<Clinical Scenario>
若手からの質問です。
「IgG4RDの治療はなぜPSL 0.6mg/kgなのですか?」
< 検索、開始!>
2015年のLancetのレビューでは、0.6-1.0mg/kgを推奨しており、その引用文献(30,43)をみると、いずれも自己免疫性膵炎のデータから来ているようです。
< Lancetレビューの孫引き >
43) Standard steroid treatment forautoimmune pancreatitis
T Kamisawa, T Shimosegawa, et al.
Gut 2009;58:1504–1507
Abstract
OBJECTIVE:
METHODS:
RESULTS:
AIP 563例のうち459例(82%)がステロイドを投与された。ステロイドで治療されたAIPの寛解率は98%であり、ステロイド治療を受けなかった患者よりも有意に高かった (74%, 77/104; p<0.001)。ステロイド治療の理由は閉塞性黄疸(60%), 腹痛(11%), 胆道以外の膵外病変 (11%)、びまん性の膵腫大 (10%)。寛解導入までに要した期間とPSLの初期量 (30 mg/day vs 40 mg/day)の間に関連はなかった。ステロイドの維持療法はステロイドで治療された459例のうち377例(82%)に行われ、104例で中止された。維持療法を行われたAIP患者の再発の割合は23% (63/273)であり、維持療法を中止した患者よりも有意に低かった (34%, 35/104; p = 0.048)。治療開始後、56% (55/99)が1年以内に、92% (91/99)が再発した。再発した89例のうち83例 (93%)がステロイドの再治療を受け、そのうち97%で有効であった。
CONCLUSIONS:
(本文Resultsより)
Induction of remission by steroid treatment
経口PSLの初期量は20 mg/day (n=8,2%), 30 mg/day (n=283, 62%), 40 mg/day (n=160, 35%), 60 mg/ day (n=4, 1%)、その他(n=4, 1%)。初期量は3/4で2週間投与され、残りでは3-4週間。初期量は臨床所見、肝機能検査、IgGやIgG4値のような生化学検査、繰り返しの画像検査に基づいて、1-2週間毎に5mgずつ漸減され、維持量に至った。投与量は15mgに到達した後はより緩徐に2-8週間毎に減量された。治療開始後寛解を達成するまでに要する期間は、初期量30mg/dayで治療された患者で平均6.82 ヶ月(SD, 6.11)であり、40mg/dayで治療された患者で6.34 (8.13)ヶ月(p=0.401) (table 2). 寛解時、水腫大は300例中239例(80%)において正常に近いサイズまでになった。58例(20%)において萎縮し、3例では局所的な持続的な増大を示した。IgG4高値はステロイド治療開始後すべての患者で低下したが、182例中115 (63%)で正常化した(<135 mg/dl)。寛解時に膵管の不整and/orいくらかの胆管の狭窄はIgG4高値が持続した115例中67例(58%)で残存した。一方、IgG4が正常化した患者では67例中18例のみ(27%)であった(p<0.001)。
Maintenance steroid treatment
ステロイドの維持療法は寛解も459例中377例(82%)で行われた。PSLの維持量は 10 mg/day (n=27, 7%)、7.5 mg/day (n=13, 3%)、5 mg/day (n=238,63%)、2.5 mg/day (n=78, 21%)であり、残りはその他(100-7-3-63-21=6%)。維持療法を行った377例のうち画像および血清学的に完全寛解した104例(28%)では維持療法が中止された。
(本文Discussionより)
日本では標準体重の患者には初期量として30mg/day (~50 kg; 0.6 mg/kg)が通常用いられ、より大きい患者には40mg/dayが用いられる (>60 kg; 0.67 mg/kg). それゆえに一般的な初期投与量はPSL 0.6mg/kg/dayとすることを勧める。
→ 結語で0.6mg/kgを出すのであれば、ちゃんと体重で割り算をしてもらいたいと思いましたが、おおよそ0.6mg/kgなのでしょう。
→PSL 0.6mg/kgの根拠は、①この試験のステロイド治療(PSL 30-40mg/日が97%)において98%(451/459)でいったん寛解導入されたこと、②PSL 30-40mgはおおよそ0.6mg/kgに相当すすること、のようです。
<IgG4RDのコンセンサス会議@AR2015の孫引き>
55) AIPの国際的な研究だったので拾ってきました。
Long-term outcomes of autoimmunepancreatitis: a multicentre, international analysis.
