リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

抗リン脂質抗体症候群の臨床所見-その1-

APSの臨床所見とは静脈、動脈と妊娠合併症の三つ。
 
そう簡単にはいきません。
 
実はさまざまな臨床所見に関連する抗リン脂質抗体。。。Uptodateをまとめます。
 
 
 
 
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Clinical manifestations of the antiphospholipid syndrome
 
INTRODUCTION —
APSは二つの大きな要素で定義される;血管イベントか妊娠の病的状態の臨床症状がひとつ以上あること。抗リン脂質抗体として知られる自己抗体の少なくともひとつが12週間以上あけて2回以上、存在すること。さらに抗リン脂質抗体に関連する臨床所見はAPSの部分症出ない事もあり、網状皮斑、血小板減少、心弁膜症、抗リン脂質抗体関連腎症もある。APSの臨床症状はその他の疾患でもあるが、APSとは抗リン脂質抗体に関連して起きる。抗リン脂質は以下で検出されうる陰性荷電のリン脂質に結合する血清タンパクに対する者である。
Lupus anticoagulant tests
Anticardiolipin antibody ELISA
Anti-beta-2 glycoprotein-I ELISA
プロトロンビン、アネキシンⅤ、フォスファチジルセリン、フォスファチジルイノシトールに対する抗リン脂質抗体の重要性は明らかでない。
APS原発でも起きるが、SLEをはじめとする自己免疫疾患において起きることもある。
 
THE ANTIBODIES —
異なる抗リン脂質抗体(aPL)とそれらの血清学的な検査法は別に示す。
APSの臨床所見のDiscussionに対する背景として、APS患者にひとつ以上存在する、3つのメジャーな以下の抗リン脂質抗体についてサマライズする。
Anticardiolipin antibodies (aCL)
Antibodies to beta-2-glycoprotein-I (beta-2-GP-I)
Lupus anticoagulant (LA)
 
aCL and beta-2-GP-I assays —
抗リン脂質抗体は免疫グロブリンでないリン脂質結合の血漿タンパクを介してリン脂質に結合する。Beta-2-GP-I は抗リン脂質抗体の主な標的抗原である。少しの経験がある臨床の研究室は以下を区別することができる:
カルジオリピン(CL)とその他の抗リン脂質に対する抗体
CLに結合するためにβ2-GP-Iの存在を必要とする抗体とそうでない抗体。しかし、そのような検査法は一般には商業ベースでは得られない。
リン脂質の存在とは無関係にβ2-GP-Iに結合する抗体と結合するためにリン脂質を必要とする抗体
IgG型とIgM型の抗CL抗体の抗体レベルは各々GPLMPLで報告される。検査と報告の標準的なアプローチのための推奨は2001年に出版された。
β2-GP-Iは抗リン脂質のもっともコモンなターゲット。この蛋白はapolipoprotein Hとしても知られ、陰性荷電の表面に結合して抗原活性を示す。これに関連するのは抗CL抗体ELISA陽性を伴うAPSの臨床症状は通常、抗β2-GP- I抗体の結合によってもたらされることである。抗CL抗体ELISAが陽性であるが、抗β2-GP- I抗体の検査法が陰性である場合、患者は血栓症のリスクは低いか上昇していないかもしれない。しかし、この領域はまだ研究段階。
CL抗体の検査法の進歩よりも前に梅毒に対する偽陽性の経歴がある患者はループスアンチコアグラントを有しているかもしれなかった。また、APSとして知られる症状を持っているかもしれなかった。梅毒の偽陽性SLEの診断基準の一部であったが、今や3つの抗リン脂質抗体(ie, aCL, anti-beta-2-GP-I, and LA)にとって代わられた。
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Lupus anticoagulant —
ループスアンチコアグラント現象は抗リン脂質抗体がaPTT、希釈ラッセル蛇毒時間dRVVTカオリン凝固時間、稀にはプロトロンビン時間のようなVitroにおける凝固検査法を延長させることができることを利用したものである。この現象は患者の血漿を血小板のない正常な血漿と1:1で希釈した時にリバースされない。これとは反対に、このようなミキシング試験は凝固因子欠乏に関連した凝固異常であれば是正される。したがって、ループスアンチコアグラントとは誤称である:通常、抗凝固の作用よりも凝固経口に関連するからだ。
ルーチンのラボ検査にて検出できる抗リン脂質のコモンな作用のひとつがaPTTの延長である。しかし、ループスアンチコアグラントを有する患者の約半数しかaPTTは延長しない。したがって、もしAPSが強く疑われるとき、通常dRVVTを追加することが基本である。
研究室の経験はループスアンチコアグラントの検査において重要。ある研究ではループスアンチコアグラント作用を有すると診断された全血漿4分の1が基準値において偽陽性であることが分かった。
 
