リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

Macro CK ー筋炎診断のピットフォールー

Clinical Scenario
45歳女性、CK高値のため紹介。筋力低下はなし。CK値は1500、CKMBも軽度上昇している。MMTは正常であったが、大腿MRIを施行したところ、やはり筋炎を示唆する所見は得られなかった。CK以外は概ね健康。(架空の症例です)
 
(症例は架空です)
 
Uptodate
Uptodateの孫引きです。
 
A rare but important cause for a raisedserum creatine kinase concentration: two case reports and a literature review.
Galarraga B, et al.
Rheumatology (Oxford). 2003Jan;42(1):186-8.
 
症例1は前胸部の中心の疼痛のため入院した59歳男性。心電図とラボはCK600と上昇していること以外には正常。CK値は数ヶ月に渡って高値を維持したため、循環器科コンサルテーションと精査が行われ、虚血性心疾患は否定された。リウマチ科に紹介された後に追加の所見として寝汗、筋けいれんに気づかれた。診察所見は筋症や膠原病の所見はなかった。精査の結果、リンパ球上昇7400/μLCK 852 IUulESR 78 mm/1h以外は正常。血清蛋白電気泳動IgM-Κ型の異常蛋白を示した。血液内科に紹介後、骨髄検査でlow-gradenon-Hodgkin’s lymphoma (NHL)と診断された。筋疾患に詳しい神経内科もこの患者を診察し、筋電図とCK電気泳動をオーダーした。前者は異常なかったが、後者はマクロCKの存在を示した。さらにマクロCKtype2に分類された。最終診断はIgM異常蛋白とmacro CK type2を起こしたNHLであった。
 
症例2は胸痛で入院した79歳女性。心電図は発作性脂肪性頻拍であったが、自然に治った。血液検査はCK2000 IU/mlの持続的な上昇以外に異常はなかった。さらに検査を行ったが、CK上昇の原因ははっきりしなかった。1年後、迷走神経反射と左肩の疼痛のため入院した後にリウマチ科に紹介された。CKは転倒や筋障害の病歴がないのにも関わらず、やはり1400IU/lと上昇していた。Macro CKが疑われ、ゲル濾過クロマトグラフィーで確認された。macro CKType 1と分類された。
 
Macroenzyme(大型の酵素)とは正常で見られる同一の酵素よりも大きな分子量を有する酵素のこと。いくつかのmacroenzymeが報告されており、もっともコモンなのがmacro CK (2 types)macro amylase, macro LDH, macro ASTmacro CK type 2を除いて全てが、正常の酵素免疫グロブリンと結合したものだ。IgGIgAがもっとも多い。結合酵素は血液のクリアランスが減少するため、正常よりも大きな分子量の酵素の増加に至る。総CK定量する検査法では、macro CKは正常のCKと区別がつかない。結果として総CKが上昇する。macroenzyme酵素の値が持続的に比較的一定の値で上昇し、臨床的に説明がつかない場合やその他のLaboの異常を伴わない場合に疑われるべし。CKATPの再生の責任を負う筋の酵素であり、3つの細胞質originのアイソザイムが認識されている: CKMM (skeletal muscle),CKMB (myocardium) and CKBB (brain)。いずれの酵素も分子量は80 kDaMacro CK200 kDaを超える分子量になる。そのため、異なる電気泳動のクロマトグラフィの動きを示す。macro CKの二つのタイプが報告されている。Macro CK type 1は抗原抗体反応を介して作られた酵素免疫グロブリンの複合体である。最もコモンなtype 1 macro CKCKBB-IgG複合体。macro CK type 2の複合体については知られていない。細胞質由来というよりはミトコンドリア由来と信じられている。ほとんどの場合、CK電気泳動、免疫阻害法、クロマトグラフィ法で確実に診断される。CK電気泳動を用いるとき、診断はその他のCK isozymeと異なる電気泳動のパターンとなることで確認される(Fig.1,左)。この2例は診断のためにゲル濾過クロマトグラフィProtein G affinityクロマトグラフィが用いられた(Fig.1 , 右)。macro CKの活性を確かめれば、type 1 or 2に分類するためにprotein G affinityクロマトグラフィを用いる。
 

イメージ 1
 
 
Figure 1
(左) CK電気泳動Macro CK type 1CKMMCKMBのバンドの間に位置する。一方、macro CK 2 CKMMと比べ陰性である。
(右) ゲル濾過クロマトグラフィ。正常のCKアルブミンと同時に流出するが、macro CKはより早く漏出する。*, macro CK; +, albumin.
 

