リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

B型肝炎キャリアの関節リウマチ

このBioの恩恵が受けられる時代に、B型肝炎キャリアだけがとり残されていると感じませんか?
 
 
Clnical scenario
※実際の症例を一部アレンジしております。
 
34歳女性、HBVキャリアRAの患者さんが紹介された。
 
B型肝炎のserologyHBsAg+HBsAb-HBeAg-HBeAb+HBcAb+
 
倦怠感のため、メトトレキサー8mg/wからの増量が難しい。
 
関節炎は圧痛10/28、腫脹9/28、全般評価20、医師の評価20CRP0.08 
SDAI = 10+9+0.2+0.2+0.08=19.48にて、中等度疾患活動性と判定した。
 
この方に最善の方法を提案してあげよう。
 
 
too rarePubmedで>
稀すぎて、Uptodateでは適当な見出しがありません。そもそも米国ではB型肝炎少ないのですよね。
 
ということで、Pubmedの登場です。
 
RAMeSHHBVMeSH、くわえて生物製剤6剤のMeSHORでつないで3つの用語をそれぞれ検索して。。
 
#12 Add Search "Hepatitis B"[Mesh]→ 41995
 
#2 Add Search "Arthritis, Rheumatoid"[Mesh]→ 93370
 
#9 Add Search ((((("infliximab" [Supplementary Concept]) OR "TNFR-Fc fusion protein" [Supplementary Concept]) OR "adalimumab" [Supplementary Concept]) OR "golimumab" [Supplementary Concept]) OR "tocilizumab" [Supplementary Concept]) OR "abatacept" [Supplementary Concept]→ 10898
 
3つの用語を含む論文を探すため、ANDでつないで検索した。
 
#13 Add Search ((#12) AND #2) AND #9→ 20
 
20件を読めばよいのであるが、TNF阻害薬についてはB型肝炎患者における同剤のシステマチック解析が2011年に出ていたので、これを読むことで省略した(なぜか、今回の検索にはひっかからなかりませんでした)。
 
2011年に台湾のひとつの病院より報告された18例の最大のシリーズも読んだ(20件中1件目)。
 
Tocilizumab3件を読んだが、AbataceptGolimumabについての報告はなかった。
 
(Medicine2011)
HBsAg+ career89例、原疾患が判明した内訳はRA24例、SpA19例、IBD18例、Ps8例、BD1例、ASD1例。
・平均14ヶ月の間で、再活性化(DNAの陽性化)は35例にみられた。35例のTNF阻害薬の内訳はIFX23例、ETA9例、ADA3例。
DNAが上昇したが無症状であったもの・・・6/2623%
DNAが上昇し、軽度の肝障害(<200)があったもの・・8/26 (31%)
DNAが上昇し臨床症状か肝疾患の所見があったもの・・12/26 (46%)・・うち5例が急性肝炎
・治療はTNF阻害薬の中止18/3551%)、抗ウイルス剤16/3546%)。
HBV再活性化は過去に免疫抑制療法を受けていたもので多く(96% vs 70%)、抗ウイルス剤の投与をうけたもので低かった(23% vs 62%)。基礎疾患はHBV再活性化に関係がなかった。
・急性肝炎が5例に起き、4例が死亡した。TNF阻害薬開始後、平均11ヶ月後であった。
11例においてHBVの再活性化が治療された後、TNF阻害薬が原疾患のコントロールのため再投与された。3例は再活性化前と同じ製剤、残り8例は別なTNF阻害薬(ETN4例、ADA4例)を投与された。そのうち、1例がADA投与中に再度、再活性化を認めた。
 
(ARD2011)
HBsAg+RA患者18例がTNF阻害薬にて治療された(エタナセプト9例、アダリムマブ9例)。抗ウイルス剤(ラミブジン)の予防投薬を受けた10例はいずれもB型肝炎の再活性化を認めなかったが、予防投薬を受けなかった8例のうち5例が再活性化を来した(エタナセプト2例、アダリムマブ3例)。その5例は1-5ヶ月で再活性化を来し、いずれも肝炎(ALT199-478)を呈したが、ラミブジンの投与にて全例改善した。
 
(MR2011)
RAに対しレミケードを投与中に急性肝炎を起こしたB型肝炎患者において、抗ウイルス剤(ラミブジン)投与後にトシリズマブを投与され、RAが改善した症例
 
(MR2011)
アミロイドーシスを合併した成人スティル病に対し、抗ウイルス剤(エンテカビル)投与後にトシリズマブを投与され、アミロイドーシス、成人スティル病とも改善した症例
 
(Rheumatol2008)
関節リウマチにトシリズマブを6.5年間、有効に安全に使用できていたが、偶然にHBsAg陽性と判明し、抗ウイルス剤(エンテカビル)を追加した症例
 