Other antiphospholipid antibodies — プロトロンビン、アネキシンVフォスファチジルセリンやその他の蛋白がAPSと関連する。しかし、APSにおいてそのような抗体の役割についてはよく分かっていない。これらの抗体に対する測定法はAPSが疑われた時の評価には含まれていない。プロトロンビンに対する抗体は血栓だけでなく、出血にも関連する。
 
あるSLE101例における研究では、プロトロンビンに対するIgG抗体の存在は血栓症と関連した。さらにループスアンチコアグラントの、抗CL、抗β2-GP- I抗体、抗プロトロンビン抗体は血栓症のリスクが30倍であった。
まとめると、APSを背景とする基礎科学は変化しつつある領域である。抗リン脂質抗体の検査法は発見と改善の過程をたどっている。臨床的な目的ではAPSが疑われれば3つの抗リン脂質抗体の検査法がなされる: the LA test, the aCL ELISA, and the anti-beta-2-GP-I ELISA.
 
OTHER ASSOCIATIONS — 様々な抗リン脂質抗体がいくつかの人々に存在しているかもしれない。それ以外は健康な人、自己免疫疾患やリウマチ性疾患を有する人、特定の薬剤や感染物質に曝露された人。これらについては病因のところで述べる。
 
CLASSIFICATION CRITERIA — 分類基準は研究の目的で開発された。臨床いにとって役立つかもしれないが、APSの臨床診断に全ての項目が満たされなければならないと言うわけではない。
国際的なコンセンサス会議はAPSの確定例のための分類基準を提案し、改訂した。確定例は以下のひとつ以上の臨床的基準、ひとつ以上のラボの基準を有する場合、考慮される。
 
Clinical – 静脈血栓、動脈血栓、または小血管の血栓症のひとつ以上のエピソードand/or 以下で定義される妊娠合併症。
Thrombosis – 任意の組織や臓器における画像的・組織学的な血栓症の証明。
Pregnancy morbidity – それ以外の原因によらない妊娠10週以降の形態的に正常な胎児の死亡;または子癇、子癇前症、胎盤不全による1回以上の34週以前の早産;または両親の染色体異常や母体の形態学的な原因やホルモン的な原因によらない、3回以上の初期流産(10週未満)
Laboratory – CL抗体(aPL)の存在が少なくとも12週間あけて2回認められ、臨床症状の5年以上前でないこと。aPLとは以下で定義される:
IgG and/or IgM CL抗体が中等度または高力価で陽性であること (>40 units GPL or MPL or >99th percentile for the testing laboratory)
IgG or IgM型の抗β2-GP- I抗体が推奨された方法に従い検査され、titer >99th percentile for the testing laboratoryで陽性であること。
ループスアンチコアグラントが出版されたガイドラインに従って検出されること。
 
PATHOLOGY — APSに特徴的な病理所見はわずかな血管または血管周囲の炎症を伴う無菌性の血栓症である。この変化はAPSに特異的ではない。HUS/TTP、強皮症、悪性高血圧症でも起きるため。大血管、動脈、静脈とも、その場で血栓症が起きたり、塞栓が発生したり、血栓が梗塞する場所になるかもしれない。
 
CLINICAL MANIFESTATIONS — APSは静脈or動脈血栓症、妊娠合併症、および網状皮斑、血小板減少、心臓弁膜症または抗リン脂質抗体腎症のようなAPSの分類基準に含まれていない抗リン脂質抗体に関連する臨床所見で特徴づけられる。
1000例の原発性または続発性APSの患者のシリーズにおいて様々な病気の所見が見られた。
Deep vein thrombosis – 32 percent
Thrombocytopenia – 22 percent
Livedo reticularis – 20 percent
Stroke – 13 percent
Superficial thrombophlebitis – 9 percent
Pulmonary embolism – 9 percent
Fetal loss – 8 percent
Transient ischemic attack – 7 percent
Hemolytic anemia – 7 percent
(→DVT3割、Stroke/TIA2割、妊娠合併症1割、網状皮斑2割、血小板減少2割)
稀ではあるが、APSは多発性の血管閉塞による多臓器不全を来たすことがある。この病気を劇症型抗リン脂質抗体症候群という。
 
上述の症状に加え、その他可能性のある抗リン脂質に関連する臨床所見には片頭痛レイノー現象、肺高血圧症、無血管性壊死、壊疽性膿皮症を似る皮膚潰瘍、出血による副腎不全、認知障害がある。これらの臨床概念のなかには抗リン脂質抗体との関連が明らかでないものもある。
 
