APS, antiphospholipid syndrome;
aPL, antiphospholipid antibodies.
CAPS, catastrophic APS;
DOACs, direct oral anticoagulants;
EULAR, European League Against Rheumatism;
HCQ, hydroxychloroquine;
INR, international normalised ratio;
LDA, low-dose aspirin;
LMWH, low molecular weight heparin;
LoA, level of agreement;
RCT, randomised controlled trial;
SLE, systemic lupus erythematosus;
VKA, vitamin K antagonists;
<リウマトロジストのコメント>
高抗体価aPLの無症候性の個人において、観察研究に基づくメタ解析を根拠にアスピリンを推奨されております。GCAにおいて観察研究に基づくメタ解析を根拠にしてアスピリンをルーチンに行うべきでない、とこれまでの推奨を変更されたことと好対照です。同時期のEULARから発せられたRecommendationsにもかかわらず....
https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/2020/05/18/082708
それでは次に推奨1の説明文と根拠となった2つの論文を見てみましょう。
https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/2020/05/27/000000
ps
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