リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

TNF阻害薬とリンパ腫② (GLM 3yr safetyの引用)

前項にてGLMの3年間の安全性についてまとめました。
 
そこで引用されていた文献44)45)をまとめておきます。いずれも、TNF阻害薬とリンパ腫との関連を否定した報告です。
 
(ref 44)
「RAでリンパ腫のリスクが上昇するのは治療によるものではなく、慢性炎症によるものだ。」
 
Association of chronic inflammation, not its treatment, with increased lymphoma risk in rheumatoid arthritis.
Baecklund et al.
Arthritis Rheum. 2006 Mar;54(3):692-701.
 
Abstract
OBJECTIVE:
・関節リウマチ(RA)のような慢性炎症の病態は悪性リンパ腫との関連がある。
・この研究はどういう患者がもっともリスクが高いのか、抗リウマチ剤が悪いのか、それとも保護的に働くのかを調べるために行われた。
 
METHODS:
・1964-1995年の間悪性リンパ腫を発症した連続したスウェーデンRA患者378例とコントロール378例のMatched case-control studyを行った。
RAの発症から悪性リンパ腫の発症までの疾患の特徴と治療に関する情報を診療カルテより抽出した。
・リンパ腫の組織は再分類され、EBVの検査が行われた。
・累積の疾患活動性の十分位数に関連して(サブタイプによる)リンパ腫のRelative risks (Odds ratios)が評価された。
・薬剤に関連したORsも同様に評価された。
 
RESULTS:
・リンパ腫のRelative risksは累積疾患活動性のthe seventh denile7番目の十分位数)までわずかに上昇しただけだった。
・そのため、Relative riskは劇的に増加した(OR ninth denile9.4 [95% CI 3.1-28.0], OR tenth decile 61.6 [95% CI 21.0-181.0])。
・リンパ腫の多く(48%)がDLBCLだったが、その他のタイプも累積疾患活動性に関連を示した。標準的な生物製剤でない治療はリンパ腫のリスクを上昇させなかった。EBVはリンパ腫の12%に存在した。
 
CONCLUSION:
・リンパ腫のリスクはRAのある群において実質的に上昇している。それは重症の活動性を有する患者である。
RAの治療というよりもむしろ高活動性が主なリスクを決定する要素だ。
 
 
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Figure 1.
累積疾患活動性に関連したリンパ腫のリスク。RA患者372例とマッチされたRAコントロールにて解析。シンボルは補正されていないOR;バーは95%CI。累積疾患活動性のAUCdenile(十分位数)をX軸に示す;ORは第1十分位数(the first decile)を標準として計算したもの。OR = 1のラインも示している。
 
 
(ref 45)
「2万人のRA患者における8万人年のフォローにおいてTNF阻害薬はリンパ腫の増加に関与しなかった」
 
The effect of methotrexate and anti-tumor necrosis factor therapy on the risk of lymphoma in rheumatoid arthritis in 19,562 patients during 89,710 person-years of observation.
Wolfe F1, Michaud K.
Arthritis Rheum. 2007 May;56(5):1433-9.
 
Abstract
OBJECTIVE:
・RAにおいて抗TNF阻害薬、MTXとリンパ腫のリスクとの関連を調べること。
・この報告は29,314人年のフォローにおける過去の報告をアップデートしたものだ。
 
METHODS:
・RAの長期アウトカムの縦断的研究(the National Data Bank for Rheumatic Diseases (NDB) longitudinal study)の参加者が半年に一回の質問票を1998-2005年の間において完成させた。
・これは89,710 人年フォローに相当する。リンパ腫の報告はカルテにて正当化された。
・リンパ腫と治療との関連をconditional logistic regressionを用いて調査し、重症度、背景との交絡因子で補正された。
 
RESULTS:
・19,591人の参加者のうち、the NDBに登録されている間、55.3%が生物製剤を、68.0%MTXを投与された。
・リンパ腫の発生率は薬剤への曝露10万人年のうち105.9 (95% CI 86.6-129.5)the SEER (Surveillance, Epidemiology, and End-Results)のリンパ腫のデータベースと比較した時、標準発生率SIR1.8 (95% CI 1.5-2.2)
TNF阻害薬を投与されている患者において投与を受けていない患者に対するリンパ腫のOR1.0 (95% CI 0.6-1.8 [P = 0.875])
TNF阻害薬+MTXの投与はMTX単独と比較した場合のリンパ腫のOR1.1 (95% CI 0.6-2.0 [P = 0.710])
・インフリキシマブとエタナセプト各々についても検討されたが、リンパ腫のリスクに関連しなかった。
 
CONCLUSION:
・89,710人年のフォローにおける19,591RA患者(TNF阻害薬への曝露歴は10,815例)におけるリンパ腫の研究において、TNF阻害薬を投与される患者においてリンパ腫の増加の明らかなエビデンスはなかった。
 
 
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<リウマトロジストのコメント>
TNF阻害薬とリンパ腫との関連について調べるため、自分で論文を探してみようと思いました。
 
 
GLM3年の安全性に関する報告はメーカーfundingでしたし、Discussionに引用された論文も偏ったものかもしれないと思ったからです。
 
https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/13384356