リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

動脈血栓症、脳梗塞を呈した抗リン脂質抗体症候群

Clinical scenario
 
動脈血栓症脳梗塞を呈した患者において抗リン脂質抗体を測定したところ陽性でした。
 
マネージメントは?
 
 
<Uptodate>
UptodateTreatment of the antiphospholipid syndromeを読んでみます。
  
 
Venous thromboembolism
APS患者における深部静脈血栓症DVT)や肺塞栓症の最初の治療は特発性の血栓塞栓症と同じ。これらの合併症に対する標準的なケアはいずれにせよヘパリンに次ぐ、ワーファリン治療。
 
Intensity of anticoagulationAPS患者におけるワーファリンの強さと期間に関する議論は十分になされてきた。APSの長期的な管理に対する現在の標準的なケアは最初の静脈血栓症においてはINR2-3の間に保つこと。1990年代の観察研究によると、適切な抗凝固療法のレジメンはINR3-4に保つことであり、いくつかの議論が残っている。しかし、強力な治療は明らかな負荷的な利益に関連しないし、有害であるかもしれない。現在のAPSに対する長期的な管理はINR2-3に保つことだ。以下の無作為化試験が現在の標準治療を指示するエビデンスを提供した。
ある研究では抗リン脂質抗体と血栓症の既往を有する114例の患者が中等度か強力なワーファリン治療に無作為に割りつけられた。中等度の強さの群ではINR2-3;強力なグループではINR 3.1-4.0。平均のINR2.33.3だった。平均のフォロー期間2.7年において以下の所見が得られた。
血栓塞栓イベントの再発率は7%
・強力な群において再発率は高かったが、統計学的に有意ではなかった (10.7 vs 3.4 %, HR 3.1, 95% CI 0.6-15.0).
・両群とも再発性の血栓症イベントの半数がINR 2.0未満のときに起きた。
・メジャーな出血エピソードは両群とも同様 (1年あたり中等度2.2 and 強力3.6 %)
二つ目の試験では、血栓症の既往を有するAPS患者109例が標準的、または強力なワーファリン治療に割りつけられた(ターゲットINR2-3、または3.0-4.5)。平均のINRは各々2.53.2。平均3.6年のフォロー期間における主な所見は以下の通り。
・再発性の血栓症は強力治療群6/54、中等度治療群3/5511% vs 5.5%)。統計学的な有意差はなし。
・メジャーな出血性エピソードは各々2例、3例に起きた。しかし、マイナーな出血性エピソードは強力治療群で有意に上昇した。
 
Arterial thrombosis専門医の中でも動脈血栓症を有するAPSにおける適切な治療については意見が分かれる。私たちの3人中2人はそのような患者をターゲットINR2-3のワーファリンと低用量アスピリン (81 mg/day)で治療する。別な専門医(3人中1人を含む)はターゲットINR >3で治療する。
 
Duration of warfarin useAPSの静脈血栓症に対する抗凝固療法の適切な期間は分かっていない。私たちはAPSの確定例における血栓症では無期限の治療を勧める。最初の静脈血栓症のイベントを起こした患者において、既知の危険因子、および1回だけで診断的でない抗リン脂質抗体陽性または低力価の抗リン脂質抗体(孤立性の中間的な陽性で低力価から中等度の力価の抗カルジオリピン抗体または抗β2-GP- I抗体)を有する場合、私たちは3-6ヶ月というようなよりはっきりした期間治療することを勧める。これは専門医のタスクフォースによるシステマチックレビューとリコメンデーションに一致する。
APSのほとんどの患者において生涯の治療が賢明である。最初の静脈血栓症を起こした412例の前向き試験において、6ヶ月の治療終了時における抗カルジオリピン抗体の存在は再発性血栓症のリスクの倍増に関連した(29 vs 14 %)。
2006年のシステマチックレビューは静脈血栓症APS患者では無期限の抗凝固療法が妥当であると結論した。低用量アスピリンはワーファリンが中止せざる負えない時に妥当である。
 
