リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

巨細胞性動脈炎GCAにおけるアスピリンの是非(EULAR recommendations for LVV 2018)

大型血管炎LVVのEULAR recommendations 2018を勉強しました。

https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/2020/05/13/225330

 

この度のrecommendationでトシリズマブTocilizumabが躍進したのと対照的に、アスピリンAspirinの推奨が変わっています。当方は全例アスピリンを使っていたのですが、後ろ向き観察研究のメタ解析に基づく、この診療はこの度、肯定されなくなってしまいました....

https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/10108408

 

ということで、Recommendation 8、巨細胞性動脈炎GCAにおけるアスピリンに関する推奨を勉強します。

2018 Update of the EULAR recommendations for the management of large vessel vasculitis - Recommendationsより

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31270110

 

アスピリンや抗凝固療法はLVVの治療としてルーチンに行うべきではない。冠動脈疾患や、脳血管疾患などのその他の適応がない限り。血管狭窄による合併症や冠動脈疾患のハイリスクのような特別な状況では個々の状況に応じて考慮されるかもしれない。

GCAの患者は心血管疾患と脳血管疾患の発症リスクが上昇している。originalのEULAR recommendationではアスピリンを予防的に使うよう推奨していたが、これはGCA診断前または診断時の低用量アスピリンを投与された患者が視力障害や脳卒中を発症する割合が低いかもしれなかった2つのretrospective研究に基づいている。ただしイベントの数はこれらの研究で少なかった。しかしその後2つのコホート研究とメタ解析はGCAにおけるアスピリンの予防効果を確認できなかった(124-126)。アスピリンによる(分かっていない)予防的な効果と出血のような有害事象(127)とのバランスをとって、私たちはオリジナルのステートメントを変更することを決め、心血管疾患や脳血管障害のようなその他の理由がないかぎり抗血小板剤や抗凝固療法をルーチンには処方すべきではない、と推奨した。

124) https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18799055

125) https://academic.oup.com/rheumatology/article/48/3/258/1786999

126) https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24667078

127) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30221597/

 

ひとつの抗血小板薬を使用中のTAKのコホート研究(128)より虚血性イベントの有意な減少が報告された。低いLoEを考慮し、血管チームは血管狭窄の程度やその他の要素を考慮に入れて個々に応じて抗血小板薬の使用を考慮するよう決定した。

128) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30221597/

 

<孫引き>

アスピリンの効果を研究したメタ解析の126(Abstract)を読んでみます

Effect of antiplatelet/anticoagulant therapy on severe ischemic complications in patients with giant cell arteritis: a cumulative meta-analysis.

Martínez-Taboada VM, et al.

Autoimmun Rev. 2014 Aug;13(8):788-94.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24667078

 

Abstract

Objective

GCAの診断時とステロイド療法中における重症の虚血性合併症の発生に対する抗血小板薬と抗凝固療法の効果と出血リスクを評価すること。

Methods

Pubmedとthe Cochrane Central Register of Controlled Trials databases を用いた包括的な検索が行われ、1992年から2012年12月までに出版された全ての論文のreferenceの検索を追加することで補充された。累計メタ解析には6つのretrospective研究が含まれ、GCA914例を提供した。GCA診断時、およびGCA診断後とステロイド治療中における重症虚血性合併症に対する抗血小板薬と抗凝固療法の効果を評価した。GCA患者にステロイド治療とともに使用された抗血小板・抗凝固療法の出血リスクも評価した。

Results

GCA診断前の抗血小板・抗凝固療法は重症虚血性合併症の発生の予防に関連していなかった (OR: 0.661; 95% CI [0.287–1.520]; p = 0.33)。しかしそのような治療はGCA診断後では重症虚血性合併症の予防効果があるかもしれなかった (OR: 0.318; [0.101–0.996]; p = 0.049)。ステロイドと併用されても出血リスクを増価させることなく (OR: 0.658; [0.089–4.856]; p = 0.682)。

Conclusions

GCA診断前の抗血小板・抗凝固療法は重症虚血性合併症の減少に関連しなかった。しかし抗血小板・抗凝固療法はGCA患者にステロイド治療とともに使われた場合、境界的な利益を示した。

 

次にアスピリンの有害性を研究した127を読んでみます

Effect of Aspirin on Cardiovascular Events and Bleeding in the Healthy Elderly.

McNeil JJ, et al.

N Engl J Med. 2018 Oct 18;379(16):1509-1518

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30221597/

 

Abstract

Background: アスピリンは心血管イベントの二次予防として確立された治療である。しかし一次予防における役割は分かっていない。とくにリスクが高い高齢者において。

 

Methods: 2010-2014年、私たちはオーストラリアとUSにおいて地域に暮らす心血管疾患、認知症、身体障害を有さない70歳以上の男女を登録した(USでは黒人とヒスパニックでは65歳以上)。参加者は100mgの腸溶剤またはプラセボを内服するようランダムに割り付けられた。Primary end pointは死亡、認知症、持続する身体障害の複合アウトカム;このend pointにおける結果はこのjournalのもうひとつの論文に報告される。Secondary end pointには主要な出血症状、心血管疾患(致死的な冠動脈疾患、非致死的な心筋梗塞、致死的・非致死的な脳卒中心不全による入院)

 

Results: 研究に登録された19,114 人のうち9525 がアスピリンに、9589 人がプラセボに割り付けられた中央値4.7 年のフォローアップにおいて心血管疾患の発生はアスピリン群で1000人年あたり10.7人、プラセボで11.3人 (hazard ratio, 0.95; 95%CI, 0.83-1.08)。主な出血率は1000人年あたりアスピリン群で8.6 イベント、プラセボで6.2 イベントであった(hazard ratio, 1.38; 95% CI, 1.18 to 1.62; P<0.001).

 

Conclusions: 高齢者の一次予防として低用量アスピリンの使用はプラセボに比べ有意に高い主要出血リスクをもたらし、有意な心血管疾患の発生リスクを抑えられなかった。(Funded by the National Institute on Aging and others; ASPREE ClinicalTrials.gov number, NCT01038583 .).

 

 

<リウマトロジストのコメント>

推奨は変更されましたが、GCAではアスピリンの一次予防の効果はギリギリあるということのようです(Martínez-Taboada 2014によると、OR: 0.318; [0.101–0.996]; p = 0.049)。たしかにルーチンの使用は推奨できないかもしれませんが、虚血性合併症を起こした、あるいは起こしそうなGCA患者(顎跛行、一過性視力障害など)では考慮した方がよいでしょう。

「投与すべきでない」と推奨されているわけではないので、誤解されませんように。PPI併用は忘れないようにしたいものです。

 

 

ps;↓でGCAのreviewを執筆させていただきました!