リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

成人スチル病(ASD)におけるトシリズマブ(アクテムラ)の有効性

Clinical scenario
60歳女性、咽頭痛に始まる発熱です。
 
当初は咽後膿瘍が疑われていましたが、抗生剤投与にもかかわらず、発熱は1週間以上つづき、WBC18000、ピンク色の皮疹、関節炎、リンパ節腫脹、肝機能障害、ANA-/RF-
 
ASDの基準を全て満たしました。フェリチン12万と異常高値でしたが、血球減少はなく、骨髄生検で血球貪食や悪性細胞を認めませんでした。
 
ASDの疑いにてステロイド治療を開始しましたが、1mg/kgに耐性、パルス(15mg/kg)3日間を施行しても、4日目にはまた発熱・・・

(架空の症例です)
 
< 疑問、発生!>
ステロイドパルスに抵抗性のASDの全身症状にTCZは有効かを調べてみました。
 
Uptodateでは全身症状にはAnakinraの次に勧められていますね。
 
Pubmedにて>
Pubmedを検索して、51件、Englishlimitsして43件でした。
"Still's Disease,Adult-Onset"[Mesh] tocilizumab
 
その中から3件をチェックしました。
 
6. Nationwide epidemiological survey of 169patients with adult Still's disease in Japan.
Asanuma YF, Mimura T, Tsuboi H, Noma H,Miyoshi F, Yamamoto K, Sumida T.
Mod Rheumatol. 2015 May;25(3):393-400
 
2010年に診療されたASDを集めた全国調査では、169人が集められました。そのうち、27例がbiologicsを投与されていて、TCZ21例だそうです。TCZASDにも普及しつつありますね。
 
つぎは、日本の7つの大病院で集められた、生物製剤を使用したことのあるASDの調査です。ASDでは有名な佐賀大学からですね。
 
21. Therapeutic response of patients withadult Still's disease to biologic agents: multicenter results in Japan.
Suematsu R, Ohta A, Matsuura E, TakahashiH, Fujii T, Horiuchi T, Minota S, Ishigatsubo Y, Ota T, Takei S, Soejima S,Inoue H, Koarada S, Tada Y, Nagasawa K.
Mod Rheumatol. 2012 Sep;22(5):712-9.
 
OBJECTIVE:
成人スティル病(ASD)における生物製剤の効果が提案されているが、その情報はいまだ不十分で、妥当性は分かっていない。日本の難治性ASDにおいていくつかの生物製剤の効果を決定するため、多施設調査が行われた。
METHOD:
少なくともひとつの生物製剤で治療されたことがある16例(24回)の臨床データを後ろ向きに集めた。
RESULTS:
IFX9例、ETN 4例、TCZ11例に使用された。半数は最初にIFX or ETNで治療され、その後もう一つの生物製剤に変えられた。TCZIFXETNからスイッチされたケースにおいて有効であった。TCZは全身性の症状、関節症状ともに有効であった。明らかなステロイド減量効果があり、もっとも高い継続率を示した。
CONCLUSION:
TCZは難治性ASDにおいて期待出来る生物製剤であるかもしれない。
 
Table 1 患者のプロフィールとアウトカム

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Figure 1
使用された生物製剤によるCRPA)とフェリチン値の変化(B
(A)
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 (B)
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つぎに、TCZを使用したASD34例についてのスペインの観察研究も読んでみました。
 

12. Efficacy of tocilizumab in conventionaltreatment-refractory adult-onset Still's disease: multicenter retrospectiveopen-label study of thirty-four patients.
Ortiz-Sanjuán F, et al.
Arthritis Rheumatol. 2014Jun;66(6):1659-65.
 
Objective.
ASDは標準治療にしばしば抵抗性。TCZの有効性が症例報告や小規模のシリーズで証明されている。この多施設研究の目的は従来の治療に抵抗性のASDにおいてTCZが有効であるかを評価すること。
Methods.
ステロイドと少なくともひとつの標準的免疫抑制剤(多くは生物製剤)に抵抗性のASD34例に関する後ろ向きのOpen-label研究だ。
Results.
患者(男性8例、女性26例)の平均年齢±SD38.7±16.1歳。TCZ投与前のASDの罹病期間の中央値は4.2 (IQR 1–9)TCZ静注の最初の投与量は22例で8 mg/kg/4wks2例で4 mg/kg/4 wks10例で8 mg/kg/2 wksTCZは急速に改善をもたらし、改善を維持した。臨床的にもラボ的にも。TCZ1年後、関節所見の発生はベースラインの97.1%より32.4%に、皮膚症状、発熱の発生率はともに58.8%から5.9%に、リンパ節腫脹は29.4%から0%になった。CRPESR、フェリチンを含む炎症マーカーの劇的な改善が達成された。PSNの中央値はTCZ開始時の13.8 mg/day (IQR 5-45)より12ヶ月後2.5 mg/day (IQR 0-30)に。中央値19ヶ月後(IQR 12-31 months)TCZを永久的に中止されたのは2例のみで、とおに重症感染症が原因であった。
CONCLUSION:
TCZは標準治療に抵抗性のASD患者において臨床・ラボ上の改善を急速にもたらし、維持した。しかし関節症状は全身症状に比べより抵抗性にみえた。
 
 
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Figure1. TCZ開始後の急速な改善と12ヶ月の改善の維持
A, 白血球数(黒線)とHb (影線)   B, CRP(黒線)ESR (影線).
C, フェリチン値  D, ステロイド減量効果
Aの値は平均±SD; B–Dは中央値 (IQR) *はベースラインと比較した時のP<0.05
 
(本文より)中央値19ヶ月(IQR 12–31 months)のフォロー期間において感染症TCZに関連してコモンな合併症であった。にもかかわらず、TCZが永久に中止されたのは2例のみで、ともに重症感染症が原因であった。1例は腎盂腎炎と急性腸炎、もう1例はブドウ球菌による細菌性化膿性椎間板炎で腸腰筋膿瘍を伴った。両者とも抗生剤投与にて完全回復が得られた。TCZに起因するその他の感染症は肺炎 (1), 上気道感染 (3), 歯の感染(1 ), 尿路感染(1), EBウイルス感染 (1), 帯状疱疹 (1)。その他のマイナーな有害事象は軽度の白血球減少または好中球減少 (4)TCZ投与中の肝機能障害(4)。スタチンを要する高コレステロール血症 1例に認めた。この患者は投与前はコレステロールは正常であった。TCZ点滴に関連した頭痛をもう1例に認めた。
 

Scenario caseの経過>
パルス後1週間たっても発熱が持続した。

ステロイド抵抗性のASD(全身症状)において、TCZも選択肢として提案することとした。

保険外の診療であること、副作用として時に重症感染症が起きうることも忘れないように。
 

 

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