Gut. 2013 Dec;62(12):1771-6.
Hart PA, Kamisawa T, et al.
ABSTRACT
Objective 自己免疫性膵炎(AIP)は治療可能な慢性膵炎のタイプであり、ここ10年で広く認識されてきている。私達はいくつかのアカデミックな施設で国際コンセンサス診断基準を用いて診断されたAIPの現在の集計を良く理解し、臓器障害、治療再発率、長期の後遺症を含めた長期的なアウトカムを記述することを始めた。
Design 10ヶ国からの23施設がこの多国籍解析に参加した。国際コンセンサス診断基準を満たす計1064例のAIP患者、type 1 (n=978) or type 2 (n=86)が登録された。治療、再発、後遺症に関するデータが得られた。
Results
ステロイドで治療された大多数のAIP患者、type 1 (99%) and type 2 (92%) AIPが臨床的寛解に至った。黄疸を呈したほとんどの患者が胆道のステント留置を必要とした (71% of type 1 and 77% of type 2 AIP)。再発はtype 1 (31%)においてtype 2 AIPよりも多かった(9%, p<0.001)。とくにIgG4関連の硬化性胆管炎の患者において (56% vs 26%, p<0.001)。再発は典型的には膵臓と胆道に起きた。ステロイドによる再治療はアザチオプリンのようなその他の代替療法を併用しても、していなくても寛解導入において有効であった。膵管の結石と癌はtype 1 AIPにおいて稀な合併症であり、type 2 AIPでは研究期間中には起きなかった。
Conclusions
AIPはステロイド治療によって一様に高い改善率を呈する全身性疾患であり、膵臓と胆管に再発をしやすい傾向がある。可能性のある長期的な後遺症には膵管結石と悪性腫瘍がああるが、試験期間中においては稀であった。さらなる経過観察を要する。予防と再発の治療を調査するためさらなる研究が必要である。
(本文より)
Treatment regimens
寛解の導入と維持のために多様なステロイドのレジメンが用いられた。初期のステロイド量において、全てのセンターで体重に基づいた投与量 (PSL 0.6 mg/kg/day)、あるいは70kgの人でおおよその相当量である、固定した投与量 (30–40 mg/day)を用いた。減量のストラテジーは1-2週間毎に5-10mgの減量と幅があった。全てのアジアのセンターは低容量PSL(2.5–5 mg/day)による維持療法を6ヶ月から3年間続けた。一般に、ヨーロッパと北米のグループは3ヶ月以内にステロイドを減量し、ステロイドの維持量を投与しなかった。多くのセンターが維持量の低容量ステロイドの代わりに免疫調整の薬剤を用いた (n=5)。この治療法を行った症例が5例より多くある4つのセンターでは、azathioprine (2 mg/kg/day)が好まれる薬剤であり、様々な期間用いられた (1–3 years)。多くの患者が初期に手術を受けた。AIPの典型的な所見を欠いたため、あるいはAIPの疾患概念として認識されるより以前であったため。
手術は腫瘤形成の病変を切除するために行われるか (例、膵頭十二指腸切除術または遠位脾摘術)、あるいは明らかに切除できない癌を有する患者では緩和的なバイパスのために行われた(例、胃空腸吻合術)。手術はAIPの初期治療として意図的に行われたことはなかった。多くの患者がステロイドや手術を行わず保存的に治療された。様々な理由で支持的なケアが行われた;無症状の場合、転移性癌などの重症の併存疾患、あるいは患者の好み。
→この試験も0.6mg/kgばかりではなかったようですが、おおむねそうだったのでしょうか・・・
※自己免疫性膵炎のType 1 vs 2・・・門外漢なので、以下を参考にしてください。
<リウマトロジストのコメント>
PSLの投与量の根拠はRCTに基づくものではなく、日本、国際のAIPの経験的治療に基づくようです。その他の膠原病もしかりですが。1.0mg/kgまで許容する根拠も不明ですが、重症病態にそなえて、その他の膠原病と同様~1.0mg/kgまで拡大したのではないかと推察します。
つぎに、AIPを対象に日本で行われたRCTをまとめます。
ps;↓ですが、執筆協力しております!