リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

低用量ステロイド剤で長期安定のSLE患者においてステロイド中止は可能か?①

プレドニゾロン5mgで安定しているSLE患者さんは少しずつ減量を試みています。EULAR推奨にあるように最低限のステロイド量、あるいは中止を目指して!

https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/2020/05/29/000000

 

でも患者さんに説明するにも、再発率を説明するデータがないんですよね....この度、そんなリウマトロジストの疑問に、ぴったりの論文を見つけましたので、勉強してみます。

 

えー、ちなみに海外で使用されるプレドニゾン(Prednisone, PSN)とは体内で11βHSD-1という酵素によって活性型のプレドニゾロン(Prednisolone)に変換されますので、力価は1:1と考えてもらってよいです。

 

Withdrawal of low-dose prednisone in SLE patients with a clinically quiescent disease for more than 1 year: a randomised clinical trial.

Mathian A, et al.

https://ard.bmj.com/content/79/3/339

 

Patients and methods

フランス国立SLE紹介センターで2014.1-2018.4月の間に行われた。書面によるICが全例で取得された。

 

Patient eligibility, enrolment, randomisation and treatment

適格な患者とは18歳以上で、ACR基準を満たすSLEを有し、少なくとも1年間、以下で定義を満たす臨床的に安定した状態であること

(1) SELENA-SLEDAI score ≤4 [13,14]

(2) BILAG 2004で血液系を除く全ての臓器系でD or Eスコアである事[15 16](血液系のスコアが白血球減少、リンパ球減少、クームス試験陽性単独のためCであってもよいこととした)

(3) Physician’s Global Assessment=0

およびプレドニゾン5㎎を含む治療レジメンであること。PSN、抗マラリア薬、免疫抑制剤は登録から少なくとも1年間は変更がないこととされた。

除外基準は妊娠、妊娠計画、ICがとれないこと。

Prolonged clinically quiescent SLEとは5年連続で疾患活動性の再燃がないことと定義された;白血球減少、SLE治療、血清学的活動性(抗dsDNA抗体、低補体血症)にかかわらず。

 

適格患者は研究に登録され、コンピューターによって(1:1で)ランダムに、PSN5mg/dを52wk継続するか、day0より中止するかに割り付けられた。PSN中止の際、患者は副腎不全の予防のため1か月間はヒドロコルチゾン20㎎を投与された。抗マラリア薬、免疫抑制剤を含むその他のSLEの治療は研究期間中維持された;副作用や治療変更を要するSLE再燃がないかぎり。臨床所見を伴わない抗dsDNAの変化やC3の変化はSLEの治療を強化する適応にはならないこととされた。

 

Outcomes and follow-up

効果のPrimary endopointはランダム化~wk52までの間で、SELENA-SLEDAI flare index (SFI)を経験する患者の割合。

 

Secondary endpointsは再燃までの時間、SFIで52wkの時点で重症flareまたは軽症・中等症flareを経験した割合、52wk時にBILAG indexに基づく再燃の割合、BILAGに基づく52wk時の重症、中等症、軽症の再燃の割合、52wkまでの抗dsDNA抗体・C3レベルの変化、ランダム化~52wkまでのSLICC damage index (SDI)の増加。BILAGに基づく重症、中等症の再燃はまとめられた;なぜならこのタイプのflareは典型的には、しばしば対症療法を要する軽症のflareと異なりステロイドの処方や免疫抑制剤や特定の薬剤の処方を要するため。これらのoutcomeは盲検化された介入・割り付け委員によって判定された

 

患者はbaseline、3、6、9、12moに評価され、SLEらしい再燃症状が出たら彼らの医師に相談するよう依頼され、その場合速やかに精査された。各の受診の度に現在の症状の歴と内服を聴取することによってアウトカムと有害事象を確認された。フォローアップのデータはアウトカムにかかわらず52wkまでに集められた(介入を中止した患者であっても)。

 