ほとんどの研究によるとmacro CK type 1の頻度は0.43–1.2%macro CKは健常人、子供に起きるかもしれない。多くは女性であり、50歳以上である。この酵素の臨床的な重要性は確立されていない。甲状腺機能低下症、腫瘍、自己免疫疾患、筋炎、心疾患との関連がいくつか報告されている。最後の二つはもっとも強い関連が報告されてされているが、これらの患者集団でCKの検査がなされやすいことで一部は説明できるかもしれない。macro CK type2の頻度は0.5–3.7%と報告される。Macro CK type 2は確実に検出されるというものではないため、少なめの頻度で報告されているのかもしれない。なぜなら、総CK値が上昇するのは10-20%であるからだ。残りの80-90%ではmacro CK type 2を示唆しうる主なマーカーはCKMBの上昇であり、総CK50%を超える;最近の心筋梗塞を有した患者においてでさえも、この酵素は総CK30%を超える事は稀である。Macro CK type 2Type 1と異なり主に病的な患者で検出され、悪性腫瘍(大腸癌)、肝疾患と関連して検出されるのがもっともコモンである。髙い死亡率と関連し、子供でみられるときは心筋疾患のマーカーになりえる。Leeらはmacro CK type 2を有する患者ではtype 1と比べ悪性腫瘍の発生率が3倍高いことを見いだした。
Macro CK type 2と悪性腫瘍との関連性について提唱されているひとつのメカニズムは悪性・腫瘍細胞からの直接、その酵素が放出されるというものである。Steinらはnecropsyで調査された原発性・転移性前立腺腫瘍の一部にミトコンドリアの酵素を発見した。これは腫瘍と転移巣がmacro CK type 2を直接放出することを示唆している。
Macro CKCK500IU/l未満のわずかな上昇を起こすにすぎなかったり、総CKの上昇を伴わずCKMB/CK比の上昇を示すのみであったりする。LeeらはMacor CKに関連したCK12000IU/lまでの上昇を報告したが、彼の患者の一部では筋炎が併存していたことが分かっている。私達の患者はMacro CKの影響でCK1000-2000IU/lを有した。
Macro CKは偶発的な所見として健常人で見つかるかもしれない。不必要な専門医へのコンサルテーションを避けるためにこの疾患を認識しておくことは大切である。この2例においてMacro CKの診断がもっと早く考えられていれば、いくつかの検査、コンサルテーションは避けることが出来ていたであろう。Macro CKCK上昇において常に考慮すべきである。臨床的に明らかにこれを説明しうる理由がないとき、そして、CKMBアイソザムが総CKの>50%をしめる時。もし、Macro CK type 2が検出されれば、悪性腫瘍と肝疾患の検索を考慮されるべきである。この報告はmacro CKに焦点を当てたが、その他のmacroenzymeも診断の混乱をもたらし、不必要な検査が行われるということに至っているかもしれない。。
 
<まとめ>
macro CKは分子量の大きなCKのことで、検査上、正常のCKと区別がつかないため、CK高値となる。CK値が持続的に比較的一定の値で上昇し、臨床的に説明がつかない場合に疑うとよい。
type 1は正常のCK免疫グロブリンと結合したもので、CKBB-IG複合体であることが多い。type 2はそうではなく、ミトコンドリア由来と考えられている。
type 1の頻度は0.5-1.2%で、健常人に検出される。女性、50歳以上に多い。
type 20.5-3.7%の頻度であるが、CK高値となるのは1-2割にすぎないため、実際はもっと多いと考えられる。残りの8-9割はCK正常であるが、CKMB上昇(総CK>50%)が手掛かりになることが多い。
type2は悪性腫瘍、肝疾患と関連することが多い。腫瘍細胞から直接分泌されているという説がある。

 
Scenario caseの経過>
Macro CK type 1を疑い、CKアイソザイム(電気泳動)をオーダーした。