<Clinical scenario>
70歳男性
2-3ヶ月前からの筋力低下のため、前医を受診。日光露出部に紅斑を認めた。
既往歴に特記すべきことなし。スタチン含め内服なし。
CK 2500と高値を認め、皮膚筋炎・多発性筋炎が疑われ、紹介された。
筋電図;筋原性パターン
筋生検を行った翌日、担当医師より連絡があり、
「HE染色で見る限り、壊死がかなり強い。壊死性ミオパチーかもしれないので、抗SRP抗体を測ってみては?」
とのアドバイスをいただいた。
(症例は架空です)
< 疑問、発生!>
・壊死性ミオパチーとは?
・抗SRP抗体とは?
<Uptodateにて>
Necrotizing myopathyを検索し、ふたつの項目を読みました。
Diagnosis and differential diagnosis of dermatomyositis and polymyositis in adults
Necrotizing myopathy —
自己免疫性壊死性ミオパチーはPMを真似するが組織がPMやDMとは異なる稀な疾患である[32,33]。最も多いのはスタチン暴露後に報告されるが、典型的なスタチン誘発性筋症と異なり、薬剤中止後も持続する[32]。また、強皮症やMCTDのようなその他の自己免疫性リウマチ性疾患に合併したり、傍腫瘍性症候群として見られたり、特発性のものもある。
自己免疫性壊死性ミオパチーはPM・DMと同様、上下肢の近位筋の筋力低下でもっとも良く特徴づけられる。また、筋電図所見は炎症性ミオパチーの所見を呈するのが典型的であり、筋原性酵素の上昇がみられる。しかし、PM・DMと異なり、筋生検では非壊死性の筋線維の周囲に有意な炎症細胞浸潤を伴わない壊死性の筋線維を示す。筋膜周囲の萎縮も見られない。これらの患者のいくつかは抗SRP抗体や抗200/100抗体を有する。後者はスタチン誘発性壊死性ミオパチーの患者にみられ、HMGCRプロテインを認識するものである。
Pathogenesis of inflammatory myopathies
IMMUNE-MEDIATED NECROTIZING MYOPATHY —
自己免疫性壊死性ミオパチー
時に多発性筋炎と紛らわしいこの稀な病気はいくつかのセッティングで起きる。たとえば、傍腫瘍性疾患として、またはスタチンを含む特定の薬剤の使用に関連して[93]。この病気を起こす、スタチン投与中の少数の患者において、これらの薬剤の使用に関連して起きた筋炎は薬剤を中止しても持続する。これは中止後に改善する、より典型的なスタチン関連ミオパチーとは異なる。筋に炎症細胞浸潤があまりないが、この病気は免疫抑制療法によって改善することが、自己免疫性に起きているという見解を指示する。
多発性筋炎に分類されることもある自己免疫性壊死性ミオパチーは、壊死性の筋線維が散在する。壊死性ミオパチーは時に抗SRP抗体と関連する[94,95]。筋に存在する免疫細胞の少数はマクロファージであり、これは筋線維の壊死部位に二次的に浸潤する。形態学的に正常に見える筋線維の浸潤の所見はない。また、炎症細胞は皮膚筋炎、多発性筋炎や封入体筋炎のように血管周囲やendomysial locationsには存在しない。皮膚筋炎の患者と異なり、これらの患者はperifascicular atrophyを呈さない。ときに炎症細胞は小血管の周囲にみられ、肥厚した基底膜がみられる。一つの仮説は循環する可溶性の分子が筋線維を障害するかもしれないということである。しかし、この機序についてはほとんど知られていない。スタチンは3-hydroxy-3-methylglutaryl-coenzyme A reductase (HMGCR)をupregulateする。抗HMGCR自己抗体がスタチン関連壊死性ミオパチーの患者に見つかっている。
<Uptodateの孫引き>
[32]
Immune-mediated necrotizing myopathy associated with statins.
Muscle Nerve. 2010 Feb;41(2):185-90.