Treatment failure もしワーファリン治療をINR2-3に保っていても血栓症が再発した場合は治療の選択肢にはターゲットINR3.1-4.0にすること、あるいは低用量アスピリンや低分子ヘパリンやヒドロクロロキンを加えることがある。これらの選択は部分的には患者の特徴によって決められる(INRを高く保てることが信頼できそうな場合、出血に関する懸念など)。なぜなら効果を比較したようなデータはわずかであるから。私たちは強力なワーファリン治療が無作為化試験においてひょっとすると有害であるかもしれないという見解から低用量アスピリンを好む。2007年のシステマチックレビューはINR >3.0で再発を来たした患者においてワーファリンに低用量アスピリンを加えることに利益はないと結論付けた。
 
Central nervous system manifestations
 
APSの主なCNS障害は脳卒中と白質病変である。
 
Strokeアメリカ心臓協会アメリ脳卒中協会による2006年のガイドラインには以下のリコメンデーションが含まれる。
・抗リン脂質抗体に関連した原発性虚血性脳卒中や一過性脳虚血発作(TIA)の患者には抗血小板療法が合理的である。抗リン脂質抗体に関連する血栓症に関する2007年のシステマチックレビューにおいても抗リン脂質抗体が1回のみ陽性の脳卒中患者の二次予防としては抗血小板療法が提案された。
APSの基準を満たす虚血性脳卒中TIAの患者にはターゲットINR 2-3のワーファリン治療を行う。代賛となるアプローチとしてINR 3-4をターゲットとすることを勧める専門医もいる。
しかし、抗リン脂質抗体陽性の原発脳卒中TIAの患者はAPSの診断基準を満たす。そのため、確かめられた、またはその他の理由では説明できない抗リン脂質に関連した血栓性イベントの場合、私たちはその他のAPSの症状がなくてもワーファリン治療を勧める。
抗リン脂質を有する患者で、さらにSLEや高血圧、糖尿病and/or高脂血症を有する患者のように脳卒中のハイリスクの患者においては私たちはアスピリン81mg/日を勧める。
SLEでない患者が、低力価の抗リン脂質抗体と修正可能な危険因子を有し、非心原性の脳動脈イベントを起こした場合、抗凝固療法は再発のリスクの推定とイベントの重症度に基づいて個別に決められるべきだ。
十分な抗凝固療法にもかかわらず再発性の脳卒中を起こす患者ではより高いINRアスピリンの追加、ヘパリンへのスイッチが選択肢になる。
 
Other neuropsychiatric manifestations APSにおけるCNS障害は血管症を疑うMRIにおける高信号の病変に関連するかもしれない。
抗リン脂質抗体を有する患者で虚血性または側先生脳卒中を疑う所見がないが、MRIAPSに矛盾しない白質病変を有する患者では低用量アスピリンが最初の合理的なアプローチだ。ワーファリンはアスピリン治療中に認知障害をきたしたり、MRIで白質病変が明らかに進行する場合には良いかもしれない。抗リン脂質抗体に関連するその他の神経精神症状に対する抗凝固療法の有効性に関してはデータがない。
 
 
<まとめ>
 静脈血栓症にはINR2-3のワーファリンでよさそうですが、脳梗塞、動脈血栓症ではほとんどエビデンスがないようです。
 
 
動脈血栓に対して、Uptodateの著者3人のうち2人はターゲットINR2-3のワーファリンと低用量アスピリン (81 mg/day)、もう1人はターゲットINR >3で治療するということです。
 
 
脳卒中に対しては、抗リン脂質抗体が1回のみ陽性の場合は2007年のシステマチックレビューで抗血小板療法が提案されているが、APSの基準を満たす場合はUptodateの著者はINR 2-3のワーファリン治療(代賛的な治療としてINR 3-4をターゲット)を勧めています。
 
 
<Scenario caseの経過> 
まだ、12週間たって再検していないため、APSの基準を満たしません。
 
しかし、動脈血栓症脳梗塞の二つの臓器に血栓症を認めたため、1回のみ陽性の脳梗塞として(バイアスピリン単独で)治療を開始することは、はじめの12週間も危険なのではないかと思いました。
 
ワーファリン(ターゲットINR2-3)を開始し、経過によってバイアスピリンを追加することにしました。
 
 
ps;ちなみに、前の項目はこの度のUptodateの孫引きです(2007年のシステマチックレビュー)。