リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

Cogan症候群①

Clinical scenario
27歳女性、2週間前からの発熱のため入院。耳鳴り・聴力障害、肝障害、リンパ節腫脹を認め、耳鼻咽喉科で右耳の聴力障害を、眼科で強膜炎を指摘された。(架空の症例です)

(架空の症例です)
 
< 疑問、発生!>
Cogan’s syndromeについて勉強しよう。
 
Uptodate
Cogan’s syndromeを意訳します。
 
Cogan’s syndromeCS)は慢性の炎症性疾患。ほとんどが若い成人におきる。臨床的特徴は間質性角膜炎(Interstitialkeratitis (IK))、聴力前庭不全。CSと大動脈炎のような全身性血管炎との合併もある。
30代がピークで、中央値は22歳(5-63)。子供にも高齢者にも起きる。男女比、民族間に差はない。

Clinical features
・確定診断は特徴的な眼と耳の障害に基づく。眼・耳とも同等に主訴になる。
・主な眼の症状はIKで、赤目、疼痛、羞明と視力障害。顕微鏡検査は通常斑で深い顆粒状の角膜浸潤を示す。IKが古典的な眼の所見であるが、診断に必須ではない。眼の炎症はその他の眼の部分を侵しうる。虹彩毛様体炎、結膜炎、上強膜炎、前・後部の強膜炎、網膜血管炎。網膜血管炎と後部強膜炎はしばしば視力障害を来す重症の病態であり、あれば緊急的な治療を要する。
・内耳障害は回転性めまい、運動失調、メニエル様の発作、嘔気・嘔吐、耳鳴り、難聴。前庭不全は動揺視を起こしうる。これは頭を急に動かすと物が前後に揺れる現象のこと。カロリックテストは前庭機能が失われていることをしばしば示す。
・再発性の内耳障害のエピソードはしばしば顕著な難聴を来す。60例の後ろ向きシリーズでは難聴は典型的には突然であり、両側性で、動揺性で進行性であり、完全な難聴は120耳のうち73であった。両側性の聴力障害はいつか全ての患者で経験される。二つの小さな研究はともに両側性の難聴が薬2/3に起きることを見つけた。
・再発性のエピソードは蝸牛水腫を来す;これは炎症とは無関係に蝸牛の圧変化が起きるため聴力がよくなったりわるくなったりすること。
・聴力検査は典型的には感音性難聴を示す。主に低周波数域と高周波数域。語音弁別能の低下もみられる。少なくとも30%の患者が純音オージオメーターにおいて、中等度の聴力障害を示唆する60dB以上の閾値を有した。
・全身性血管炎がCSと全身性血管炎に合併する時、小型、中型、大型のいずれでもよいし、大動脈炎であってもよい。血管炎のパターンが重複してもよい。大動脈炎は発症後数周から数年以内に起き、患者の10%で報告される。近位大動脈の拡張、AR、冠動脈の入口部、胸腹部の大動脈瘤。冠動脈炎の報告もある。
・非特異的なCSの所見として、発熱、倦怠感、体重減少、リンパ節腫脹、筋痛、肝腫大、肝炎、脾腫、肺結節、心膜炎、腹痛、関節痛、関節炎、筋痛、蕁麻疹がある。炎症性腸疾患の患者においても報告されている。
 
Evaluation
CSの可能性がある患者は以下のステップをとる。
IK、強膜炎、上強膜炎の存在を決定するため、およびその他の疾患と眼科的な病因を除外するための眼科的検査
・前庭聴力異常の存在を決定するための神経学的・耳学的検査
・全身性血管炎を検索するためのリウマチ学的検査
 
Diagnosis
CSの診断は特徴的な眼の炎症性疾患と前庭聴力障害に基づく。過去に使われたtypical, atypicalはこの区別は予後について重要性を持たないため、もはや使われない。
・鑑別疾患にはサルコイドーシス、結節性多発動脈炎、GPA(Wegener’s)RA。その他、IKを起こす感染症;先天性梅毒、結核、クラミジア感染、ウイルス感染。感染症は以下の方法でCSより区別できる;血清学的検査(例、梅毒のためのFTA-ABS)、ツベルクリン検査、血清の結核検査、培養、抗生物質の試験的治療(クラミジアのためのテトラサイクリン)、特徴的な臨床所見(ヘルペス角膜感染におけるdendritic pattern)。
CSは亜急性の脳症、感音性難聴、若い成人に起きる閉塞性非血管炎性血管症による網膜動脈閉塞症と区別されなければならない。この疾患のCSと異なる主な所見は網膜・神経精神的な所見の存在とIKやその他の前部の炎症がないことである。
 