Statistical analysis

サンプルサイズの計算は非活動性SLEで長期のPSN5mgを投与中に再発リスクは3%と見積もられ、また中止群では再燃の増加が15%(つまり再燃18%)あれば臨床的に意味があるという想定に基づいた。これらの想定のもと80%の統計学的パワーでもってPSN維持がPSN中止よりも優れていると結論するためには少なくとも62例が各群に割り当てられる必要があった。two-sided type I error rate of 5%として。Primary and secondary endpoints and safety解析はランダム化されたすべての患者を登録したITT解析で行われた。

質的変数は数(%)で、量的パラメーターは平均±SDまたは中央値(範囲または四分位)で適切に表された。群間の差は連続変数にはMann-Whitneyカテゴリー変数にはFisher検定またはKhi-2検定で行われた。

再燃までの期間はKaplan-Meier法で表現され、ログランクテストで比較された。HRはCox-proportional hazard modelで行われた。治療効果とあらかじめ特定されたサブグループ効果との相関はロジスチック回帰モデルで検証された。疾患の期間、ステロイド期間に関する変数は密に関連したため、前者は相関の解析から除外された。

全ての検定は両側検定でp<0.05で定義され、有意差解析はGraphPad Prism, V.5.0 software (GraphPad Software, San Diego, California, USA) and SAS V.9.4 softwareで行われた

 

Results

 

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Figure 1 Study flow diagram.

PSN中止群のうち14例がPSN再開を要する再燃を経験し、4例がSLE症状はないが再開をした(2例が妊娠、2例が個人的理由)。PSN継続群では3例が>5mg/dのPSN再開を要する再燃を経験し、2例が個人的理由のためPSNを中止した。全ての患者が52wkのフォローを終了し、ITT解析に含まれた。1例は個人的理由でPSNを再開し、その後妊娠した。

 

Baseline demographic and disease characteristics

124例が登録され、PSN継続61例、PSN中止63例がランダム割り付けされた(Figure 1)。PSN継続群のうち2例が個人的な理由でPSNを中止した。PSN中止群では4例がPSN 5mgを再開し、その理由は2例が個人的理由、もう2例が妊娠のためであった。全例が試験を完遂した(フォローアップも含め)。

割り付け時のbaselineの臨床所見をtable1に示す。MTX使用が継続群に多く(p=0.035)、MMFが中止群に多かったが(p=0.038)、それら以外に臨床所見で有意差はなかった。

研究時にすべての患者がDORIS concensusに基づく、‘remission on treatment’であった。Zenらの定義に基づく、‘remission on corticosteroids’であった。継続群の24例 (39%)、中止群の32例 (51%)はprolonged clinically quiescent SLEであった。

 

Table 1 Baseline demographic and clinical characteristics of the study subjects

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Secondary endpoints

 

SLE flares

52wkまでの再燃率をKaplan-Meier曲線による累積確率として示した(Figure 2)。推定されるhazard ratio (継続/中止)は0.2 (95% CI, 0.1 to 0.6, p=0.002 by log-rank)。

 

 

Figure 2. PSN継続群と中止群においてKaplan-Meier法で推定される、SLE再燃の累積確立

臨床的に安定したSLE患者はday0から中止(blue line)かPSN 5mg/dayを継続(red line)かに割り付けられ、52wkフォローされた。各のcornerはSELENA-SLEDAI flare indexで定義される再燃を示す。任意の臓器系で再燃した患者を登録した。Kaplan-Meier plotsは任意の臓器系で再燃した患者の%を示す。全ての患者が52wkの調査を終え、途中で脱落した患者はいなかった。曲線はログランクテストで比較された。Crude HRはproportional risk COX modelで計算された。

 

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BILAG indexを用いて記録すると52wk時の再燃を経験した患者の割合は両群間で有意に異なった:継続群4/61 (7%) vs 中止群17/63 (27%) (RR 0.2 (95%CI 0.1 to 0.7), p=0.003, see table 2).