以下も参考になると思います。
一時代をきづくも忘れ去られつつある金製剤;MTX上乗せ(METGO
 
ブシラミンのRCTMTX上乗せの一本だけ。だけども、日本では推奨度A
 
 
 
Senario caseの経過>
 
以下がICの一部です。
 
B型肝炎のキャリアであり、TNF阻害薬をふくむ生物製剤の投与によって肝炎の再燃が懸念されております。肝炎の再燃とは劇症肝炎も含まれ、これは命に関わる病態です。
 
以下は、現時点での医学情報をもとにした見解であり、今後の臨床試験や症例報告などの医学情報によって変わってくることが考えられます。
 
1)TNF阻害薬について
・レミケード、エンブレル、ヒュミラ、シンポニという4種類の薬剤がありますが、感染症などの安全性ではエンブレルが優れているというデータがあります。いずれの薬剤もB型肝炎キャリアの関節リウマチ患者における安全性について詳しくは分かっていないというのが現状です。
 
・過去の報告例を集めた2011年の研究によると、B型肝炎キャリア89例にTNF阻害薬が使用され、平均14ヶ月の間で再活性化は35例に起きました。TNF阻害薬の内訳はレミケード23例、エンブレル9例、ヒュミラ3例でした。この35例のうち、5例は急性肝炎となり、4例が死亡しました。
 
2011年、台湾からB型肝炎キャリアの関節リウマチ患者18例にTNF阻害薬を使用した成績が発表されました。18例のうち10例がB型肝炎のための抗ウイルス剤(ラミブジン)を予防投与のもと治療を受け、B型肝炎の再活性化はありませんでした。一方、予防投与を受けずにTNF阻害薬で治療され8例のうち、5例に再活性化が起きました。この5例は全員肝炎を起こしましたが、ラミブジンの投与によって生存しています。
 
・レミケード、エンブレル、ヒュミラについての市販後調査の結果はそれぞれの説明・同意書の通りです。
 
※現在の抗ウイルス剤は耐性率が高くなりつつあるラミブジンよりもエンテカビル(バラクルード)がよいと考えられています。エンテカビルにおいても、長期的にB型肝炎ウイルスが耐性を獲得する可能性はないとは言えません。エンテカビルには添付文書の通りの副作用があります。
 
2)アクテムラについて
B型肝炎キャリアの関節リウマチ患者にアクテムラを使用した症例は過去に(少なくとも)3例報告されています。そのうち1例は抗ウイルス剤の予防投与を受けずにこのお薬を6.5年間使用され、副作用はありませんでしたが、偶然にHBs抗原陽性と判明してから抗ウイルス剤を追加されました。残りの2例は抗ウイルス剤の投与後に開始され、安全に用いられました。
 
・アクテムラの市販後調査の結果はアクテムラ説明・同意書の通りです。
 
3)日本の生物学的製剤のガイドラインについて
・日本のTNF阻害薬使用ガイドライン2012年)では「B型肝炎ウイルス感染リウマチ性疾患患者への免疫抑制療法に関する提言」を参考に対処するとされており、この薬剤を投与する場合は肝臓専門医にコンサルトして抗ウイルス剤を投与してからということになっております。アクテムラのガイドライン2012年)では同様の記載があるものの、B型肝炎感染者には安全性が確立されていないため、投与すべきでないとされております。オレンシアのガイドライン2010年)においてもB型肝炎感染者には安全性が確立されていないため、投与すべきでないとされております。
 
4)メトトレキサートについて
関節リウマチ治療におけるメトトレキサート診療ガイドライン2010年)によりますと、「B型肝炎ウイルスキャリアのRA患者ではMTX投与中あるいは投与中止後の劇症化が報告されており、7例の死亡例が集積されていることから、MTXの投与を極力避けることが勧められる。MTX投与がどうしても避けられない場合は、消化器内科専門医と相談のうえ、抗ウイルス薬による治療を先行させる。」とされております。
 
5)その他の抗リウマチ剤について
生物製剤以外の抗リウマチ剤についても考慮してよい状況だと思います。シオゾール(筋肉注射)とリマチル(内服)です。この二剤はメトトレキサートで効果不十分な関節リウマチに対し、関節炎を抑制することが分かっています。しかし、関節破壊を抑制するという成績に乏しいため、近年の国際的なガイドラインであ勧められることが少なくなりました。関節リウマチのことだけを思えば生物製剤がよさそうですが、これらの抗リウマチ剤はB型肝炎を悪化させる可能性はきわめて低いと考えられます。
 
6)妊娠について
レミケード、エンブレル、ヒュミラ、アクテムラとも妊娠中の安全性は確立されておりません。メトトレキサートについても、内服中は避妊する必要があり、投与終了後少なくとも一月経周期は妊娠を避ける必要があります。
エンテカビルについても、投与中は避妊をしていただく必要があります。
 
以上から、いずれかの生物製剤を希望される場合は肝臓専門医に相談のうえ、抗ウイルス剤を導入してから始めた方が良いと思われます。