リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

プロテインS欠乏症

Clinical scenario
29歳の女性、先月の出産がFGRであった。抗リン脂質抗体陰性だったが、プロテインS活性が27%と低下していたため相談を受けた。
(症例は架空です)
 
Uptodate
UptodateProtein Sdeficiencyを調べました。
 
Pathophysiology
PSは最初に発見され精製されたのがSeattleであったので、そう呼ばれる。ビタミンK依存性の糖蛋白であるが、セリン・プロテアーゼ酵素の前駆体ではない(PCはそうであるが)。凝固因子VaVIIIaの前駆体を不活化するPCcofactorとして働くため血栓生成を抑える作用となる。
また線溶系を促進する活性型PCcofactorとして働くため、直接的にプロトロンビンの活性化を阻害しうる。
肝細胞、上皮細胞、巨核球より産生される。
成熟したγカルボキシレートPSは二つの状態で存在する。遊離型、および補体C4b結合蛋白である。遊離型はPS総量の30-40%を占める。遊離型は活性型PCcofactorとしての作用を有するが、結合蛋白は有さない。
PS総量は年齢とともに変化する。成人の正常血漿濃度は23mcg/mlであり、これを100%、あるいは1unit/mLとする。男性は女性の10-20%高いが、臨床的意義はない。
PS欠乏症はPROS1遺伝子の突然変異による常染色体優性の状態である。家族性PS欠乏は1984年に最初に報告された。ほとんどの場合PROS1の突然変異はheterozygousであるが、稀にhomozygousまたはcompound heterozygousが存在し重症な臨床所見を呈することが報告されている。
遺伝性PS欠乏症は3型に分けられる
ü  Type I;もっともclassicな型。典型的にはPS総量が約50%と低下し、free15%
ü  Type II;総量とfreeは正常も機能が低下している;ケースレポートのみ。
ü  TypeIII;選択的にfreeが低下し、機能が低下する。総量は正常
 
PSが減少する状況として、妊娠、経口避妊薬DIC血栓塞栓症の急性期、HIVネフローゼ、肝疾患、薬剤性(L-asparaginase chemotherapy)。水痘(Varicella-zoster virus感染)からの回復期の少年でPSに対する抗体によって腎静脈と精巣静脈の血栓症を呈した。
 
Epidemiology
頻度は少なく、静脈血栓症VTE)の病歴がある2331例の成人と対照群2872人において、PS欠乏を(VTEの尤度が上昇する)遊離型<33U/dLと定義した場合、PS欠乏の頻度は48人(0.9%)であった。このうちPROS1mutationを有したのは10例のみであった。
 
Clinical features
VTEPS欠乏の主な臨床所見。
動脈血栓も少しのリスク上昇になるとされるが、大規模試験でPS欠乏が動脈血栓のリスクになることを示した研究はない。
Neonatal purpura fulminans;重症のPS欠乏を呈する新生児で重症血栓症が報告されている。稀であり、典型的にはhomozygousな欠乏。
産科的合併症;PS欠乏が流産のリスクになるかどうかははっきりしていない。もしあったとしても少し
Inheritedthrombophilias in pregnancy — Fetal growth restriction —より;血栓性素因とFGRの関係は明らかになっていない。2002年のメタ解析はPS欠乏とFGRの関係を示唆した (OR10.2; 95% CI 1.1-91.0)。しかしPC欠乏ではそうではなかった。得られる患者数が小さいため大きなCIとなっている。
 
Diagnosis
その他の遺伝性血栓性素因と同様にPS欠乏も以下のひとつ以上があれば疑われる。
VTEの強い家族歴
家族のPS欠乏
50歳前の最初のVTE
門脈、脳の静脈、腸間膜静脈のVTE
再発性VTE
 
永遠の抗凝固療法が適応となるような再発性or生命に関わるVTEの患者において、PS欠乏の診断はそれらの管理に影響を与えない。しかし、家族的な欠損を検出する役割があるかもしれない。経口避妊薬を使用することを考慮している女性のような第一近親における検査とカウンセリング、あるいはVTEを下げるためのカウンセリングや介入を許容しうるかもしれない。しかし、私たちは一般に単発のVTEにおいてPS欠乏の検査を行わない。とくに家族歴がなく、誘因がある場合や50歳以上の場合。
 
検査法
遊離型PSimmunoassayで測定され、様々なmonoclonal抗体やligandに基づくものがある
PSimmunoassayで測定され、polyclonal抗体に基づく。
PS機能ー凝固時間がPS活性に比例するcoagulation-based assay
 
PS欠乏の有無を分ける理想的なカットオフ値はない。臨床状況と年齢による。VTE患者やVTEの強い家族歴がある場合は総or遊離型PS<60-65IU/dLは欠乏と考える。無症状や家族歴のない最初のVTEでは<33u/dLのようなより低い値がよりVTEリスクを予測する。
 
Time of testing and effect ofanticoagulants
急性血栓症、肝疾患、妊娠などPS低下に関連する状況を避ける。ワーファリンはPSを下げる。PS正常ならPS欠乏はないといってよいが、低ければ内服していないときに再検する(中止して2wks以上)。DOACPSの機能に影響する。ヘパリンとLMWHは影響しない。
 
Management
VTE
VTEPS低下があってもなくても管理に影響を与えない。DOAC vs warfarinの選択については典型的なVTEならDOACを、adheranceに問題がありそうな場合や高いINRを維持することがよさそうな場合(重症PEなど)はwarfarinを用いる。
3-6ヶ月以上継続するか否かは誘因があるか否かによって変わる。明らかな誘因がない場合は永続的な抗凝固療法がすすめられ、これは遺伝性の血栓性素因の有無によらない。とくに強い家族歴がある場合、PS欠乏があれば永続的な抗凝固療法を後押しするかもしれない。再発性やLife-threateningな場合、通常でない部位の血栓症では永続的使用を勧めるかもしれない。
 
Asymptomatic individuals
Asymptomaticはルーチンな抗凝固療法を行わない。PS欠乏がある女性では経口避妊薬を避けるが、患者と医師の判断による。患者が強く希望する場合でそれ以外の方法がない場合、PS欠乏でも経口避妊薬が使用されるかもしれない。
PS欠乏の患者は予防的な抗凝固療法の利益を得るかもしれない。とくに強い家族歴やその他のVTEリスクがある場合。最大の利益は強い家族歴や長時間の不動に関連する手術・妊娠のような場合にみられるかもしれない。
 
Scenario caseの経過>
測定時期に妊娠や内服などの影響は考えられなかったため、Protein S欠乏と説明した。血栓症・妊娠合併症の家族歴はなかったため、第一近親のスクリーニングは行わなかった。FGRのリスクになる可能性があるが、予防投与のエビデンスはないこと、次の妊娠については産婦人科医とご本人との相談の結果によって投薬の可能性はあることを説明した。