生物製剤(Biologics)はTNF製剤5剤(IFX, ETN, ADA, GLM,CZP)、TCZ、ABTと、Biosimilarを加えると合計8剤もあります。患者さんに説明する上で、どの生物製剤を勧めるかは、医師の経験や考えによるところが大きいと思います。
以下の図は、MTX-IR RAにおけるBiologicsに関する個人的な見解を相関図にしたものです。もちろん、個々の患者さんにこの図を適用することには注意を要します。
また、今後の新しい情報に応じて、図の修正を続けていくつもりです。不勉強な点があればご指摘くださいね。
<Biologics相関図2016>
注釈
** Cochrane 2011
* Cochrane 2009
† Salliot 2012
¶Muland 2014
<図の説明>
縦軸はACR50の満たしやすさ、横軸は重症感染症 (Serious infection)のリスクをあらわします。矢印は自分なりの根拠を示したものでして、強い根拠を____、弱い根拠を・・・・で記載しています。ADA、IFX、GLMはいずれも効果、安全性ともほぼ同等と考えておりまして、TNFモノクローナル抗体のBOXでまとめました。
まず、Biologicsを直接比較した試験の結果は大切と思われます。ただし、なかなか理想通りにはいきません。Head-to-headのDouble blind RCTは少ないのです。
AMPLEはMTX-IRにABT vs ADAを比較したHead to headの非劣性試験です。Double-blindではありませんが、臨床評価者とX線評価者はBlindされていました。その結果、臨床効果、骨破壊とも両者は全く同等でありました。安全性では差が見られ、重症感染症はADAで数的に多く(3.8% vs 5.8%)。ADA2年で結核2例。重症感染症による中止も数的な差がありました(0/12 vs 9/19) 。点線にした理由は、Maker-fundingであるのにもかかわらず、Double-blindでないことです。
ATTESTはABT vs placebo、IFX vs placeboを比較したDouble-blind RCTです。Head-to-head試験ではなく、サンプルサイズはABT vs placeboで計算されました。1年後の効果、安全性においてABTがIFX (3mg/kg)よりも優れていました。ACR20は72.4% vs 55.8%で有意差がありましたが(16.7; 95%CI 5.5-27.8)、ACR50は45.5% vs 36.4%でその差9.1 (-2.2-20.5)は有意差までもう少しでした。点線にした理由はHead to head試験でないこと、IFXの投与量(3mg/kg)は漸増できる現在のプラクティスと異なるためです (8週間毎なら10mg/kgまで、4週間毎なら6mg/kgまで)。1年後の重症感染症の頻度は有意差検定されておりませんが、ABT 1.9% vs IFX 8.5%と差があるようにみえます。
つぎに、間接的に比較した試験をみていきましょう。
効果をみるための論文は二つあります。CZP, GLM, TCZが入っていないCochraneによるnetwork meta-analysis(Cochrane 2009)、それらのBiologicsも含めて解析したSalliot 2012の報告です。
(Cochrane 2009) http://blogs.yahoo.co.jp/oiwarheumatology/15017073.html
(Salliot 2012) http://blogs.yahoo.co.jp/oiwarheumatology/14307519.html
Cochrane 2009では、御三家(IFX, ETN, ADA)同士の比較が報告されています。ACR50を達成するORは、ADAはETNに対して0.74 (0.37-1.48)、ETNはIFXに対して1.7 (0.68-4.22)といずれも有意差はつかなかったもののETNに有利な結果でした。Anakinraに対するORでみてみると、ETN、ADAは有意差がつきましたが (各2.94、2.20)、IFXはつきませんでした (1.72)。ABTのETNに対するORは0.60 (0.29–1.25) と有意差はつかなかったもののETNに有利な結果でした。これに対しABTはADA、IFXとは同等の結果でした(各0.81、1.02)。そのため、ETNをADA、IFXに対して高く位置づけました。しかし、ここの根拠は非常に弱いため点線もつけていません。御三家は同等ともいえますので。
Saliot 2012ではCZPとTCZのACR50の達成しやすさ、およびABTの達成しにくさが目立ちました。全てのTNF阻害薬(All TNFi=御三家+GLM+CZP)に対するABTとTCZの効果を知ることができます。All TNFiのACR50達成のORはABTに対して1.81 (p=0.008)、RTXに対して1.62 (p=0.05)、TCZに対して0.92 (N.S)でした。但し、この結果は多分にCZPに引っ張られていたようであり、CZPをTNF阻害薬より除いた場合(御三家+GLM)、ORはABTに対して1.81→1.52に落ちました (p=0.04)。RTXに対しては1.62→1.36 (p=0.24)と有意差がなくなってしまいました。TCZに対してはやはり有意差はないものの0.77 (0.77-1.43)に下がりました。
