リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

抗リン脂質抗体症候群APSにはDOACよりもワーファリン!?

<Clinical scenario>

あなたは総合病院の後期レジデント。ある朝、出勤するなりERドクターから静脈血栓症(DVT)の40歳女性について相談をうけた。すでにヘパリンが開始されている。

 

「DVTにはDOAC(NOAC)だったよな、たしか、、、イグザレルト!」

 

さっそく上級医に、

 

「イグザレルト(リバロキサバン、Rivaroxaban)処方しておいていいですか?」

 

と連絡したところ、

 

上級医から、意外な返答が返ってきた。

 

「ちょっと若いかな、抗リン脂質抗体をチェックしておいてね。陽性だったらDOACじゃなくて、warfarinだからねっ!」

 

あなたは「抗リン脂質抗体症候群ならwarfarin???」と疑問に思い、Pubmedで見つけたRCTを読んでみることにした。

 

 

<批判的吟味>

この度はイグザレルト(Rivaroxaban)とwarfarinを比較したRCTを読んでみます。歴史が変わるか!?と大きな期待をせおっていたであろう大切なRCTの結果です。

 

Rivaroxaban vs Warfarin in High-Risk Patients With Antiphospholipid Syndrome

Vittorio Pengo, et al.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30002145/

 

 

この度も南郷先生のSPELLより「はじめてトライアルシート」に沿って読んでいきます。関連する箇所に下線を引いておきます。

http://spell.umin.jp/EBM_materials_BTS.html

 

Introductionのまとめ

APSはループスアンチコアグラント(LA)、抗カルジオリピン抗体(αCL)、抗β2GPI抗体のいずれかが陽性となり、なんらかの血栓症あるいは妊娠合併症で特徴づけられる疾患。Triple-positiveの患者は<50%ながら、1-2つ陽性の患者とくらべ、再発のリスクが高い。

 

・標準治療はwarfarinであるが、INRで管理することはchallengingである(INR<2であれば再発リスクがあり、>3では出血のリスクがある)

 

・イグザレルトはXa因子直接阻害薬であり、warfarinと同様の動静脈血栓症の予防効果がある。さらに脳出血が有意に少ない。そこで私たちはハイリスク患者におけるwarfarinとのRCT、Trial on Rivaroxaban in AntiPhospholipid Syndrome (TRAPS)を計画した。

 

 

Methods

Study design

・TRAPSはエンドポイントの裁決をブラインド化した第3相前向きRCT。イタリアの14センターで行われた。

 

(研究デザインはPengo 2016もご参照ください)

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26466613/

 

Patients and randomization

・18-75歳で、triple positivity、血栓症があること。CrCL<30は除外(Pengo 2016)。

 

ウェブを使ってrandomizationを行った。n=2, 4, 6の3種類のrandom block sizesを使って、性、自己免疫疾患の有無で層別化した;自己免疫疾患のある女性、ない女性、ある男性、ない男性の4層に層別化された。

 

Study drug regimen

・Rivaroxaban群はCrCl>50 mL/minなら20mg/日。30-50なら15mg/日。コンプライアンスは受診の度に残薬を確認することでチェックした。ランダム化された際、すでにwarfarinを投与されていた場合、INR<3ならRivaroxabanを開始した。もし抗凝固療法をうけておらずwarfarinに割り付けられたのであればイタリアの抗凝固クリニック協会のプロトコールを用いて調整された。INRは2-3を維持し、4週間毎にチェックされた。

隠蔽化はなし(Not blinded)。

 

Follow-up and outcomes

患者はランダム化の1ヶ月後、3ヶ月後に定期的な受診を行った;その後は6ヶ月毎。受診の度に、Rivaroxaban群は残量を確認し、ワーファリンではPTが治療域にあることで、服薬コンプライアンスをチェックした。手術や侵襲的処置のために一時的に投薬を中止することは確立されたプロトコールに基づいてなされた。最後の永久中止を記録した。抗凝固療法にアスピリンが併用される事については調査者の判断で許容された。

 

The primary outcomeは血栓性のイベント、主要な出血症状、血管疾患による死亡。静脈・動脈血栓症の診断は客観的な画像技術に基づき、主要な出血症状は出版されたガイドラインによって、血管疾患による死亡は臨床的あるいは剖検報告、and/or 死亡診断書によって確認された。

 

Statistical analysis

最初の解析はRivaroxabanがワーファリンに対し非劣性であるかどうかを検証するためにデザインされた。非劣性マージンはその他の同剤の登録試験で使用された方法、ワーファリンの効果の少なくとも50%はあることと設定された。非劣性マージン triple-positive APSの患者におけるビタミンK拮抗薬とコントロール群を比較した観察研究に基づいて決められた。この研究は複合イベント(血栓症、主要な出血、死亡)の率がワーファリンを投与されたAPS患者で~6%であることを示した。ワーファリンの効果の少なくとも50%はあることに一致するHazard ratio (HR)のマージンは1.7であった。非劣性の仮説を満たすためにワーファリンに対するRivaroxabanのアウトカムのHRの片側性95%CI上限は1.7を下回らなければならなかった。非劣性log-rank testで、536例のサンプルサイズで(各群とも268例)、88のイベントが起きれば、HR 1.7を決定するために0.05 1-tail significance level80%のパワーを達成した。(→難しくて理解できないがSample size calculationはなされているようだ)

 

