50代の男性
早期の関節リウマチ（Early RA）にたいし、MTXを開始して3ヶ月。
発症前と同じように働くことができるくらいまで改善した。
MTX開始時に過度の飲酒はMTXの肝障害と紛らわしいので控えるよう説明していた。
治療開始後は（律義にも）アルコールを一切控えていたという。
「先生、少しならいいんでしょう？」
（症例は架空です）
＜ 疑問、発生！ ＞
RA患者に、アルコール（飲酒）は悪い？
「ダメですよ」 と答えるのは簡単。
でも、律義な患者さんに誠意をもって・・・調べてみました。
(rheumatoid arthritis[title]) AND alcohol[title]を検索し、26件。
発症リスクはクリックする必要ありません。もう発症しているわけですから。
11番目にいいのを見つけました。
The effect of alcohol on radiographic progression in rheumatoidarthritis.
Nissen MJ, Gabay C, Scherer A, Finckh A; Swiss Clinical QualityManagement Project in Rheumatoid Arthritis.
Arthritis Rheum. 2010 May;62(5):1265-72.
OBJECTIVE:
アルコールの消費はRAの発症のリスクを減らし、動物モデルにおいてびらん性関節炎の発生を有意に減らす。
アルコールの消費が関節破壊の進行に影響するかどうかは分かっていない。
この研究はRAの大きな前向き研究においてアルコールを飲む人と飲まない人におけるレントゲン上の破壊の割合を比較するために行われた。
METHODS:
RA登録データベースにおけるスイスの人口ベースの臨床クオリティマネージメントに登録され、2回のX線を受けた患者を全て登録した。
関節のびらんは手と足の38関節において妥当性のあるスコアリング法を用いて評価した。
びらんの進行の割合は多変量解析を用いて解析し、可能性のある後楽因子にて補正された。
RESULTS:
RA患者2908例が登録され、平均X線回数4回、フォロー期間は3.9年。Drinkerではnondrinkerと比較しX線上の進行が少ない傾向がみられ、1年後の骨びらんの進行は0.99%（95%CI 0.70-1.03）と1.13% (95% CI 1.01-1.26)であった。
アルコールの消費はJ-shapedの用量依存性の効果を示し、時々飲む人(P = 0.01)、毎日飲む人(P = 0.001)においてnondrinkerと比べ良い結果であった。
私たちは性別によって有意な影響の変化を見つけた。すなわち男性のdrinkerは男性のnondrinkerに比べ有意に少ない骨びらんの進行を示した (mean 0.86% [95%CI] versus 1.35% [95% CI 1.02-1.67]; P = 0.007)。
CONCLUSION:
私たちの研究結果はアルコールを飲む人、時々飲む人と毎日飲む人においてnondrinkerと比べX線上の進行が少ない傾向を示した。
とくにアルコールを消費する男性のRA患者はnondrinkerと比べX線の進行がより少なかった。
Figure 2
Figure 2 経時的なレントゲン上の関節破壊の進行（ERO）に基づいたアルコール消費の性によるサブ解析。
EROの軌跡はﾍﾞｰｽﾗｲﾝのﾀﾞﾒｰｼﾞｽｺｱ、DAS28、機能障害（HAQで測定）、治療（生物製剤、DMARDs、ｽﾃﾛｲﾄﾞ）、リウマトイド因子の存在、性、年齢、罹患期間、喫煙、教育レベルにて補正された（補正モデル）。
X線上の関節破壊の進行スコアは可能性のある最大のRatingenﾀﾞﾒｰｼﾞｽｺｱのﾊﾟｰｾﾝﾃｰｼﾞを表し、びらんによる関節表面のﾀﾞﾒｰｼﾞの平均割合に一致する。値は平均と95%信頼区間(95%CI)。
1年後のレントゲンの進行は男性drinkerで0.86% (95% CI 0.70–1.03)、男性nondrinkerで1.35%(95% CI1.02–1.67)(P = 0.007)。これは女性では差がなかった。
＜コメント＞
「収入」でも補正してほしかったですけど、治療（生物製剤、DMARDs、ｽﾃﾛｲﾄﾞ）、教育ﾚﾍﾞﾙの補正がされているので、よしとします。
＜Scenario caseの経過＞
再診時、自信を持って説明した。
「お酒は少しなら問題ありませんよ。むしろいいかもしれないくらいですから。
でも、MTX投与中なので飲みすぎは禁物ですよ」