ABTの効果は間接的比較ではCZPはもちろん、御三家+GLMにも劣りましたが、上述の直接比較(AMPLE、ATTEST)ではADA、IFXと同等でしたので、TNFモノクローナル抗体のBOXと同じ高さにしました。All TNFi(御三家+GLM+CZP)、御三家+GLMに対しORが有意に低かった理由はCZP、ETNに引っ張られていたせいかもしれません(Cochrane 2009でETNに対してOR0.6と有意差はつかないものの結構引っ張られていました)。またTCZのABTに対するORは1.97 (1.08 -3.59)と有意でした。
CZPと御三家を比較したデータはSaliot 2012に記載されていないのですが、上述のとおりCZPを除くとRTX、TCZ、ABTに対するORがかなり下がったので、ADA、IFXよりも上位に位値づけました。
GLMの効果に関する比較データは少ないのですが、ADA、IFXに近いと思われ、TNFモノクローナル抗体のBOXに入れました(安全性は後述)。
既述のとおりCZP、TCZ、ETNの効果は相対的に高いと思われますが、お互いに対する比較のデータはありません。ETN個別のデータはないのですが、ETNが含まれたAll TNFiはCZP、TCZに対して分が悪いと思われ、CZP、TCZよりも低い位置に置きました。
安全性の評価にはCochrane 2011のNMAが参考になります。
(Cochrane 2011) http://blogs.yahoo.co.jp/oiwarheumatology/10109011.html
Cochrane 2011のNMAによると、ABTの重症感染症のORはCZPに対して0.16(0.06-0.43)、IFXに対して0.39(0.2-0.77) 、TCZに対して0.36(0.15-0.83)と有意に低く、ADA、ETNに対して低めの値で、もう少しで有意差がつきそうでした;各0.51(0.24-1.05)、0.54(0.26-1.09) 。以上からABTは最も安全性が高いと考えられました。
一方、CZPに関しては、ABTはもちろん(OR=1/0.16=6.25)、ADA、ETN、GLM、IFXに対しても有意に高いORとなりました(各3.13、3.32、2.73、2.42)。TCZとは差がつきませんでしたが、2倍以上の値でした (2.22)。すなわち、重症感染症のORはTCZを除く全てのBiologicsにくらべ有意に高いという結果でした。
以上からABT、CZPの横軸の位置を決めました。すなわち、CZPは左端、ABTは右端に置きます。
御三家+GLM、TCZはお互いに有意差がつきませんでしたが、なかでもETNのORが低めでした;対ADA0.94、対GLM0.82、対IFX0.73。TCZに対しては0.67(0.34-1.32)でした。 以上からETNの位置をTNFモノクローナル抗体のBOXとTCZよりも右にしました。
TCZはABT以外の薬剤とは有意差はつきませんでした。しかしながら、概ね1を超えておりました;対ABT(2.77)、対ADA(1.42)、対ETN(1.49)、対GLM(1.23)、対IFX(1.08)。またCZPとは唯一ORが1をまたぎました。したがって、TCZの位置をCZPよりも右、TNFモノクローナル抗体のBOXよりも少し左に位置させました。
もうひとつ、TNF阻害薬に限った重症感染症の比較を提供したMichaud 2014のメタアナリシスを参考にしました。これはお互いの比較ではありませんが、プラセボ and/or 従来型DMARDsと比較したときの各TNF阻害薬の重症感染症のORが示されています。ADAは 1.69 (1.12-2.54)、IFXは1.63 (1.07-2.47)と有意差がありました。CZPはOR1.98 (0.99-3.96)とかろうじて有意差とならずにすみましたが、最大のORとなりました。GLMは1.55 (0.76-3.17)と1をしっかり股いで有意差はありませんでした。ETNのOR 0.73は数的に最も低い値でした。
(Michaud 2014) http://blogs.yahoo.co.jp/oiwarheumatology/13121513.html
<実際の診療>
リウマトロジストはこの図、および経験をもとに、生物製剤の選択をできるだけ2剤提案しています。原則としてETNをお勧めしますが、経済的な問題があればIFX-BSを、自己注射が難しい方にはGLMを提案することもあります。重症感染症のHigh riskの方にはABTを提案します。
ps;
TCZはMTXを使用しにくい時のよい選択肢ですかね。
ps;↓ですが、執筆協力しております!