Primary outcomeは “as treated”とintention to treat (ITT)で解析された;ITT解析ではランダム化をされた全ての患者を含んだが、“as treated” 解析は治療薬に割り付けられた後に研究を完了した患者を対象とした。最終解析はRandomizationから1/25までのイベントを含んだ(この日に調査者は患者を研究によらないビタミンK拮抗薬)。略。

 

end point解析にはCox proportional-hazards modelingが用いられた。

 

Results

2014/11/2に始まり、2018/1/25に裁決安全性委員会の推奨に基づく諮問委員会によって中止された。全ての参加者は治験薬を中止し、非治験薬のビタミンK拮抗薬にスイッチさせられた。終了時120例がランダム割り付けを受け、59例がRivaroxaban群、61例がワーファリン群。

 

※Pengo 2015によると、当初88eventsが起きるであろうtrial開始4年後に治療を終了する予定であったが、3年2ヶ月後に試験は中止された;この時までに目標の536例どころか120例しか登録されておらず、eventsも88例どころか15例しか起きなかった、とのこと。想定よりもエントリーが少なかったようです。

 

患者背景はTable 1。ランダム化は考慮された変数において十分バランスがとれていた。血栓症の危険因子も両群間で比較された。2例はCrClに基づいて減量され、Rivaroxaban15mgを投与された。

 

Table 1. Baseline characteristics of the patients

f:id:oiwarheumatology:20200519221859p:plain

f:id:oiwarheumatology:20200519221938p:plain

 

Rivaroxaban群で9例(12%)、ワーファリン群で3例(5%)が割り付けられた薬をend pointイベントまたは終了日までに中止した(→追跡率は90%。Table 2に中止理由を示す。フォローの中央値はas treatedコホートで569日、ITTコホートで611日。lost to followupはゼロ。治療へのadherenceはRivaroxaban群で96%、ワーファリン群で治療域で治療されていた期間は67%。

 

 

f:id:oiwarheumatology:20200519222025p:plain

 

Clinical outcomes

”as treated” popultionにおいてフォロー中に全体として13のイベントが起きた(Table 3)。post hoc ITT analysisでは、さらに2例のイベントが起きた。”as treated”解析では(Table 4; Figure 1)、複合プライマリアウトカムはRivaroxaban群で11例、ワーファリン群で2例(HR, 6.7; 95% CI, 1.5-30.5; P = 0.01)。Rivaroxaban群では脳梗塞4例、心筋梗塞3例であったが、ワーファリン群でそれらは発生しなかった。Rivaroxaban群で動脈イベントを経験した7例のうち1例はアスピリン併用;一方で動脈イベントがなかった52例のうち10例がアスピリンを投与されていた(p=not significant)。いずれの群も静脈血栓症は起きず。主要な出血症状が各4例、2例起きた (HR, 2.5; 95% CI; 0.5-13.6; P=0.3). 全体として、出血イベントは6例中5例で出血が起きやすい要因に関連した(子宮線維腫、肛門裂肛、クローン病、このほか血小板減少が2例)。低用量Rivaroxabanで治療された患者はいずれもイベントは起きなかった。フォロー中に死亡した症例はなかった。

 

終了までに研究から離脱した12例を含むITT解析 (Table 4)では複合プライマリアウトカムはRivaroxaban群で13例、ワーファリン群で2例起きた (HR, 7.4; 95% CI, 1.7-32.9; P = 0.008)

 

Rivaroxaban群でas treated解析に加えて2例のイベントがあった。1例に両下肢のDVTが起きた;歯肉出血のため治験薬(Rivaroxaban)を中止し、治療域の低分子ヘパリンに変更後21日後のことであった。心不全のある症例1例においてRivaroxabanを中止して433日後に心血管系の死亡が起きた。ワーファリン投与中であった。

 

Table 4

f:id:oiwarheumatology:20200519222114p:plain

 

 

Figure 1. Rivaroxaban群とワーファリン群における複合アウトカム(死亡、血栓塞栓症、主要な出血)の累積率

 

f:id:oiwarheumatology:20200519222144p:plain

 

<批判的吟味のさまりー> 

ランダム化されたOpen-label試験であったようですが、ワーファリンの管理の特性上、仕方がないことでしょう。両群の患者背景として、SLEで血栓予防効果のあるHCQの頻度が異なっていたことは気になりました。血栓症の既往(回数)、罹病期間(長ければwarfarinに有利)もTable 1に表示してほしかったところです。

 

また、sample sizeは計算されていたものの、目標の536例に遠く及ばず120例にとどまりました(というか中断された)。

 

Primary outcomeはハザード比であったため、NNTの計算はできませんでしたが、ITT解析においてRivaroxaban群はWarfarinに対して複合アウトカム(血栓症、主要な出血、心血管死)のHR 7.4 (95%CI 1.7-32.9)と有意にリスクを上昇させました(p=0.008)。

 

いくつか気になる点はありましたが、製薬メーカーのBayerが出資して、失敗を公表されているわけなので、信じてよいでしょう(笑)。

 

 

<リウマトロジストのコメント>

high-risk APS患者を対象として、DOACが標準治療のワーファリンに挑んだわけですが、負のアウトカムを7倍に増やすという残念な結果に終わりました。

 

triple(+)のAPS患者に限らず、APS患者全例にこの結果を応用して考える医師が多いことでしょう。

 

 

ps

↓SLEの緊急病態

 

 

 

↓執筆協力しております!