 

 

Table 2. 52wk時のPrimary and secondary outcomes

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SFIを用いた52wk時の再燃重症度の解析においてmild/moderate flareの割合は継続群で中止群にくらべ有意に少なく(3 patients vs 12; RR 0.2 (95% CI 0.1 to 0.8), p=0.012)、severe flareも低い傾向があった (1 patient vs 5; RR 0.2 (95% CI 0.1 to 1.5), p=0.096)。BILAG indexの評価を用いて再燃の重症度の解析を行うと、moderate/severe flareの割合は継続群で中止群にくらべ有意に低かった(1 patient vs 8; RR 0.1 (95% CI 0.1 to 0.9), p=0.013)。

 

Table 3(略)に再燃時の臨床所見と治療を示す。継続群では関節炎4例、皮膚2例、V型LN1例、粘膜潰瘍1例、中止群では関節炎12、皮膚7、V型LN1例、粘膜1例、心膜炎1例、catatonia緊張病1例、脳神経障害1例、血小板減少1例。PSN継続群では3例の再燃がPSN>5mg/dで治療され、1例が免疫抑制剤を併用された。PSN中止群では12例がPSN>5mg/dで治療され、4例が免疫抑制剤or免疫調整剤を併用された。副腎不全がSLE再燃として誤診されていないことを確かめるため、滑膜炎・関節炎が軽微であった4例がSynacthen testを行ったが、副腎不全を示唆しなかった。

 

 

Damage accrualダメージの発生

SDIで52wkの期間、PSN中止群の3例が4アイテムでスコアがついた:骨粗鬆症性骨折2例、抗マラリア薬による網膜毒性1例、白内障1例。ダメージに関連したイベントは継続群では起きなかった。SDIの増加を経験した患者の割合は両群で同等であった(Table 2)。

 

Changes in immunological parameters

抗dsDNA、C3値は両群とも52wkの間有意に変化しなかった。抗dsDNA抗体の割合、低C3の割合も同様。

 

Risk of flare in patients’ subgroups

治療継続の効果はあらかじめ決めたサブグループの間でも同様。(Figure 3)

 

 Figure 3. 再燃リスクのサブグループ解析

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SLE再燃におけるPSNの継続・中止の影響をあらかじめ設定したサブグループで調査した。HRは 治療を唯一の因子としてサブグループにしたがってCOXモデルを用いて計算された。

 

 

Adverse events

52wkの間、有害事象(Table 4)は稀であった。死亡、血管系の血栓症、悪性腫瘍、PSN中止や入院を要する有害事象は起きなかった。各群3例ずつ、計6例が研究中に妊娠した。post-hocの統計解析においてベースラインと12か月後のcomposite glucocorticoid toxicity index (GTI) のmean±SD variationは継続群(3.3±13.0)と中止群(3.7±16.5)の間で同様であった(p=0.9)。baselineと12ヶ月後のcomposite GTIの悪化を経験した患者の割合も同様(23% vs 29%, p=0.5)。

 

 

<リウマトロジストのコメント>

中止群の26.9%、継続群の6.6%が再発をしましたので、ARR=20.3% → NNT=4.9となり、中止をやめて継続をすれば1年で5人に1人の再発を防ぐことができるという結果でした。

 

たしかに「継続が望ましい」という結論ではありますが、(1年間に限った話ではあるが)中止の恩恵を受けた方も7割いるわけですよね。この辺RAのBio/Jaki-free remissionと似ていて、必ずしも「継続した方がよくて中止はダメ」という結論ではないようにも思います。

 

また、いきなり5mgで中止をしなくても、EULAR推奨にあるように必要最小限の量を目指して1mg (~0.5mg)ずつでも漸減していくべきではないかと思いました。この論文でリウマトロジストの診療方針が変わるということはなかったのですが、大変参考になりました。とくに患者さんへのICのときにFigure 2は重宝しそうです。

 

リウマトロジストと同じようにこの論文には多くの関心が向けられています。この論文に寄せられたCorrespondence letters & Author's responseを読んでみましょう。

https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/2020/06/19/000000

 

 

ps

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