Pubmed
Cogan’s syndrome[title] or Cogansyndrome[title]を調べて、326件。Free full textEnglishで絞って42件。この中から、以下の論文を見つけました。Uptodatereferenceにもありますね。
 
Typical and atypical Cogan's syndrome: 32cases and review of the literature.
Grasland A, et al; Study Group for Cogan'sSyndrome.
Rheumatology (Oxford). 2004Aug;43(8):1007-15.
 
Patients and methods (意訳です)

・後ろ向き多施設研究。CSの患者をフランス全国内科協会に所属する医師に行った調査より検出された。臨床データ(青年例、主訴、眼、耳、全身症状、治療、予後)を集めた。

Cogan症候群の基準を用いてTypical CSを以下の3つの状況で定義した;
 (i)  非梅毒性のIK。結膜炎、結膜・結膜下出血、虹彩炎を伴っても良い;
 (ii) メニエル症候群に似た聴力前庭症状 (聴力障害を伴う突然の嘔気・嘔吐、耳鳴り、回転性めまい)。通常1-3ヶ月で失聴に至る;
 (iii) 眼と聴力前庭症状が2年以内であること。

Haynesらの基準によって以下の任意の合併症があればAtypical CSに分類した;
 (i) IKの有無を問わない眼の炎症性疾患。上強膜炎、強膜炎、網膜動脈閉塞症、脈絡膜炎、網膜出血、乳頭浮腫、眼球突出または腱炎; 孤立した結膜炎、結膜下出血または虹彩炎は、もし目の病気が2年以内にメニエル様発作に関連して起きていればAtypical CSと分類した。
 (ii) 典型的な目の症状がメニエル様発作とは異なる聴力前庭症状と2年以内に起きた場合、
 (iii)典型的な目の症状と聴力前庭症状が2年以上離れて起きた場合。

・私達はCogan’s syndromeというキーワードを用いてMedline databaseと各の論文のReference listから包括的な文献レビューを行った。1980年に発表されたHaynesらの文献レビューはCS111例(typical,n=78; atypical,n=33)を含んでいた。この度、私達は英語とフランス語の論文で報告された79例、typical, 35例、Atypical, 44例を追加することができた。十分な詳細なデータを有するCSを調査した。この試験のデザインはフランスで用いられる標準的な倫理基準に従った。

Results
調査よりtypical CS 17例、Atypical CS15例の32例が検出された。typical2例はIKに表層性角膜炎を呈したのにも関わらずatypicalと診断されていた。7例(pts 7, 8, 13, 19, 26, 27, 32)は過去に報告された。私達のシリーズと190の報告例を比較したが、全身症状の頻度について有意差を認めなかったため、データを統合した。222例(Typical130Atypical92)になった。

臨床的特徴、発症時の疾患のパターン、眼球・聴力前庭症状 (Table 1)
私達のシリーズの19例は男性。29例が白人で残り3例が黒人。発症時の平均年齢は31.9 (中央値27, 範囲5–65) (Typical30.6歳、Atypical33.5), 発症から診断の遅れは平均21.9ヶ月 (Typical 10ヶ月、Atypical 34.6ヶ月)。可能性のあるトリガーが私達の10例で検出された:Typical6(鼻炎と咽頭炎扁桃腺炎、中耳炎、インフルエンザ様症状, 感冒暴露と歯の膿瘍)Atypical4[クラミジア肺炎、インフルエンザ様症状(2例)、脱感作]。文献における2-3例において、CSは上気道感染 (27%)、また稀ではあるが下痢、歯の感染、ワクチン。主な症状は7例で眼 (Typical 4, Atypical 3)、聴力前庭症状15 (7, 8)、関節症状が2(1, 1)。残りの8例(5, 3)では眼と聴力前庭症状が同時に起きた。文献レビューは眼または聴力前庭症状が単独で起き、同時に起きることは稀であった。二つの臓器の平均の遅れはTypical3ヶ月。
 

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