Abstract
2000―2008年の間に二つの神経筋センターにて評価され、以下の基準を満たす患者を報告する:(1)スタチンの投与期間中または投与後に近位筋の筋力低下が起きる;(2)血清CK上昇;(3)スタチン中止後も筋力低下とCK上昇が持続する;(4)免疫抑制療法による改善;(5)筋生検にて有意な炎症所見を伴わない壊死性ミオパチーが見られる。25例が基準を満たし、24例が多数の免疫抑制剤を要した。15例が免疫抑制療法を減量中に再燃した。発症前のスタチンへの曝露は壊死性ミオパチー(82%)において、同じ時期にみられた皮膚筋炎(18%)、多発性筋炎(24%)、封入体筋炎(38%)よりも有意に多かった。スタチン中止後も改善しないこと、免疫抑制療法を必要とし、治療を漸減するとしばしば再燃することより、この稀なスタチン関連壊死性ミオパチーが免疫に介達されて起きるということを示唆する。
Illustrative case (patient 8)
74歳女性。1995年にアトルバスタチンを飲み始めた。治療前のCKは67U/L。2001年12月、上肢近位筋と下肢の筋力低下が出現。2002年4月までに寝たきりになり、腕を頭の上まであげることも、頸を枕から上げることもできなくなった。嚥下障害と軽度の構音障害あり。アトルバスタチン中止したが、CKは1125-1644U/L。ANA、RF, aRo, aLa, aSm, aScl-70, aRNP, aJo-1いずれも陰性。大腿四頭筋の生検にて炎症に乏しい壊死性ミオパチー。胸腹部骨盤のCTは正常。マンモグラフィー、大腸カメラも陰性。
プレドニゾン(PSN) 60mg, メトトレキサート(MTX)25mg/wにて治療して徐々に改善したが元の状態までには戻らず。PSN、MTXも漸減したが、PSN 5mg、MTX 20mg/w投与中の2003.4月に再燃。筋力は上腕4-、下肢近位筋3-。CK 4855U/L。筋生検を繰り返し(上腕二頭筋)、再度壊死性ミオパチーの所見。MTX中止し、PSN 70mgに増量。マイコフェノレート・モフェチル1g2回と免疫グロブリン(IVIG)2g/月を開始したところ、上腕の筋力は正常化し、下肢も4-まで改善。この治療を継続し4ヶ月でCK 124U/Lに。IVIGを中止し、PSN漸減を開始。2004.5月、PSN 15mg隔日投与中にCK 3844にて再燃。そのため、IVIGを2ヶ月毎の投与で再開。再度改善したが、近位筋の筋力低下とCK微増を有する。2005.12月にリツキシマブを試してみたが改善なし。現在、IVIGを6週間枚、PSN 20mgを内服中。最近の筋力は上肢近位4/5、下肢近位3/5。細菌のCKは2008.4月で397U/L。
Discussion(第5パラグラフ)
自己免疫性壊死性ミオパチーは稀な炎症性筋疾患の亜型。傍腫瘍性であることもあれば、強皮症、MCTDのような膠原病に合併してもよい。スタチン暴露のない壊死性ミオパチーの自験例4例のうち、1例がMCTD,1例がアルコール中毒、2例が特発性。癌はなし。生検にて炎症細胞浸潤や筋線維束の委縮がないことからその他の炎症性筋疾患と区別することができるが、その臨床所見と免疫抑制療法への良好な反応においてPMに似る。私たちの経験ではスタチン暴露に関わらない患者も含め壊死性ミオパチーの患者はPM・DMの患者よりも難治性の経過を示し、多数の免疫抑制療法を要する。
[94]
Arthritis Care Res (Hoboken). 2010 Sep;62(9):1328-34.
Rituximab therapy for myopathy associated with anti-signal recognition particle antibodies: a case series.
OBJECTIVE: 抗SRP抗体に関連するミオパチーは重症の壊死性の自己免疫性の疾患であり、急速進行性の近位筋の筋力低下とCKの著増を呈し、従来の免疫抑制療法に対する反応が不良であるという特徴がある。抗SRP抗体関連ミオパチーに対するB細胞除去療法の効果は報告によって様々。私たちは抗SRP抗体関連ミオパチーで抗CD20モノクローナル抗体、リツキシマブによる治療に対する反応を示した8例を報告する。
METHODS: 免疫沈降法で抗SRP抗体陽性であったミオパチーを有し、治療の中でリツキシマブを投与されたことがある8例を検出した。カルテをレビューし、臨床的、血清学的組織学的な特徴を評価し、治療への反応性を評価した。5例において血清がリツキシマブ治療の前後で集められた。免疫沈降法にて自己抗体が決定され、量的に測定された。抗SRP抗体の低下した%を計算した。
RESULTS: 標準的な免疫抑制療法に抵抗性であった8例中6例がリツキシマブ投与後2ヶ月ほどの速い時期に徒手筋力検査の改善and/orCK値の減少を示した。3例は最初の投与から12-18ヶ月の間、効果が持続した。全ての患者が補助的なステロイドにて治療を続けたが、リツキシマブ投与後に投与量がかなり下がった。抗SRP抗体の量的なレベルもリツキシマブ投与後に低下した。
CONCLUSION: リツキシマブによるB細胞除去療法は抗SRP抗体関連ミオパチーの患者に有効。リツキシマブ投与後に抗SRP抗体がかなり低下したため、B細胞と抗SRP抗体はこのミオパチーの病因に大きな役割を持っているかもしれない。
< こたえ >
・壊死性ミオパチーはPMに似るが、PMやDMとは組織が異なる稀な疾患。
※ただし、PM/DMでも抗SRP抗体は陽性になってもいいようです(↓のTable1)。
・スタチン暴露(最多)、リウマチ性疾患(強皮症やMCTD)、傍腫瘍性症候群、特発性。
・筋生検では非壊死性の筋線維の周囲に有意な炎症細胞浸潤を伴わない壊死性の筋線維を示す。筋膜周囲の萎縮も見られない。
・壊死性ミオパチーの患者のいくつかは抗SRP抗体を有する。
・免疫抑制療法に反応するが、治療の漸減により再燃しやすい。
・PM・DMよりも難治性。
・抗SRP抗体陽性の壊死性ミオパチーにおいて、リツキシマブの有効性が報告されている。
<Scenario caseの経過>
抗SRP抗体(免疫沈降法)をオーダーした。
保険適応外であるが、2012年6月よりSRLにて測定できるようになったとのこと。
悪性腫瘍の検索は陰性であった。
皮膚筋炎疑いとして治療を開始して2週間、抗SRP抗体陰性と判明。
病理結果は皮膚筋炎に一致した。
2. 臨床神経2013
3. 臨床神経2012
4. 臨床神経2012