Thrombosis — 静脈血栓症と動脈血栓塞栓症のリスクはともにLA陽性の人(OR 11)、抗CL抗体陽性の人(OR 1.6)では挙がっている。再発性血栓症血栓塞栓症のリスクは3つのaPL陽性の患者ではさらに上がっているかもしれない(LA, CL抗体, 抗β2-GP- I抗体)。
 
Initial site — APSにおいて静脈血栓症は動脈血栓症よりもコモン。深部静脈血栓症DVT)のもっともおこりやすい場所はふくらはぎの静脈であるが、腎静脈;肝臓、腋窩、鎖骨下、網膜静脈;脳静脈洞;上下大静脈にも起きてもよい。動脈血栓症の最もよくある場所は脳の動脈であるが、冠動脈、腎、腸間膜動脈に起きてもよく、バイパス術で用いた動脈の閉塞もおきてよい。
血栓症の場所はある程度aPLのタイプに関連するかもしれない。これは637例のAPS患者のretrospective studyで証明されており、DVT肺塞栓症PE)がLAを有する患者の中で最もコモンだった。一方、冠動脈、脳血管、末梢動脈のイベントはaCLIgG or IgMの値が上昇している患者で多かった。
 
Deep venous thrombosis — aPLDVT患者の約5-21%で検出される。DVTの頻度はaCLの値に関連するかもしれない。抗体価と臨床イベントとの関連を示す例として以下がある。ある研究においてDVTaCLの抗体価が高い患者の44%に起きた。低い抗体価の患者では29%、抗体を有さないものでは10%のみであった。
 
Risk in asymptomatic persons – aCL陽性の健常人においてDVTPEのリスク上昇に関連する。aCLと静脈血栓症に関してよくデザインされた二つの前向き症例対象試験があるが、異なる結論となった。
22,071例の男性医師のおいて、DVT and/or PE 90例がコントロール90例とマッチされた。aCL値の上昇、すなわち全グループにおいて95%より高い上昇(≥33 GPL)DVTの相対リスク 5.3であった。
二番目の試験はこれとは反対の結果である。21,680例の当初健康な男女を対象とした試験において、317例のDVT and/or PE655例のコントロールと比較された。IgG aCL 上昇(≥95th percentile) IgM aCL上昇 (≥28.7 MPL)の個人においてDVT or PEのリスクの違いはなかった。
最初の研究を含み二番目の研究を含んでいない6個の研究に関するメタ解析によると、静脈血栓塞栓症の全体的なORaCL 1.56 (95% CI 1.1-2.2)であった。LA活動性を有する場合のORが高かった (11.1; 95% CI 3.8-32.3)
上述の通り、aCLの病因を決定する因子は抗β2-GP- I抗体があるかどうかである。
 
Stroke — APSは虚血性の脳卒中に強く関連する。脳卒中に関連するlivedo reticularisの頻度はSneddon’s syndromeとして知られる。大多数のケースにおいてSneddon’s syndromeは検出できるaPLと関連する。
脳血管疾患のリスクが明らかでない若年者に起きる血栓性の脳卒中APSを疑うべき古典的な臨床セッティングである。ある研究ではaPLは明らかな病因を持たない脳卒中を呈した45歳未満の患者の25%で見つかる。もう一つの研究では50歳未満の脳卒中の被害者のうち20%aPLを持っていたとされた。
脳梗塞は元々の血栓症によるものかもしれないし、心臓の弁疾患に由来する塞栓によるものかもしれない。もし経胸壁心エコーが正常であれば、非細菌性の心内膜炎による疣贅を評価するために経食道心エコーが適応になるかもしれない。
いくつかの研究がaPLの存在と関連した脳卒中のリスクを評価した:2000例の男性のレビューにおいて、15年間のフォローにおける脳卒中の相対リスクはaPL陽性の人では2.2であった。イベントは主に抗β2-GP- I抗体とIgG aCLの両方を有する者に見られた(例、抗β2-GP- I依存性抗CL抗体)。
若年女性脳卒中予防スタディではLAaCLの存在が160例の患者と340例のコントロールで調べられた。可能性のある交絡因子で補正した後、任意のタイプのaCLまたはLAを有する女性の脳卒中の相対オッズは1.87 (95% CI 1.2-2.8)aCLに関連する脳梗塞のリスク上昇が女性に限ってみられるという同様の結果がフラミングハムコホートオフスプリング研究からの報告でおいても記載された (女性のハザード比2.6; 95% CI 1.3-5.4)
 
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